ブログ“愛里跨の部屋(ありかのへや)”

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愛里跨の恋愛スイッチ小説 (蒼ちゃん編 36)

2011-10-11 17:07:13 | Weblog
36、空谷の跫音



(奏士の自宅マンション)
窓の外はずっと雨が降り続いていて、
深々と冷えこみ、私たちにも肌寒さを感じさせる。

♪~♪~♪~♪

部屋の中はいつの間にか空気が変わり、カントリーブルースが流れ、
アコースティックギターの軽快なメロディーに合わせて、
透き通った歌姫の歌声が流れてた。

奏士「蒼。後は蒼次第だよ。僕の心は変わらない」
蒼 「奏士…」
奏士「蒼。実は僕、東光世に会って話したんだよ」
蒼 「え?…東さんに会ったって…いつ?」
奏士「蒼が走って行っちゃったあの日の翌日。
   蒼の自宅に行って茜さんと話したら、
   蒼はまだ東光世の家から帰ってなくて、
   翌日電話しても携帯が繋がらなかったから、
   まだアイツんちに居るんだと思って神楽坂まで行った」
蒼 「え…」
奏士「そしたら丁度アイツが帰ってきて、
   僕、蒼に会わせてくれって言ったんだ」
蒼 「……」
奏士「そしたらアイツ、
   何で好きな女を大切にしない人に、
   蒼を会わせなきゃいけないのかって…。
   アイツも蒼を愛してると僕に言ったんだ。
   本気で蒼を愛してるなら、どのくらいものか見せてみろと言われた」
蒼 「奏士…」
奏士「結局、その時蒼はもう家に帰ってたんだけど、
   僕はバイクを飛ばしながら君を探してて思った。
   東光世に負けないくらい蒼を愛していても、
   僕には経済的地位も金銭的余裕もない。
   世間で見れば僕なんか、美術を学ぶただの学生だから…
   だから蒼にとって、
   ふさわしい男としてどちらを支持するかと言えば…
   悔しいけど、人生を確立してる東光世なんだって」
蒼 「そんな…奏士、私は」
奏士「僕が今しなきゃいけないことは、
   どんどん絵を描いて、賞を取って世間に名を売ること。
   アイツに勝てなくても、たどり着けないにしても、
   僕の絵に惚れてくれる人達を増やすことだってね。
   それがアイツの言った、僕に見せてみろと言った、
   蒼に対する愛情の度合いなんだよ」

奏士くんはまっすぐ私を見て、穏やかな表情で話している。
とても冷静に…
蒼 「奏士…私は、東さんのことは尊敬しているし、
   私にもいつも良くしてくれて感謝はしてるんだ。
   だけど東さんには奏士と仲直りした事を言って、
   今回も仕事だけのスタッフとしてお手伝いしたいとお願いしたの」
奏士「え…」
蒼 「私が後先考えないで、大人気なく一時的感情で、
   東さんと神道社長に軽々しくドイツ行きをOKしてしまった。
   東さんは話したら理解してくれたけど、
   神道社長は明日取引先からお金が送金されるらしくて、
   かなり厳しく言われたから、簡単に許して貰えそうにないの」
奏士「そっか…」
蒼 「東さんは、まだ私は正式に契約書を交わしてないんだから、
   仕事を断ってもいいと言ってくれてるけど、
   茜の仕事や夢にも関わることなのに、
   私だけ好き勝手して、茜を潰すことなんて出来ない。
   当然これは、返事をした私の責任だから。
   私は、東さんに気持ちがあってドイツ行きを決めた訳じゃない。
   東さんが有名な写真家だからとか、
   地位やお金があるからついて行くんじゃないこと、
   奏士に当てつけるなんて気持ちは全くなかったってこと、
   そのことは奏士に理解してほしいの。
   私が愛しているのは奏士だけなんだから」
奏士「蒼…」
蒼 「日にちがないの。
   神道社長から明日会社に辞表を出して、
   契約を交わすように言われてるから。
   でも私…もう少し頑張って説得してみるから私を信じて。
   奏士、お願い…(目をうるうるさせて)」

私は奏士くんの目を見て、必死で心にある精一杯の思いを伝えた。
奏士くんは私の目をじっと見て、一時の間黙っていたけど…
私に近寄り、私の腰に手を当てて引き寄せた。
奏士「ふっ(笑)
   蒼、そんな潤んだ目で真剣に見つめられて力説されたら、
   信じない訳にはいかないでしょ。
   …分かった。蒼を信じるよ。
   蒼もずっと、僕と同じくらい辛かったんだよね」
蒼 「うん、そうよ。
   奏士、分かってくれてありがとう」
奏士「うん」

プルプルプルプル、プルプルプルプル…

(奏士の携帯着信音)
奏士「電話だからちょっと待っててね(笑)」
蒼 「うん」

奏士はテーブルの上の携帯を取り、受話ボタンを押した。
奏士「もしもし」
頼 『奏士、俺だ。今いいか?』
奏士「あ、はい。大丈夫です」
頼 『今な、俺の先輩で、
   画廊を経営してる夏目さんって人が店に来てるんだが』
奏士「はい」
頼 『うちに展示しているお前の絵で、
   “Gaze at the sea”いう絵に興味深々でさ』
奏士「はい」
頼 『お前にこの絵のことを詳しく聞きたいから、
   今日会わせてほしいと言ってるんだよ』
奏士「え?…」
頼 『うちにあるお前の作品は全て見せたが、
   かなり気に入ってくれててな。何枚か絵を購入したいそうだ。
   夏目さんは近々、個展を計画してるらしくて、
   その個展に陳列する絵を探してうちに来たんだ。
   お前の話し次第で個展できるかもしれないぞ』
奏士「先輩!本当ですか!?」
頼 『ああ!奏士、今から店に来れないか?
   出来れば、描きあがってる絵画と、
   デッサンも出来る限り持ってこい』
奏士「はい!分かりました。用意したらすぐ行きます!
   あの、頼先輩。本当にありがとうございます!」
頼 『おお!俺の目に狂いはないからな(笑)
   雨降ってるからバイクでは来るなよ。じゃあ、待ってる』
奏士「はい!失礼します(切る)…やった…」
蒼 「奏士?どうしたの?何かあった…」
奏士「蒼!(蒼の両手を握って)
   僕、もしかしたら個展開けるかもしれない!」
蒼 「え!?…本当に!?奏士凄いじゃない!」
奏士「うん!まだ話してみないと詳しくは分からないけど、
   僕の絵を気に入ってくれた画廊の経営者が、
   頼先輩の店にきてるらしくて、
   絵を持って頼先輩の店に来いって言われたんだ」

奏士くんは、まるで長年の夢が叶った子供の様に喜び、
目をキラキラさせて満面の笑みで話し、
闘志を体全体で表しながら私の手を強く握った。
そんな純粋無垢な奏士くんを見て、私まで心の底から嬉しくなった。

蒼 「奏士、凄い!それならその人をお待たせしない方がいい。
   早く支度してKATARAIに行って」
奏士「うん。蒼も一緒に行こう。
   そして今夜は一緒にいようよ」
蒼 「そうね。私もそうしたいけど、
   茜から何度も電話入ってるのは、
   多分ドイツ行きの件だと思うの。
   私も逃げないで、きちんともう一度話しするから、
   今日は家に帰るわね」
奏士「そっか…分かった。またどうなったか連絡するから」
蒼 「うん。私も連絡するね」
奏士「蒼!(蒼を抱き締める)」
奏士くんは私を強く抱き締めると、私に熱くkissをした。
今までの悲しみや蟠りが溶けていくように熱く甘く…
奏士「愛してる…」
蒼 「奏士…私も愛してる」


奏士「蒼、必ず連絡するから。気をつけて帰ってよ」
蒼 「うん。奏士も頑張ってね」
私は玄関で見送る奏士くんに笑顔で手を振って、
奏士くんのマンションを出るとタクシーに乗り自宅に帰った。
奏士くんは、何枚か絵画とスケッチブックをビニールに包み、
白い布にくるんで荷造りすると、
タクシーで頼さんの店KATARAIに向かった。



私はタクシーの中から東さんに電話して、奏士くんと話した事を伝えた。
東さんと明日会うことになり、時間と場所を約束して電話を切った。


(蒼の自宅)
茜 「蒼ちゃんー!」
蒼 「ご、ごめん(手を合わせて)」
茜 「ちょっと!何で故意に電話切ったのよ!」
蒼 「故意なんて、違うわよ…」
茜 「嘘!私の着信見とったのに、故意に電話切ったやろ!」
蒼 「何言ってるの?違うってば…そんなに怒んなくても。
   奏士と大切な話してる時だったから出れなかったんだって」
茜 「ほん!?そんなん嘘じゃろ!
   それじゃったら電話かけ直してくれればええじゃあ」
ヤス「お、おい、茜…(^_^;)
   (ヤバい!かなりエキサイトしてる。
   茜が岡山弁でる時はレッドゾーンだからな)」
茜 「蒼ちゃん!私がそういうの好かんの、よー知っとるやろ!
   人が大事な話しがあるせー電話取らんと何しよん!」
蒼 「だから、ごめんってば」
ヤス「茜、お、落ち着け。深呼吸して。吸って吐いて吸って吐いて…」
茜 「ヤスはいらんこと言わんで黙っとって!」
ヤス「はい!(;∇;)怖い…」
蒼 「茜、やけーもういいやん!
   私に話しがあったけー何回も電話してきたんやろ?
   なんか言うてん。話しっなん!」
ヤス「うっ…
   (方言飛び交う双子姉妹のエキサイティングバトル。
   なかなか見れないよなぁ)」

茜は凄い剣幕で食って掛かり、私に全く意見させなかった。
茜 「(大きな溜め息をつく)
   モデルの話し!ドイツ行き!
   神道社長と東さんに今回だけってゆーたんじゃろ!?
   ゆーたはなから断るってどうなん!?そんなん無責任やろ!
   蒼ちゃんは、自分のことしか考えちょらんのよ。
   私の今後の仕事のとこやら、会社での立場やらなんも考えんと、
   自分の都合でほーるん!?そんなん無責任じゃろ!
   私達はもういい年なんよ(眼に涙をいっぱい溜めて)
   なんぼ一色さんが好きじゃけーってゆーても限度があるやろ!
   いい加減しゃんとしーよ!」
蒼 「茜…」
ヤス「おい、茜。もういいだろう?
   蒼ちゃんも帰ってきたんだから、ちょっと冷静に話そう」
茜 「……」
茜はキッチンの椅子に腰掛けて、タオルで目を押さえ泣いている。
ヤス「蒼ちゃん、こいつさ、ずっと蒼ちゃんからの電話待ってたんだよ。
   夕方、神道社長から業界人として蒼ちゃんを説得しろって言われて、
   茜もかなり悩んでたんだよ。そこんとこも分かってやって」
蒼 「そうだったの…茜。ごめんね」
茜 「…ひどい蒼ちゃん…うっ(泣)」


茜が少し落ち着いてから、私は茜とヤスくんに、
奏士と和解したことや、
そのことで私達を取り巻く人達がどんな力を貸してくれたか、
どんな思いを私達にかけてくれるか、
伯社長との契約の後、東さんが私に何を言ってくれたかも話した。
そして、今日敦美さんが奏士くんの家を訪ねて来て何があったか、
奏士くんが東さんと会って話したことなど経緯を全て打ち明けた。
そして、茜とヤスの話も黙って冷静に聞いていた。

茜 「蒼ちゃんの気持ちも分かった。
   でもどうする?神道社長はちょっとの事で折れる人じゃない。
   しかも一色さんのことも、かなり厳しく見てるよ」
蒼 「そうなのね…」
ヤス「俺がさっき言った方法、あれが上手くいかないかなぁ」
蒼 「え?さっきの方法って?」
茜 「ヤス!まだそんな馬鹿言っとるの!?真面目に考えてよ!」
ヤス「馬鹿って(泣)はい…俺的にはいいと思うんだよな」
蒼 「何?私にも教えてよ」
茜 「もう!蒼ちゃんまで乗らないで!」
私達三人は茜の作った食事を食べながら、色んな案を出しあっていた。


その頃…奏士くんは…

(絵画ダイニングKATARAI、二階アトリエ)

頼さんと頼さんの先輩の夏目さんと話していた。
夏目さんは美大のOBで、頼さんを在学中からずっと可愛がっていた。
奏士くんの持ってきた絵と、スケッチブック数冊を、
夏目さんは黙ったまま、まじまじと見ている。
頼 「夏目先輩、どうですか?…奏士の絵ものになりそうですか…」
奏士「……」
一時の静寂に、奏士くんはかなり緊張していた。


夏目「うん…(眼鏡を外す)」
夏目さんは、外した眼鏡とスケッチブックをテーブルに置くと、
やって口を開いた。
夏目「一色くん」
奏士「はい」
夏目「君はこの絵の全てに、
   ひとつのタイトルを付けるとしたら何とつけるかな」
奏士「タイトル…」
奏士くんは夏目さんが買いたいと言ってる、
『Gaze at the sea』と言うタイトルをつけた絵、
蒼い海の私の絵を黙って見つめていた。
そして、夏目さんの目を見て答えた。
奏士「メインタイトルは『眠りから覚める真の愛』です」
夏目「『眠りから覚める真の愛』と?」
奏士「はい。彼女は好きだった恋人に振られて愛を失った。
   ひどく悲しみ、来る日も来る日も泣き明かし、
   池の蓮の花にさえ問いかけて涙の毎日を過ごした。
   でもある時、ある男性との出逢いで偽りだと気付くんです。
   そしてすこしずつ、彼女は知っていくんです。
   今まで問いかけて見つめてた恋人は本当の愛じゃなく、
   自分の求める愛が、すぐ目の前にあって、
   いつも手の届く距離にあって、
   躊躇わずに手を伸ばせば、すぐ掴むことが出来ることを。
   長い時間の葛藤があって、そしてたくさん傷ついて、
   彼女はようやくその男性の愛に気づいて、
   彼の腕の中で本当の愛に目覚めるんです。
   それが…それがこれらの絵の中に住む彼女です」
夏目「んー。そうか…」

夏目さんは、もう一度絵を見ながら、じっと考えていた。
頼 「夏目先輩。この絵は、原石が宝石になるように、
   ひとつひとつ温かく見つめながら、心の手で磨いて、
   輝かせた彼の愛の結晶みたいな作品なんですよ。
   俺まで涙が出るくらい純粋な愛の絵なんです…」
夏目さんは奏士くんをもう一度見ると…
夏目「一色くん。来月うちのショールームで個展を開くんだ。
   その時に君の絵を展示したいんだが、
   個展のメインタイトルもそれでいいかい?」
奏士「え?…」
夏目「君の絵を買い取ろう。
   詳しくは後日、話そうと思うんだがその時、
   及川と一緒に私のギャラリーにきてほしいんだけどいいかな」
奏士「は、はい…はい!お願いします!」
頼 「夏目先輩!ありがとうございます!」
奏士と頼さんは立ち上がり、夏目さんに深々と頭を下げた。
夏目「おいおい、二人とも頭をあげてくれ(笑)
   そうそう、一色くん。もう一つ」
奏士「はい…」
夏目「この『Gaze at the sea』なんだが、
   この絵の売価はこれでいいの。こんなに安くていいのかい?
   僕ならこの価格の5倍の金額をつけるが、
   買い取るものこの5倍の金額で構わないかな?」
奏士「5倍!?…(放心状態になっている)」
頼 「おい、奏士。大丈夫か?…
   先輩、あまりに良い話なんでこいつ放心状態みたいで。
   先輩の言うとおり、それで大丈夫です」
夏目「あははははっ。そうか(笑)
   学生の彼からすればそうだろうな。
   じゃあ、打ち合わせの日時は後日及川に連絡するよ」
頼 「はい!ありがとうございます!」
夏目「よし!じゃあ、今日はこれで(立ち上がる)」
奏士「あの、夏目さん。
   僕の絵に惚れて下さって本当にありがとうございます!」
夏目「ああ。惚れたのは絵だけじゃないよ。
   君の感性と君の恋人を思う姿にも惚れたんだ(笑)
   じゃあ、これからも頑張って良い絵を描いてくれよ」
奏士「はい!」
頼 「夏目先輩、今日は雨の中来てくださって、
   本当にありがとうございました…」
夏目「及川、お前の料理本当に旨いよな。
   腕上げたな…(頼と階段を下りていく)」
夏目さんは頼さんと一階に降りて帰っていった。


奏士くんは、香澄さんの絵の前で無言で涙を流しながら、
『Gaze at the sea』を見つめていた。
奏士「蒼…やっと…この絵を画商に惚れてもらえたよ。
   僕たちの愛も一緒に…」
奏士くんの身に突然起きた空谷の跫音。
香澄さんの目は、喜び涙する奏士くんを、
母親の様に温かく見つめていた。
(続く)


この物語はフィクションです。



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