(南品川の東海禅寺にて)
予防的買い占め防衛策
21日、東京証券取引所は「敵対的買収防衛策の導入に際しての投資者保護上の留意事項について」と題する文書を各上場会社に送付した。
先のニッポン放送事件において、買占めが出現した場合に、現経営者の取締役が、その買占めが成功したときに自己の取締役としての地位が失われることを危惧して、現に会社の経営を任されていることを奇貨として、このような自己の利益のために何か有益となる会社の行為をすることができるか、その一つとして取締役会において大量の新株予約権の発行を決議して、買占めの進行を阻止することができるかが、大きな法律上の問題として浮上したが、このように買い占めが出現したのを機に、その対抗策として前記の目的から合法的にどんなことをすることが可能かという泥縄的問題からさらに進んで、将来買い占めが万一発生した場合に、同様の危惧から、あらかじめ事前に、現に経営を任されていることを奇貨として、会社の行為として何か自己保身に役立つ予備的な防衛策を設定しておくことができるかに問題が移行してきた。
周知のとおり、アメリカにおいては、古くから敵対的買占めの問題は、苦い長い経験を積んできたところから、この問題については、今日では立法・判例の面でも実務上の面でも、とっくにほぼ解決済みとなっているといっても過言ではないが、日本においては、これまで本格的な敵対的買占めの経験に乏しいことから、やっとこんどのニッポン放送事件を機に各方面でこの問題が、真剣に取り上げられるようになったわけである。
しかし、各方面といっても、実はその大部分は、買い占めの脅威を誰よりも強く自分の問題として意識している現経営者である取締役ないしはその直接間接の関係者が、前記の目的にかなったどのような方策が、立法をはじめとしていろいろな面で可能であるかという観点からとり上げているようである。
誰も各自の自己の立場から問題をとり上げ、自己の都合のいい方向で問題を解決しようとするのは、当然のことであり、それらの多くの相反する立場の総合の上で、客観的に妥当な結論を模索することが民主社会での基本ルールであることはいうまでもない。このような点に鑑みると、この買占め対抗策の問題は、元来株主の所有物である会社を、たまたまその委託を受けて委託者である株主の利益のために最善を尽くす義務のある受託者の立場にある取締役が、この義務に反して、あたかも会社が自己の所有物であるかのように私物化して、もっぱら自己個人の利益(取締役としての自己の地位の保身)をはかる目的の買占め対抗策をとろうとするところにあり、それは会社の所有者であり、委託者である株主に対する背信行為に相当するわけで、その犠牲者となりうる株主の立場からの強い牽制がとりわけ必要なことになる。
誰が株主になってもよいか、誰が株主になってはいけないかを取締役が自由に介入決定できる会社運営組織としては、定款で、株式の譲渡は取締役会の承認を要する旨を規定したいわゆる譲渡制限会社の制度が用意されているから、そうでない公開会社にあっては、そもそも誰かが会社の株式を大量に買ったからといって取締役がそれについて介入し、とやかくいうことが許される筋合いのものではないわけであるが、現実には、往々気に入らない株主への移動を阻止するため、事前に、無差別に株式の大量取得を押さえようとするこうした株主の利益ないしは株主平等の原則に反するおそれのある取締役による過剰違法防衛策が講ぜられ勝ちであり、このような動きを委託者であり会社の所有者である株主の立場から牽制警告する側の代表的な見解の一つとして、今回発表された東京証券取引所の上場会社の代表者宛てに送付された前記の文書が、大いに注目されるところである。
東証については、下記の東証のホームページをご覧戴くことにして、ここでは長くなるので、これ以上述べないこととしよう。
東京証券取引所
(ルノワール)