最近は展覧会のチラシで英語もよく見かけるようになった
京都国立博物館「国宝展」も会期の半分が過ぎ、III期目に入った。11月の京都は、紅葉や寺社の特別公開など例年から人出が多い。連休もあることからますます入館者が増えていくだろう。平日でも午前中は入館待ちが1時間になることも発生している。午後や週末の夜間など、可能な限り分散鑑賞を。
京都国立博物館 @kyohaku_gallery
III期は3Fの「考古」展示室が混雑している。日本で最も有名な国宝の一つである「金印」が展示されているためだ。この金印は、普通のハンコのサイズで2cmほどしかなくとても小さい。そのため展示ケースの最前列でないとよく見えないが、金印を最前列で見るための順番待ちが数十分以上発生しているようだ。
福岡市博物館でご覧になったことがある方は、まばゆいばかりの黄金の輝きを記憶されていると思う。とても小さいが見事なオーラを発している。単眼鏡がなくとも双眼鏡があればぜひお持ちになることをおすすめしたい。後列からの鑑賞は順番待ちをさせてはいないので、人のすき間から眺めることができる。単眼鏡や双眼鏡を通じてでも、うっとりするような金色を充分に味わえる。
この金印の横には、この金印を委奴国王にプレゼントしたとの記述がある中国の歴史書「後漢書」(南宋時代の写本、国立歴史民俗博物館蔵)も展示されている。日本史の教科書で誰でも知っている邪馬台国のロマンの話の根拠はこの歴史書にある。金印とセットで見ると、とてもかしこくなったような気分になれる。
2Fの「肖像画」展示室では、日本で最も有名な三人の肖像画が出迎えてくれる。実物大の人間よりも大きいサイズに驚かされるが、圧迫感を感じさせないよう線の表現は繊細で、観る者をとても落ち着かせる。近年の研究では教科書で習ったような源頼朝らの像ではないとの説が有力で、作品のタイトルにも「伝」がつけられている。しかしこの絵は、誰かわからなくても観る者を引き付ける不思議な求心力を持っている。二等辺三角形に揃えられた構図の中に、西洋の油絵の肖像画のような面的な表現ではなく、ほぼ線だけで人物の内面までを見事に描きあげている。日本美術が世界に誇る逸品であることは間違いない。
「近世絵画」展示室では、長谷川等伯・久蔵親子のペア展示が必見だ。久蔵による智積院・障壁画「桜図」は、左右に大きく張り出した枝に咲く桜の花が、金箔の上に浮きあがるような白い大輪で表現されており、春の生命力のある息吹を見事に表現している。一方等伯による「松林図」は、朝もやの中におぼろげに松林が見え、実に気分を落ち着かせる。久蔵に先立たれた後の制作で、等伯が渾身の力を込めて理想とする絵の世界を表現したのだろう。日本の水墨画の最高傑作と言われることに異論を持つ人は少ないと思う。
1Fの「絵巻物と装飾経」展示室では、「源氏物語絵巻」と並んで「平家納経」も必ず見てほしい。経典の装飾の荘厳さは見事で、平家がまさに金に糸目をつけずに最高の工芸品を求めた集大成である。料紙に散りばめられた金箔と人物の衣装の青色が絶妙のバランスで幽玄な雰囲気を醸し出している。
陶磁器では、東洋陶磁美術館の「油滴天目」がIII期からお目見えする。こちらも椀の中の宇宙に輝く幽玄な光に本当に見とれてしまう。「曜変天目」とは別次元の美しさをぜひ見てほしい。
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
日本で最も有名だが最もミステリアスでもある三人の肖像画を推理
京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝
http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/index.html
会期:III期2017年10月31日(火)~11月12日(日)
IV期2017年11月14日(火)~11月26日(日)
原則休館日:月曜
※展示作品には展示期間により異なります。事前にご確認ください。