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駆け込み寺居酒屋ポン吉「 サザンカの女 椿」…働く女性たち 51話
音吉が朝の散歩をしている途中の西大路九条交差点のマンションに植えられているサザンカの花を写真に撮っていた。その時若くて綺麗な女性から、
「あの~これは椿ですか?」
「いえ、これは秋から冬にかけて咲くサザンカです、椿は冬から春に咲きます」
「そうでしたか~私の名前は椿なのにそんなことも知らないで恥ずかしいです…」
「ほぅ、椿さんとは素敵な名前だ!。これから出勤ですか?」
「はい、それも今日が最後で…」
「あらら、まだお若いのに寿退社ですか?」
「いえ、それならいいですが…色々あって…」
「もしなにか事情があるならお聞かせください、お役に立てるかはかりませんが…私はこの先の、西大路駅近くで居酒屋をやっていますから帰りにでも寄ってください」
「はい、マスターさんですね、退社の時に時々お顔を拝見させていただいています」
その日の午後6時前には椿さんが店に来た。
音吉は若い女性の悩みはすべてママの幸子に丸投げをしていた。その幸子に椿は悩みを訴えていた。椿は色白で背も高く長い黒髪が似合う美人で一流製薬会社のOLだった。その椿は兵庫県の高校を卒業した後に京都の私立大学に入学したが、ホームシックからかすぐに同じ大学の学生の恋人ができていた。学生生活も派手になっていく一方で時給850円のコンビニのアルバイトからより高収入のスナックのホステスになっていた。大人の世界に首を突っ込んだ椿は恋人のたよりなさが目に付き彼とは別れていた。
そこまで話をした時にこの店の常連の武田が大きなクーラーボックスを持って現れた。この武田は釣りが好きで今日も釣りをして釣ってきたタチウオを自慢している。
「どや、ママ、このタチウオは105cmの大物で今日の釣り大会で優勝した」
「あらら、珍しいいつもは坊主ばかりなのに、しかし、この大きなタチウオは私もさばくのは初めてよ…」
その話を聞いていた椿は、
「ママさん、そのタチウオは父が良く釣ってきたので私がさばけます」
こうして椿はカウンターの中に入り手際よく料理していた。このお刺身を食べていたが、店に客が立て込んできてママも音吉も椿の悩みを聞くチャンスがなかった。そこで音吉は武田に、
「この椿さんの悩みを聞いてあげてほしい、カウンターでは不味いからテーブル席に移動しては…」
武田は65歳で製薬会社の営業をしていたが、定年後はその会社の関連会社の取締役として働いていた。妻とは離婚して今は一人で暮らしている。その定年前の会社というのが椿が今日まで勤めていた製薬会社という奇遇から武田と椿は意気投合していた。椿は武田に相談をしている、
「そのスナックよりももっと高収入になると女子学生仲間から風俗に誘われて私はそこを1年ほど勤めてからこの会社に就職をしたのですが、その時の常連客がたまたま就職した製薬会社にいたのです」
「しかし、あんな風俗では素顔ではなく濃い化粧をしているのでは…」
「はい、それが私の右側の耳の下の首に黒い黒子が二つ並んでいるのです。その社員は店の待合室に飾ってある濃い化粧の写真をいつのまにか撮っていてその写真にもその黒子があったのです。ある時、その社員にその写真を見せられて、君は木屋町のヘルスにいた「サザンカ」に間違いがないというのです」
「ほう、そんなこともあるのか…?…それで椿さんはサザンカさんだったの?」
「はい、その通りですが、もちろん私は違うといいましたが、その噂が社内中に広がって私は今日退職をしてきたのです」
武田と椿はもう白ワインのボトル2本目で椿の色白の肌がピンクに染まってきた。そして武田が、
「その常連の男からなにか脅迫でも…」
「はい、その男は私にヘルスと同じサービスをしてくれたらこのことは内緒にするとメールがありました。もちろん断りましたが、男は納得せず社内に噂を広めた卑怯者です。この男は経理部の係長の30歳で同じ会社に勤めている専務の孫娘と婚約しています。社内では逆玉の輿として将来を約束されて来週の土曜日に結婚式を予定しています」
「ほう、あの専務は次期社長になるが、その孫娘の婿となるとすぐに経理課長か部長が約束されている」
「はい、その通りです。そこで私はその婚約者の孫娘に今日の退社時に今までの経緯を書いた手紙を手渡してきました」
「ほう…復讐ですか…?」
この話の途中にその婚約者から椿に電話があった。椿は相手の質問に答えている様子だが、その電話は3分ほどで切られていた。そして椿は、
「あの手紙を専務にも見せたそうです。そして婚約は破棄されて彼は明日付で懲戒解雇されるそうです」
「ほう、見事な復讐劇になった、おめでとう~!、ところで椿さんは魚のさばき方が上手いが、実家は料理屋さんですか?」
「あら、自己紹介が遅くなってすいません。私は河原崎椿で兵庫県西宮の今津港で育ちました。実家は元々漁師だったのですが、今では釣り船と民宿「河原崎 祥豊丸」を経営しています」
「えぇぇぇ~実はそのタチウオを釣ったのは祥豊丸です。その民宿ももう何回も泊まっているし、それに次の土曜日にも予約を入れています」
「へえ~祥豊丸の船長は私の兄です…そんな人に私の過去の過ちの話をしてしまった…」
「いゃいゃ、私は彼と違って脅迫はしませんから安心してください」
「でも…それでは私の気がすみません…」
そこにママの幸子が口を挟んできた。
「武ちゃん~椿さんは武ちゃんに色々話を聞いてもらって気が晴れ晴れしているのよ…こんな日は女って優しい男性に抱かれたいものよ…」
「いゃいゃ、俺は…もう65歳で…こんな若い娘をどうこうする気は…」
「何をいっているの、武ちゃんが私を抱きたいといつも愛のメールをしてくれるけどあれは嘘だったの?」
「いゃ~何もそんなことを椿さんの前で…」
椿はこのママと武田の話を笑って聞いていたが、
「武田さん…なにも心配しないで私がサービスをしますから、それに私も実家に会社を辞めたことを報告しに帰りますから一緒に車に乗せてほしいの…」
ママの幸子は武田に、
「今夜は武ちゃんの自宅?それともラブホテル?、ラブホテルならタクシーを呼びますが…」
武ちゃんは顔を真っ赤にしてママに、
「ラ、ラブホテル…ママ、今日の昼間は釣り大会で優勝、そして夜も空前の大漁…」
「そう、大漁旗と竿もおっ起ててネ…武ちゃん」
この小説は55話まで書けています。