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『戦争における「人殺し」の心理学』

2007-04-13 21:45:00 | 本と雑誌
戦争における「人殺し」の心理学 戦争における「人殺し」の心理学
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2004-05

 当然、オレは人殺しなんかしたことがないので、その心理ってのがどうなのかは分からないわけですが。
 この本では戦争時に、どのような心理的プロセスを経て人を殺すのか(人を殺さないのか)を心理学的に、また過去の戦争を踏まえて歴史学的に解説しています。

 この本を読んで驚かされるのは、かつては戦場では多くの兵士が銃の発砲を行わない事実があったということ。
 そして、一人の人間を殺すのに数多の銃弾を要していた――訓練された兵士が殺傷能力が高いライフル銃を用いていたにもかかわらず――という事実。
 この二つの事実が、「人間が人間を殺す」ことへの大いなる抵抗感の証左であったと述べ、いかに「人殺し」に対して心理的プレッシャーが掛かるかをわかりやすく解説しています。

 そして、「人殺しへのプレッシャー」が体験的に理解されるようになると、軍は兵士に「条件付け」を施し、それは発砲率として数値に表れるようになります。
 それは第二次世界大戦までは米軍兵士による発砲率が15~20%だったのに対し、ベトナム戦争のそれは90~95%へと跳ね上がったことで証明されています。
 映画『フルメタル・ジャケット』の鬼軍曹の振る舞いにも意味があり、そして、あの映画での軍曹と兵士がたどった末路も必然だったのだと理解できます。

 さらには我々が目にする戦争にまつわる周辺の出来事――戦勝パレード、記念碑、船による帰還、勲章授章式――には、それぞれ先人の知恵が、意味があるのだということも述べられています。
 そして、それらのいっさいを怠ったベトナム戦争では戦後の兵士達がPTSDに苦しめられているということも。

 この本を読んでいると、日頃見たり聞いたりしていること(まあ、戦場の出来事を直接見聞できないので、実際にはニュースであったり映画だったりするのだけど)には意味があるのだということが理解できます。

 それらを踏まえた上で、最後にこの本はテレビゲームや劇映画の暴走について警告します。
 ここでもテレビゲームそのものが悪なのではなく、主観型のシューティングゲームはベトナム戦争時の兵士の訓練と違うところがない=銃を持てば葛藤無く発砲できるように条件付けされる、と解説しています。

 著者がアメリカ軍人ということもあって、傾き加減は考慮しないといけないとは思います。
 とはいえ、無闇に「ゲーム脳」を語るインチキ学者に比べれば、遙かに説得力のある論理の展開だったようには思えました。
 この著書の思想的な部分や文化的な部分は割り引いても、「なぜ人は人を殺すのか」そして「なぜ人は人を殺せないのか」という心理状態の解説は、一読の価値はありかと思います。


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