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音楽、映画、その他表現物に対する日々の覚え書き

nine inch nails / [WITH_TEETH]

2005-07-30 22:32:45 | 音楽

With Teeth
[WITH_TEETH](Amazon.co.jp)

[WITH_TEETH] 。発売されたのは2ヶ月前。最初に聞いた時の失望感たらすごくて、ジャケット見るたびに悲しくなり、もう記憶から抹消しようかとも思ったんだけど、最近それなりに聞けるようになったんで、感想書いてみるよ。

NINと言えばその歌詞の文学性が評価されるんだけど、実際のところ言ってることは非常に単純なんだよね。
1)僕は世界から疎外されている。
2)他の奴等はみんなうまくいっている。
3)だからみんな死んじゃえ。
4)だから僕も死んじゃえ。
5)でも、僕の運命の女の人が、僕を救ってくれる。
・・・って、おまえは碇シンジかよ。
いや、ほんとにNINの歌詞ってこの5つのパターンに集約されるから。

それでもトレントが天才なのは、この世迷い言を徹底して不穏な音楽として反映させることに成功してることなんだよ。とりわけ、前々作 The downword spiralと前作 The fragile のブランクを繋ぐ、Hurt と The day the world went away なんてその白眉。Hurt の最後で可能世界での希望(「100万マイル前からやりなおせるなら、僕は自分の道を見出せるのに」)すら否定するかのように被さるディストーション・ギター、そして今度はそのギターが延々と鳴らされる中で、na na na na ....というなんのカタルシスもないコーラスが響く、絶望の更に先にある絶対的空虚としての終った世界へのレクイエム The day the world went away 。こんなものを6年ぶりのシングルでぶつけてくるなんて、ほんとにNINには心酔したよ(正確には間に The perfect drag を挟んでるけど)。

基本的に90年代以降のインダストリアル・メタル/ロック(死語?)の人たちって、バランス感覚を重視する傾向があると思うのな。なぜかって言うと、普通の3ピースの楽器による音質的な偏りを補うためにテクノロジーが援用されてる気がするから。PIGなんかその典型で、本当に音域をみっちり埋めてんの。でも、NINの場合、自らの不安定さを反映するために、バランスの悪い音像、不完全な音像を作りだすべくテクノロジーに手を出す。これは結構厳しいよ。だって、目指すべき完成が無いってことだから。だから、前作はミックスにあれほど莫大な時間が費やされて、作業の終了が見えないまま二枚組の大作へと向ったと思うんだよね。

それが、[WITH_TEETH] ではめちゃくちゃバランスが良くなってんの。いや、それで歌詞の方も前向きになってりゃぁね、「あぁ、そういうバンドになっちゃったんだな」ってあきらめもつくよ。でもさ、相変わらず歌詞はいつものNIN。すると、もう、トレントの厨っぷりだけが露になってしまう。Every day is exactly the same とかストレート過ぎて、歌詞を無視できずに、ただただ、いたたまれなくなっちゃうもん。

これはさ、やっぱりオルタナ・ロック界随一の健康優良児デイヴ・グロウルのドラムの影響がでかすぎな気がするな。落ち着いて聞き直すと、デイブのからんでない楽曲は悪くない。1曲目とか12曲目とかThe Fragileから進化がちゃんと垣間見えるし。まあ、とりあえずトレントはまだリハビリ中ってことで暖かく見守ることにして、次作に希望をつなぎたいと思います。っていうか、おじゃんになったプロジェクト Tape Worm が聞きてえ。