風の族の祝祭

詩歌の森のなかで、風に吹かれて、詩や短歌や俳句の世界に遊んでいたい。
著作権は石原明に所属します。

俳句 AUGUST,2008

2008-08-31 20:01:06 | 俳句
山百合の淋しいくせに一輪で咲き

眼が合ふて夜店の金魚の薄命かな

蛇神の通ひて九十九に折れしかな

アンタレス神も煙草を吸い給ふ

万華鏡既に少女は幻花かな

飛行機雲定規で引けば秋の空

アンタレス神の殺意を燈しをり

秋雨止まずしてボレロを口ずさむ

秋雨止みて苔一粍の呼吸かな

蛇もヒトも四足歩行の大蘇鉄

日照り雨そっとふぐりを確かめる

この夏も父を愛せず蝉の殻

観覧車蝉殻ひとつハリー待つ

墨景の一筆書きの稲光

動脈のごとくに雷の落ちゆけり

血脈を絶つを想へば雷雨迅し

落雷やしあはせのかたちに木は裂けし

雷鳴の異星の雷に感応す

無残やな交尾夢見し籠の蝉

童貞の蝉殻もありや風化初む

杵かざす月の兎の鬼相かな

乳房無き吾が胸にふたつ虚空かな

蜩の可笑しゅう鳴きて松に死す

逆縁の菊は巨大に棺埋む

取り返しはきかぬ背中を薔薇で打つ

驟雨立ちて雨女か母か還りくる

鼓笛隊の合はぬ音過ぐ夏の過ぐ

逆縁に絶えし葉桜無下に濃し

枡酒や掌の塩舐めて八月の渇き

背の汗の重き噴水弓なりに

父母の秘事のごとし百日紅

灯籠の罅少し延び秋に入る

星空にシリウスあれば眼瞑りて

大正琴一音のみで月と帰る

ためらはずカサブランカの剪られをり

こんなにも飢へた形に蚊を殺す

七夕や二人で折りしだまし舟

白桃の指のかたちに傷腐る

敗戦忌葉裏葉裏の虫の墓

死んだのと浮いて知らせる金魚かな

銀泥の海もあらずや敗戦忌

敗戦日蝉殻掃き寄せて終りたり

添ふてきて餌喰ふ金魚の孤独かな

くず金魚小さきの泳ぎの下手であり

宇宙船に落書したき暑さかな

アンタレス狐を憑けて帰しけり

悪も貼りし夜空に花火かな

流燈や霊去りてまた流れゆく

一心に蟻喰ふアリクイ淋しいぞ

月見草知らぬ振りして蘇州まで

幼きは旨し鹿焼く母も焼く

星月夜母の子宮を捜しつつ

残月に誓わぬ誇り月見草

朝顔の句点のごとき青さかな

アルカディアまでこの虹渡るつらさかな

盂蘭盆会似た貌並ぶ怖きまで

送り火や狐とい寝し証とて

骨までも濡れよと水掛けて盆の墓

立秋の湧水と我龍と化す

立秋や性愛ひとつまだ熟れず

立秋と呼ばわる蝉の未練あり

立秋の欺瞞の地熱や蝉落ちる

戦ごとは我がことにあらず原爆忌

原爆忌蒲団を干して暮れにけり

原爆忌敷布の汗を洗ひをり

原爆忌ルオー絵筆を休めざり

原爆忌フェルメールの光陰を焼く

ラッセラー昭和は知らぬ原爆忌

平成の子ハネ狂ひてや原爆忌

炎天や凪て溶け出す御堂筋

刀身に添ひ立つ牡丹玉三郎

絢爛であれこそ衣裳ぞカサブランカ

墓地のごと蝉は死骸の花水木

ゴキブリにいらぬ慈悲かな命かな

精霊を背負ひてバッタ盆へ翔ぶ
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詩32 零れるナイフについて

2008-08-11 04:57:55 | 詩 
零れるナイフについて


ついに
あなたが
耐え切れずに
狂である時は
私は
掴んでも
掴んでも
あなたの
指の間から
零れ落ちてしまう
ナイフに
なってあげよう
ムイシキン公爵の
優しすぎる
狂を彷徨う
あなたのために
あなたを
傷つけないように
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詩31 黒い本

2008-08-10 00:44:10 | 詩 
黒い本


黒い本の
扉を開けると
錆付いた音色で
古代の歌が始まる
マリアはいつから
聖母になったのか
イエスを
処女懐胎したとき
からなのか
イエスが
処女膜を
子宮から
突き抜けたときから
なのか
最後の晩餐に
不在であったときから
なのか
ピエタの少女として
イエスの死体を抱いたとき
からなのか
ヨゼフとの暮らしに戻ったときから
なのか
マリアよ
あなたは
何者なのか

問うてはならぬ
だが
もうこの黒い本を閉じるには
遅すぎるのだろうか
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詩30 夢の風景

2008-08-09 06:11:32 | 詩 
夢の風景


気がつくと
バターナイフですんなりと
指も手首も
切られてしまう
バター細工の
宇宙飛行士の眼は
惑星となったのか
気がつかない振りをしても
ペーパーナイフですんなりと
舌も喉も
切られてしまう
紙細工の
宇宙飛行士の妻の眼は
遊星となったのか
二つの首は
絡ませあった髪が
燃え尽きるまで
切られることのない
水惑星に落ちる
サテライトに
なったのか
神よ
死を
もう一度
定義してください
火と水で


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詩29 クイーン

2008-08-07 20:40:51 | 詩 
クイーン


裏返して
蝋燭の
薄明かりの
漆黒の
カウンターに伏せた
孤独なカードを
手のひらで
雛を包むように
押さえつけ
透視する
クイーンよ
カウンターに焼きついた貌は
ハートのクイーンか
手のひらに
焼きついた貌は
スペードのクイーンか
私は
眼を見開き
眼を閉じ
生まれる前から
知っている答えを
残りの全てのカードに紛れさせ
いつか母と観た
吉野の桜のように
舞い散らしていた
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詩28 鏡

2008-08-06 00:13:40 | 詩 



鏡の境界線に
もんどりうって落ちたのは
私ではなく椅子だった
はずなのだが
やけに痛いと見上げたら
脚が折れていた
のは椅子だった
はずだったのだが
鏡を見ると
痛みに折れた私が
映っている
はずなのに
脚の折れた椅子が映っている
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詩27 アプラクサスの翼

2008-08-05 00:15:44 | 詩 
アプラクサスの翼

たとえば
その石を
墓石と
名づける
折れた翼を地底に
埋める石を
神は悪魔
男は女
神罰は誘惑
誘惑は死
女は女
男は男
神は神
悪魔は悪魔
その
かつてひとつの卵だった破片を
たとえば
未来と
名づける
その数だけの
誘惑を
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詩26 黒い風景のある風景

2008-08-04 06:22:17 | 詩 
黒い風景のある風景


あなたが壊れたら
あなたのどこから
ブラック・ホールが黒い穴を
開けるの
カサブランカ

子宮
花芯
煉獄
無明
郷愁
光源
密度

カサブランカ
またここに還ってきてしまう
壊れたあなたの
からだに開いた
ブラック・ホールから
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詩25 エデンの風景

2008-08-03 07:21:13 | 詩 
エデンの風景


見下ろす巨体のパードレ
見上げるシスターたち
見上げる猿の園児たち
見渡す限りの焼野原の
極東の国の聖なる首都の
聖家族たち
手作りの紙芝居のエデン
全ての瞳の閉じられることの無い虹彩
林檎より赤く塗られた蛇の二又の舌
誘惑の言葉は
深紅の薔薇
林檎の知は
深紅の誘惑
ああ エデン
知のない世界に
蛇の金色の眼の反逆
神が
知の言葉だけは与えなかった楽園
神知に包まれた
子宮
天を仰ぐ巨体のパードレ
天を仰ぐシスターたち
天を仰ぐ猿の園児たち
聖家族に
知の言葉はいらない
ああ エデン
でも
天を仰がない
焼野原の焼けて子供を守った母をまだ
信じている
一匹の猿の園児がひっそりと
イヴの
金色の眼の蛇と
交わした初めての言葉を
解読しようとしている
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詩24 風景について

2008-08-02 14:46:08 | 詩 
風景について

気がつくと
フレスコ画の風景の中にいた
地平線が円周であることが
この高みからはよく見える
ゴルゴダの丘は無人で
十字架は無人で
烏が舞っている
見上げると千の目が
凝視めている
声を出す 産声のように
私は何者なのかと
十字架の血糊は私の一部なのか
誘惑の蛇の抜殻なのか
烏なのか
千の目なのか
あなたは不在なのか
死んだのか
この円周は閉じられているのか
開かれているのか
答えによって私は
どちらかになり あるいは
二つに裂ける
しかし このフレスコ画の風景の中から
脱け出すことは
できない
だろう
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