大和証券の金融・証券用語解説(大和証券HP)によれば、CDS取引とは次の通りである。
『CDS
英語表記「Credit default swap」の略で「クレジット・デフォルト・スワップ」のこと。
企業や国などの破綻リスクを売買するデリバティブ(金融派生商品)で、投資対象の破綻に備えた保険の機能を持ちます。CDSの買い手は売り手に一定の手数料を支払う一方、投資先がデフォルト(債務不履行)となった場合には売り手が損失を肩代わりし、「保険金」を支払います。』
日本経済新聞は日産自動車の資金調達に関して、『「自動車メーカーは雇用への影響が強く、各国政府から手厚い支援を受けられる。日産は当面の債務不履行(デフォルト)が見込みにくく、投資妙味がある」。日産の外債を買った米大手運用会社の債券投資責任者はこう語る。(略)日産と主幹事団が9月8~9日に欧米やアジアの投資家をつなぎ、夜通しで電話会議を開いたところ、約20回の会合に延べ約100社が参加。「拡大路線を改め、構造改革を進める」。日産の財務担当者は投資家に何度も強調した。最終的に発行が決まった外債はドル建てで約80億ドル(約8400億円)、ユーロ建てで約20億ユーロ(約2500億円)。(略)投資家をひき付けたのは利回りの高さだ。日産の10年債は4.81%と米長期金利(0.7%台)を大きく上回り、投資不適格の低格付け債並みだ。日産の格付けは「トリプルBマイナス」(米S&Pグローバル)と投資適格ぎりぎり。少しでも投資家を呼び込もうと、基準金利への上乗せ幅を厚くした。』(『日産、苦渋の高金利調達 海外の「利回り狩り」が支え』 2020/10/16 日本経済新聞朝刊)と報じている。
日産自動車向け融資に政府保証がつけられていることが報じられたのは9月7日である(「政投銀、日産向け融資に政府保証 1300億円」 2020/9/7 日本経済新聞電子版)。よって、日産自動車の外債を購入した投資家は政府保証の件を知っていて投資したことになる。利回りは投資不適格の低格付け債並みの高さなので、格付会社は日産自動車のドル建て、ユーロ建ての無担保社債の格付けをBaa3(ムーディーズ)、BBBマイナス(S&P)と投資適格級という格付しているが(「日産自の外貨建て社債を格付け・ムーディーズ・S&P」 2020/9/8 日本経済新聞WEB版)、金融市場の参加者は同社社債を「投機的格付け」と見做し、それにさや寄せするようにCDSの保証料率も上昇したとみることができる。今回のケースは、多額の資金を調達するにも関わらず、社債の国債に対するスプレッド縮小は小幅に留まった(日経金融新聞2006年7月18日)(投資家の目線58(日本航空増資の一考察))、2006年の日本航空の増資を思いだす。債券には流動性リスクなどの様々なリスクがあるが、巨額に資金調達にもかかわらず日本航空の信用リスクはほとんど低下しなかったといえるだろう。
政府の支援が得られることを期待した投資は、2017年12月の東芝の増資に応じた投資家と似たような考え方のように見える。その後、東芝は大規模な人員削減や事業売却を行っているが(2018/11/8 東芝Nextプラン説明会)、日産自動車の「構造改革」でも同様のことが起きるだろう。資金調達が外貨建てで行われているため、日本から完成車を輸出するよりアメリカ合衆国やユーロ加盟の欧州諸国で現地生産した方が為替変動リスクは抑えられる。また、過去には自動車メーカーの経営破たんとしてはGMのケースがあるが、無担保社債の債権者も新株式GMを受け取ることになっていた(『GM破綻、米政府が発表 破産法申請「国有化」で再建へ』 2009/6/1 朝日新聞デジタル)。(追記;この方法をとれば、債務不履行が発生しても社債権者は配当収入や株式の売却で資金回収が行える。)
なお、選挙区に日産自動車グループの拠点がある菅内閣の大臣、副大臣、政務官は次の通り。
日産自動車
菅首相(日産自動車グローバル企業本社)
小此木国家公安委員会委員長(横浜工場)
小泉環境相(追浜工場)
河野行政改革等担当相(日産車体、オーテックジャパン)
田村厚生労働相(愛知機械工業)
武田総務相(日産自動車九州、日産車体九州)
三原厚生労働副大臣(参議院神奈川選挙区)
中西財務副大臣(参議院神奈川選挙区)
三菱自動車工業(日産自動車が株式の34%を保有する筆頭株主)
加藤官房長官(選挙区の一部が倉敷市、水島製作所)
小野田法務大臣政務官(参議院岡山選挙区)
小鑓厚生労働大臣政務官(参議院滋賀選挙区)
(なお、岡山県ではパナソニックの工場も閉鎖される。)
先月、日産は新型フェアレディZの試作車を公開した。『フェアレディZの初代モデルは1969年に発売。「手ごろなスメ[ツカー」を売りに、性能と値ごろ感を両立した車種として国内外でファンを獲得した。』(『日産、新型「フェアレディZ」試作車公開 21年にも発売』 2020/9/16 日本経済新聞WEB版)と日本経済新聞は報じている。アメリカ合衆国ではアッパーミドルの生活に余裕がなくなっている。一方、富裕層はフェラーリでも楽勝で購入できる。環境重視ならテスラだろう。日産の経営陣に「手ごろなスメ[ツカー」の顧客層は見えているのだろうか?
菅政権に、選挙区に日産自動車グループの拠点を抱える議員を多く入閣させることは、同社に政府の支援を期待する投資家たちに安心感を持たせるかもしれない。しかし、同社の構造改革の必要性から、選挙区内の雇用問題は大きいものになりそうだ。
最近の「ファイナンス」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事