「風俗嬢から祇園の割烹の女将に 鮎子」 駆け込み寺居酒屋ポン吉 27話
女は賢くしたたかに生きる
「風俗嬢から祇園の割烹の女将に 鮎子」 駆け込み寺居酒屋ポン吉 27話
JR西大路駅近くの「洋風居酒屋ポン吉」のマスターの音吉はたまにしか店にでてこないが、店で使う食材はママの幸子の指示で買い出しに毎日いっていた。この指示はネットの掲示板に書かれている、たとえば「蛸のお造り」「かつをのたたき」「ブリのお造り」「イカのお造り」の短冊をそれぞれ5人前ぐらいなどと書かれている。
この掲示板は客にも解放されているのでこの食べたいお造りがあれば予約ができるというシステムで、例えば仕事が遅くなり午後10時半しか店にこれない客は目当ての生ものを予約できるし、また本日のメニューの情報にもなる。この居酒屋にとってはこの生ものを余らすというロスが最大のネックになるからだ。それに完全に売れればこのお造りなど生ものも1人前500円程度の安さで売っても儲かることになる。
音吉は魚類の買い物は近くのスーパーの鮮魚専門店「魚嘉」で買っている。いつも20人前程度のお造りを買っているので店のレジの女の子とも仲良くなる。ある日、その鮮魚店の店員が、
「いつも買っていただいてありがとうございます。このお造りなどはどこのお店で使っているのですか?」
「あぁ~これは駅近くの「駆け込み寺居酒屋ポン吉」という居酒屋でお客様におだししています。店のブログがありますので一度見てください。
それから一週間ほどしてこのブログの付属掲示板に、
「魚屋の店長の妻で「真澄」と申します。ブログ等を拝見いたしましたが、一度姉のことで相談したいことがあります」と書かれてあったので音吉はそれの日時を掲示板に書いていた。そして真澄が店に来た。
この真澄は28歳でこの鮮魚店の経営者の長男の嫁でこの長男は京都の直営5店の総括店長をしているという。真澄は姫路の出身でこの姫路の鮮魚店で夫と知り合い結婚をしていた。この真澄の二つ上に「鮎子」という姉がいるが、この鮎子はかなりの不良で風俗店に勤めていたが、同じ姫路のホストに貢いで借金まみれになっていた。しかし、この鮎子もこれらを反省して新天地にこの京都で働きたいということだった。真澄は、
「この姉が風俗で働いていたことや借金があったことなどを夫には絶対に相談はできないのです…」
「そら~あの鮮魚店「魚嘉」は100年も続いている関西でも50店舗を展開する有名な老舗になる」
「はい、借金は私の両親と私のへそくりでなんとかしましたが、姉が風俗店で働いていたことがわかると…それにもう両親も私もお金がありません」
「しかし、一度風俗のボロ儲けを経験したら時給900円や1000円では働けずまた風俗に戻るものです」
「それが私も心配でもし京都でなにかの摘発で姉が逮捕されたら名前が「鮎子」というのですぐに夫やその家族にバレます」
「それで私の経営するマンションと店で監視してほしいというの?真澄さん」
「はい…マスターなかなか察しがいいですね~本当にたのもしいお方です」
「おぃおぃ、こんな老人をおだてて…」
「お礼といってもなんですけれど…音吉さんが「タラバガニ」が大好きだとブログに書いてありましたから、根室で獲れた最高級のタラバガニをお持ちしました」
こうしてタラバガニで買収された音吉は家具と電化製品、それに台所用品がすべて揃っている103号室に鮎子を迎えていた。当面は居酒屋で働くという約束で家賃は社宅として免除していた。その鮎子は30歳だが、これより5歳は若く見える化粧なのかイケイケネーチャンの雰囲気だった。店のママの幸子と気が合うのか?それともフルタイムで働くのでわずか半月で「チィママ」と呼ばれる人気ものになっていた。それでも前科者?として音吉とママは鮎子を1人にさせずに監視していた。
ある日、店の開店前のひと時に、鮎子は音吉とママに、
「なんとなく私を監視しているようだけど、マスターもママも安心して私はもう風俗に勤めたりホスト遊びは絶対にしませんのことよ~ホホホ」
ママの幸子が、
「いぇ、監視しているつもりはないけど…やっぱりマスターも私も心配なのよね~」
「私はママの接待や料理、それに着物の着付け、お品書きのお習字などを覚えて2年後には祇園の一等地に「割烹 魚嘉祇園店」のママになることがもう決まっています」
「えっ~魚嘉って妹さんの店の支店?」
「はい、妹の旦那の高広さんとの約束なの」
音吉はそんなことは初耳なので鮎子に聞いていた、
「なんで?妹さんの夫の高広さんとそんな約束をしたの?」
「うん~これは絶対に妹には内緒だけど、実は姫路の私の勤めていた風俗店に偶然だけど高広さんが遊びにきたの、それで二人ともビックリ仰天したけれどもお互い内緒にしておこうとなったの。それで店で禁止されているサービスなどをして十数回も指名で来てくれたの」
それから高広は口封じのために鮎子がまじめになって料理の一つでも覚えてくれれば真澄のお姉さんとして店の一軒でも出すと約束をしてれたという。それで妹に京都に住みたいといったらこのポン吉さんを紹介してくれて私は今一生懸命にママから水商売のイロハを習って一流の祇園の女将になるという。幸子は、
「それで、今は高広さんとは?」
「ううん、それっきり何の関係もないわ~だって、その時は風俗嬢だったけど今は妹の旦那じゃないの~ホホホ」
「そうよね~女は賢くそしてしたたかに生きなければならないのよね~」
と、幸子と鮎子は手を握り合ってこの話のすべてを共感していた。その時、その噂の真澄とその旦那の高広の二人が店に現れた。その高広は、音吉に、
「真澄の姉がここで大変お世話になっていることを聞いてご挨拶にきました。いずれこの鮎子を私の方で引き取りますからそれまでなにかとご指導をよろしくお願いいたします」
それからこの5人で仲良く乾杯をしていたが、幸子がポツリと、
「世の中捨てる神あり拾う神ありというけれど…なんとなしにうまくいくのよね~」
というと、5人全員がそれぞれ違う意味で納得をしていた。
この小説「駆け込み寺居酒屋ポン吉」は55話まで書けています。🦊⛩️