インド映画で夜ふかし

シンガポールでインド映画にはまったわたしが日本で感想をほそぼそとつづるブログ

タミル映画 : Aaranya Kaandam (2010)

2021-03-20 | タミル映画




監督: Tangarajan Kumaraja
音楽: Yuvan Shankar Raja
出演: Jackie Shroff, Ravi Krishna, Sampath Raj, Yasmin Ponnappa, Guru Somasundaram
公開: 2010年10月30日/南アジア国際映画祭初上映(タミル語/116分)

グル・ソーマスンダラムの映画デビュー作ということで見てみた。ジャッキー・シュロフにサンパット・ラージ、こんな渋いキャスティングの作品を見逃していたとは(泣)

◆あらすじ

北チェンナイのドン、シンガペルマール(ジャッキー・シュロフ)は、若い女を囲いながらも自身の体力と影響力の衰えを感じていた。ある日、運び屋からの情報を元にシンガペルマールにコカインの取引を提案し却下された彼の右腕パスパティ(サンパット・ラージ)は、彼を口汚なく罵る。そんなパスパティに脅威を感じたシンガペルマールは、手下に彼の命を奪うようひそかに命じる。

闘鶏で稼いだ日銭でスラムに暮らす飲んだくれのカーライヤン(グル・ソーマスンダラム)は、賭けに負けたシンガペルマールを侮辱し鶏を殺されてしまう。生活の糧を失い、幼いながらに生活苦を思案したカーライヤンの息子コードゥカプリは、コカインの運び屋である隣人の急死に気づき、彼の元にあったコカインと取引相手の連絡先が書かれたメモを盗む。そこでカーライヤンは、メモに書かれた電話番号に連絡し、コカインを引き渡す代わりに手間賃を取ることを考える。

一方、シンガペルマールに囲われる若い女スッブ(ヤスミン・ポンナッパ)の世話役を頼まれた下っ端のサッパイ(ラヴィ・クリシュナ)は、なりゆきでスッブと肉体関係を持つことになり、恋仲となった2人は今の生活からの逃避行を考え始めていた。

◆感想

ギャングのボス、ボスの若頭、ボスの取引関係者の隣人とその幼い息子。さらにボスの愛人、下っ端、敵のギャング。麻薬とカネをめぐり、それぞれの思惑がからみ合いもつれ合う人間模様、それもわずか1日の出来事を、ダークなテイストで描いた作品。

ギャングに麻薬に勢力争いという、作り方によってはド派手で壮大な作品にもできるテーマが、あくまで日常の、狭い人間関係の小さな世界の出来事のように描かれている。日光の入らない暗い部屋での会話劇、歯磨きや着替えといった小さなシーンの描写が生み出す妙な生々しさ、ピンクの空や真っ赤な部屋といった独特の配色のカット、汚い言葉での罵り合いの応酬(ピーピー音の連続だ)など、見ていて何ともザラリした肌感覚。

でも、ダークと言ってもドロッとした重さはなく、思わずホロリとさせられるシーンもある。クライマックスの展開は「えっとタミル映画でこういうのって見たことあったっけ」という意外なもの(とくにヒロインの描かれ方)で、これには度肝を抜かれた。「ソングシーン・ダンスシーンなし」は今でこそ珍しくないけど、それに加えてこのダークな味わいと独特の空気感、もし本作をリアルタイムで見られていたら、斬新さに相当な衝撃を受けたかも。

ちなみに私は、パスパティが敵から逃走しつつ、状況の打開策を思案する心の声がひたすら続くシーンをいたく気に入っている。この映像、反転にスローに早回しに...とあらゆるテクニックが駆使されたカメラワークがめちゃくちゃカッコよく(カメラマンはP・S・ヴィノード)、しかも全力疾走しながら「俺は今、1人で走ってるんじゃない/俺に寄り添いながら死に神が一緒に走ってる」って、どんだけクールやねん。

ちなみに、本作でデビューした監督がこの8年後に公開した2作目が、あの「Super Deluxe」だとあとで気づいてビックリした次第。

◆ジャッキー・シュロフ

年老いたギャングのボスの、ギャングとしてのパワーも体力も衰えてきたことへの暗い苛立ちがジワリジワリとにじみ出る、醜くて嫌らしくて、そして凄み満載のジャッキー・シュロフの演技に鳥肌が立つ。とくに「キーー」と歯をむき出すあの威嚇の不気味さよ。

そしてただ凄みがあるだけじゃなく、老残の身の哀れさを、そこはかとなく感じさせるその芝居のさじ加減には唸るばかり。ちなみに本作は彼のタミル初登場作品とのこと。

◆サンパット・ラージ

ニヒルな表情と、硬派さの中に細やかさのあるお芝居が好きで、サンパット・ラージは私の「ひそかに応援リスト」入りしているんだが、本作ではクールに抑えた演技の中に、そのニヒルさ・渋さ・男くささが全開で惚れぼれする。

私は「強い男がこらえきれずに感情を高ぶらせ涙するシーン」が好きだけど、本作で彼が、拉致された恋人が助からないと観念して嘆くシーンにこれまた惚れぼれ。

ラストシーンでニヤリと笑いながらのたまうあのセリフと表情が、これまたたまらなく渋くてかっこよくて、惚れぼれするあまりに気が遠くなった。

IMWさんの過去作品「カーラ〜黒い砦の戦い」のハリ・ダーダーの手下ヴィシュヌ・バーイ役、「ジッラ 修羅のシマ」のケーサヴァン役で、見覚えがおありの方もいらっしゃるかも。ぜひ彼にもご注目。

◆グル・ソーマスンダラム

「ジガルタンダ」でのムットゥ先生役のインパクトが強烈だった彼(ここ数回、こればっかり書いてる)。著名な劇団クーットゥ・P・パッタライ(VJSが、時期は重ならないけど経理兼俳優で在籍)で活躍していたという彼が、映画デビューしその演技を絶賛されたのが本作とのこと。

噂に違わぬ怪演にのけぞりました。闘鶏でチビチビ稼ぐ貧乏暮らしの哀れな酔っぱらい、でも信心深くてわが子を深く愛していて...という独特なキャラクターを演じているんだけど、「ジガルタンダ」での彼の「役者に必要なのは全身での表現」のセリフをまさに地でいく全力の演技。話し方、歩き方からこまかい仕草にまで徹底されたその芝居に、目が釘づけになる。この役に、劇団員だった彼をキャスティングした監督の慧眼に恐れ入った次第。

◆音楽

音楽はユワン・シャンカルラージャーなんだが、前述のようにソングシーンはないため、バックグラウンドスコアがメイン。ラテンな香りのするギターサウンドがあまりに映像に馴染んでいて、サラリと聞き流してしまい、あとで聞き直してそのおしゃれさに改めてビックリした。私はサントーシュ・ナーラーヤナンを新しい新しいと騒いでるけど、元祖・新感覚コンポーザーはこの人だと改めて。

◆おまけ



本作のポスター、こちらのバージョンの絵柄について。大友克洋「AKIRA」原作コミックで、金田の目の前で山形が鉄雄に頭を割られたあの有名なカットに、左右反転しつつも瓜二つだということに、大友ファンの私は気づいてしまったぞ...監督もファンなのか?とても気になる。

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