「野村総合研究所は重症急性呼吸器症候群(SARS)の最悪期並みの影響が仮に1年間続いた場合、訪日観光客は前年比34%減となり、国内総生産(GDP)を0.45%押し下げるとの試算をまとめた。」(『「観光立国」の潮時 新型肺炎が迫る軌道修正』 2020/2/23日本経済新聞朝刊)という。日本では工作機械、自動車、造船、鉄高燻香A生産を減らしている。米国トランプ政権が貿易収支を均衡する互恵的な自由貿易を目指す以上、対米輸出での景気回復は無理だ。消費増税後国内消費が低迷する中、中国からの訪日観光客減少でGDPが下がるのは政府にとって痛い。
また、「消費額はわずか4.8兆円で、1人あたりだと15万円台にとどまる。」(同上)というが、2018年の日本の名目GDPが4兆9564億ドル(1$=108円換算で535兆円)だから消費額4.8兆円は大きいだろう(日本経済新聞の同記事のほかに『日本が「中国人入国禁止」にできない3つの事情 韓国・台湾に前例、インバウンド市場を直撃』 2020/2/26 東洋経済オンライン「中国人観光客の日本における旅行消費額は2018年に1.5兆円にのぼった。これは全体の34%を占める数字だ。」と中国人客の消費の大きさに関する記事もある)。
「中国、韓国、台湾、香港からの訪日客の比率は19年で70.1%。(中略)昨年は日韓関係の悪化で韓国からの旅行者が減り、一段と中国への依存度が高まった」(『「観光立国」の潮時 新型肺炎が迫る軌道修正』 2020/2/23日本経済新聞朝刊)。確かに、特定国の観光客依存から脱却は今回のようなケースのリスク分散にはなるが、対応言語の増加や観光客の嗜好の多様化に対応しきれないと思う。スマホアプリで対応という手も考えられるが、大きな災害が発生し、通信系を含めたインフラストラクチャーが壊滅的な打撃を受けた場合のバックアップ体制をどうするかも考えなければならない。
「政府は今後、欧米、オーストラリアなど遠方からの長期滞在客を開拓し、東アジア依存からの脱却を急がねばならない。」(同上)というが、ジョン・W・ダワー著「容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別」(平凡社、猿谷要監修、斎藤元一訳 p187~p188)によれば、1942年、ウィリアム・ヘンリー・チェンバレンが、『日本の貢献は「取るに足りない文化的業績のいくつか」、たとえば版画、漆塗り、造園、俳句に見出される。しかし日本は、インド、中国に比肩できる偉大な哲学上、宗教上の思想家を一人も生み出していないし、ギリシャ・ローマやヨーロッパの伝統の最上のものに匹敵する文学作品も作り出していない』と太平洋問題調査会の後援で発行された小冊子に書いているという。日本文化は「サブカル」以外、欧米からの評価は低いと考えられる。世界遺産登録などを喜んでいるのは日本人だけで、海外から観光客を呼ぶ観光資源としては弱いだろう。
2019年12月期の決算短信を見ると、ラオックスは売上の33%が中国人団体ツアー客の多いインバウンド事業だ。決算発表と合わせて、同社は新型コロナウィルス感染拡大による中国からの訪日客減少見込みで、子会社と合わせて160人程度の希望退職を募集した(=募った)。
少子化で人口が減る中、企業の成長は海外市場、外国人観光客の誘致と外需に頼るしかない状況だ。企業が心を入れ替えて国内市場で身の丈に合った経営を行わない限り、中国を中心とする東アジア市場を無視することはできないであろう。
最近の「旅行」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事