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ロシア版ホームズの連作をDVD化しましたAlt-artsです。
映画やDVDについて徒然なるままに書いていきます。

ヒット作の興行成績は映画の復活を意味しない

2010-02-03 00:47:41 | 日記
今日本で大ヒットとされる映画作品を、何人の観客が映画館で見ているだろうか?
『崖の上のポニョ』が1000万人以上だったと言われているが、正確な数字は分からない。

しかし、1000万人というのは国民全体の10分の1以下でしかない。
10人に一人が見て「大ヒット」ならば、映画の全盛期にはそのような作品は一年間にかなりあったはずだ。
ちなみに、映画が「黄金時代」だった頃のソ連には正確な観客動員記録が残っていたが、当時2億以上の人口を抱えていたとは言え、1000万とか4000万人以上の動員がざらにあって、タルコフスキーの『惑星ソラリス』でも1000万人以上、『モスクワは涙を信じない』等の「国民的」ヒット作は7000万人前後、最大のヒット作では9000万人以上という数字がある。つまり、大ヒット作は国民の4人に1人程度が見たことになる。

日本でもアメリカでも、「興行収入」のことは語られるしデータも発表されているが、実際の観客動員数は推定でしかない。DVD等による映画の鑑賞者数に至っては、購買だけでなくレンタルも含まれるので推測の域を出るはずがない。
大手レンタルショップが料金の値下げを相次いで行った事を見れば、全体として決して増えてはいないだろう。十分な需要があれば、旧作280円だったものを100円に値下げする必要はないはずだ。商品でもサービスでもそうだが、値下げする理由は当該商品(この場合は劇映画のレンタルソフト)の人気に陰りが出始めたからである。

日本映画製作者連盟の公表した21年度の「劇映画ビデオソフトの販売と鑑賞人口推定」と題するデータによれば、映画鑑賞人口は6億8,599万人で、昨年度比98.4%だという(http://www.eiren.org/toukei/index.html)。
レンタルも含めれば日本人は平均して年間6回程度はお金を払って劇映画を見ている、ということになるのだろうか。だが、映画館の利用回数はその6分の1程度しかない。この比率は非常にいびつだと言わざるを得ない。
映画ファンならばもっと頻繁に映画館で観ている可能性はあるが、全体として、購入すれば2000円も3000円もするビデオソフト(DVDが大半だろう)を映画館よりも多く利用しているからには、何かそれなりの理由があるだろう。かく言う私も、最近はソフトの購買やレンタルで見る映画の方が圧倒的に多い。

ビデオソフトの購買やレンタルによる鑑賞は、映画にとっては勿論、本来の形態ではない。映画館で観て気に入ったから購入するとか、もう一度観るためにレンタルするのはいい。
だが、「どこの映画館にもかからなかったから」或いは「地方までその作品が回ってこなかったから」「近くにそういう映画をかける劇場がないから」買う、借りるというのは、つまり興行や配給のシステムが需要に追いついていないということだ。また、「レンタルの方が安いから」劇場に行かないというのなら、それは劇場のチケットが高すぎることになる。

いずれにせよ、ヒット作の興行成績というのは映画産業や映画文化についてあまり多くの展望を与えてくれるものではないことが分かる。『ポニョ』を何千万人が見ようが、『ONE PIECE』を何百万人が見ようが、映画の黄金時代には及ぶべくもないのは明白であるし、それらの映画のヒットの影で公開延期や未公開に終わる映画が増えれば結局、映画の観客層は薄くなる。

大抵の場合、あれこれの作品やブランドに頼ったブームはかなり迅速に去るものであるし、国民の間で映画館で映画を観る習慣が徐々に失われていけば、その国の映画は衰退を免れないのである。