あおこのぶろぐ

オペラ、テレビ、日常など、気が向いたときに書いていきます!

ピツァロが主役? カタリーナ・ワーグナー演出 新国立劇場「フィデリオ」

2018-05-31 15:36:26 | 日記
「フィデリオ」は、1981年、オペラ的に物心がつく前に、サヴァリッシュ指揮の二期会公演を観たのが最初です。

レオノーレ…エヴァ・マルトン
フロレスタン…ヘルマン・ヴィンクラー
ドン・ピツァロ…木村俊光
等々のシングルキャストで、テレビ放映もされました(家にビデオがまだなかったので音だけ録った記憶がある)。

初心者の時に観た作品ということと、もともとベートーヴェンは大好きなので、「好きなオペラ」の一つです。

その後、94年の二期会、彩の国芸術劇場、新国立劇場、日生劇場などの公演を観ましたが、81年の公演が私の中で“基本”のようになっています。
あと、BSで2015年に放送されたスカラ座の公演も好きでした。

今回の公演も楽しみにしていました。
演出がカタリーナ・ワーグナーなので、不安もありつつ……。

バイロイト音楽祭のカタリーナ演出の「マイスタージンガー」をテレビで観て、「私はダメ」と思いました。
「マイスタージンガー」も大好きな作品なので、ザックスが「黒く」なっちゃうのを観て、暗鬱な気持ちになりました。

で、今回の「フィデリオ」、前評判も聞いていたし、覚悟して行ったのだけど。

私は結構好きです。

同じ「黒い」演出。
「マイスタージンガー」はダメで、「フィデリオ」はOKというのは何故か、自分でも考えてみました。

まず一つ。
私は悪役が好きです。ピツァロとかヤーゴとかハーゲンとか、大好き。
なので、ピツァロ目線で観たからかもしれません。
というか、冒頭からピツァロが舞台上に登場しており、単なる極悪人とは見えず、「フィデリオ」と言うより「ドン・ピツァロ」だったと言える演出でした。

今回の演出では、ピツァロがフロレスタンとレオノーレを刺して閉じ込めるというものでしたが、惚れた女(レオノーレ)が恋敵を助けに来るというだけで嫉妬でメラメラするのに、その女に足蹴にされたら(ほんとに蹴られてた)そりゃ逆上するわな、と、納得出来たし。
その辺の心情が結構丁寧に描かれていたので。

それと、「フィデリオ」を観て、いつも心のどこかに、「大臣が着いたというラッパを聞いてすぐ復讐を諦めちゃうの?」と思う気持ちが前からありました。
本来台本ではレオノーレがピツァロにピストルを向けるわけですが、それでも、非力な女と屈強な男だったら、簡単に屈しないんじゃないかと思っていたので、「あり得る展開」と思えたのです。
(今回の演出ではレオノーレはピストルを持っていなかった)

ラストシーンは「アイーダ」であり、「トリスタンとイゾルデ」であり、「ジークフリート」でもあったと思いました。
ちょうど一年前、この二人主演の「ジークフリート」が上演されたわけですが、終幕「光り輝く愛、微笑む死」と歌うジークフリートとブリュンヒルデが思い起こされました。

レオノーレだって、リスク承知で救出に行ったのだから、離れたまま夫が殺されるより、決して不幸なラストではなかったのでは?
とも思えました。

大臣はピツァロと共謀していたのか? のラストについては、演技派の黒田博さんが、出て来た時から「黒かった」ので、共謀説を私は取りたいです。

以前私は、読み替え演出について、作品や演奏を損ねず、面白いと思えればオッケー、と書きました。

そういう意味で、ベートーヴェンや作品に対する冒涜だ、というような声もあり、私もいちベートーヴェンファンとして、そう思わないわけではないのですが。
しかし、そもそもカタリーナが真っ当な演出するわけないし。
私は「オッケー」です。
(新国立劇場の前のプロダクションのラストのほうが、ある意味キョトン、だったし)

現代の政治界や最近の某大学の問題などともダブるようなところも多々あり、考えさせられました。

また、光と闇、光と影の使い方、音楽に合う動きの使い方など、よく考えられていて、「納得」出来ました。
「レオノーレ3番」をあんなふうに「有効活用」するなんて!
ラストも悪役マニアとしてはゾクゾクしました。

マイナス点を上げるなら、前後左右色んな位置で登場人物動くので、席によっては、全く見えないところがあり、観る人の印象も変わってしまうのでは、という点です。

また、歌手の皆さんは大変だったろうなと思います。とにかく歌わない時も歌いながらも、動きが多かったので。
でも、棒立ち演出より私は好き。

この演出の主役とも言えるピツァロ役、ミヒャエル・クップファー=ラデツキーは好演。
声は、ピツァロにしては優しすぎる感じがしましたが。

突っ込みたくなる点と言えば、幽閉されていたフロレスタンが食事を減らされていたのは、「ダイエットのため?」と思ってしまったこと。
でも、グールドの歌は文句なしに素晴らしかったです。
歌わないのに第一幕出ずっぱりだったのも大変だったろうな。

レオノーレのメルベートも、本当に動きながらの歌唱が多かったのですが、さすがでした。

妻屋さんのロッコも信頼と安定の演唱。
飯守泰次郎指揮の東響、新国立合唱団も素晴らしく音楽面も満足でした。


そうよ、フロレスタンもレオノーレも、肉が厚いから、刺されても致命傷じゃないのよ。
こっそり穴(墓)から逃げるんだわ、とも思えたのでした♪


(5月24日、30日鑑賞)

1981年の二期会公演のパンフレットです