暫くたったある日のこと、
角の生えた鬼が棲まうとされた裏山に毎日のように通う娘に気づいた母は、心配して娘の後をついていきました。
そして、湧水の水をタライに汲んだかと思うと、祠のある所に行き、綺麗に磨いたり、ある時は石を抱えて湧水に持って行き、嬉しそうに一生懸命石を磨く娘の姿を目の当たりにしました。
母の目には、娘のまわりに蒼い龍、白い龍がそれは気持ち良さそうに舞いながら光りながら泳いている幻影が見えたのです。
少女の母が小さいころには既に、山には角の生えた鬼が出るとか、祟り神がいると村人は噂をしていました。いつからその噂があったかはわかりません。
母は山が禁足地で、怖いと信じており、裏山ではあったけれども入山した事がありませんでした。
一方、子供のころ祖母から、あの山には山と海の両方の強い神がおり、村人を真剣に守ってくださっていると言っていたのも思いだしました。
母は娘に気づかれないように山をおり、娘が帰ってきたあと、手話ではなしかけました。
娘は、祠に行く理由を、正直に母に打ち明けました。石が自分のように感じることも話しました。
母は、耳の不自由な娘の純粋な心と、孤独な胸の内を知りました。
禁足の裏山に、神の祠がある話を母は村人にしました。おそらく龍神様か、山の神か、海の神が鎖でずっと縛られているのかもしれない。今から、復興を村人でしようと懇願しました。
角のある鬼が出るから関わりたくない、帰ってくれというものが根強くいましたが、一方で、その地の山神様の歴史資料を調べたり、近くの海神様の伝承を調べて、古代の山の祭りがあった話しなどを知り、復興の協力を申し出る人達も次第に増えてきました。
そうして、角の生えた鬼が出ると恐れられた山は、民が太古にきちんとお祀りしていた山の神、海の神、日の出の神と、さらに、祠のそばに耳の神々をお祀りし直して、再び祈りを捧げ始めました。
声なき聲を聴く、少女の優しい行為と、村人の協力が、竜宮城の復興に繋がることとなるのは、誰も気づいていませんでした。
つづく
【画像は全てお借りしました】