インド映画で夜ふかし

シンガポールでインド映画にはまったわたしが日本で感想をほそぼそとつづるブログ

タミル映画 : Uttama Villain (2015)

2015-05-16 | タミル映画


監督 Ramesh Aravind
制作 N. Lingusamy, Kamal Haasan
脚本 Kamal Haasan
音楽 M. Ghibran
撮影 Shamdat
出演 Kamal Haasan, Jayaram, K. Viswanath, Urvashi, K. Balachander, Andrea Jeremiah, Pooja Kumar, Parvathi Menon, Parvathy Nair, Nassar, M.S.Bhaskal
公開 2015年5月2日(173分)

この作品をスクリーンで見られた感激で、冷静な感想が書けそうになく(汗)アップがすっかり遅くなってしまった。

大阪上映をセッティングして下さったCelluloid Japanさま、そしてご協力された皆さまに心より感謝申し上げます!

◆プロット

映画界の大スター、マノーランジャン(カマル)。彼の義父は有名プロデューサーのプールナチャンドラ・ラーウ(K.ヴィシュワナート)であり、妻のヴァララクシュミ(ウールヴァシ)との間に年頃の息子がいる。しかし実は華やかな生活の陰でアルコールに溺れ、また主治医のアルパナー(アーンドゥリヤー・ジェレマイヤー)とは愛人関係にあるという乱れた生活を送っている。

ある日、彼の元にジェーカブ(ジェヤラーム)と名乗る見知らぬ男が現れる。男は実はマノーランジャンのかつての恋人・ヤーミニの夫で、娘のマノーマニ(パールヴァティ・メーナン)の実の父親はマノーランジャンである事、ヤーミニは25年前、ヴァララクシュミ親子から彼と別れるよう脅迫された事、そして彼らが用意した手切れ金を受け取らずに去ったという事実を告げる。

亡くなったヤーミニのため、一度マノーマニに会ってやって欲しいと願うジェーカブに、涙のにじむ目で頷くマノーランジャン。そんな中、彼は義父の制作する映画への出演を辞退して、自分を育ててくれた恩師であり、しかし義父と対立関係にあるために疎遠になっていた映画監督マールッガダリシ(K.バーラチャンダル)の元を訪ねる。

監督は「自分を使って新たな作品を撮って欲しい」と申し出るマノーランジャンを剣もほろろに追い返そうとするが、彼は監督に、誰にも伝えていないある事実を告白する。・・・私はどうしてもあなたに撮ってもらいたいのだ。それも愉快なコメディ作品を。その理由はー

◆まとめ

大スター・マノーランジャンの人生の総決算の物語と、彼が主演する映画=8世紀の俳優ウッタマンの物語が交互に展開していくドラマティックな作品。

「カマルが演じる '人生最後の作品を撮影する俳優' が演じる '死なない主人公'~それを撮影する'俳優の恩師' を演じるカマルの恩師・故K. バーラチャンダル監督の'人生最後の作品'」という状況に、私は映画と現実の境目が分からなくなるような、不思議な気分になり

さらに偉大なスター・マノーランジャンが聖人君子ではなく、人生の諸々の場面でミスを犯したり悩んだりもしてきたという姿や、彼の「俳優である前にひとりの人間なんだ」というセリフが、カマル自身の姿や心の声のようにも思えて



そのため、(カマルのあまりに自然な演技もあって)徐々に彼が本当に最後の作品を命がけで撮影しているような錯覚に陥り、劇的なクライマックスに感情移入しすぎてボロボロの号泣。私のアイメイクは舞台メイクを落とすマノーランジャンのごとく流れ落ちていた(泣)

(今思えば、何度も繰り返される「ウッタマンの物語に引き込まれる→現実の世界に引き戻されハッと我に返る」というパターンに脳を刺激され、感情の制御が利きにくくなっていた気もする)

シリアスなシーン・家族愛や師弟愛に涙させられる感動的なシーンと、思わず吹き出したり大爆笑のコミカルなシーンが次々と交互に現れる演出も、喜びも悲しみもある人生の総仕上げという感じがして切なかった。・・と、時間をおいてもやっぱりエモーショナルな感想になってしまう、心揺さぶられる作品でした。

◆カマルハーサン

観客を作品世界にグイグイと引き込む 'アーティスト・カマルハーサン' を存分に堪能。だけど、古典劇を演じる俳優~を演じる俳優~を演じるという、3段重ねのお芝居をこなすカマルの凄さを表現する言葉が思い浮かばない(泣)

ウッタマンのパートでは、表情からちょっとした仕草・瞬きの仕方にまでキャラが徹底されており、その愉快なお芝居、結った髪がピョコンと跳ね上がる癒し系キャラの可愛らしさ・おかしさに、何度爆笑させられたことか(私のお気に入りは川下りの独り言のシーン)。

そして、現代パートでマノーランジャンが 'Uttama Villain' の撮影に取り組む姿は淡々としていて、大げさな演技も外観的な変化もほとんど作られていないのに、それが鬼気迫る姿に見えてしまうのは何故なんですかカマルサー(泣)



そして古典舞踊のシーンの、手足の指の先の先まで神経が行き届いたカマルの動きに見惚れた。ラストの劇中劇(厳密には劇中劇中劇だ)のシーンなど、絢爛豪華なコスチュームとメイク、カマルの低音の歌声とM.ジブランの荘厳な音楽、そのド迫力に気が遠くなりそうだった。

もう、カマルについて何やかやと語るのはおこがましい気がしてきて、ただただ、カマルハーサンを知らない人生を送らずに済んだ自分はラッキーだったなと改めて思いました。

◆K.バーラチャンダル監督

マールッガダリシ監督の撮影風景や、彼が愛弟子を慈しむ様子に実際のK.バーラチャンダル監督とカマルの姿を重ね、在りし日の巨匠がスクリーンの中でいきいきと輝いておられる姿に涙された方も多い事と思います。

かくいう私も、マールッガダリシ監督が自分とマノーランジャンの(=カマルとKBサーの実際の)若い頃のポートレートを愛おしそうに撫でるあのシーンで涙腺崩壊。そして帰宅後ネットでカマルのインタビューを見つけ、また涙する事に。



実は監督は「制作中に万が一自分の命が尽きた場合には、どう進めるのか」とカマルとチームに何度も確認した上でようやく出演を承諾し、出演シーン撮影完了後はチームを急かし、急いでダビング作業を終えたのだそうだ。

本当は、劇中で愛弟子の '最後の作品' を撮影していたKBサーご自身が、愛弟子カマルが作るご自分の '最後の作品' に、命がけで挑んでおられたのですね・・・

「私など年寄りの中では若僧だ、お前は若僧の中の年寄りだがな」という粋なセリフが素敵でした。改めてご冥福をお祈りします。

◆助演の皆さま

劇中劇に「王様ムッターラサン」役で出ずっぱりのナーサルの、舞台風の大ぎょうなお芝居・喜劇役者ぶりのその貫禄は、ウッタマンに勝るとも劣らないインパクト。洋服姿の普通のナーサルも、最初のほうとラストシーンに少しだけ。

誠実さあふれるジェヤラームのお芝居には心を打たれたし、MSバースカルは、とくにチョックが手紙の件を告白するシーンが秀逸で、そのお芝居に私はまた号泣させられた。

女性陣は、'Vishwaroopam'では小粒で地味なイメージだったプージャー・クマールの、気合いの入ったお芝居が意外でビックリ。アーンドゥリヤー・ジェレマイヤーは、知的さ冷静さのその背後に秘められた思い、が意外にもそれほど伝わってはこなくて、その事にもビックリ。ウールヴァシさんの、シリアスな場面でクスッと笑わせてくれるコミカルさ加減は絶妙でした。

それにしてもK.バーラチャンダル監督にせよ、K.ヴィシュワナート監督にせよ、実際のお若い頃のお写真を使う演出には本当に泣かされた。

◆おまけ

カマルによると「いくつかの案の中から 'この作品を撮るべきだ' と勧めてくれたのはラメーシュ・アラヴィンドで、私はこの作品なら、私と同じ 'K.バーラチャンダル学校' の生徒であり友人である彼が監督にふさわしいと思った」との事。

3月1日に行われたオーディオローンチでは、カマルがKBサーからもらった手紙を朗読し、その感動的なシーンはイベントのハイライトになったそうだ。

私がカマルを見い出したのではない。私は彼に、彼が彼自身を見い出す場所と機会を与えただけであり、そのプロセスにおいて私はむしろ自分自身を見い出す機会に恵まれたのである。そう、彼は '私のカマル' ではあるけれど、私のものではない、映画の世界のものなのだ

ーKailasam Balachander(1930 - 2014)


◆上映会

久々に劇場の大画面でタミル映画を見たけれど、やっぱりそこから伝わってくる俳優さんたちのお芝居の凄さといったらDVD鑑賞とは比べものにならないな、と改めて実感。この上映会は本当に有難い機会でした。

冒頭、最初にカマルサーの表情がジャーンと大写しになった所で、南インドなルックスのお客さんが「ぴぃいいーー!」と指笛を鳴らしていて、そうそうコレよコレ!って嬉しくなってしまった(笑)



★非常におすすめ★
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1 コメント

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はじめまして (malt)
2015-12-14 12:54:38
はじめまして、maltと申します。

年明けにシンガポールへ旅行する予定なので、色々情報収集していたらこちらのプログへたどり着きました、、、

Tamilalagiさんのブログはまさに、知りたかった事だらけで、夢中で読んでしまいました。

って普通の情報収集ではないですよねσ(^_^;)

はい。白状します『ダヌシュ』を検索したらこちらへ導かれました(笑)

と、いうのも私は普段は基本的にボリ映画ばかり見ているのですが、こないだ行った新丸子の『マドラスミールス』で流れていたタミル映画のダンスシーン(歌もダンスも映像も全てキレイ!)がスゴく良くて、せっかくシンガポールに行くのだから、タミル映画のDVD買いたいなぁと思い、どれがオススメか知りたい一心で、とりあえずタミルで知ってるラジ二様以外の人『ダヌシュ』で調べてみた次第です。

いや~いろいろありますね!面白そうなのが。
でも英語の字幕がないとなると私の場合は『念力鑑賞』決定ですが、、、(英語も怪しいのでどちらにしても念力鑑賞ですがσ(^_^;))

念力でも【velaiyilla pattathari】【uttama villain】はTamilalagiさんのブログを読んで購入を決意しました。

ところでシンガポールの北インド料理のレストランでヒンディーは通じるのでしょうか?

リトルインディアを徘徊する時用に『旅の指さし会話帳 タミル語』は用意したのですが、、、一応、ヒンディーを学習中なので、使えるところがあったら使ってみたいなぁとおもっているのですが、誰に聞いても???なので、もし、ご存知でしたら教えて下さい。

長々と失礼いたしました。

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