インド映画で夜ふかし

シンガポールでインド映画にはまったわたしが日本で感想をほそぼそとつづるブログ

タミル映画 : Neram(2013)

2015-04-02 | タミル映画


「時」

監督・脚本・編集 Alphonse Putharen
音楽 Rajesh Murugesan
撮影 Anand C. Chandran
出演 Nivin, Nazriya Nazim, Bobby Simha
公開 2013年5月10日 マラヤーラム(109分)/ 2013年5月17日 タミル(117分)
※バイリンガル作品~Nivin, Nazriya, Simhaのみ両方に出演

さてこれも、ショートフィルム出身監督の作品という事で観てみた。

◆あらすじ

リストラされて失業したIT技術者のヴェットリ(ニヴィン)は、間近に迫った妹の結婚の資金捻出のため、闇金融業者のヴァッティ・ラージャー(ボビー・シンハー)を訪ねていた。返済滞納を詫びる債務者を罵倒し、容赦なく金品を巻き上げるラージャーを目にして怯えつつも、結局彼は利息を含めて4ヶ月で返済するという条件でカネを借りる。

無職のヴェットリは3ヶ月目にはもう借金返済が滞り、ラージャーからの督促の電話に恐怖する日々。そんな中、彼は恋人のヴェーニ(ナスリヤー・ナシーム)の父親サラワナ(タンビ・ラーマイヤー)から婚約解消を言い渡されるが、別れを受け入れられないヴェーニが家出を決意。ヴェットリはその前に親友のジョンが立て替えてくれた返済金をラージャーに持参しようとするが、その矢先スリにそのカネを奪われてしまう。

そんな事情になど耳を貸さずに激怒するラージャーから「5時までにカネを持ってこい」とヴェットリが脅迫されていたその頃、ヴェーニの置き手紙を見たサラワナが警察に駆け込み、娘を誘拐されたと警察官カッタ(ジョン・ヴィジャイ)に訴えていた。さらにヴェットリは妹の夫から「話がある」と呼び出されー。

◆まとめ

突如 '人生最悪の時' を迎えた青年の、とある1日の出来事を描いたコメディ・スリラー。シンプルなストーリーだけど、主人公・ヴェットリがにっちもさっちも行かなくなり、頭を抱えてしまうそれ以降の展開のテンポの良さと、「どうなるの?」というドキドキ感に最後まで目が離せない。

さらにメイン・サブを問わず、あらゆる登場人物の人間関係とその行動から生まれる一見何でもない・何の関係もないようなエピソードの全てが、ラストの30分で一気につながっていくその爽快感がすごい。わたしはそのくだりで何度も「マジか!」「そうくるかっ!」と思わず声が出てしまった(笑)さらにその流れのまま迎えるラストまで、その緻密な作りに呆然といたしました。

観終わった後は、この物語がわずか1日の出来事を描いたものとは思えずビックリする。カラーとモノクロが反転したり、早回し& スローモーションが繰り返されるリズミカルな映像がまた斬新でカッコよくて、いやあこれは楽しかったです!ダンスはないけど(ソングシーンはあり)'NKPK'の時のように、物語に夢中になっていてその事に後で気がついた。

◆アルフォーンス・プタラン監督

アルフォーンス監督(ケーララ生まれ)もショートフィルム出身で、無名時代にヴィジャイ・セードゥパディやボビー・シンハーと組んでいたそうだ。この作品のオリジナルのショートフィルムにはVJSも出演しているらしい。

何かのインタビューで読んだけど、彼のこの脚本も、世に出るまで50人ものプロデューサーにリジェクトされたとか。冒頭、VJSの他、同じショートフィルム出身のカールティク・スッバラージ監督やナラン・クマラサーミ監督にも謝意が捧げられていた。ちなみに作品とは全く関係ないけど、アルフォーンス監督の役者顔負けの美男子ぶりにわたしは仰天した



とにかくわたしはこの 'Neram' の映像のカッコよさ・スタイリッシュさにすっかりハマってしまった。公開が近いとされる監督の次回作・マラヤーラムの'Premam'(主演はニヴィン再び)もぜひ観てみたい。

◆ニヴィン・ポウリ、ナスリヤー・ナシーム

タミルに極端に偏っているわたしはニヴィン初鑑賞なんだが、借金抱えてるのに彼女と結婚しようとしてたり大金をまんまとすられたり、ちょっとのんきな子なのか?(汗)となる主人公のヴェットリ役に、ハンサム?と思いきや、微妙な下がり眉に素朴さのあるこの人は合っていると思った。と言いつつ、クライマックスで敵に向かう表情の男前さにはちょっとドキッとした。



ナスリヤーちゃんが可愛すぎて、わたしはキューンとなりました(泣)わりと落ちついた感じの役柄・雰囲気に思えたけど、そんな彼女の優しく物静かな口調もとても魅力的。この2人はアルフォーンス監督が担当したマラヤーラムの大ヒット曲のミュージックビデオでも共演しているそうだ(Wiki)。

◆ボビー・シンハー

冒頭いきなり、ジャラジャラの金ネックレス姿でランチをむしゃむしゃ頬張りながら、鋭い目つきでヴェットリを問いただす彼に目がクギヅケだ。そのいかつい風貌にその目つき、彼のヤクザっぷりとそのものすごい存在感にグイグイ引き込まれた。(でもスマホの使い方知らないとか、お茶目な面もあり)

ちなみにわたしは彼がヴェットリの名前を聞き返す所で吹き出してしまった。洋画ならWhat?とかSorry?とかになりそうな所を「え?(怒)」(そんなタミル語が大好きだ)



改めて彼のキャリアを見ると、バーラージ・モーハン監督の 'Kadhalil Sodhappuvadhu Yeppadi'(未鑑賞)やK.スッバラージ監督の'Pizza'の小さな役で注目され、さらに2013年N.クマラサーミ監督の'Soodhu Kavvum' & この'Neram'の助演でブレイク→それらは全て、無名時代から一緒に仕事してきたショートフィルム出身監督の長編デビュー作ということに。そして昨年の 'Jigarthanda' で大ブレイク・・

・・のみならず、先週彼のインド国家映画賞・最優秀助演男優賞の受賞が決まったそうで!Facebookの、彼の快挙をたたえるアルフォーンス監督やK.スッバラージ監督のコメントを見てたらなんか泣けてきた(涙)いやあこれはめでたい。ショートフィルム組の皆さんの快進撃は止まりませんな!

◆助演陣

ヴェーニのパパのタンビ・ラーマイヤーは、初出シーンの真顔に中腰& 手刀のあの姿にいきなり大爆笑だし、警察官ジョン・ヴィジャイのネッチリした濃ゆいお芝居もたまらない。さらに、後半登場のナーサルの貫禄と存在感、その渋さお茶目さも最高だ。チャーリーとクレーン・マノーハーの、ラスト近くのあの名シーン?には笑いすぎて咳が出た(笑)

'ライトハウス'(ノッポだからか?)ラメーシュ・ティラクの仲間・カラン役のアーナンド・チャンドラバーブは、'NKPK' でチョイ役の美容師さん役が光ってたあの人だ(今回やっとフルネームがわかった)。わたしの'ひそかに応援リスト'入りしているこの人は、アルフォーンス監督のショートフィルムにVJS &ボビーと出ているのを見たことがあって、きっと彼も昔からの仲間なのでしょうね。

◆'Pistah The Run Anthem'

南インドなリズム全開のこの曲の、キャスト・スタッフ総出演のオフィシャルビデオ(作品エンドロールの別編集版)が最高だ。

ぴすた!すまーきらー♪そまーりじゃまーきらーや♪ だまれーーHEY!だまだまーだまーだまーれー ♪

・・何ですかこのものすごい中毒性は

皆さまのノリの良さ(全員はじけまくりだ)編集とキャプションのセンスの良さ(Villain のくだりには爆笑した)そしてなぜか無性に走りたくなるこの躍動感(笑)このビデオもアルフォーンス監督自身が手がけたそうで(ご本人も出ていてはじけてる・笑)タミルでも大ヒットしたとか。

→YouTubeリンク 'Pistah The Run Anthem' Official Video Song

サビの部分は無意味な言葉の羅列だそうだけど、キャプションに合わせて口ずさむとこの語感の爽快感というかストレス発散できる感にビックリする。ラストでその無意味なサビをひと通りつぶやいてみたニヴィンが→ :( となってるのも笑える。

コンポーザーはラージェーシュ・ムルゲーサン~この人も監督のショートフィルム時代からの仲間で、劇中の差し迫った場面での緊迫感はそのソリッドでカッコいい音楽があってこそ、と思えた。

◆おまけ

これまた作品内容とは直接関係はないのだけど、ジョンの勤務先の映画史の先生が「映画史を語る上で外せない作品」としてホワイトボードに挙げていたのが

*第七の封印(イングマール・ベルイマン、スウェーデン)
*市民ケーン(オーソンウェルズ、米)
*七人の侍(黒澤明、日本)
*自転車泥棒(ヴィットリオ・デ・シーカ、伊)
*ゴッドファーザー(F.F.コッポラ、米)
*大地のうた(サタジット・レイ、印)

で、それをひとつひとつ読みあげる先生がボード上で「Akira」(黒澤明)だけをマーカーで四角く囲み、しかもものすご~く感情を込めてその名を呼んでいたのが印象に残った。タイトルクレジットでも、タランティーノ監督への敬意(というか共感)が示されていたり、アルフォーンス監督は本当に映画が大・大好きな人なんだろうな、と思った。

しかし、気に入った作品の感想はつい長くなってしまいますな(汗)

★かなりおすすめ★
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