投資家の目線

投資家の目線972(ペストの歴史に学ぶ)

 「ペストの歴史」(宮崎揚弘著 山川出版社)には、ペスト流行時にフィレンツェ商人の考えた健康法が書かれている。「憂鬱なこと、心配なことについて出来るだけ考えないようにしなさい。楽しい催しがおこなわれている場所や明るく気晴らしができるところへ足を運びなさい。考えていくうちに悲しくなったり悪い考えが生まれるような事柄について考えてはいけない」(p71)というものだ。福島の原発事故後に言われた、「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます」という言葉を思い出す。確かにクヨクヨしているよりはましではあろうが、それだけで十分というものではないだろう。

 

 ペストの流行地から立ち去る人々がいた。それは、権力や経済力のある貴族や都市ブルジョアが多かったが、聖職者や医師もいたという。なお、逃亡者の中にはペスト感染者もおり、行く先々で感染を広げた例もあり、行政当局が入市を禁止する都市もあったという(p72)。原発事故直後も東京から西日本に逃げた人は多かった。

 

 それ以前からもあったが、14世紀のペスト流行時にユダヤ人の迫害が酷くなったという。ユダヤ人の迫害の理由としては、カトリック教徒が使用する井戸や泉に毒物を投入したためペストが発生して犠牲者が多数出たのだとするものである(p73~78)。関東大震災後にも同様の理由で虐殺事件が起こった。こうして迫害を受けたユダヤ人は、迫害を最小限に食い止めたオーストリア大公アルブレヒト2世やポーランド国王カジミエシ3世大王の保護を求め、その結果、一部はポーランドからウクライナまでの東欧に落ち着くことになった(p78)。その後20世紀になると、彼らはナチスの迫害対象ともなったが、父祖の地への帰還に固執し、現在のパレスチナ問題の原因となったのも宗教ツィオニズムのロシアや東欧のユダヤ人でもあった(投資家の目線963(ガザの戦闘とシオニズム))。

 ペストで途絶えた家系には相続者が現れたが、相続人として不適格と思われるものもおり、疫病前には一文なしだった者も相続で贅沢な暮らしをするようになったという。人口減少による労働力不足、および食糧需要の減少による穀物相場の下落で農民は生活苦となり、農村では土地放棄がおこった。一方、都市では人手不足により賃金が上昇し、農村から都市への移住がみられた。また賃金上昇は農民下層の生活水準を劇的に上昇させるとともに、労働者に日当を支払う側の領主の収入は悪化し、所領を手放すなどして没落していった(p119~p122)。現代でも人手不足倒産といわれるものがある。人手不足や賃金上昇は、特に中小企業の経営者にとって頭の痛い問題だ。

 

 平時には必要ではなかったが、ペストの流行が始まると、人と商品が所定の場所に入ることを許可する健康通行証の提示が入市のために必要になった(p128)。新型コロナウイルス流行下でワクチンパスポートが導入されたことと似ている。

 

 フィレンツェでは公衆衛生のため、ペスト流行前から食糧の分配、飲料水の供給、埋葬の管理、救助機関の創設が決められていたという。また他の都市でも、大商人の投機や不作による価格高騰に備えて、小麦などの穀物を倉庫で備蓄して市場価格より安く製パン業界に放出してパン価格を安定させるなど、行政当局が市場動向に左右されずに済ます方策も採るようになった(p129~131)。

 

 17世紀のカタルーニャ反乱のときにもペストが流行した(p141~143)。今も疫病の最中、東欧やパレスチナで軍事衝突が続いている。ウクライナ派兵をほのめかすマクロン仏大統領など(『広がる波紋、仏「ウクライナ派兵を排除せず」の思惑』 2024/3/7 東洋経済オンライン)、西側指導者は国内問題の解決より戦争拡大に熱心だ。

 

 フランス南部の内陸都市トゥルーズでは、ペストの流行は予想以上の財政支出を強い、既に銀行が撤退していた同市は、従わないものは資格はく奪、死者・逃亡者は家宅捜索するなどして市民から強制借り上げを行った(p147)。現代でいえば、国民に国債購入を強要するようなものだろうか?新型コロナウイルス流行時も、「アベノマスク」も含めて対策に多大な財政支出が発生した。

 

 文藝春秋2024年4月号「コロナワクチン後遺症の真実」(p191)には、「日本国内においてコロナワクチン接種後、急に発症するなど、医学学会で報告や検討された疾患」が掲載されている。大韓民国の医学部定員増も、政府の公式見解以外に将来の医療ひっ迫に備えるという意味があるのだろうか?日本も接種率が8割を超えているとはいえ、献血に制限を加えなければ、負傷兵を含めて輸血で障害を持つ人がますます拡大するのではないだろうか?

 

 2023年、日本は83万人人口が減少した。これは直近の「中位推計」よりも10万人以上多く、17年連続で減少している(「人口動態統計とは 死亡数は23年に過去最多」 2024/2/28 日本経済新聞電子版)。サハリン2の事業会社の変更(『「サハリン2」ロシア運営に プーチン氏が大統領令』 2022/7/1 日本経済新聞電子版)、中国外務省が日本を協力パ-トナーから外す(『中国、韓国には「パートナー」 日本には「反省すべき」…NATO出席に異なる反応』 2022/7/2 中央日報日本語版)と、中ロが日本と対決姿勢になったのは、2022年6月NATOの会合の影響だろう。人口減で国家機能の維持さえままならない日本が、中ロと対決などできるのか?

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