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このブログで幾度となく紹介してきた南一夫先生の『内臓体壁反射による観察と調整/概論』の韓国語版が、さる7月ついに出版されました。
イラストや本文の説明もハングル表記に改められ、細部にまで注意を払った丁寧なつくりになっています。韓国では民間療法の営業が許可されていませんので、この本は、当然のこととして医療関係者向けの本として出版されています。むこうでのセミナー開催など、今後の展開を楽しみにしています。
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さる10月24・25日、大阪のホテル・モンテ・ラ・スーで開催された一般社団法人身体均整師会の全国講習会で講師をつとめました。このブログで紹介してきた体内の器官の役割と機能についての考え方をベースに「脊髄神経反射の基礎」として講義しました。参加された方から、「話がわかりやすい」との声を寄せていただきました。
「呼吸の話」として2010.9月からこのブログで考えてきたことが、いろいろな意味で発展性をもっているのを実感しました。とくに大切だと思うのは、生命進化との関わりを意識しながら、体内における電磁気力(化学的な能力)の進化と、機械的な能力の進化を二元的な目でとらえることです。
前者は、おもに体内におけるタンパク質の合成能力によってもたらされ、後者は筋肉を中心に体内の器官や脈間の構造や形状によってもたらされます。消化管を例に化学的な能力と機械的な能力を整理してみると次のようになります。

体内での化学的な力の進化とは、つまるところ酵素の種類と活性の問題であり、DNAの遺伝子配列に依存する力といえます。一方、体内の機械的な能力の進化は、DNAを含む身体の発生過程に刻まれた力であり、ひとたび身体が作られたのちはおもに神経系による制御に依存する力といえるでしょう。
いずれのプロセスも、エネルギー源としてのATP(アデノシン3燐酸)によって生み出される活動です。したがって、呼吸による酸素の供給と消化管からの糖質の供給、それを使った細胞内での呼吸(内呼吸)が活動の必須の条件です。このような条件を生み出すためには、体内の血液循環が重要な意味を持ちます。
わたしたちの体内で末梢の血液循環のコントロールをおこなっているのは自律神経系です。そのような観点から、自律神経系の機能に対する理解が大きな意味を持つのです。
この点を少しくわしく見てみることにしましょう。
呼吸と生命の進化
あらゆる生命活動の基本は細胞にあります。機械的な能力の進化は、細胞の持つ生命力を飛躍的に増大させ、生物による環境へのコミットメントをより深くしました。
しかし、酸素のない地域、たとえば硫酸還元菌が活動するヘドロのなかや、無酸素あるいは貧酸素水塊のなかではほとんど生命の姿が見られません。機械的な力を発揮する生き物は、すべて多細胞生物であり、酸素を使って有機物を分解するための専用の器官であるミトコンドリアを細胞内に持っているという特徴があります。
「呼吸の話」は、そもそも呼吸というものが、わたしたちの身体の生理にとってどのような意味を持つのかということ明らかにするためにはじまりました。
その際、とくに呼吸の働きというものが、生物における機械的な能力の進化と結びついているという視点を持つことがとても重要だと述べてきました。
酸素は生物の生活圏にあるもっとも化学的な活性の強い物質です。それゆえに、生物の身体にとっても大きな脅威です。活性酸素というのは、酸素が体内で有害に作用するときに用いられる言葉です。
生物の進化にとって、酸素を利用できるか否かが一つのボトルネックになっていて、ここを通過できなかった生き物は、今日の酸素が豊富な環境では、無酸素土壌(湖沼のヘドロのなかなど)や無酸素水域(水の循環のない沼地の底など)に追いやられてしまったのです。
このような事実から考えると、生命活動のエネルギー源であるATPを作り出すためにその酸素を用いるということは、細胞にとって大きな賭けでした。現存する多細胞生物の細胞は、すべて細胞内にミトコンドリアを備え、酸素によって糖質を分解することによってエネルギーを生み出して生きているのですが、これはそのような細胞だけが、多細胞化を成し遂げることができたということを意味しています。下の図は、ミトコンドリアの概念図です。

すべてのはじまりはミトコンドリアの細胞内共棲
酸素を利用する上で重要な役割をはたすミトコンドリアは、特殊な性質を持った細胞内器官です。
わたしたちの細胞の持つDNAは、父親と母親の持つ遺伝情報を半分ずつ引き継いでいます。細胞内のさまざまな器官は細胞の核のなかにおさめられたDNAに基づいて複製されるのですが、ミトコンドリアだけは自らのもつ別個の遺伝子によって、ミトコンドリア自身からしか複製させません。
このことを受精の段階までさかのぼって考えるとおのずとわかることですが、わたしたちの体内の細胞が備えたすべてのミトコンドリアは、受精による父方母方の遺伝子の合体の影響を受けることなく、すべて卵細胞に備わっていたミトコンドリアに由来します。つまり、ミトコンドリアはすべて母親に由来するミトコンドリア独自の遺伝子に基づくものなのです。
このようなことから、ミトコンドリアは進化の過程で細胞内に取り込まれた共生細菌の一つであろうと考えられているのです。
このことはわたしたち生命の身体に二つの大きな画期をもたらしました。一つは、酸素の化学的な能力を活用した高能率のエネルギー産出です。このことをてこにして多くの多細胞生物が生まれました。わたしたちは、そのような多細胞生物の一つです。
そしてもう一つは、多細胞化による体内の分業化です。この分業化の過程で生命にとって不可欠となったのが、機械的な能力の活用です。化学的な能力を発揮するために、機械的な力が重要な鍵を握っていることを前々回に紹介しましたね。
機械的な能力と多細胞生物
化学的な能力は、物質を構成する原子核と電子の間に働く相互作用です。たとえば食塩として親しまれている塩化ナトリウムは、塩素とナトリウムの化学的な力によって生み出された化合物ですが、その際、塩素の電子とナトリウムの原子核が引き合い電子を共有することで、塩化ナトリウムの分子が形作られています。
このような電子と原子核の間の相互作用は、そもそも原子と原子が密着した短いスパンのなかでしか発生しません。たとえばアルカリ金属であるナトリウムは水と反応すると激しく燃焼します。しかし、水と接することがなければこのような化学的なエネルギーが発散されることはありません。
生命に備わった機械的な能力は、まさしく金属ナトリムを水と接触させ化学的なエネルギー(ポテンシャル)を解放するための杖のような役割をはたいしてるといえるでしょう。
たとえば、食べ物をつかんで口の中に放り込み細かく噛み砕くことによって、はじめて唾液のなかに含まれたアミラーゼが食べ物なかの含まれた糖質の原子に作用することができます。
空気に含まれた酸素を、横隔膜の力で肺のなかに引き込み血液と接触させることで、はじめて赤血球に含まれたヘモグロビンのなかの鉄分と反応させ体内に安全に取り込ませることができます。
解剖学書を開いてみると、わたしたちの身体はあまりに複雑で理解を寄せ付けない混沌のように見えます。しかし、原理的にとらえてみると、細胞の持つ化学的な能力と、これを助ける機械的な能力を生み出す器官との分業体制であることがわかります。
その基本的な姿は、単細胞の生き物と変わりがないのです。より正確にいうならば、単細胞の生き物が持っていた秩序をしっかりと維持しながら、これを拡張してきたといえるのです。
近年では、あらゆる生命現象を進化の観点から位置づけるとうことが、広く生命科学全体のなかで意識されています。進化のなかに、生命が自分の姿や形を作ってきた方法・論理というものが凝縮されているからです。
機械的な能力の進化
先ほどは、多細胞生物の起源を細胞内のミトコンドリアの共生というきわめてシンプルな進化的な出来事へとさかのぼってみましたが、機械的な能力を理解するうえでもこれと同じことがなりたちます。
生き物の機械的な能力を考える上で、このような点を理解しておくことがとても大切です。たとえば、わたしたちの運動能力と細菌やアメーバの運動能力とてるもなく大きなギャップがあるかにみえます。しかし、そこには同じ共通の素材から発達してきた確かな印が刻まれています。
多くの生き物は、機械的な能力を作り出すためにあらゆる場面でミオシンとアクチンという高分子の繊維質を使います。アメーバも粘菌も軟体動物も脊椎動物も節足動物も共通です。そして、わたしたちの筋肉の収縮もこのミオシンとアクチンの繊維の滑走という現象によって引き起こされています。
細胞の作りだす機械的な能力には、いま紹介したミオシンとアクチン以外にも、繊毛によるもの、鞭毛によるものの3つがあります。いずれも単細胞も生き物のなかに見出される機械的な能力です。
生物の多細胞化が、ミトコンドリアの細胞内共生というとてもシンプルな出来事に帰着したように、機械的な能力の進化も、多くの生き物に共通するシンプルな現象の応用によってなりたっているのです。
いま紹介した3つの機械的能力は、いずれのわたしたちの体内で活用されています。繊毛による運動は、気管の上皮細胞や腎臓の糸球体などで見られます。鞭毛による運動は精子の運動に活用されています。ミオシンとアクチンによる運動は、あらゆる細胞の細胞分裂をはじめ、消化管の平滑筋や心臓の筋肉、骨格筋で見られます。
(つづく)
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