Guitars On Broadway

洋楽とエレクトリックギターの旅路

Vintage MORRIS W-80

2018-12-21 11:31:42 | Acoustic Guitar

エレクトリックギターに特化したこのブログ初のアコースティックギター。アコースティックギターのブームは数十年サイクルでやってきますがその時代の音楽シーンによって様々なニューモデルやメーカーが登場します。フィンガースタイルでのソロ演奏がひとつのジャンルになってその奏法に適した仕様も今のトレンドになっています。軽いタッチで豊富な音量が出る弾きやすいギターがローコストでリリースされているのはアコースティックギターの人気の一つ。薄いボディで弾きやすく、艶消しフィニッシュでピックアップが標準装備なんていう仕様がスタンダードのようです。しかし、近年の薄めのトップ材と特殊なブレーシングでラウドで明るい鳴りのいいギターだとどうしても昔のロックで聴きなれたローコードのストロークの音になりません。そこを求めると必然的に老舗海外メーカーになってしまうのは避けられない部分なのですが、そこで我々の体の中に染み込んでいる日本製アコースティックギターを再度検証してみます。

ギター入門時はどうしてもビギナーラインナップから始めるしかありませんが鳴らし切る前にエレキギターに移行してしまい大人になってオベーションやマーチン、ギブソンというのが通常のパターン。アコースティックギターを貫いた人たちは国産メーカーのハイエンドや海外の工房系ブランドに行き着くのが多く、そこはまたディープな世界です。

国内では60年代後半から大小たくさんのメーカー乱立し、70年代に入りフォークソングブームから約10年間は最大の生産本数だったのがアコースティックギター。当時、国産楽器のほとんどが海外老舗メーカーのフルコピーだった時代に独自の切り口があったのはヤマハ。一方ひたすらに本家マーチンを追い求めたのがこの「モーリス」。創世期60年代初めの長野楽器のブランド「ホタカ」から67年に芳野楽器で製造され72年に「モーリス」ブランドの誕生という流れです。その時代に製造ロットが整備されたメーカーは少なく町工場的なメーカーとのOEM関係で急激なブームによる莫大な製造本数をまかなっていた状況だったようです。70年代に入っても海外の老舗メーカーのようにシリアルナンバーの管理は確立されず出荷時の検品を担当した工場長のサインくらいのものしかありませんでした。

 そんな中、今回登場するのがブームも落ち着き始めた81年製の中級機種のモーリスW-80。豪華なアバロン貝のバイディングとバックの3ピースローズウッド。マーチンD35とD45を混ぜたようなデザイン。75年頃から始まったモーリススペシャルというハイエンドラインの縦ロゴヘッドTFシリーズ。スプルース単板、エボニーのフィンガーボードとブリッジ。検品のサインが「Takagi」とあることから当時のOEM製造を承っていたS・Yairi製のようです。当時、国産ハイエンドメーカーの立ち位置のS・ヤイリも販売はモリダイラ楽器でしたから同じブレーンのような関係性だったのでしょう。

さて音質は派手な鳴りを制御した厚めのスプルース単板とローズウッドならではの鈴鳴のトレブルとローエンドが醸し出すドンシャリ風なブレンド具合でトラッドな響き。レスポールに通じる太いマホガニーネックには珍しいタイガーストライプが出ています。ワイドで軽くVなシェイプはS・Yairiの名器YD-304に通じる質感があり今のギターよりは男臭い雰囲気があります。マーチンと同じダイヤモンドボリュートとシャーラ―タイプのモーリスオリジナルペグは滑らかに可動しています。弦高をフィンガースタイルより低い1.5~1.7mmにするためブリッジサドルをTUSQに交換しついでに効果は解りませんがブリッジピンもついでにTASQ。オリジナルの牛骨よりも気持ち倍音が増えメローでシングルノートが太くなった感じです。TUSQは加工しやすく種類も豊富。マーチン用の形状加工されたPQ911000を再加工し1、2弦を1.7mm、3~6弦を1.5mmくらいで調整しました。弦のゲージは.011~.052がベストマッチの感じです。この弦高だとアコースティックギター本来のトーンとは違いがありますがエレクトリックギターと違和感のない弾き心地とトラッドなトーンの両立が理想です。弦高を低く設定してもダイナミクスの反応が良好。製造後37年たっているのでトップやネックの動きは全く無く安定しています。

定価設定が10万円以上と同じようなスペックなのに価格違いのアイテムをたくさんリリースする当時の国産メーカーの販売戦略が在庫過多を生み出しブームに陰りが見えてきた時にたたき売りというのがよくありました。この定価設定80,000円のW-80の下のモデルW-60のサイド、バックが合板ですがハカランダを使用しているのも混沌としている現れです。また、古いアコースティックギターは当時のスペックだけで選んでしまうと大変なことになります。ネックトラスロッドの状態や弦高、トップのコンディションでメンテナンスに本体以上の金額を支払うことも。しかし、経年からのナチュラルなシーズニングのダイナミクスのある鳴り方は独特です。

60年代後半と70年代後半のたった10年間でのギターの品質向上には驚かされます。使われている材料は別としても同じエントリーモデルを比べると70年頃の最上級機種が10年後のビギナー向け以下の加工精度。現在はメイドインジャパンのアコースティックギターというだけでハイエンドの印象がありますがこのころは試行錯誤しながら本家USAブランドに立ち向かおうとする姿勢が熱く伝わってくるのがわかります。


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