カラダを科学する本格的整体ブログ

人間のカラダのおもしろさを、生命科学、スポーツコーチング、認知心理学、動物行動学など、越境しながら学ぶ未来派整体術。

呼吸(14)

2011-03-24 08:00:47 | Weblog

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震災の日から、ようやく二週間がすぎようとしています。いまだに余震がつづき、原子力発電所の事故や計画停電、さまざまな物資の不足などもあって、落ち着いた日々がもどってくるには少し時間がかかりそうです。

創健堂にいらっしゃる方も、みなさんいずれもいつになく緊張されているように見受けられます。11日の金曜日以来、とてつもなく長い時間が経過したように思うのはわたしだけでしょうか?

一日にも早く復興がすすみ、被災されたかたがたの生活に安心と落ち着きが戻ってくることを願っています。

さて、作年夏から予告をしていたのですが、先日ようやくHPのリニューアルを終えました。下は、そのトップページの様子です。

 

まだ工事中のページもありますが、全体としてかなり内容の加筆しました。ブログについても、この「カラダを科学する」ブログとあわせて、日常生活での姿勢の観察を紹介するブログをはじめました。

新しいHPの「院長」のページに両方のブログのリンクをはりました。いつもお読みいただいている方々には本当に感謝しております。今後ともよろしくお願いいたします。

こちらのブログでは、今後とも身体生理の踏み込んだ話題について紹介してゆきたいと思います。原稿をまとめるのに時間がかかってしまって恐縮ですが、今後ともお付き合いをお願いいたします。

さて、前回は呼吸をテーマに、肺における運動機能について説明をしてきました。

現在、医療の現場でも「呼吸指導士」という資格がつくられて、お薬中心の治療の欠点を補おうとする取り組みがでてきました。大きな書店の医療関係のコーナーにゆくと「呼吸指導士」の資格試験用のテキストがたくさん並んでいます。とてもよいことだと思います。

とはいえ呼吸と運動との関わりは、医療現場のような管理された空間だけの問題ではありません。日常の仕事や生活の空間で、いかに自立自助してゆくかということが大切だと思います。

これまで紹介してきたように、わたしたちの肺は、かなりの密度で上皮細胞、間質、血管が押し詰められた空間です。一回一回の息の出し入れごとに、密集した「上皮細胞」の湿り気を帯びた隙間を、乾燥して比重の軽い「空気」が出入りするわけです。かなり大きな困難が伴います。

肺胞表面の上皮細胞が分泌するサーファクタントがとても重要な意味を持っていることはいうまでもありませんが、これらの細胞を袋状の形態に保っておく「間質」の弾性繊維の網の目の構造がとても重要であることはいうまでもありません。

間質の弾性繊維は伸縮性を持っています。横隔膜の力で胸腔が押し広げられ、その圧力(陰圧)で肺が拡張されるるときは、引き伸ばさればねエネルギーを蓄えます。肺胞の拡張を制御するのです。

横隔膜がゆるんで胸腔が小さくなってゆくときは、逆に縮んで肺胞が自然にもとの形状にもどるようにリードします。

肺の運動は、胸腔の外側をとりまく筋肉(肋間筋や横隔膜)によって引き起こされ、間質の弾性繊維によって作られた区画(パーテイション)の伸縮をもたらします。その結果、そこに貼り付けられた上皮細胞のシートが、漏れなく均等に引き伸ばされたち縮んだりするようにできているのです。

さて、肺と腸は人体のなかでもとりわけ大きな上皮細胞のシートを持った器官です。いずれの器官も上皮細胞の作り出す広大な面積をいかに有効に活用できるかに、器官の能力がかかっています。しかし、それぞれの器官の運動の仕方に大きな違いがありますね。

その際、いずれの器官においても重要なのが、「内圧の平衡(均等)」だということを憶えておきましょう。これは、広大な表面積をもつ器官の宿命といってもよいでしょう。

たとえば、ある部分だけが引き伸ばされたり、大きな圧力をうけ、ある部分は縮んで不活発なままであったとしたら、表面積20平方mといっても、見かけだおしです。肺や腸の機能の多くは、使われることなく終わってしまうでしょう。

ただ「内圧の平衡(均等)」を生み出す方式に肺と腸では大きな違いがあります。これは、酸素の吸収と食物の吸収という性質のことなる仕事のためです。とくに地上での生活において、このことが顕著になります。

呼吸で扱う酸素や二酸化炭素、水は、2~3個の原子で作られた低分子の物質です。中学校の理科(=「無機化学」)で扱う物質です。吸収するのにさして化学的エネルギーを必要としない物質といってもよいでしょう。

これに対して、腸から吸収する糖質やたんぱく質、脂肪は極めて高分子の物質です。お肉の主成分であるたんぱく質は3万個に及ぶ原子によって作られています。高校の生物(=「生化学」)で扱う物質です。体内に取り込んだり、取り出したりするのに、とても大きな化学的エネルギーを必要とします(わたしたちは、これを分解するときの熱で生きているのですが)。

水中で生活しているときは、いずれも水の中に溶け出した形で漂っています。高分子のエネルギー源も、微生物やさまざまな生き物の消化作用で分解され、ある程度分解された溶液状態(スープ状態)でただよっています。

前回紹介したクラゲなどの腔腸動物(ポリプと呼ばれます)では、呼吸系と消化器系は特に分離されていません。「胃水管系」と呼ばれる袋状の体内器官に取り込まれ、同じように吸収されるのです。

ある程度安定した環境が長い時間にわたって持続していると、生物はかならず一定の進化を起こします。その結果、より運動能力の高い、よい高エネルギー消費型の生き物が生まれてきます。一般に、生態系の頂点に立つ生き物です。

海では、脊椎を持たない生き物の頂点にイカがおり、脊椎を持つ生き物の頂点にクジラやシャチなど哺乳類がいます。

これらの生き物は、化学的の面から見ても理にかなった身体を持っています。高度な運動能力は、発達した神経系と筋肉組織なしには生まれません。これら、高エネルギー消費型の器官を使い切るには、肺と腸の発達が不可欠なのです。

より高度な酸素の吸収能力、より高度なエネルギー源の吸収能力が、高い捕食能力の基盤なのです。

いいかえると、肺と腸の上皮細胞の面積をできるだけ大きくし、できるだけ無駄な使い切ることがこれらの生き物の特徴になっています。

もちろん、同じ面積を小さな身体のなかに押し込んで、しっかり使いきれてこそ、高度な能力が生まれるのです。

数回前に、爬虫類や両生類のキャリアー制約について紹介しました。これらの生き物は、広大な肺の表面積をコンパクトに体内に納めることが出来なかったために、運動と呼吸がうまく両立できませんでした。このため「待ち伏せ」によって捕食活動をしなければなりませんでした。

呼吸量が少ないということは、神経系の発達にも大きな制約をもたらします。

ライオンや犬、猫など、とくに肉食獣の子供は、じゃれたり、遊んだり、兄弟同士で取っ組み合いをしたりしながら成長します。これらの生き物は、学習をつうじて、生まれ持った運動能力を、デザインしなおす能力も備えているのです。

爬虫類の脳は、わたしたちの脳幹と呼ばれる部分で構成されています。その多くは、運動機能の調整に関わる神経系です。これに対し、哺乳類の脳は、大きな大脳がのっかりました。情動に関係する神経系、記憶に関係する神経系が加わり、運動機能を調整す小脳もとても大きくしわだらけになりました。

わたしたの持つ運動能力の可塑性(彫刻できる能力)は、脳という器官ならではの能力です。これこそが、肺の能力の発達によって哺乳類が獲得したもっとも大きな力といってもよいのかもしれません(たとえば鳥類と比べたときに)。

次回は、こういったことを下敷きに、肺と腸で生み出される「内圧の平衡」の違いに注目しながら、肺の運動を見てみることにしたいと思います。

(つづく)
 
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