白い花の唄

笛吹カトリ(karicobo)の日記、一次創作SF小説『神隠しの惑星』と『星の杜観察日記』のブログです。

リビングでジェノサイド

2020年02月26日 20時56分10秒 | 日記

 何度手を洗っても腐臭が取れない。

 手だけじゃない。服も臭う。どこにいても、職場でも腐臭がする。自分の毛穴から、口から腐臭が漂っているような気がする。

 うちのリビングには60サンチ水槽がある。離婚して病んで引っ越した時からずっとある。同じ頃に最初の猫、今は亡きキキさんを迎え、いろんな植物を育て始めた。今のうちに越して来た時も、けっこう大変だったが水草も魚もどうにか運び込んだ。

 川で採れたものを飼っていた時期もある。ヤリタナゴとかシロヒレタビラとかモロコ、オイカワ、ネコギギ、ヨシノボリ。ここ数年は飼育の簡単なプラティ。オトシンやプレコ、プリステラなど。ミックスカラーのプラティを5匹入れたらどんどん子供を産み始めた。毎日1センチ足らずの稚魚が水槽の間にいる。隔離しなかったので魚同士で密度調節していたと思う。それでも常に40匹ぐらいいた。

 毎朝、魚に餌をやるのは母の仕事。まず土瓶でお湯を沸かし、急須でお茶を入れ、お仏壇にお茶と線香をお供えして手を合わせる。どっこらしょと苦労して立ち上がり、水槽の電気を点けて餌をやる。最近は新顔の黒い仔猫が魚の餌の味を覚えてしまい、水槽の上で待っている。カバーガラスの切ってある隅から母がまた苦労しながら小さなスプーンで餌を撒くと、だいたい手がよろけてカバーガラスや水槽の淵や、時々床にも散乱する。水槽周りにこぼれた餌を仔猫が綺麗に舐め取ってくれる。水草育成用に日中ライトを点けている。いささか育ち過ぎてジャングルのようだった。

 そんな賑やかな水槽が、一夜で全滅した。

 もともと水槽の上部フィルターのポンプが不調だったのだ。2年ほど使っていたものが、水槽水位が下がっているのに補充しなかったら負荷がかかって動かなくなった。ポンプのみ買い替えたら、フィルターのケースとうまく合わず、スポンジなどを挟んで高さを調節しながらだましだまし使っていた。そろそろフィルター交換しないとな。水槽のガラスも掃除しないと、と気になっていた矢先だった。

 帰宅したら異臭がした。うちは猫が3匹いるが猫の排泄物の匂いじゃない。ドブのようなヘドロのような嫌気性発酵の匂い。何度言っても母が室内植物の鉢にたっぷり水をやって下の受け皿を満タンにするので、よく根腐れを起こす。またそれかとあちこち鉢をクンクン嗅いで回った。匂いの元がわからないまま、夕食を食べ、お風呂を洗い、母に先に入ってもらってさあ私もお風呂に入ろうと思った時には日付が替わっていた。冬になっていつも朝にシャワー5分で済ませていた。近頃腰も痛いし、ジップロックに入れたスマホを持ち込んでじっくり温まろう、そう決意して着替えを用意しているところで、水槽の異変に気がついた。

 ポンプが動いていない。脂が浮いている。ライトを移動してみると魚が何匹か浮いていた。網を差し込んで水草をかき分けると、底の方でも何匹も死んでいる。死骸を掬い出し、水草やオーナメントをタライに移動。底の方まで探したが全滅。生き残った魚は一匹もいなかった。死骸が綺麗なので、おそらく死んだのは今日。しかし水全体も底の砂も異臭を放っていた。

 汚れた水をサイフォンで汲み出し、砂利をすべてプリンカップでタライに移して米を洗う要領で何度も水を換えて洗った。気温0℃のベランダに出て、魚達をプランターに埋葬し手を合わせた。砂利を戻し、綺麗な水を入れ、水草を植え直した時には外が明るくなっていた。

 このところ忙しくて、水槽の掃除やポンプの調節を後回しにしていた。水の循環量が減っていることに気づいていた。この何日かでだんだん水質が悪化していたはずだ。毎日遅く帰宅するので、夕食の後すぐ寝るだけの生活だった。それでも毎日水槽を覗いていたはずなのに。

 私が殺したのと同じだ。

 一族郎党集団虐殺。

 がっくり落ち込んで、何度も手を洗い、なぜもっと早くポンプをなお笹買ったのか悔やむ。それでもまた魚を飼うだろうな。

 ごめん。今度は綺麗なところに生まれ変わって欲しい。バイカモの咲く湧水地のような天国で。


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