Guitars On Broadway

洋楽とエレクトリックギターの旅路

EMG ACS APA-2 & BOSS AD-2

2019-03-17 23:12:42 | Acoustic Guitar

アコースティックギターをアンプリファイドで再生する歴史は昔からの永遠のテーマでした。70年代にオベーションの登場によりピエゾマイクというのが認識されバンドでもアコースティックギターが聞こえるという新時代になりましたが独特のトーンには好き嫌いがハッキリと。トラッドなアコギトーンはコンデンサーマイクが一番と言いたいところですがそう簡単にいかないのがアコースティックギター世界です。演奏するジャンルやバンド形態でマッチするピックアップやエフェクトが変化します。エレクトリックギターはアンプで増幅するのが前提ですがアコースティックギターは生のトーンがどうしても基準になってしまうのが複雑にしてしまう要因です。ソロ演奏や小音量、小編成だとダイナミックやコンデンサーマイクをPA経由にするのが一番ナチュラルに再生できますが、ハウリングという問題がやってきます。コンデンサーマイクは小音量でも打楽器が入るバンドスタイルになるとどうしてもシングルノートで線が細くなりアンサンブルの中に埋没するトーンに。

実験も兼ねて最近話題のピックアップを試してみることにしましょう。トライアングル型のマイクが印象的なイタリア「IK MULTIMEDIA 」のiRig Acoustic Stageというマイクとプリアンプのセット。PC経由のオーディオインターフェースにもなる優れもの。プリセットトーンやフィードバック防止のワンタッチ型ノッチフィルター、別ソースのピエゾマイク等とブレンド出来るミキサー機能も至れり尽くせり。ギター本体加工も必要ないお手軽さも素晴らしいですがバンドアンサンブルの音量的なところはマイクと同じ質感です。

ギター本体に固定するアタッチメントを使用する超単一指向性のコンデンサーマイクもナチュラルでいいのですが音量は小さくハウリングもしやすいのでソロギターや小音量のアコースティックセット用です。

結局のところある程度の音量が必要なバンドスタイルだとマグネットやピエゾマイクという選択になってしまいます。マグネットタイプとコンデンサーマイクが一体化してあるハイエンド型も最近は各社から出始めていますがそれはまた別な機会にとしてアコースティックギターの世界ではメジャーじゃありませんがやはりエレキ弾きはEMG。サウンドホールに取り付けるマグネット式のEMGのACSとアンダーブリッジ型ピエゾのAS93。その2系統のピックアップをブレンドするプリアンプのAPA-2が基本の設定でしょう。あえてナチュラルさは横に置いてハウリングやノイズが無く効率的にアコースティックギターの音を増幅するトーンはオベーションを少しナチュラルにした雰囲気。現在のプリアンプAPA-2は9V電池を使わない新しいバージョンになっていますが現在流通しているのはまだ旧バージョンです。APA-2側でアンダーブリッジのピエゾPU音量を調整できるのでブリッジとサウンドホールPUのミックス設定が可能。マグネットPUのACS本体のボリュームがマスターボリュームとして作動します。しかし、弾きながらの音量調整は難しいのでボリュームペダルが必要なところ。

線の太い独特なEMGトーンですがエレアコ特有のミッドレンジを調整するアコースティックシュミレーターのBOSS AD-2を経由させると太い存在感をの残したままナチュラルなトーンに変化します。エレアコ特有なサウンドをリアルなアコースティックトーンに変えるシュミレートも種類が豊富になってきています。最近のアコギ用マルチエフェクターやプリアンプにはほとんど搭載してあるアコースティックシュミレーターはかなりの高性能になってきています。以前はギター側のPUやEQ、コンプなどを多用して音作りをしていましたがそれがワンタッチで出来る形です。このBOSSのAD-2はナチュラル系ではなく癖が強い部類ですがEMGとは抜群の相性。PAアンプからの再生音はブライトな生音に程よいミッドがついて、音量をさほど上げなくてもシングルノートが冴えわたり、弦高を下げ目にするほうがよりアコースティック感が増えます。

ギター側の環境を整えても受けるPAやアコースティック用アンプの設定でも変化するのでバンドサウンド全体を把握しながら調整しないとアコースティックギターが一瞬にしてエレクトリックギタートーンになってしまいます。これもまた面白い分野ですね。


Vintage MORRIS 2 W-60

2019-01-01 12:50:06 | Acoustic Guitar

ビンテージモーリスの第2弾、W-80に続き中級機種の代表格グレードW-60の登場です。前にも書きましたが当時の国産メーカーはシリアルナンバー管理などする気もなかったらしくこの個体のW-60はナンバーらしき識別可能なものはものはW-60とサインが書かれているシールのみ。製造年は当時のカタログ情報やパーツ等で探っていくしかありません。当時の中上級機種のほとんどが60年代からのマーチンD35スタイルの3ピースバックを継承しています。75年からの縦ロゴ「TF Morris」、78年のカタログからは指板インレイが6角メキシコ貝なることから76年のカタログにあるスノーフレークインレイと同じです。それらから76年から77年まで製造と予想されます。何故か当時のW-60あたりの一部のモデルにだけバックとサイドにハカランダ合板を使用していた形跡があり、バックは中心にフレイム入りのチェスナット(栗の木)が使われ、サイドは裏表の木目があっているソリッドハカランダのような感じもします。ネックはW-80よりファットなネックでダイヤモンドカットのボリュートがマーチンの忠実なコピーを再現していました。ゴトー製モーリスオリジナルペグの精度も素晴らしく国産パーツメーカーの成熟期に入ったのがこの時期だと確認できます。

今回はネックのリフレットとナット、ブリッジのチューンナップを「RUNT GUITARS」http://runtguitars.com/にお願いして細かな弦高調整までやっていただきました。フレットはミディアムハイ、ナットとブリッジは最近お気に入りのタスクでお願いをし新品の指板に生まれ変わりました。ローコードワークのトーンに重点を置いたトラッドなアコースティック設定ではなくハイポジションのシングルノートもサスティーンとトレブルをキープするにはかなりのローアクションで攻めないとなりません。しかもトラッドなトーンも実現するようにとわがままな注文です。1、2弦を1.7mmそれ以外を同じ1.5mmというのも美しくクリアしています。低い弦高にかかわらずテンションが思った以上にあったのでブリッジプレートの底面を少し摩って1.2~1.4mm設定してもおかしいポジションがどこにもないというのが恐ろしい。ピッキングのタッチでどうにでもトーンが変えられるゴキゲンなギターに仕上がりました。

グレードがワンランク違いのW-80とは同じブランドでも違うギターなのに気づきます。このW-60はOEM製造ではなくモーリス自社工場製のようで余計な倍音を出さないようなガッチリとしたつくりです。この42年以上の経年変化でいい具合に乾き、音量がかなり増しているのが分かります。これだけ弦高を低くすると1、2弦のハイフレットの鳴りは細くおとなしくなるのですが一番派手に鳴ってくれるリードギター向きなアコースティックに。W-80はトラッドで繊細なトーンがあるので使い分けするには塩梅がいいようです。

アコースティックギターは弦によっても弾き心地以上に響きが変化します。細いゲージにすると逆に音が太くなる場合もあるので一概には言い切れないところが奥深い部分です。これは弦高を下げてテンションを緩くして弦の振幅を上げるということです。アコースティックギターはこの力加減がトーンに与える影響が激しい分難しくなるのです。しかし、最近の音量重視にありがちなミッドレンジをブーストしたような鳴りとは違うアコギ独特なドレッドノートのドンシャリトーンが安心感を与えるのはマーチンを追い続けた70年代国産アコースティックギターの王道なんでしょうね。

しかし、生音にこだわってもピックアップ経由だとどれも同じ音になってしまいます。近年はマイクやプリアンプも高性能化した分みんな同じ音になってしまうのが悲しい事実。オベーション等のようにPUから再生するのを前提に開発されたものはライブやバンドアンサンブルでは強力な個性と存在感を放っていました。それもいいのですが生のアコースティック感を出すにはコンデンサーマイクが今のところ最高です。ギター本体に加工が無く、アコースティック楽器編成のバンドでマイキングと同じ質感のピックアップを研究しなくてはなりませんね。


Vintage MORRIS W-80

2018-12-21 11:31:42 | Acoustic Guitar

エレクトリックギターに特化したこのブログ初のアコースティックギター。アコースティックギターのブームは数十年サイクルでやってきますがその時代の音楽シーンによって様々なニューモデルやメーカーが登場します。フィンガースタイルでのソロ演奏がひとつのジャンルになってその奏法に適した仕様も今のトレンドになっています。軽いタッチで豊富な音量が出る弾きやすいギターがローコストでリリースされているのはアコースティックギターの人気の一つ。薄いボディで弾きやすく、艶消しフィニッシュでピックアップが標準装備なんていう仕様がスタンダードのようです。しかし、近年の薄めのトップ材と特殊なブレーシングでラウドで明るい鳴りのいいギターだとどうしても昔のロックで聴きなれたローコードのストロークの音になりません。そこを求めると必然的に老舗海外メーカーになってしまうのは避けられない部分なのですが、そこで我々の体の中に染み込んでいる日本製アコースティックギターを再度検証してみます。

ギター入門時はどうしてもビギナーラインナップから始めるしかありませんが鳴らし切る前にエレキギターに移行してしまい大人になってオベーションやマーチン、ギブソンというのが通常のパターン。アコースティックギターを貫いた人たちは国産メーカーのハイエンドや海外の工房系ブランドに行き着くのが多く、そこはまたディープな世界です。

国内では60年代後半から大小たくさんのメーカー乱立し、70年代に入りフォークソングブームから約10年間は最大の生産本数だったのがアコースティックギター。当時、国産楽器のほとんどが海外老舗メーカーのフルコピーだった時代に独自の切り口があったのはヤマハ。一方ひたすらに本家マーチンを追い求めたのがこの「モーリス」。創世期60年代初めの長野楽器のブランド「ホタカ」から67年に芳野楽器で製造され72年に「モーリス」ブランドの誕生という流れです。その時代に製造ロットが整備されたメーカーは少なく町工場的なメーカーとのOEM関係で急激なブームによる莫大な製造本数をまかなっていた状況だったようです。70年代に入っても海外の老舗メーカーのようにシリアルナンバーの管理は確立されず出荷時の検品を担当した工場長のサインくらいのものしかありませんでした。

 そんな中、今回登場するのがブームも落ち着き始めた81年製の中級機種のモーリスW-80。豪華なアバロン貝のバイディングとバックの3ピースローズウッド。マーチンD35とD45を混ぜたようなデザイン。75年頃から始まったモーリススペシャルというハイエンドラインの縦ロゴヘッドTFシリーズ。スプルース単板、エボニーのフィンガーボードとブリッジ。検品のサインが「Takagi」とあることから当時のOEM製造を承っていたS・Yairi製のようです。当時、国産ハイエンドメーカーの立ち位置のS・ヤイリも販売はモリダイラ楽器でしたから同じブレーンのような関係性だったのでしょう。

さて音質は派手な鳴りを制御した厚めのスプルース単板とローズウッドならではの鈴鳴のトレブルとローエンドが醸し出すドンシャリ風なブレンド具合でトラッドな響き。レスポールに通じる太いマホガニーネックには珍しいタイガーストライプが出ています。ワイドで軽くVなシェイプはS・Yairiの名器YD-304に通じる質感があり今のギターよりは男臭い雰囲気があります。マーチンと同じダイヤモンドボリュートとシャーラ―タイプのモーリスオリジナルペグは滑らかに可動しています。弦高をフィンガースタイルより低い1.5~1.7mmにするためブリッジサドルをTUSQに交換しついでに効果は解りませんがブリッジピンもついでにTASQ。オリジナルの牛骨よりも気持ち倍音が増えメローでシングルノートが太くなった感じです。TUSQは加工しやすく種類も豊富。マーチン用の形状加工されたPQ911000を再加工し1、2弦を1.7mm、3~6弦を1.5mmくらいで調整しました。弦のゲージは.011~.052がベストマッチの感じです。この弦高だとアコースティックギター本来のトーンとは違いがありますがエレクトリックギターと違和感のない弾き心地とトラッドなトーンの両立が理想です。弦高を低く設定してもダイナミクスの反応が良好。製造後37年たっているのでトップやネックの動きは全く無く安定しています。

定価設定が10万円以上と同じようなスペックなのに価格違いのアイテムをたくさんリリースする当時の国産メーカーの販売戦略が在庫過多を生み出しブームに陰りが見えてきた時にたたき売りというのがよくありました。この定価設定80,000円のW-80の下のモデルW-60のサイド、バックが合板ですがハカランダを使用しているのも混沌としている現れです。また、古いアコースティックギターは当時のスペックだけで選んでしまうと大変なことになります。ネックトラスロッドの状態や弦高、トップのコンディションでメンテナンスに本体以上の金額を支払うことも。しかし、経年からのナチュラルなシーズニングのダイナミクスのある鳴り方は独特です。

60年代後半と70年代後半のたった10年間でのギターの品質向上には驚かされます。使われている材料は別としても同じエントリーモデルを比べると70年頃の最上級機種が10年後のビギナー向け以下の加工精度。現在はメイドインジャパンのアコースティックギターというだけでハイエンドの印象がありますがこのころは試行錯誤しながら本家USAブランドに立ち向かおうとする姿勢が熱く伝わってくるのがわかります。