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イギリス、それとも英国? 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㉓

2023-09-23 05:24:34 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㉓

イギリス、それとも英国?

 

英国

 

 

  'Dense Fog in the Channel, Continent Isolated (or Cut off)’―「海峡に濃霧立ち込め、欧州大陸孤立す」。'the channel’ とは英仏海峡を指す。これは、1939年の天気予報で使われた一節と言われているが、高級紙'The Times’或いは‘The Daily Telegraph’の記事だと言う説もある。
 ところが、こんな有名なフレーズなのに、どこを探しても原文が見つからないらしいのだ。実際は、英国人の心模様を表す良くできた作り話、都市伝説だと言うのが、真相らしい。大英帝国の尊大さがよく現れているといると観る向きもあれば、逆に島国根性をあげつらっているという解釈もあるようだ。
 英国に興味がある方なら、恐らくご存じであろうこんな使い古されたネタを書いたのには訳がある。最近の英国の動きが、こんな古典的な例えでは説明できなくなって来ていると思うからだ。

 英国は2016年6月23日、referendum(国民投票)を行う。その結果、投票者の 51.9%という僅差でEU(欧州連合)を離脱することを選択した。いわゆる Brexit である。英国の離脱は、欧州懐疑派と親欧州派のせめぎ合いの中で三度も延期されたが、2020年1月31日午後11時(GMT=グリニッジ標準時)にEUを離脱した。18歳から24歳までの若者の75%が反対していたのにも拘わらず、である。
 現在の英国では、前述のジョークを知らない若者が殆どで、伝統的な「傲慢な英国」像を嫌悪する傾向があると言われている。前期高齢者の私が言うのも妙だが、国の将来を老人が決めることの恐ろしさは、日本人にとって他人事ではない。
 当時のデービッド・キャメロン首相は、絶対に英国民は、EU に残留することを選ぶだろうと高をくくり、国民投票に踏み切ったが、まさかの結果に慌てふためいていた。その後の社会的混乱と分断による迷走ぶりは、目も当てられないほどで、これがあの聡明で狡猾なはずの英国の姿だとは信じられなかった。
 
 しかし、その後の英国の現状打開に向けた一連の施策には、目を見張らされる。Brexitの後、英国は、日本に急接近し、2023年1月11日に二国間関係を準同盟国に格上げする「円滑化協定」に調印し、同年7月16日にはTPP(環太平洋パートナーシップ協定) の 12カ国目の加盟国となった。
 大西洋に面した英国が何故TPPに参加 するのか首を傾げたくなるが、英国人の本領は、「融通無碍」なので驚くには当たらないだろう。更に、大英帝国のほぼ全ての旧領土である 56 の加盟国から構成される国家連合、コモンウェルス・オブ・ネイションズ(Commonwealth of Nations)との関係再強化に乗り出してもいる。

 英国は極西の、日本は極東の島国で、彼我の国民性はよく似ていると言われる。確かに、控えめで婉曲な表現を好むこと、人見知りすること、博物学に興味があり収集分類癖があることなどは似ていると言えなくもない。
 しかし、決定的に違うのは、日本人が硬直的な思考に陥りがちで優柔不断な傾向があるのに対し、彼らは、伝統を重んじながらも前述の通り、「融通無碍」であることだ。これは、本当に羨ましい。

 とはいえ、実際の英国人との付き合いは結構面倒くさいのである。誇張されてはいるが、英国人のコミュニケーションの特徴をよく捉えた風刺画を二つご紹介する。

 

▲礼儀正しくなければ相手にされない
《誤》「タスケテー!」
《正》「ちょっと、すみません、サー。あの、お手を患わせて誠に申し訳ないのですが、ちょっと助けていただけないでしょうか、勿論、ご迷惑でなければ、の話ですが」

▲(日本と似ている)自慢しない事、謙遜する事が大切
「なんて素敵なお家でしょう!」

《ダメな反応》「そうなんです。素敵なお家でしょ!ここに引っ越せて、私たち、とても幸せ!」
「ちょっと聞いた? なんて自惚れ屋さんなの!」

《正しい反応》「いえ、よく分かりませんけど…この家私たちとってはとても高かったし…あちこち構造上の不具合があるし…全部修理するにはとんでもないお金が掛かるし…ここが、こんなにうるさい場所だとは思ってもみなかったし…お隣さんは変な人たちだし…」
「ねえ、ジェーン、本当にいい子(娘)ね!」


 
 アメリカでは物事を誇張しがちなのに対し、英国では、控えめに表現する事が美徳と考える。米国人とのコミュニケーションで良いところは、分かりやすいと言うことにつきる。

 一方、英国人とのコミュニケーションは複雑である。京の「ぶぶ漬け(お茶漬け)」の話をご存じかと思うが、英国人の話は、基本的に「ぶぶ漬け」である。この傾向は、社会的地位、教養レベルが上がるほど顕著で、言葉の裏の真意をはかるのが難しい。面倒くさいが、私は、(特にビジネスにおいては)英国流の回りくどいコミュニケーションが結構好きだ。

 欧米人とのコミュニケーションでは、簡単に謝ってはいけないと言われるが、英国人は利害得失が絡まない場合、例えば、人とぶつかりそうになったときや、ちょっとしたことを頼むとき等、頻繁に ‘sorry' を使う。日本では、「ありがとう」の代わりに「すみません」というが、英国でも同じニュアンスで ‘sorry' を使う。但し、「ごめんなさい」の意味で ‘sorry’ を使うときには、かなりの確率で、'but it's not my fault’(でも、私のせいではありません)と言う言葉が続く。そんなとき、’OK, then whose fault is this?’(では、いったい誰のせいなの?)と訊くが、その回答が面白い。
 例えば、飛行機の CA がコーヒーをこぼして乗客の衣服を汚したとする。
「ごめなさい。でも、私のせいではなくて、飛行機が揺れたせいですから…」
 見積書の数字を間違えた場合には、
「すみません。でも、見積の数字を入手したのが、昨夜遅くで、十分チェックする時間がなかったので…」
 非を認めはするが、その非は、自分にあるのではなく、自分以外の「何か」か「誰か」のせいにしたいのである。
 
 ところで、「イギリス」をどう呼べば良いのかは、悩ましい問題である。「イギリス」という単語の由来は、16世紀末にポルトガル人宣教師が使っていた「イングレス(Inglêz)」が訛って「イギリス」になったと言われている。
「イギリス」の正式名称は、United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、略称は《the》UK )で、UK から北アイルランドを除いた3カ国は Great Britain (GB)と呼ばれるが、GBは地域の名称であり、国名ではない。
 なかなか複雑なのだが、日本語の「イギリス」は、文脈によってイングランド、UK、GB のどれにも当てはまるオールマイティな単語だ。明治以来使われ続けている単語なので、恐らく気に留める人は少ないだろうが、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドの人達を間違っても「イギリス人(English)」と呼んではいけない。とても失礼に当たるからだ。
 では、どう呼べばいいのか。UK と GB どちらもカバーする‘British’ 或いは British の短縮形 'Brit(s)’ である。

 上記のような認識の元では、イギリスと呼ぶのはとても気が引ける。それに私は、イギリスという(田舎くさい!?)語感も好きではないので、英国と呼ぶことにしている。かつての日本で使われていた「英吉利」が語源だ。因みに、外務省のホームページには、UK=英国と記されている。
 英国は、国名からしてややこしい国だが、英国人、英国文化もややこしく、懐が深い。英国は、ヨーロッパに属すると一般に認識されてはいるが、「英国は英国であって、ヨーロッパではない」と考えている人も未だに存在している。今でも、フランスやドイツに行くとき、「ちょっとヨーロッパ(大陸)に行ってくる」という人は結構いるのだ。

 ちなみに、現在の英国旗―ユニオンフラッグ(愛称=ユニオンジャック)の成立過程は、以下の図に示すとおりだ。お気づきになったかも知れないが、ユニオンフラッグにはウエールズ国旗の要素が反映されていない。これは、複雑な歴史的経緯に依るものだが、説明は別の機会に譲る。21世紀の初めに、ウエールズ国旗の要素を取り入れようとする動きがあったらしいが、現在のユニオンジャックの完成度の高さから、変更は不可能、ということになったらしい。

 

▲▼英国は、イングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドの 4 カ国の連合国

▲ウエールズ国旗


▲ユニオンフラッグの成り立ち

 

 

                                    

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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