ついさっきまでコーヒーを飲みながらくつろいでいたのに、真剣な顔つきになって西の方を睨みだした。
「来る」
焦るように彼女はそういった。
僕はとりあえずあたりをきょろきょろしてみた。
何も変わりはない。
いつもの壁、いつもの天井、いつもの本棚。掃除していない窓のふちのホコリもそのままだ。
「何もこないよ」
と、僕は彼女の肩をたたいた。
「来るよ。なにか分からないけど、とってもイヤなものがくる」
彼女は真剣だった。目つきがいつもと違う。
僕は訳が分からなかったのでとりあえずテーブルの上の角砂糖のビンをいじくりだした。
新しいコーヒーをいれようと席を立ったとき、彼女は叫んだ。
「港のほうだ! 行こう!」
まだコーヒーも淹れてないのに彼女は僕の腕を掴み走りだした。
まったく訳がわからなかった。
車もあるのに、自転車もあるのに何故走らなければならないのかも分からなかった。
近所の煙草屋の角を曲がり、スーパーまで走り、左のカーブを道なりにいき、小学校を超えれば港は近い。
アゲハは必死に西の方向を気にしていたが、空はまったく普通だった。
あの雲はペンギンみたいだなと思っていると急に足元が揺れた。
なんだろう。
地鳴りがする。
地震がきたらいやだな。
倉庫を抜けると港が見えた。
そこには今まで見たこともない黒いうようよしたものが海の中に現れていた。
アゲハは息を呑んで、僕の腕にしがみついた。
と、いうような感じのやつをみると惚れる。
なにがいいかって、「来る」ってやつ。
とにかく物語にでてくる登場人物で、何か不思議な能力を持つやつはみんなが分からないことに気が付く。
「来る」
「なにもないよ」
「いや、確かに来る」
「おいおい空耳じゃないか」
「ほら、また。 急がなきゃ」
みたいな会話。
やばいね。
だから小学校の頃はよく休み時間に「来る」って予言しては遊んでた。
僕は耳をそばだてて、先生の足音に気が付くようにした(もちろん回りが騒がしいので分からない。分かったことがない)
一番いいのは職員室で僕だけが先生が遅れることを知っていて、その時間になるほんの少し前にみんなにいうパターン。
みんなは「どうしたんだろう」「遅いね」「誰か呼んできたら」みたいな空気になってるから尚効果が高い。
僕「もうすぐ来るよ」
みんな「なんで?」
僕「分からない。でも来そうな予感がする。
いま、3階にあがった。
階段を上ってくる。
席についたほうがいいよ」
みんな「なんだそれ」
そこでドアがあく。
みんなおどろく。
これが楽しい。
はぁ、僕は凡人だったよ。
そりゃあ親が普通の人間だからね。
必死にカメハメ波出そうと思って「気を溜める練習」したけど駄目だったよ。
ま、いっか
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玲凜
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