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昨日、丹沢の大山に登ったらとてもよい景色でした。眼下に見えるのは、厚木・伊勢原を中心に江ノ島や横浜、遠く房総を臨む景色です。
前回は、「細胞の化学合成力を高める工夫」というこうと、胃の働きを見てみました。胃の働きが顎と結びついているということを紹介しました。このことは、胃の健康管理についても多くのことを教えてくれます。
胃が張りやすい、緊張しやすいというたちの人はすくなくありません。大切なことは胃を休息させる時間をできるだけしっかりつくということなのですが、その際、たんに食べないというだけでなく心がけていただくとよい点があります。
顎と密接に関連しているといことは、歯の間にちょっとした甘味とか旨味が残っているだけで、胃酸が分泌されて胃の休息がさまたげられるということを意味します。ですから、胃の休息のためには、事前にしっかり歯を磨くことが大切です。間食をした時もこまめに歯を磨くとよいでしょう。
さらに、臭いにも注意しましょう。胃は、ものを食べる予感を感じただけで活動をはじめます。飴工場の甘い香が漂ってくるような環境では多くの人が胸やけを起こします。胃の方で、勝手に食べる準備をはじめてしまうのです。日常生活でいうと、たとえば朝の寝ている時間にご飯の炊けるよい臭いが漂ってくるといった状況がこれと似ています。胃の敏感な人は、自然と胃酸が分泌されていざ起きてみると胸焼けをしていた、といったことが起こります。
それでは、今回は、小腸の働きを見てゆくことにしましょう。
小腸はどのようにできているのか?
小腸は長さにして6m、面積にして20平方メートルもあります。多くの細胞があつまった消化吸収のための巨大な化学反応シートといってもよいでしょう。このシートの表面で生ずる分解と吸収という化学反応を促進するためにどのような方策があるかを考えてみると以下の3つの点がとくに重要であることは疑いないでしょう。
(1)内容物をよく濡らし攪拌して消化液と接触させる。
(2)温度をあげて消化液の反応を高める。
(3)シートをゆすって細胞の表面が無駄なく内容物と接触するようにする。
このように考えてみると、すでに小腸の機能が、化学反応を高めるためによく計算されていることが理解できます。たとえば小腸が動かないとき、腹がもたれたりつかえた感じがして便秘になります。お腹を冷やすと下痢をします。こういった症状は、小腸の化学合成力の停滞と比例して生じてくるのです。
小腸の内部では、外来のバクテリアなど、分解能力をも利用した「共生者」の能力を活用していることも重要です。小腸の運動能力や温度が低下すると、このような共生関係にもヒビが入ってしまうのです。なぜなら、バクテリアは細胞分裂の能力がとても旺盛です。夏の熱い日に発生する赤潮のことを考えてみましょう。ちょっとした条件の変化で爆発的に状態が変化してしまうのです。
一方、上皮組織をくるむ筋肉組織を平滑筋と呼びます。上皮組織はみずから動くことは出来ませんが、この平滑筋のお陰で活発に伸縮して、内壁がもれなく消化物と接触できるのです。この際、とくに平滑筋組織の筋繊維の方向に注意しておきましょう。
手足の運動と引き起こす筋肉は横紋筋と呼ばれます。組織標本で見ると、すべての筋繊維が一定の方向に整列して、秩序だった横紋が見られます。長さの変化に対する感度が高く、たとえば手足や背骨の関節が動くと、たえず本来の位置に引き戻すように反応します(伸張反射と呼ばれる)。
これに対し、小腸の上皮組織を取り巻いている平滑筋は筋繊維が微妙にずれながら方向を変えて伸びています。このような筋繊維の走行は、小腸の内部の圧力を均等にし、すべての上皮細胞の表面が、無駄なく消化物とふれあのをたすける上でとても有利です。それぞれの筋繊維が、さまざまな方向の張力のバランスを自動的に取ってくれるからです。
さらに注目すべきは、小腸を取り巻く血管の走行です。小腸は宙ぶらりんのチューブではありません。すべての部分が腸間膜という膜で背側の腹壁にぶら下がった形になっています。小腸ははげしく化学合成がおこなわれながら、同時に筋肉による撹拌(かくはん)作用がおこなわれるので、大きな熱の発生する領域です。このような熱は、小腸内の化学反応のスピードを高める上でとても重要な意味を持っています。
ただし、細胞を構成するたんぱく質は、摂氏43度くらいを境に変性が起こります。摂氏43度は、卵の白身が透き通った状態から白く不透明な状態に変化する温度と考えていただけれよいでしょう。細胞にとっては、この温度が生きてゆく上での限界温度なのです。
このため大きな熱の発生する小腸では微妙な温度調整が必要です。すべての領域が腸間膜を経由して血液の出し入れがおこなわれる構造は、このような温度調節に最適です。
たとえば小腸の内部が冷たいときには、流出する血管と流入する血管を密着させ内熱を逃すことなく酸素だけ供給することができます。逆に内部が加熱しすぎたときには、腸間膜が腫れて流出する血管と流入する血管の距離が開くことによって、熱が外部に持ち出されやすくなります。
生き物の身体は、100万年、200万年という長い歴史のなかで、より多くの子孫を残しうる姿が遺伝的に選び取られ、形づくられてきました。そこには、なにげなく想像する以上の合理性が備わっているのです。
細胞のもつ化学合成力という観点に立つと、その意味をよりハッキリと理解することができます。この点こそ、20世紀後半から進んできたあらたな生物学の成果です。現在、医学や生理学、解剖学など、伝統ある学問分野でこの成果をいかに取り込むかが競われています。
このブログが、そういった風を感ずるよききっかけとなればと願っています。ちなみに、今回のテーマに関係して日常生活で注意していただくといのは、就寝中にお腹を冷やさないということです。就寝中、小腸は活発に運動します。これは消化吸収のためではく、内部環境の調整のためです。
この時、お腹が冷えているようだと小腸・大腸の働きは大いに低下します。日中、長時間の頭脳労働やストレスを感じている身体をリセットする大切な時間です。内面の広大な細胞シートが健全であってこそ、スッキリした寝覚めが生まれれるんだという目で、ご自身の小腸・大腸を会話してみてください。
次回は、本題である肺の構造を細胞の観点から読みといてみることにしましょう。いよいよ血液の可動性と呼吸能力の問題の核心に近づいてゆきます。
(つづく)
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