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「院生女子の成長が、近年は目覚ましい。プロ採用試験は不合格だったからと言って、この子達の素質を野放しにする訳にはいかない」
そうした理由で2018年秋から始まった1つが『女流特別推薦』。成績優秀な女子院生を、推薦でプロに採用する新制度。
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==女流棋戦ふりかえり
……2019、No.02(全3回)==
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囲碁棋士の中で、特に一時代のリーダーとなる人の場合には、何かしらの星や天命を背負っている様に思われます。
1つ目は、藤沢里菜さんや上野愛咲美さんの様な『戦いの星』
2つ目は、杉内寿子先生や小林礼子先生の様な『導きの星』
3つ目は、知念かおり先生や謝依美さんの様な『郷土の星』
その星の1つ『郷土の星』を背負った新棋士が、2019年に誕生しました。
それが、関西総本部の大森らんさん。
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【プロフィールサイト】https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000494.html
【写真】大森らん・初段(日本棋院、関西総本部所属)
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A》「瀬越先生に恩返しが出来た」
『大森らん』と言う名前、当初私は全然知らなかった。新棋士採用のプレスリリース、竜星戦での公式戦デビュー。それについても「……頑張って下さいね」と思っただけでした。その竜星戦にて、天才棋士として鳴り物入りでプロ入りした仲邑菫さんに勝ち、ファンやメディアに注目されました。
しかしそれ以上に私が驚いたのが、竜星戦の後日。
週刊碁の定番企画『新初段シリーズ』。日本棋院に採用されたプロはこの企画で特集され、全国の囲碁ファンへお披露目されます。
私が過去に読んだ新初段シリーズの中でも、大森さんの回は特に印象的でした。それを要約しますと……
「大森さんがプロ入りして間も無く、大森さんの元に手紙が届いた。その内容は──あなたがプロになるのを、私はずっと待っていました。
手紙の差出人は山王裕孝プロ。現役の囲碁棋士で、故郷・広島県の大先輩」
【公式プロフィールサイト】
https://www.nihonkiin.or.jp/player/htm/ki000029.html
【写真】山王裕孝プロ
その山王プロいわく、
「大森さんがプロになった事で、広島県初の囲碁の女流棋士が誕生した。
これでやっと、(山王プロの)師匠でもあり広島県の大先輩でもある瀬越憲作先生に恩返しが出来た」
囲碁の歴史と縁が強い広島県で「大森さんが初の女流囲碁棋士」とは、正直意外でした。広島県からは、囲碁の女流棋士がすでに数人は誕生しているものとばかり……
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B》『仁風』の後継者……?
先に述べた通り、新初段シリーズの目的は、先輩棋士との対局を通じて、新棋士の名前と強さをファンにお披露目する事。個人的な好みの問題ですが、新初段シリーズには、どことなく物足りなさを感じてはいました。
しかし、大森さんの回だけは別だった。全国のファンには知られていなくても、大森さんのプロ入りを長年待ち焦がれていた人がいた事。その1人が、山王プロだった事。広島県の囲碁ファンにとっては、他の地域の人が想像している以上に、吉報以上の吉報だったかも知れません。
最後に〈プロとしての目標〉について。大抵の新棋士は「タイトル奪取を目指して頑張ります」と答えるのが定石みたいなもの。
週刊碁の新初段シリーズやネット記事によれば、大森さんの目標は、
「囲碁ファンを笑顔に出来る棋士。困っている人を救える人」
大森さんの故郷の大先輩、瀬越憲作先生。その瀬越先生の盟友であった木谷実先生は『仁風』の精神「囲碁を通じて世界平和」をモットーとされていた。その木谷先生の精神を受け継いだのが、実娘である小林礼子先生と、孫娘である小林泉美さん。
時代も一門も地域も全然違いますが、大森さんの記事を読んで、
「木谷先生の大志を受け継ぐ後継者が、広島県で生まれ育っていたんだな……」
と、感慨深いものが私にはありました。
(2回目・完)
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C》参考情報
【参考】大森らんさんの特集記事
https://www.sankei.com/smp/life/news/190523/lif1905230011-s1.html
※平成31(2019)年度採用新初段。
うち女流棋士は、10人が新採用
◇女流特別推薦◇
◎東京本院に所属
……辻華
……五藤眞菜
……森智咲
◎関西総本部に所属
……大森らん
◎中部総本部に所属
……高雄茉莉
……羽根彩夏
◇女流特別採用◇
……上野梨紗(東京本院所属)
◇英才特別採用推薦◇
……仲邑菫(関西総本部所属)
◇夏季採用◇
……武井太心
◇冬季採用◇
……豊田裕仁
……福岡航太郎
◇関西総本部採用◇
……池本遼太
◇中部総本部採用◇
……寺田柊太
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