「俺も極道だ」
(邦題「俺だって極道さ」)
監督 Vignesh Shivan
制作 Dhanush
音楽 Anirudh Ravichander
撮影 George C. Williams
出演 Vijay Sethupathi, Nayanthara, Parthiban, Raadhika Sarathkumar, RJ Balaji
公開 2015年10月21日(タミル語・140分)
監督 Vignesh Shivan
制作 Dhanush
音楽 Anirudh Ravichander
撮影 George C. Williams
出演 Vijay Sethupathi, Nayanthara, Parthiban, Raadhika Sarathkumar, RJ Balaji
公開 2015年10月21日(タミル語・140分)
タミルニュースを追う記事も、レビュー記事も、全然アップできないまま秋を迎えてしまいましたが(泣)IMW2021パート2で本作が上映されるとのこと。個人的に色々と思い出深い作品なので、あれこれ書いてみました。
◆ストーリー(インターミッション辺りまで)
ポンディシェリ署の婦人警官ミーナークマリ(ラーディカー・サラトクマール)の息子・パーンディ(スーリヤ・ヴィジャイ・セードゥパティ)は、署で出会った極道ラージャー(ラージェンドラン)から極道と警官の争いの逸話を聞き「極道になりたい」と憧れを抱く。その後成長したパーンディ(ヴィジャイ・セードゥパティ)は母の希望に従い警官の採用試験に臨むものの、夢はあくまで極道になること。親友のドーシ(RJ・バーラージ)と共に「極道ごっこ」をしながら、小遣いを稼いでいた。
そんなある日、ポンディシェリ署に母親を訪ねたパーンディは、そこに居合わせたカーダンバリ(ナヤンターラー)という美しい娘にひと目惚れし、彼女を家まで送るパトカーに自分も無理やり乗り込んで気を引こうとする。だが彼女はパーンディと目を合わせず、話そうともしない。
極道志望のお気楽な青年が恋したのは、親のかたきへの復讐を誓う、聴覚障がいを持つ孤独な娘。彼女の願いを叶えキスを許してもらうため、彼は敵に立ち向かうべく奔走する...と書いてしまうととてもシンプルだが、これが実は何とも楽しくてオシャレな復讐コメディ
物語の軸となるヒロインの敵討ちの内容そのものにさほど意外性はないが、自然な流れの中で、恋も復讐もコミカルなシーンも非常にバランスよくテンポよく展開。軽やかな笑いに、役者さんたちの「力が入りすぎる一歩手前で引いた」というような芝居のさじ加減、アニルドのドラマティックな音楽、光の撮り方が上手すぎるGCウィリアムズの撮影技術など、すべてのエッセンスがうまく溶けあって、見ていて心地よい。
ちなみに同じくIMW2021で公開されている「マスター 先生が来る!」は、「マッカル・セルヴァン」の二つ名を持つタミルの大スターとなったヴィジャイ・セードゥパティが、あの「タラパティ」ヴィジャイの向こうを張る敵役として出演した大作、かつ今年2021年に公開されたピカピカの新作。
◆ストーリー(インターミッション辺りまで)
ポンディシェリ署の婦人警官ミーナークマリ(ラーディカー・サラトクマール)の息子・パーンディ(スーリヤ・ヴィジャイ・セードゥパティ)は、署で出会った極道ラージャー(ラージェンドラン)から極道と警官の争いの逸話を聞き「極道になりたい」と憧れを抱く。その後成長したパーンディ(ヴィジャイ・セードゥパティ)は母の希望に従い警官の採用試験に臨むものの、夢はあくまで極道になること。親友のドーシ(RJ・バーラージ)と共に「極道ごっこ」をしながら、小遣いを稼いでいた。
そんなある日、ポンディシェリ署に母親を訪ねたパーンディは、そこに居合わせたカーダンバリ(ナヤンターラー)という美しい娘にひと目惚れし、彼女を家まで送るパトカーに自分も無理やり乗り込んで気を引こうとする。だが彼女はパーンディと目を合わせず、話そうともしない。
パトカーを降りたカーダンバリを追いかけたパーンディは、彼女から「携帯電話を貸してほしい」と頼まれる。実はカーダンバリには聴覚障がいがあり、そして友人に会いに行ったまま戻らない父親が心配なのだという。ところが2人が話している所に夜警中のミーナークマリが通りかかり、問い詰められて慌てたパーンディは、カーダンバリの壊れた携帯を持ったまま帰途についてしまう。
翌日その事に気づいたパーンディはカーダンバリを捜し歩き、ほどなく彼女を見つけるが、彼女とのつながりを断ちたくないパーンディはあれこれとはぐらかして携帯を返そうとしない。そこでカーダンバリは、父親への電話を急ぐ理由を彼に告げる。警察官であり定年を目前にした父親は、因縁ある敵を射殺するために出かけていったのだ、と…。
行方不明の父親を心配し、敵を倒す力添えを頼める極道を紹介してほしいと訴えるカーダンバリに、パーンディは「俺こそは極道だ」と大見得を切り、彼女に自分が極道であることを証明しようと奮起するが、そんな中ミーナークマリから、カーダンバリの父親が遺体となって発見されたことを知らされる。カーダンバリの涙を見たくない、笑っていてほしいと考えた彼はその事実を隠して彼女と接していたが、ミーナクマリが彼女を署に呼び出して真実を告げてしまう。
嘆き悲しむカーダンバリに自分の思いを伝え、何とか支えようとし、その勢いで彼女にキスしようとしたパーンディは、彼女から「キスしたいなら、父親の仇を殺すのを手伝って」と言い渡される。そこでパーンディは、ドーシを始めとする仲間たちと、カーダンバリの仇敵である極道キッリ(パールティバン)を倒す計画を立て始める。
◆まとめ
極道志望のお気楽な青年が恋したのは、親のかたきへの復讐を誓う、聴覚障がいを持つ孤独な娘。彼女の願いを叶えキスを許してもらうため、彼は敵に立ち向かうべく奔走する...と書いてしまうととてもシンプルだが、これが実は何とも楽しくてオシャレな復讐コメディ
物語の軸となるヒロインの敵討ちの内容そのものにさほど意外性はないが、自然な流れの中で、恋も復讐もコミカルなシーンも非常にバランスよくテンポよく展開。軽やかな笑いに、役者さんたちの「力が入りすぎる一歩手前で引いた」というような芝居のさじ加減、アニルドのドラマティックな音楽、光の撮り方が上手すぎるGCウィリアムズの撮影技術など、すべてのエッセンスがうまく溶けあって、見ていて心地よい。
冒頭に登場する極道対警官の逸話がのちに物語本編の根幹に関わってくるという物語の重構造や、カーダンバリが過去の事件を回想する場面の映像の重構造、ブラックな笑いや意表をつかれるオチをはじめ、この作品のつくりは2015年の公開当時は非常に斬新に思え、その頃頭角を現してきていたショートフィルム出身監督の作品にも通じる新しい風を感じたものだった。
実は初見時は、パーンディの行動に子供っぽさと違和感を感じたんだが、のちに「19歳」という設定を知り「子供っぽいんじゃなく子供だったんかい」と納得(していいのか?)。彼のあまり常識的とは言えない発想も、ママっ子ぶりも、ママが彼を警察に就職させようと計らっているのも、高校を出て間もない男の子の話だと考えると多少は腑に落ちなくもない。
ちなみに同じくIMW2021で公開されている「マスター 先生が来る!」は、「マッカル・セルヴァン」の二つ名を持つタミルの大スターとなったヴィジャイ・セードゥパティが、あの「タラパティ」ヴィジャイの向こうを張る敵役として出演した大作、かつ今年2021年に公開されたピカピカの新作。
つまり「マスター」と、6年前に公開された「俺だって極道さ」を2本立てで見れば、かつてきらりと光る佳作・名作でヒットを飛ばしながら大スターへの階段を駆け上がっていた彼が、ついにここまで来たか…というカタルシスをガッツリ味わえるわけです。
ちなみにこれまでヴィジャイ・セードゥパティ主演の数々の作品で引用され、このブログでも幾度か触れている「Nadubula konjam pakkatha kaanom(2012)」の「えんなーち?」と「ぱーーーっ!」が、本作でもしっかり登場しておりますよ。
◆ヴィジャイ・セードゥパティ
上にも書いたように、本作は彼の人気が急上昇している頃の出世作のひとつだが、実は彼の顔が初めて日本の劇場のスクリーンに大写しに(1日限りではあるが)なった、つまり日本初上映の記念碑的作品でもある。
「彼が長い下積み生活を送るその間も、ずっと大スターを相手にヒロインを演じるトップ女優だった『あの』ナヤンターラーと共演するというのは、本人としては感慨深いものがあるのでは」
↑これは自主上映に参加させていただいた時の私のメモだが、ついにナヤンのようなスター女優との共演が叶ったか!とファンのみんなが大興奮する、当時はまだそんな時代だった。
さておき本作で、お気楽な青年役をコミカルに演じているにもかかわらず、時折彼の長い睫毛とその視線からこぼれる色気よ。鑑賞中はひたすらその姿とそのお芝居に目が釘付けになるが、中でもクライマックスのファイティングシーンがお気に入りだ。
ヒロインのために戦う(というかほぼやられてる)彼の痛々しい姿、ドラマティックなBGMとスローを多用したカメラワーク、それらが一体となって観客を切なさの渦に巻き込むあの場面、こんなにもロマンティックなファイティングシーンをかつて見たことがあった?と、初見時の私はキュンと息苦しくなり、そのまま息を引き取りそうになった。
彼が再びヴィグネーシュ監督、さらにナヤンターラー、サマンターと組む「Kaathu Vaakuta Rendu Kaadhal」も楽しみ。
お気楽青年、悪の王、エゴにまみれた夫、さらに愛すべき夫、4つの作品で4通りもの彼の演技を堪能できる今回のIMWさんのラインナップ、本当にたまりませんね。
◆ナヤンターラー
聴覚障がいを持つ女性を演じるナヤンターラーのお芝居が本当に達者、かつ可憐で魅力的。
通常は、彼女の声はディーパ・ヴェンカトさんによる吹き替えであることが多いが、本作はナヤン史上初のセルフダビング、つまり彼女自身の声が聞ける。そのリアルの彼女の声というのが、これが軽やかで可憐でめちゃくちゃ可愛らしいんである。ディーパさんの吹き替えも「本人よりも本人らしい」というようなハイレベルなものだけど、もっとナヤン自身のダビング作品も見てみたいものだ。
ところで本作をきっかけにお付き合いが始まったヴィグネーシュ・シヴァン監督とは、いよいよ結婚も間近との噂。
↑本編映像ではない、歌詞バージョンのオフィシャルビデオ
とにかく、素敵なパートナーと出会えてよかったね、と親戚のオバさんか何かのごとく彼女の幸せを願っている自分がおります。
◆パールティバン
お気に入り作品だからと本作を何度も見るうちに、私はカーダンバリの仇敵キッリを演じるパールティバンに惚れてしまった。大きくてキラキラした瞳、ど迫力のいかつい芝居もコミカルな芝居もバッチリ決めてくる巧みな演技力とそのセンス、6年前の私はVJSの魅力に参っていたが、今の私はパールティバンの魅力に参るという、思いがけないことになっている。
彼が演じる好きなシーンを数え上げると本当にキリがないので省略するけれど、ご覧になる方は、ぜひ彼の演技にもご注目ください。
ちなみにパールティバンは過去にインド国家映画賞の受賞歴も持つ映画監督であり、かつ俳優としても高い評価を受けている人だ。クライマックスシーン近くでキッリがパーンディの話を聞き流しつつ、窓の外をのぞき階下を確認する印象的な仕草は、パールテイバンがヴィグネーシュ監督に提案したアイディアらしい。パールティバンの他の作品でもその仕草を見たことがあるので、彼の好みの芝居なのかも。
最近の作品では2019年に公開された「Oththa Seruppu Size 7(サイズ7の片方だけのスリッパ)」が衝撃的だった。彼自身がプロデュース・監督・脚本・主演をつとめ、かつ登場人物は殺人事件の容疑者を演じるパールティバン1人だけという超画期的な作品で、私は彼の新たなものを生み出そうという熱意、そして凄まじいひとり芝居に度肝を抜かれたんである。
さらにごく最近見た、スレーシュ・ゴーピ主演のマラヤーラム語映画「Melvilasom」(2011)も凄まじかった。軍人の上官殺害事件をめぐる法廷ドラマなんだが、ここでの彼の、見る者の胸を打つ演技がまた素晴らし…
いかん、完全に話が「極道さ」と関係なくなってきた。パールティバンについては、また改めて記事にいたします。
◆その他の皆さん
パーンディの親友・ドーシを演じるRJバーラージの軽やかなアホさ、クスッとこさせるお笑いセンスがまた心地よい。ラジオ出身の彼のマシンガントークも、作品の見どころと言えるかも。しかも実はドーシは意外に常識人で、暴走するパーンディを諌めたり、彼に無茶ぶりするカーダンバリを叱ったりもするという監督のキャラ設定がまたニクい。
パーンディと関わる事になる2人の「本物の」極道、おなじみサンダーボイスのラージェンドラン(極道ラージャー)と、アーナンダラージ(ポンディシェリのドン〜彼に舎弟が「昔のあなたみたいにヤバい奴に殴られた」と語るのは、彼が往年の名作でバリバリの悪役をこなしていたことへのオマージュか)は、極道なのに人情的だったりお茶目だったりする面白キャラ。彼らにも何度笑わされたことか。ちなみにアーナンダラージは本作の舞台・ポンディシェリの出身とのことだ。
パーンディのお母ちゃんミーナークマリ役のラーディカー・サラトクマールまでが、まじめな顔で細かいギャグをかましまくっており、いやあこれはもう本当に楽しい作品です。
余談だが、そのラーディカーの夫はタミル映画界の大物サラトクマール、「サルカール」で敵役コーマラヴァリを演じるヴァララクシュミ・サラトクマールはサラトクマールの前妻の娘、「女神たちよ」のダース役・「サルカール」のレンドゥ役のラーダー・ラヴィは、ラーディカーの腹違いの兄…と、IMW2021で親戚ご一同が集結してるのも面白い。
◆音楽
美しすぎる「Neeyum Naanum」、心揺さぶる「Kannana Kanne」をはじめ、本作のサントラの少しずつ表情の違う曲、そのすべてが洗練されいてて素敵だ。そしてそれらは間違いなく、この作品の軽やかさ・オシャレさの肝になっている。
中でも私は、例のクライマックスのファイティングシーンで流れる「Yennai Maatrum Kadale」、シッド・スリーラームが歌うこの曲が最高に好きで、これはもう何百回聴いても飽きない。でも現地では、確かこの曲よりも「Thangamey」のほうが大ヒットになっていたはず。
個人的には、どちらかというとテクニック重視というイメージだったアニルドが、こんなにも叙情性あふれる素敵な曲を書ける人だとは!すみません、過小評価していました…と心の中で詫びを入れ、考えを改め、すっかりファンになったのが本作なんである。
↑やっぱりここは、お気に入りソング「YennaiMaatrum Kaadhale」の動画を載せておこうっと。本編のクライマックスシーンの映像が含まれるため、作品未鑑賞の方はスルーして下さいますように。
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