耳鳴りは外に音源がないのに、自分の耳の中で音が聞こえる状態。米国の診療指針(2014年)では、耳鳴りの経験がある人は成人の10~15%とされ、日本には1千万人以上いるとみられる。ストレスや難聴、耳の病気のほか、原因がよくわからない場合もある。多くは回復が難しく、症状を和らげながらうまく付き合うことが必要だ。

 指針では、治療の際にまずカウンセリングをすることを推奨した。耳鳴りの原因や付き合い方を知ることで、患者が覚える不安や苦痛を軽くできる場合も少なくないと指摘した。

 ログイン前の続き現状の受け止めや考え方を変えることで精神的な苦痛を緩和する認知行動療法も効果が高いとした。耳鳴りを和らげるため、補聴器のような機器で別の音を流す音響療法や、難聴の場合は補聴器も効果があることを紹介している。

 一方、向精神薬などの薬物療法や、栄養補助食品、頭部への磁気刺激は、現時点では勧めないとした。効果の科学的根拠が十分検証されていないためだ。向精神薬は、抑うつや不安、不眠などの症状の緩和のために用いられるべきだと指摘している。

 患者が適切な診療を受ける上での課題も盛り込んだ。心理療法士のいる耳鼻科が少ないことや、耳鳴りに対して適切な認知行動療法を身近な医療機関が提供できるような環境の整備が今後求められるという。

 国内には治療についての統一された指針がなかった。指針案は来春正式に公表される。指針の研究開発班代表の小川郁・慶応大教授(耳鼻咽喉(いんこう)科)は「多くの耳鳴りは白髪などと同じで加齢とともに付き合うことになる。患者が現状を受け入れられるように医療機関に丁寧な説明が求められる」と話している。