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シロガネの草子

『我が身をたどる姫宮』 其の27 


徳川家光 『兎の図』
 家光の絵の師匠は、かの狩野探幽です。どーゆう指導してこんな個性的な『兎』を書くことができたのでしょう?しかし家光公は真面目に描いて、家臣に、ご賜下なさったとのことです。
 
 几帳越しですが、上皇后様がいろいろと喋られている内容は朝のおばん(朝食・御所言葉)を召し上がられていらっしゃる、皇嗣両殿下のお耳にしっかりと、入ってこられました。


しかし上皇后様のお言葉が、急に途切れてしまわれました。それは、テレビ画面が、今年の春に行われた、一の姫宮様のご結婚式の映像が流れたからでした。


 几帳がありますので、音声のみですが、しかしその時の出来事が、両殿下、事に妃殿下の脳裏にアリアリと浮かんで、こられていました。


妃殿下の表情が明らかに変わられるのを、気付かれた、皇嗣様でしたが、


「今日は、本当に忙しいのだから、しっかりと食べないとな。いろいろな人も来るのだし、会いたくもない人と合って、その場で気絶したら、偉い騒ぎだ」

などと仰られまして、そして妃殿下にお顔を近付けて、小声で


「まあ、早朝から既にお一人、こちらにいらっしゃって、おられるけどな」

と言われました。しかし妃殿下は、


「皇嗣様、それはお言葉が過ぎますわ。むしろ、お越しにならしゃって頂きまして、有り難く思っております。大丈夫です。でも余りいい顔は出来ないかと、思いますが」


「でもそれは、一の姫宮では有りませんよ。あの娘(こ)には本当に、苦しめられましたけど、でも、あの時から数年の間ほど、一の姫宮のことを考え、思ったときは、なかったのです。わたくしは言いたいことは、全て言いましたし、それは一の姫宮も同じです。最も今でも頭のなかでは、一の姫宮のことを心配しているのは、変わらないのですが」


ご結婚されてもご心配な種の・・・・一の姫宮様


「皇嗣様のお誕生日で公(おおやけ)ですけども、やはり久しぶりに、会うのは、とても楽しみですわ。それに・・・・・あの娘は今日は、わたくしが、若いときに着た、着物、訪問着を着ると、言ってくれましたし」


「そうか・・・・・お前が着た着物をきて来るのか、それは楽しみだな。どんなのを着てくるんだ?」

「それは、ご自身で、ご覧にならしゃって頂ければ、お分かりになられますわ」

「う~~~~ん、お前も若い頃からいろいろと、着ているからな、困ったな~~もし分からないと、皇嗣妃殿下のご機嫌を損じてしまう」


「そんな事を仰って、皇嗣様はそんな風に、外でも仰られて、いるのでしょう。だから、わたくしの評判が、悪くなるのです」


「それはひどいな。全部俺のせいなのか・・・・余りのひどいお言葉を妃殿下は仰られる」

と皇嗣様は、そう仰られて、お笑いになられました。すると妃殿下は、皇嗣殿下のお顔をしっかり見まして、


「一の姫宮の結婚の時は、皇嗣様に全て、お任せしましたが、お相手は兎も角、お支度、そしてお式はとても素晴らしかったですわ。華やかで、本当に・・・・・来て下さった方々も喜んで頂きました。正直、わたくしだったら、やはり、世間をそして国民の声を重視過ぎて、ああも出来なかったでしょう」


「あちらこちらから、喧しく言われたがな。でも、華やかに出来て、良かったよ」

 一の姫宮様のご結婚式はほとんど皇嗣様がご采配されました。勿論それは、ご長女のそして、初めてのお子様を送り出す、父宮様の思いからでした。


しかしそれと共に、余りに多くの人々に、一の姫宮様のご結婚問題で心配をかけて、しまったので、職員等も結婚式にお呼びに成られて、賑々しいお式で持ってそれに応えられたのでした。


 勿論、その後は何事もなく・・・・・とは、ゆかないのは、皇嗣様も良くお分かりでしたので、その後、事が起きた時には、また頼むという意味合いもあったのでした。


 一の姫宮様は、やっと愛する『根無し人』とゴールすることが出来るのを、大変、喜んでいらっしゃいましたが・・・・


しかし、その『根無し人』が帰国して以来、『愛欲旅行』等と揶揄されながら、お二人で泊まりがけの外出をされていました。

「お金・お金・お金・・・・・・」


岩田専太郎 『洗い髪』
しかもそれを、見せつけるが如くの有り様で、お年頃の弟宮様が大激怒され、帰宅された一の姫宮様に対して、

「バーカ、バーカ、バーカ・・・・!!!」

 と・・・・・まるで多くの国民の思っていることが、若宮様に憑依して言わせたのではないかと言われる、『バカ事件』が起こりました。その後、若宮様は


「ここに居たくない。大姉様の顔も見たくない。気持ちが悪い」

 とまで言い出され、若宮様ご自身が、院の御所に連絡されて、そちらに置いて頂きたいと、言われました。皇嗣両殿下は若宮様のお気持ちは十分理解できましたので、お止めすることは、出来ませんでした。

 一の姫宮様の有り様は、当然、院のお耳にも入られていたので、若宮様の願いは直ぐ、お聞き届けになられました。そして間もなく、院の御所から迎えの職員が寄越されまして、しばらくの間、院の御所へ若宮様はご逗留される事になったのでした。


高畠華宵 『さらば故郷』
 若宮様が、御用掛の唐糸に付き添われて、若宮様のご守刀や天児のお人形などまでの身の回りの品々をお持ちになられて、仙洞御所へ行かれました。それから、皇嗣両殿下が、ご説明に上がられました。

 院におかれては、当初は、一の姫宮様が周囲の猛反対に合いながら、愛を貫く姿に、若き日のご自身と重なり、一定の共感を抱かれていました。ご自分のそういうところが、孫娘に似たのかと、思われていらっいました。


 しかしこの数年、その相手を見るに付けて、戦後に、元皇族が次々に、詐欺師に騙された出来事が、頭に浮かばれ、『国民と共に』、『国民の目線で』という事をモットーに国民に近い皇室をと、そう心掛け、行動しても、やはり、『皇室と云うのは、いかに国民から見れば、浮き世離れした存在』で合ったのかを、一の姫宮様のお相手からその『事実』を突きつけられた、思いでした。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 『ダイヤのエースを持ついかさま師』
 上皇后様と共に国民と近い生活を送られてきても、しょせんは、皇室を利用しようとする頭の良い人間から見たら、皇族と云うのは、直ぐに人を信じ、騙されて、利用しやすい、世間場離れした人間で有るという現実が良く理解出来たのでした。




 皇室と国民は違うのだ・・・・・しかしその違いを互いに認め合い、そしてこの国で、一緒に共存して行く・・・・これからの皇室の進むべき道は、こうなのだと、院は、思われました。



 皇室には皇室の流れというものがあり、何もかも一緒にする必要は、ないのだ。それ故に例え、天皇の唯一の内親王といえども、次の世代に、皇室の歴史と繋がらない天皇を誕生させる、天皇では、皇位につかせる訳には、ゆかないのだと院は改めてお考えになられました。最も今はですが・・・・・。

 院におかれては、思いもよらず、仙洞御所に暫く泊まりににこられた、若宮様と接するうちに、


自分が生きているうちに、次の世代に歴史を繋げる事が出来る、唯一の若宮様のお立場を世間にハッキリとした形で、示さなければと強く思われたのでした。


 また若宮様が例え、後世に名を残すほどの、聖帝とならなくとも、確実に、これからの世の中はまた一段と厳しい状況に見舞われる事は、八十路を半ばを過ぎた院にも、良く分かります。その多難な時代を生きる、若宮様がその時代に上手く対応出来るように、ご自分が生きた時代の経験を教え、若宮様の今後の人生の指針となれるように、教え導くのを、ご自分の余生とされることを、お決めになられました。


望月春江 『春に生きんとす』
 このまま若宮様が、皇室の歴史の流れに沿って、皇位を継がれるのは、目出度い事ですが、しかしそれによって、皇室に変化を望む人々からは多くの妬みを受けてしまうのは、必至です。


その筆頭が、上皇后様でいらっしゃいます。例え上皇后様が、何もしなくとも『呪詛』のようなものを、若宮殿下が受けてしまうのではないかと、院だけでなく、皇嗣両殿下をお始め多くの皇族の方々も危惧されていらっしゃいました。


 古来より・・・・・・女人の怨みほど恐ろしいものは、源氏物語の頃より千年経っても変わりません。


上村松園 『焔』



島成園 『おんな』


そのリスクを背負われる若宮殿下は決して、単に『男』だからと単純な理由で、楽々とその地位に就かれる訳ではありません。

岩田専太郎 『女妖正体』



若宮様が受けられる『呪い』を少しでも和らげるために、伊勢の祭主をお勤めになられておられる、院のご長女で、ご結婚で皇籍を降りられた、女一の宮様を内親王に複位させて、皇族の一員となさり、若宮様を護らせるように、なさったのでした。


伊藤小波 『雪の朝』
 一の姫宮様がご降嫁と入れ違いに院の女一の宮様が、『皇族の減少に対応する為』という理由で、内親王のお立場に戻られた時、皇嗣妃殿下は本来なら、若宮様を守護する役目は、ご長女の一の姫宮様が担われるのが、道理で合ったはず・・・・・と思われてました。


 一の姫宮様のこの数年の『狂恋』の有り様を考えると、もう既に『呪詛』は受けていたのでは・・・・・


と思われたと言うことです。


しかしご自身、そう思われた時、何て事を・・・・と、そんなお考えを打ち消しられました。一の姫宮様の事はご自分に責任があると言うのに、『呪詛』という言葉のせいにして、それから、逃げ出そうと、なさっている、ご自身の『弱さ』を、深く恥じられたのでした。妃殿下は、

(もう、これが現実なのだから・・・・・)

(受け入れるのは、まだ難しいが、しかし、『呪詛』という言葉で逃げるのはいけない。それこそ自分が『呪詛』に掛けられてしまっているのも当然なのだから・・・・・・)


「あら、おもう様達はこちらで、召し上がっていらしたの?」

 一の姫宮様の事が話題に上られましたので、妃殿下は、ふと、心弱った時の事を思い出された時、


 藍の浴衣に明るい菖蒲色の羽織をお召しになられた、二の姫宮様が、声を掛けてこられました。お化粧をされて後は、お召し替えという状態ですが、その前に、朝食を・・・・・と、いつもご一家がお食事を召し上がっていらっしゃる、お食堂へと行かれる、途中だったのですが、珍しく、両殿下が和室で、朝食を召し上がっているお姿をご覧に成られて、驚かれたのでした。


「あぁ・・・・・おばば様が、いらっしゃるしな。なるべく近くでと、思ってな」

皇嗣殿下が二の姫宮様にそう声を掛けられますと、


「そうなの。じゃあ私と若宮もこっちで、頂かないといけないのね。松波さんは台所にいるかしら?でも今日は忙しいだろうし・・・・」


「お前と若宮は、食堂で食べた方がいいだろう。お膳所から直ぐ近いしな。お前のいう通り、皆、忙しいしな」

皇嗣殿下が、そう仰いますと、二の姫宮様は「では、あちらで頂きますわ」と言いまして、そして、父宮様に小声で


「おたた様、若宮の事、知ってらしているの」

と、聞かれました。皇嗣様は「まだ、話していない」と小声で言い返しますと、二の姫宮様は

「私から伝えた方が・・・・」

そう仰いましたが、皇嗣様は「大丈夫だ、俺から言うから、早く食べて来い」


そうお仰いました。妃殿下は、お二人のやり取りをご覧になられて、

「まだ、わたくしに、お隠しになられている事があるのですか?」


菊池契月 『友禅の少女』
と・・・・・・思わず、聞かれました。お隣に上皇后様が、いらっしゃいますので、又何か騒ぎが起こるのではと、思われたからでした。


「朝のおばんを食べたら、キチンと言うから。まぁ、か今は、キチンと食べよう」

 妃殿下が、そのお美しい顔を怖い表情で、じっとご覧になられますので、いつもの事ですが、誰が見ても動揺される表情で、皇嗣様は言われました。

「この場で言っても構わないが、お前の体調のこともあるしな・・・・矢張、キチンと、食事を頂いて、若宮がその場にいた方が、いいだろうよ」

皇嗣様のお言葉を聞きますと、妃殿下は寒波入れず、


「お気遣いなく、わたくしは『ご病気では御座いませんわ』」

そう強い口調で、いつだったか『某雑誌』に妃殿下の悪口を書かれた事がありましたが、その雑誌に妃殿下が人に言われたという、言葉をそっくり其のまま、引用されまして、仰いまして、皇嗣様をいたく動揺させたのでした。


・・・・・・・妃殿下は、そんな皇嗣殿下の動揺なさるご様子を、黙って表情一つ変えるわけでなく、まるで観察するかの如く、氷のようなお顔で、ご覧になられていらっしゃいましたが、何時までもそのままと言うわけにも、ゆきませんから・・・・


鏑木清方 『夏の訪問者』


「そうで御座いますね。今は、き・ち・ん・と頂きましてから、そのお後で、皇嗣様より篤と、お伺いいたしますわ」


栗原玉葉 『婦人像』
 そう、仰ると、二の姫宮様の方をお向きになられて、にこやかな表情でじっと、ご覧になられました。

二の姫宮様は、お目が笑っておられない、母宮様をご覧になられて、苦笑いされながら、お側までゆかれますと、囁くように・・・・


「そんな恐いお顔をなさらなくとも・・・・・そう、大した事じゃないわ」


伊藤深水 『ささやき』
・・・・・・と、言われまして、ニッコリと何時もの華やかなお顔を見せられまして、父宮様に


「食堂で、朝のオバンを頂いて参りますわ。若宮も直ぐにこられるでしょう。」

そう言われますと、両殿下にお辞儀されて、出て行かれました。二の姫宮様の言葉と表情をご覧になられた、皇嗣妃殿下は、安心されたようで、何時もの穏やかなお顔付きに戻られまして、皇嗣殿下のお顔をご覧になられて、

「申し訳ありませんでした」

と、言われまして、お顔を赤くなられて、恥ずかしげに、お食事を食べられました。そのお姿は、とても五十路をとおに過ぎたお方とは思えない、可愛らしいお姿で、皇嗣殿下は、心底ホッとされますと、同時に相変わらず、何て可愛らしい妃なんだろうと、思われました。

 皇嗣両殿下のいらっしゃる、和室を出て行かれた、二の姫宮様は、お居間にいらっしゃる、お隣の皇嗣ご夫妻の遣り取りが気になって仕方がないご様子の祖母宮様の上皇后陛下(後に皇太后と、本来の正しい敬称にお変えられます👌)のお側までゆかれまして、


「お具合いは、いかがであらしゃいますか?お顔のお色は良くなられたようで、御座いますが・・・・・」


「二の姫宮ちゃん・・・・早朝からお騒がせてしまって、悪かったですね。婆は、大分、良くなったけども、オホホホホ・・・・・この年でしょう、若い頃と違って、回復するのに時間が、掛かるのですよ。もう少しこちらで、休ませてもらいたいのね」


「今日のこの日で、迷惑なのは、婆も承知しているけど、無理に、院の御所に戻って、具合が悪くなった、となれば、せっかくの皇嗣さんのお誕生日に、水を差すことになるでしょう。皇嗣さんのお為にも、婆は、こちらで、しっかりと、休まなければ、ならないの。二の姫宮ちゃんはちゃんと、理解してくれるわね」


そう長々と仰られまして、その場に居る誰もが、これだけ長々とお言葉が出る元気が、おわりになられるのであれば、間違いなく、すっかりと回復されていらっしゃるであろうと、思ったのでした。

「おばば様、でもこうして、見ますと、お気丈さんで、ご機嫌よくあらしゃるご様子ですね。お声に張りが有りますもの。良かったですわ」

「叔母様も、早朝よりおもう様が、お騒がせして、こちらに来られて、お二方様には、大変ご迷惑をお掛け致しました」

そう仰られまして、二の姫宮様は上皇后陛下と院の女一の宮様に頭を下げられました。騒ぎの元は上皇后様でいらっしゃいますが、そこは『大人の対応』をされたのでした。


「二の姫宮ちゃま、頭をお上げ遊ばせ。貴女が頭を下げる事はないのですよ」

院の女一の宮様はそう、お優しく仰られました。そしてお心の中で、

(あの気性の勝った二の姫宮が、本当に大人になられて・・・・)

昔の事を思われて、感慨深く二の姫宮様をご覧になられました。


「まぁ、本当に姫ちゃんのいう通りですよ。でも、おもう様も何時までも、ご気性がお強くて、やんちゃで困るわね。お若い頃はもう少し、思慮深い子だったけど、どうしたものでしょう・・・・・貴女のおたた様とご一緒になられてから、気性の強いところが、前に出てしまったようだけど」


「困ったものね・・・・・」

 上皇后陛下にはこの度の皇嗣殿下の『ご発言』は全て皇嗣妃殿下が裏で糸を引いて、十数年前の、只今のお上と同じ『ご発言』をさせて、かつての様に、世間から同情を集めようと、したのだろうと、思い込んでいらっしゃいました。


(そうは、させるものですか、『嫌われる女』は、永遠に嫌われたままでいいのです。何を今さら同情を集めようとするなど、笑止千万!)


そう、思われてそのお心が、お顔にまでありありと現れていらっしゃいました。二の姫宮様は、

(あぁ・・・これで又・・・・)


そう、心のなかで、呟かれて、叔母宮と、憮然とした表情をしている、皇嗣家ご用掛の唐糸の顔を見られまして、


「・・・・・・・」
『仕方がないわ』という感じでの表情で、ご覧になられました。そして、


「朝のおバンを頂いてきます」

と、言われてお居間を出て行かれました。廊下に出られた時、思わず「ふ~~~う」と溜め息が出てしまいました。


栗原玉葉 『お染』
 二の姫宮様は、其のままお食堂へ行かれようとなさいましたが、又、もと来た所へと戻られました。先程の母宮様のご様子をご覧になられて、若宮様が、お一人で、ご両親殿下方の所へと行かれるのが、心配だった為です。


 過保護だと他人から見たら、きっと思われるでしょうが、今まで姉宮様がいらっしゃり、お二方で・・・・・分担なさっていたのです。

最も姉宮様は、『根なし草葛』氏に身も心も奪われてしまいましたが・・・・・・・・

しかしそれでも、『大姉様』なのです。若宮様の事は気に掛けていらっしゃるのは、現在でも変わりありません。


栗原玉葉 『お七』

(お姉様がいらして下さったら・・・・・)


菊池契月 『露草』
『根なし草葛』氏の元にご降嫁された後、ご家族で何か有ると、何時もそう思わずには、いられない、二の姫宮様なのです。


しかしながら、この近年のいろいろな元凶は、一の姫宮様だったのですが・・・・


 それでもいざ、嫁がれた後、二の姫宮様もですが・・・・母宮の皇嗣妃殿下のお姿は、二の姫宮様の目に今でもハッキリと焼き付いていらっしゃいます・・・・・。


鏑木清方 『五月晴』


 菖蒲色地に源氏香を大胆にあしらった、御召の袷の羽織をヒラヒラと揺らして、足早に若宮様がいらっしゃる、お化粧の間に行かれました。

 浴室の方は誰も居ないようで、若宮様は丁度ドライヤーで髪を乾かして居るはずと思ったのですが、音も聞こえなくて、二の姫宮様は、襖を叩いて、若宮様を呼ぼうと、思われた時、襖が開いて、若宮様が出て来られました。


「ビックリした~~~誰かと思った。どうしたの。もう、朝のオバンを頂いたの??」

「ご免なさいね。おたた様の、ご機嫌がーーってあなた、なに?パーカー何か着て?浴衣のうえに、それはないんじゃないの?」

二の姫宮様は、若宮様が藍染めの絞りの浴衣の上に紺のパーカーを着ていらっしゃるのをご覧になられて、ビックリしました。

「別にいいじゃん。こっちの方が暖かそうだし、着やすいし。表に出る訳じゃないんだしーー」

「呆れたわ・・・・変よ。こっちに来なさい。私がいい羽織を選ぶから・・・ダメよ、こんな姿で人前に出ては。おばば様、まだご逗留中なんだしこんな、姿を見られたら、どう思われるか」


服装には『強い思い』がおわりになられるお婆様


「まだ、いらっしゃるの?お具合悪くなられたの?良くないの?」

そう、若宮様は心配気に声を出されました。


「違うわ。大方、おじじ様に叱られたくない、そういうお心であらしゃれるのよ、とーぜんでしょう」

 二の姫宮様は、桐の箪笥から、「これが良いわね」と呟かれて、大島紬から仕立て直された、羽織を取り出されて、若宮様に、


鏑木清方 『淡雪』
「これを着なさい、これが良いわよ」

と、言われました。二の姫宮様からその羽織を受け取られた、若宮様は、「これ、地味過ぎるし、柄も小さすぎるつまらないよ」と声を出されながらも、二の姫宮様の言う通りに、昔の大島紬を仕立て直された、羽織をお召しになられたのでした。


「昔のものだけど、手織りの物だというし、とても良いものなのよ。こんなに小さい文様は、今では手で織れないというし」

姉宮様からその言葉を聞きまして、若宮様は羽織をまじまじとご覧になられて・・・・・

「そうなの。技術が途絶えてしまったの」

「そういう事ね。だから、あなたに着るのが相応しいと思うわ。大事に着て長く持たせるようにしなければね」


「まっ俺と同じか・・・・この羽織と一緒になるかも・・・・」

「あなたは、そうと決まった訳じゃないのよ」

 そう仰った二の姫宮様は、もうその文様を織る技術が・・・・正確には、織手なのですが、その技術が途絶えてしまった、今では見ることもない、とても精密な細かい文様の羽織を、お召しになられた若宮様のお姿をじっと見つめられていたのでした。


其の28に続きます。


上村松園 『麗容』

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