JA CPA Journal

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時価会計運用見直し?その1

2008年10月29日 | 会計監査
金融商品の時価会計運用見直し、結果尊重し監督・行政=財務・金融相

中川財務・金融相は今回のASBJの決定に対し、「金融庁としても、その結果を尊重したかたちで金融監督・行政を行っていきたい。趣旨をしっかり踏まえてやっていきたい」と歓迎する意向を示し、「専門家の努力を評価し、われわれも行政の中で生かしていきたい」と語った。


だそうです。

正直、「よく言うよ」というのが感想でしょうか。
ASBJが今回の実務対応報告を出すにあたっては、政治家から相当な圧力があったと噂されてますが。


ASBJが公表した実務対応報告は
「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」
というもの。
これに付随して公開草案に対する以下のコメントも発表しています。
『実務対応報告公開草案第28号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い(案)」に寄せられたコメント』

これに対する公認会計士協会の会長通牒は
「証券化商品等の時価の算定等に関する監査上の対応について」

先週に公表された会長声明からはいささかトーンダウンしたような気もしますが、どうなんでしょう。


世間では時価会計の凍結という言葉だけがイメージとして広まってしまっている一方で、最近の株安という状況もあって、なんだか全ての有価証券を簿価で評価できるかのような印象だったり、株安や企業業績悪化に歯止めをかけるような印象を与えてしまっているような感じがしてなりません。

先週は朝生を見ていたら、堀氏が、時価会計を凍結しないと時価の下落で損益計算書の状況がどんどん悪くなるのに、これに反対する会長声明を出す公認会計士協会の会長はけしからん、という旨の発言をしてましたが、彼の発言はあまりに一般論に過ぎる気がします。
それは
・上場株式について時価会計を凍結するという選択肢はとりえないこと。従って、対象は主に債券になること。
・時価評価した評価差額が損益計算書に計上されるのは、その有価証券が売買目的であった場合であり、一般企業が売買目的有価証券を持っているのは稀であること。
という視点への言及がなかったからです。

ですので、ちょっと考えればわかるのだと思いますが、今回の時価会計運用見直しは基本的に金融機関向けなわけです。実務対応報告へのコメントを寄せていたのが、会計士等の実務家(細野祐二氏の名前も見えますね、、)と金融機関ばかりであることからも伺えるでしょう。
そして金融機関にとってみると、売買目的有価証券に区分していれば確かに損益計算書にインパクトが生じますが、その他有価証券に区分していても自己資本が同様に毀損されるわけです。というわけで、損益計算書の状況が悪くなる云々という堀氏の話は、どうもピントがずれているんじゃないか、という思いで聞いていました。


さらに言えば、コメントを読んでみると気がつくでしょうけど、実務上大きな論点になりそうなのは変動利付国債や物価連動国債なんじゃないでしょうかね。

アーバンコーポレーション破綻 その2

2008年08月17日 | 会計監査
アーバンコーポレーションの不適切な開示については、8月16日付日経新聞でも記事になっていました。市場関係者にも波紋を広げているとのこと。

前のエントリーの際には20年3月期の監査報告書にGC注記が付されていないことしか見ていませんでしたが、アーバンの20年3月期の有価証券報告書には後発事象としてCB発行の事実が記載されていますね。
にも関わらず、CB発行決議と同日に取締役会で決議されたBNPパリバとのスワップ契約については触れられていません。

CB発行の適時開示情報にスワップ契約の情報が無かったことについては、日経の記事のように「情報開示に疑問」で済まされるかもしれませんが、20年3月期有価証券報告書で後発事象にCB発行と併せて当スワップ契約を開示しなかったことについては、有価証券報告書の虚偽記載にあたる可能性が高い気がします。

後発事象については日本公認会計士協会から『後発事象に関する監査上の取扱い』(監査・保証実務委員会報告第76号)というのが出てまして(つい最近改正されたばかりなのですが)、ここには開示後発事象の例示が載っています。スワップ契約の締結については、例示されたうちの「重要な契約の締結又は解除」に該当する可能性が高いのではないかと考えられます。もちろん開示後発事象について何を開示すべきかというのは一律に判断できるものではなく、各社の実情によって異なるものです。委員会報告にも開示後発事象の事例について「ここに掲げたものは、必ず開示が必要とされるものではなく、会社の財政状態及び経営成績に及ぼす影響の度合い又は態様に応じて開示が必要かどうかについて判断されなければならない。また、ここに掲げていないものであっても、翌事業年度以降の会社の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす後発事象については開示が必要である。」と記載されています。

しかしアーバンはCB発行については多額な資金調達として後発事象に開示したわけですし、一方でそのCB発行に絡んだスワップ契約について非開示とすることは、金融商品取引法でいうところの「記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合」に当たるのではないでしょうか。


監査をしている立場からすると、後発事象ほど恐ろしいものはないな、と今回の件で認識を新たにしました。

アーバンの会計監査人であるあずさ監査法人による監査報告書日付が6月26日であり、CB発行及びスワップ契約締結の取締役会決議が同じ6月26日でした。通常、有価証券報告書の監査は6月の上旬から中旬で現場作業が終了し、それからは監査報告書の提出を待つのみとなります。もちろんサイン済みの監査報告書を会社に提出するのは監査報告書に記載された日付であり、引き換えに経営者確認書を受領するわけですが、その日より前に開催された取締役会でどのような決議がなされたのかということについて、監査人は注意深く?見ていると思います。
しかし、監査報告書提出と同日に開催された取締役会の内容をどこまで把握できるのかといえば、これは監査報告書提出の場に居合わせたことのない私のような下の立場では分かりかねるとこですね。

アーバンとあずさ監査法人との間で、このスワップ契約について事前に情報交換が行われていたかどうかは分かりません。両者が良好な関係であれば、こういった契約について会計上問題となるような点はないかどうかについて契約前に両者で検討が行われるかもしれませんが。
ただ、監査人に無断で有価証券報告書に後発事象を書き加えるというのは考えにくいですし、CB発行については監査報告書提出前後のいずれかにおいて後発事象としての開示の是非について両者で検討が行われたはずです。
そこでもしスワップ契約の存在についても会社から話があったのだとしたら・・・。

まぁ適時開示においてスワップ契約の存在を明らかにしなかったアーバンのことですし、監査法人への情報提供もなされていなかったのかもしれません。

アーバンの問題については、今後色々と展開がありそうです。

アーバンコーポレーションがお亡くなりに

2008年08月14日 | 会計監査
新興不動産企業の破綻連鎖が止まりませんね。
建設業界もしんどいことになっているし、監査をする環境も痺れる場面が増えてきそうな予感が。

ロイターの記事を読んだけれど、ひどいもんです。
http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnTK017169220080813

非常に重くなっている同社のHPでIRを見てみると、以前に発行した転換社債型新株予約権付転換社債の発行条件について訂正IRが出ています。

こんな発行条件が付されているのを破綻のときまで開示しないような東証1部企業があるとは到底考えられません。誰がどう考えても当初IRでの発行総額300億(費用差引後の手取概算額は299.5億)の調達ができたものと判断してしまうでしょうね。実際はその300億をいったん返すだけでなく、転換後の株券を売却した代金を貰う契約になっていようとは誰が想像できるんでしょう。

引受先のBNPパリバは転換した株式をひたすら売りまくり、さらに株価が下がってスワップ契約の下限株価を割り込んでしまえば入金はストップしてしまう。
CB発行時にこうした条件が適切に開示されていれば、投資家もまともな判断ができたでしょうに。


監査法人の意見不表明方針が民事再生法申請と同時にニュースになるのは、監査制度としてはうまく言っているとはいえないと思っています。
平成20年3月期のアーバン・コーポレーションの有価証券報告書にはゴーイング・コンサーンの注記が付いてるわけでもないし、有報提出の6月末時点では、まだ新興不動産企業の資金繰り懸念が表立ってはいなかったのかもしれないですが。

連結の範囲

2008年02月26日 | 会計監査
ASBJから企業会計基準適用指針公開草案第28号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針(案)」というものが出てまして、2月25日までコメントを募集してました。

連結範囲の取扱いについては、これまで日本公認会計士協会監査委員会報告第60号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い」というものがありまして、会計監査を実施するうえで監査人はこれに基づいた判断をしていたわけですが、今回の草案は会計基準の適用指針ということで、連結財務諸表を作成する会社はこの指針に従って会計処理をしてくださいね、ということです。もちろん会計監査人としては、会社がこの適用指針に準拠した処理をしているのかどうかを監査することになります。まだ公開草案の段階ですが。果たしてどんなコメントが寄せられるんでしょうか。

この公開草案では、子会社の範囲の決定の取扱いとして以下のような場合分けで、それぞれ具体的な例示をしています。
・他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有していないが、当該他の会社等の意思決定機関を支配している場合
・他の会社等の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合
・いわゆる孫会社の場合

また連結の範囲に含めない子会社(支配が一時的、利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある)やそもそも子会社に該当しない場合について若干の補足説明のような規定があります。


『週刊 経営財務』No.2857での解説記事をみる限り、この適用指針(案)で最も重点が置かれたのは「他の会社等の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合」についての考え方を明確化するという点であると思われます。まさしくVC条項に関係する部分でして、日興の問題を受けた適用指針という側面が少なからずあるのでしょう。
まぁ日興に限らず、ベンチャーキャピタルや不動産投資等を含むいわゆる投資会社について、連結に対する考え方が個社によって様々になってしまっているような状況ですとか、またライブドアや日興の問題を受けて監査人を含め連結の範囲に関する考え方はかなり保守的に傾いてしまいましたから、現状のように保守的に全て連結するような会社の連結財務諸表が果たしてその企業の実態を的確に示しているのか?というような問題意識が、おそらく企業会計基準委員会の方々にはかなりあったのではないかと想像しています。

今回の適用指針(案)で、「他の会社等の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合」にあたるものとして以下の4つが挙げられています。
1.売却等により当該他の会社等の議決権の大部分を所有しないこととなる合理的な計画があること
2.当該他の会社等との間で、通常の取引として投融資を行っているもの以外の取引がほとんどないこと
3.当該他の会社等の事業の種類は、自己の事業の種類と明らかに異なるものであること
4.当該他の会社等とのシナジー効果も連携関係もないこと
また、なお書き以降での条件として
5.他の会社等の株式や出資を有している投資企業や金融機関は、実質的な営業活動を行っている会社等であること
6.当該投資企業や金融機関が含まれる企業集団に関する連結財務諸表にあっては、当該企業集団内の他の連結会社(親会社及びその連結子会社)においても上記2から4の事項を満たすこと
という条件も付しています。

日興におけるNPIHの問題について、今度の適用指針(案)から考えると2は微妙ですが(EB債を発行してNPIが引き受けていたことが通常の投融資にあたるかどうか、、)3や4には該当しないでしょう。また5にも該当しないと思われます。よって6から考えてダメということになりそうです。

今回示されたVC条項にかかる1から6の条件は、しごくまっとうなものであるように個人的には感じます。そもそも監査委員会報告第60号におけるVC条項というものは、2から4の条件を暗に想定していたような気がしますが(ベンチャーキャピタルってそういう事業を行う会社ですから)、SPCを被投資会社の側と一体としてみてしまうような会社があったり、それを「基準にそう書いてあるから」と認めてしまう会計監査人がいたりしたわけでして、条件をもう一度整理するという意味で今回の適用指針(案)は監査人側にとっても企業の側にとってもある程度の意義があると思っています。

ただ、もう少し個人的な意見を言えば、利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがあるため連結の範囲に含めない子会社(及び持分法を適用しない関連会社)として「他の会社等が子会社に該当しても、例えば、当該子会社がある匿名組合事業の営業者となり当該匿名組合の事業を含む子会社の損益のほとんどすべてが匿名組合員に帰属し、当該子会社及びその親会社には形式的にも実質的にも帰属せず、かつ、当該子会社との取引がほとんどない場合が該当するが、一般に、それは限定的であると考えられる。」という記述をもうちょっと具体化して欲しかったなと。
ほとんどすべてが匿名組合員に帰属するであるとか、当該子会社との取引がほとんどない場合であるとか、『ほとんど』という言葉を用いていますが、ほとんどってどの程度なんでしょう、という感じですね。この表現には引き続き惑わされそうです。