この曲が発表されたのは1983年。
歌ったのは森進一さん。森さんのレパートリーの中では、異色作であったろう。
1974年に岡本おさみ作詞、吉田拓郎作曲の「襟裳岬」が大ヒットしてから、森さんの音楽的方向性はそれまでの演歌や歌謡曲路線にとどまらず、より多様性がまし、新生面が広がっていった。
1982年には、松本隆作詞、大瀧詠一作曲によるポップス路線「冬のリビエラ」が大ヒットし、その後松本隆作詞、細野晴臣作曲の「紐育(にゅーよーく)物語」を経て、1983年に発表されたのが、この「モロッコ」という曲であった。
この「モロッコ」は作詞は松本隆さんだが、作曲は筒美京平さん。編曲は井上鑑さん。
拓郎さんや大瀧さんや細野さんのような、現役ミュージシャンとして活動されてる方が作曲したのかと私は当初思っていたが、そうじゃなかったんだね。
大瀧さんや細野さんの曲を歌っていた時期に発表された曲だから、この「モロッコ」もまたポップス路線の一環だったと見ることもできると思う。
「冬のリビエラ」も「紐育物語」も、歌詞の舞台が海外だったが、この「モロッコ」もまた海外路線。
海外舞台路線として上記の3曲は、一連の流れの中にあったのだろう。
松本さんの作詞も、筒美さんの作曲も、さすがの出来ばえとしか言うしかない。
また、井上さんの編曲も素晴らしい。
この曲をいつ、どこで初めて聴いたのかは私は覚えていない。
ただ、1回聴いただけで、この曲を好きになった覚えはある。
「冬のリビエラ」は一回聴いただけで名曲だと思った。「襟裳岬」での免疫があったので、私は個人的に「リビエラ」はすんなり入り込めた。
「紐育物語」は、歌詞に英語が出てきたので、森進一さんが歌うには、多少「離れすぎた」ような気もした。これは森進一さん以外の人が歌った方が個人的には入りやすかったかもしれない。森さんが英語のフレーズが入る歌を歌うのは、多少とまどった覚えが私にはある。
まあ、森進一さんとしては歌手として、ポップス路線への「更に進んだ挑戦」だったのかもしれない。
「襟裳岬」も「リビエラ」もモノにしてきた森さんだから、森さんのその挑戦も私は楽しく見たり聞いたりしていた。。
攻めてるなあ・・・と思って。
とはいえ、「紐育物語」は、リビエラや襟裳岬に比べたら多少の距離を感じたのも確かだった。
そして、その「紐育物語」の次に登場したのが、この「モロッコ」だった。
ともかく、サウンドや歌詞の世界観が好きで、メロディラインも最高に思えた。
ややけだるい感じのサウンドながらも、オシャレで粋で、なおかつ哀愁のムード。
当時、仕事の接待などでカラオケに行く機会があったりすると、この「モロッコ」を選んで歌っていた時期が私にはあった。
曲が好きだったからなのはもちろんだが、この曲が誰かとかぶることはまずなかったから・・というのもあった。
一時「襟裳岬」を歌ったこともあったのだが、その曲は当時の私の上司の十八番であったことを後から知って、「襟裳岬」の代わりにこの「モロッコ」を私は歌うようになったのだった。
この「モロッコ」なら安心して「誰かとのかぶり」なしで歌えるから。
でも・・誰ともかぶらない・・ということは、この曲はあまり知られていなかったということだったのだろう。この曲がヒットチャートで何位まで上がったのかは私にはわからない。
ただ、「襟裳岬」はもちろん、「リビエラ」ほどのヒットにはならなかったように思う。
この「モロッコ」は、歌詞に英語が出てくることもなく、しかもムーディな哀愁のメロディだから、森さんが歌うことでもっとヒットしてほしかったのだが。というか、ヒットすると思ったのだが・・。
派手さはないが、今聴いても、珠玉の名曲だと思う。
森さんの曲の中では「隠れた名曲」扱いの曲のようだ。
森さんは、コンサートでこの歌を今でもセットに入れてらっしゃるのだろうか。
良い曲だと思うので、ぜひぜひ歌い続けていってもらいたい曲ではある。
森さんの持ち歌の中では異色作ではあるとは思うが、通常のイメージとは違った森さんがそこにいると思う。
悲しみを帯びた森さんの歌声が、この歌詞の世界観に入り込み、深く描いている。
この曲はあまり知られていないので、もっと多くの人に知られてほしい。
聴いてると・・ため息が出そうな、ムーディで切ない曲だ。
今でもこの曲は、カラオケなどで誰かとかぶることはなさそうな気もするので、私のこのブログの来訪者さんも、もしもこの曲がお気に召したら、この曲を覚えてカラオケでのレパートリーにしてはいかがだろうか。
「こんな隠れた名曲、知ってるかい?」という感じで。
そして、少しでもこの曲が1人でも多くの人に知られていけば、私としても嬉しい。
この曲を聴いてると、まるで何かの映画の1シーンが見えてくるような気がする。
この歌の主人公男性は、昔つきあった女性に、未練がかなり残っているようだが、情景描写に哀感が漂っている。
昔・・この町がもっと活気があった頃、この町で俺は・・ある女と思い出があってね。。
その女は、この写真に写っている女なんだ。ほら、中々いい女だろ?バーテンさん、この写真の女、知らないかい?
まあ、だいぶ昔のことだから、知らなくても仕方ないかな・・。
久々にこの町に来たけど、すっかりこの町は変わってしまったね。
でも・・・人は・・・夢の中じゃ年をとらないもんなんだ。。
あの女・・・今どこでどうしているんだろう。
なんか、今夜は、酔いつぶれてしまいそうな俺さ・・・。
この砂漠の町で。
https://www.youtube.com/watch?v=_XkNU3T0AmQ
YouTubeで聴いてみました。
真夜中に聴くと、さらに感動する名曲ですね。
今まで「砂漠」が登場する楽曲は、『東京砂漠』しか聴いたことがありませんでしたが、『モロッコ』という砂漠自体を舞台にしている楽曲は初めてでした。
異国情緒を出す、この曲は、相当ハイレベルですね。
又、森進一さんの歌声も、異国情緒を出すために、相当に特訓されたでしょうね。
この曲、良い曲だと思うんですが、思ったほどのヒットには成らなかった気がします。
そのへん、残念。
名曲が即ヒットにつながるわけじゃない・・という証明ですね。
森さんは実に丁寧に歌っており、切々としたものが伝わってきます。
歌唱で勝負する歌手の実力、ここにありって感じです。
冬のリビエラや、紐育物語とはまた違った味わいがあります。