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アーバンコーポレーション破綻 その2

2008年08月17日 | 会計監査
アーバンコーポレーションの不適切な開示については、8月16日付日経新聞でも記事になっていました。市場関係者にも波紋を広げているとのこと。

前のエントリーの際には20年3月期の監査報告書にGC注記が付されていないことしか見ていませんでしたが、アーバンの20年3月期の有価証券報告書には後発事象としてCB発行の事実が記載されていますね。
にも関わらず、CB発行決議と同日に取締役会で決議されたBNPパリバとのスワップ契約については触れられていません。

CB発行の適時開示情報にスワップ契約の情報が無かったことについては、日経の記事のように「情報開示に疑問」で済まされるかもしれませんが、20年3月期有価証券報告書で後発事象にCB発行と併せて当スワップ契約を開示しなかったことについては、有価証券報告書の虚偽記載にあたる可能性が高い気がします。

後発事象については日本公認会計士協会から『後発事象に関する監査上の取扱い』(監査・保証実務委員会報告第76号)というのが出てまして(つい最近改正されたばかりなのですが)、ここには開示後発事象の例示が載っています。スワップ契約の締結については、例示されたうちの「重要な契約の締結又は解除」に該当する可能性が高いのではないかと考えられます。もちろん開示後発事象について何を開示すべきかというのは一律に判断できるものではなく、各社の実情によって異なるものです。委員会報告にも開示後発事象の事例について「ここに掲げたものは、必ず開示が必要とされるものではなく、会社の財政状態及び経営成績に及ぼす影響の度合い又は態様に応じて開示が必要かどうかについて判断されなければならない。また、ここに掲げていないものであっても、翌事業年度以降の会社の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす後発事象については開示が必要である。」と記載されています。

しかしアーバンはCB発行については多額な資金調達として後発事象に開示したわけですし、一方でそのCB発行に絡んだスワップ契約について非開示とすることは、金融商品取引法でいうところの「記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合」に当たるのではないでしょうか。


監査をしている立場からすると、後発事象ほど恐ろしいものはないな、と今回の件で認識を新たにしました。

アーバンの会計監査人であるあずさ監査法人による監査報告書日付が6月26日であり、CB発行及びスワップ契約締結の取締役会決議が同じ6月26日でした。通常、有価証券報告書の監査は6月の上旬から中旬で現場作業が終了し、それからは監査報告書の提出を待つのみとなります。もちろんサイン済みの監査報告書を会社に提出するのは監査報告書に記載された日付であり、引き換えに経営者確認書を受領するわけですが、その日より前に開催された取締役会でどのような決議がなされたのかということについて、監査人は注意深く?見ていると思います。
しかし、監査報告書提出と同日に開催された取締役会の内容をどこまで把握できるのかといえば、これは監査報告書提出の場に居合わせたことのない私のような下の立場では分かりかねるとこですね。

アーバンとあずさ監査法人との間で、このスワップ契約について事前に情報交換が行われていたかどうかは分かりません。両者が良好な関係であれば、こういった契約について会計上問題となるような点はないかどうかについて契約前に両者で検討が行われるかもしれませんが。
ただ、監査人に無断で有価証券報告書に後発事象を書き加えるというのは考えにくいですし、CB発行については監査報告書提出前後のいずれかにおいて後発事象としての開示の是非について両者で検討が行われたはずです。
そこでもしスワップ契約の存在についても会社から話があったのだとしたら・・・。

まぁ適時開示においてスワップ契約の存在を明らかにしなかったアーバンのことですし、監査法人への情報提供もなされていなかったのかもしれません。

アーバンの問題については、今後色々と展開がありそうです。

アーバンコーポレーションがお亡くなりに

2008年08月14日 | 会計監査
新興不動産企業の破綻連鎖が止まりませんね。
建設業界もしんどいことになっているし、監査をする環境も痺れる場面が増えてきそうな予感が。

ロイターの記事を読んだけれど、ひどいもんです。
http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnTK017169220080813

非常に重くなっている同社のHPでIRを見てみると、以前に発行した転換社債型新株予約権付転換社債の発行条件について訂正IRが出ています。

こんな発行条件が付されているのを破綻のときまで開示しないような東証1部企業があるとは到底考えられません。誰がどう考えても当初IRでの発行総額300億(費用差引後の手取概算額は299.5億)の調達ができたものと判断してしまうでしょうね。実際はその300億をいったん返すだけでなく、転換後の株券を売却した代金を貰う契約になっていようとは誰が想像できるんでしょう。

引受先のBNPパリバは転換した株式をひたすら売りまくり、さらに株価が下がってスワップ契約の下限株価を割り込んでしまえば入金はストップしてしまう。
CB発行時にこうした条件が適切に開示されていれば、投資家もまともな判断ができたでしょうに。


監査法人の意見不表明方針が民事再生法申請と同時にニュースになるのは、監査制度としてはうまく言っているとはいえないと思っています。
平成20年3月期のアーバン・コーポレーションの有価証券報告書にはゴーイング・コンサーンの注記が付いてるわけでもないし、有報提出の6月末時点では、まだ新興不動産企業の資金繰り懸念が表立ってはいなかったのかもしれないですが。