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京都で提起された美術鑑賞のあり方 ~細見美術館「末法」展

2017年11月03日 | 美術館・展覧会

従来の細見美術館のイメージとは一線を画したポスター・デザイン

 

 

細見美術館で「末法(まっぽう)」展が行われている。末法とは、ごくシンプルに言うと、仏教の教えが効かなくなるこの世の果てのような時代のこと。摂関政治が全盛だった藤原道長ら平安時代半ばの貴族たちの間で大流行した思想だ。彼らは天変地異や治安の悪化が続く荒廃した世俗の世界から極楽浄土に行けるよう祈るために、金に糸目をつけずに仏像や経典の制作に熱中していた。そんな末法をコンセプトに、優れた美術作品を展示する斬新な展覧会だ。

 

細見美術館は、琳派や若冲を中心とした江戸絵画のコレクションと企画展示の質が非常に高いイメージがある。仏教美術のコレクションにも優れたものはあるが、企画展のテーマとして仏教美術を前面に押し出したものはあまり記憶になく、実際に美術館の公式サイトで過去の企画展実績を確認してもほとんどなかった。

 

そんなこともあって、細見美術館が向き合った「末法」というテーマに非常に興味を持った。入口に置かれた出品リストを見ると、公的な作品の格付けを示す国宝・重文といった文化財指定表示は一点もない。また展示作品の所蔵元がほとんど書かれていない一方で、過去にどこにあったか、誰が所有していたかを示す「伝来」が詳しく書かれていることにも気づいた。

 

法隆寺伝来「十一面観音立像」は、ガラスケースに入れずに展示されており、間近で見ることができる。接近しすぎは息がかかって作品を傷めるのでご法度だが、ここまで近くで鑑賞できるのは貴重な機会なのでゆっくりとみてほしい。何でもかなえてくれる十一面観音に祈った人々の思いを感じさせる優しい包容力のあるお顔をしている。

 

興福寺伝来「弥勒菩薩立像」は、鎌倉リアリズムの洗練された表現による落ち着いた表情のお顔に加えて、頭部や光背の繊細な金工が見事だ。糸のような細い光線が多数表現されており、とても神秘的で美しい。

 

「蔵王権現立像」は、身に着けた衣のひだの表現や、右手右足を上げた憤怒のポーズを取る体の動きの表現がとてもシンプルだ。個人的には昭和40年代頃のヒット映画「大魔神」が動くさまを思い出してしまったが、シンプルさがかえってこの像の魅力を増しているように思う。お顔は大魔神のように怖くはない。憤怒しているが、温かく見守ってくれているようにも見える。仮に自分の部屋にいらっしゃるとすると、とても落ち着く。そんな見事な作品だ。

 

ご紹介した作品の一部の画像は公式サイトで。

 

 

 

仏像・仏画・仏具など仏教美術以外にも、長谷川等伯、円山応挙、司馬江漢らの見ごたえのある作品が出品されている。いずれも所蔵者は明らかにされていないが、すぐれた作品を所有する個人(もしかしたら法人)がいて、この素晴らしい企画の実現に協力してくれていることは素晴らしい。

 

京都国立博物館では「国宝展」が行われている。こちらは出展作品がすべて国宝という、美術に詳しくない人でもわかりやすい展覧会だが、末法展の出展作品には文化財指定が一切表示されていない(もしかしたら表示していないだけで指定されている可能性もある)。ある意味、その作品が素晴らしいかを鑑賞者自身が見極めるよう仕向けられていると感じた。展示の最後には企画の意味をあらためて確認できる演出も準備されている。

 

国宝展と合わせてぜひ訪れてほしい。美術に少しでも興味のある方は、両展覧会の見せ方の違いを感じるだけでも面白いと思えるだろう。そんな実に興味深い展覧会だ。

 

 

 

美術館近くの岡崎公園はもう秋色、比叡山を借景にしたここだけの素晴らしい空間

 

 

 

 

日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。

 

 

御堂関白記から読み解く、平安貴族の筆頭格・藤原道長の宗教感はいかに?

 

 

細見美術館「末法」展

http://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex056/index.html

会期:2017年10月17日(火)~12月24日(日)

原則休館日:月曜

※出品作品は、期間中展示替えされるものもあります。

 

 

 


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