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かんぽの宿売却問題での盛り上がりがよくわからない その2

2009年02月09日 | ニュース
かんぽの宿売却問題の続き。
続きを書くなんて、盛り上がってるのは私の方じゃないかと思わないでもないですが、オリックス不動産への売却が白紙撤回となりそうな状況はやはり普通じゃないですよ。

新たな郵政利権だと騒いでいるようですが、ここまできたら調査の結果を楽しみにさせてもらいます。
これで入札の過程に利権構造がないとなったら、政治家はどのような責任をとるんでしょうかね。
株主である国は責任をもって109億を上回る提示をしてくれる不動産会社を探してきてくれるんでしょうか。
今じゃ三菱地所だって丸の内の空室率増加等も報道されて余裕がなくなってきているようにみえるし、REITが借入金の借り換えに四苦八苦しているような状況であるのに。。

問題が長引くほど赤字は累積していくわけですから、例えば2年後には今の倍程度の金額提示がなければ、それこそ国民の損失だと思いますよ。透明性が確保されれば、たとえ売却額が今回より低くともそれは国民の利益だ、と反論されてしまうかもしれませんけど。

今は不良資産かもしれないが市況が回復すれば高く売れるんだ、黒字化努力をしてから売ればいい、なんて発想はほんとに官のそれですね。リゾート事業のノウハウがない日本郵政に経営努力を求めるとは。値上げすればいいとか、センスがないとしかいいようがない。需要と供給から勉強しなおしたらいかがでしょうか。


売却価額はそんなに低すぎますかねぇ。
これは前回も書きましたけど、当初取得価額に比して簿価はもう十分に切り下げられてますから、その程度なんじゃないかと思います。日本郵政公社の最終年度の財務諸表http://www.japanpost.jp/financial/past/pdf/financial19.pdfにだって減損損失が計上されているじゃないですか。385億もの金額が。
減損注記には減損損失を認識した主な資産の中に簡易保険加入者福祉施設というのがあって、埼玉県さいたま市他全73施設らしいです。埼玉県さいたま市の施設とは噂のラフレさいたまというやつだと思われます。

減損会計は収益性の低下した固定資産の簿価を引き下げるものですが、どこまで引き下げるかというと現時点での正味売却価額と将来の使用価値のいずれか高い方です。赤字施設なので使用価値のほうが低いような気もしますが、償却費負担がそれなりにありそうですし一概には言えないところでしょう。ただ簿価が現時点での正味売却価額での評価だとしたら、民営化前の最終年度においてかんぽの宿の評価額はその簿価程度のものだったということです。

この決算は株主でもある国は当然に報告を受けてますよね?国会での報告はなかったですか?
その時点でかんぽの宿の評価額が低すぎるとクレームを付けたんでしょうか。減損し過ぎじゃないか、不動産鑑定士の評価はどうなってるんだと。あれだけの取得価額に比して評価額がその程度なのはおかしいと?


別に政治家の方々はオリックスの宮内憎しで問題を盛り上げてみせているわけではないでしょう。でも売却がそれなりの値段(と私は思うわけですが)で決まってからの横やりは一体何なのでしょう。政治路線に対する国民へのパフォーマンスですかね。過去の過大な浪費への批判は陰に隠れてしまっているようですから、総務省の役人としてはいい流れかもしれまん。


入札経緯が不透明だという指摘があります。
そのうちのいくつかに私なりの見解を。

入札の過程については「保坂展人のどこどこ日記」にまとめがありましたので、引用します。

(引用開始)

2008年4月1日~15日 譲渡候補先の応募についてホームページで告知(募集要項を配付)

2008年5月15日 入札参加表明応募を締め切り。27社が応募。
(※)27社の内訳 大手不動産会社5社 国内投資ファンド3社 ホテル運営会社5社 その他 レストラン運営等4社 海外投資ファンド10社

2008年5月中旬~6月20日 応募者(27社)について、その信用力、ホテル運営実績等の予備審査を行い、第1次提案参加者を決定(22社)。22社にはかんぽの宿等事業に関する資料を配付。

2008年8月15日 第1次提案を締め切り、7社が応募(15社は辞退)

2008年8月中旬~8月27日 7社の提案について、取得後の事業戦略、取得価格、従事する社員の取扱い等の審査を行い、3社によるデューディリジェンス実施。

2008年10月31日 第2次提案を締め切り。2社が応募(1社は辞退)

2008年11月上旬~12月9日 2社の提案について、事業の継続・発展性、譲渡対価、社員の雇用確保等の内容を慎重に審査し、オリックス不動産株式会社を最終審査通過者に決定。

2008年12月中旬~12月下旬 その後、同社と契約の詳細について交渉。

2008年12月26日 権利義務の包括承継等円滑な譲渡遂行の観点から会社分割(新設分割スキームに採用したため、総務大臣認可を条件として12月26日の取締役会決議を経て、オリックス不動産株式会社と株式譲渡契約を締結。

(引用終了)



一般競争入札ではないのが問題なのか?
日本郵政としては売却先に切り売りされて事業廃止となるような事態を望まなかったんですから、一般競争入札ではなくこういう売却方法もありでは?

では金融庁が足利銀行の受け皿選定をした時の経緯についても問題があるんでしょうか?
金融庁による受け皿選定の経緯は『足利銀行の受皿選定について』に記載されています。
ここでは、第1段階での応募資格審査にて8者のうち7者を選定し、事業計画書の提出を受けて審査により2者に絞っています。ここで2者によるデューデリを経て、特に公的負担の極小化を観点に野村グループに決定したわけです。経緯は今回の入札とそれほど変わらない印象がありますが。
金融庁は当初の第1段階から完全な競争入札を行い、各者の入札金額のみで決定すべきだったんでしょうかね。1番札を提示したところに売却するのが公的負担の極小化には最も効果があると思いますよ。でもそれ以外に重要な条件があるからこそこういう経緯になったわけじゃないのですか?
ましてや民間なら、手を挙げた会社全てに事業内容の開示を行わないことも、デューデリを行わせる会社を絞ることも、ごく通常のことじゃないのでしょうか。

日本郵政は初めに一般競争入札と題して入札を開始しており、これについては拙いとは思いますが、公平性を害していると穿った見方をするほどじゃないと思います。


400億の提示が無視されたのか?
マスコミ報道では400億もの金額を提示しながら第1次提案者から漏れた日本リライアンスなる会社が紹介されていましたが、日本リライアンスは大手不動産会社と組んでおり金融機関からのファイナンスの目処もたっていたのこと。
これについては真偽がわからないので、難しいですが、私の印象は「その話ほんとですか?」というものです。
日本リライアンスとマスコミには是非その大手不動産会社と金融機関名称を含むスキームを明らかにしてもらいたいものです。その大手不動産会社って、まだ倒産せずにいますかね?ノンリコース・ローンなりのファイナンスを供与しようとしていた金融機関は、今でもその方針に変更はないのでしょうかね?


第1次提案締め切り後の15社の辞退は異常なのか?
鳩山総務大臣もおかしいと述べているようですが、この間の不動産業界の経営状況を念頭に入れてもなおおかしいと考えているんでしょうか。
そういえばスルガコーポレーションが民事再生手続を申請したのは6月24日でしたね。立ち退き交渉に絡み反社会的勢力との関係があったと取り沙汰されたことが致命傷になった倒産でしたが、この事件は不動産会社のファイナンスに決定的な打撃を与えたと思います。7月にはゼファー、8月にはアーバン・コーポレイションも破綻していくわけです。
そんな中で日本郵政から提示されたかんぽの宿等事業に関する資料には、事業が赤字であることの説明があった。業界の資金調達状況が急速に悪化しているなかで、これは入札を辞退したくなるのが普通だと思いますよ。


過去に1万円で売却した物件が高値で転売された?
鳥取県岩美町だとか鹿児島指宿市だとかに、高値で転売された物件があるとか。なんのことかと思いきやバルクセールで業者が付けた値が1万円だったとのこと。コメントする価値もないですね。


契約直前に世田谷レクセンターが外れたのはなぜか?
今回の入札で疑問があるとしたら、この部分だけではないですかね。なぜ外されたのかは分かりませんが、この世田谷の物件に日本郵政にとって納得のいく評価が付されなかったからじゃないかと想像しています。今回のバルクセールの目玉だったようですが、この物件だけは切り離して個別譲渡先を決めた方が総合して高値で売却できると踏んだのではないでしょうか。
そうであれば日本郵政としては経済合理性のある判断をしたと思いますし、益こそあれ損はないような気がします。政治家や総務省の方々は、目玉物件を外しての売却にオリックス側に得になる点とは何だと考えているのでしょうか?私には分からないので教えて欲しいものです。



まぁそんなところでしょうか。
政治家の方々は、かんぽの宿の各施設を視察に行かれるのもいいですが、大手不動産会社にでも今回の売却価額が不当に安価なものという印象を持つかどうか聞きに回られたらいかがでしょうか。その結果をぜひとも公表していただきたいものです。

いずれにせよ、こうなったら進展を待つのみですね。「著しく不公正があったとはいえない」というような最終結論が出そうな気はします。

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