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京博「佐竹本三十六歌仙絵」展_中世の超絶技巧に驚愕:前編

2019年10月14日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で特別展「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」が行われています。
 歌仙絵の最高傑作がちょうど100年前にバラバラになって以降、37作品中31作品が揃うという、過去最高の出席率を記録している”同窓会”です。



 目次

  •  「佐竹本」はなぜ美しいのか?
  •  「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?
  •  「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)


 「かけがえのない美術作品がどのようにして今に伝わっているのか」、展覧会では流転のいきさつにきちんとスポットをあてています。
 三十六歌仙絵の最高傑作の美しさは、歴代のオーナーはもちろん、観る者全員の心をとらえて離しません。
 内容が濃いだけにレポートも濃くなります。今回は前編です。





 「佐竹本」はなぜ美しいのか?

 日本美術は西洋美術とは異なり、単にモチーフを作品名としてきたため、同名の作品が数多く存在ます。
 そのため「~本(ぼん)」という、過去や現在の主だった所有者もしくは作者を指す表現で区別します。
 江戸時代の久保田(秋田)藩主・佐竹家に伝来したので「佐竹本」です。

 「三十六歌仙絵」とは、名立たる歌人の中から36人を厳選した、いわば”歴代歌人オールスター”です。
 平安時代半ばの藤原道長の時代に、文化人として最高峰にあった藤原公任(きんとう)が選定しました。
 鎌倉時代半ばにラインナップが定着し、現代に至るまで信奉を集めています。

 数ある三十六歌仙絵の中でも、佐竹本が最高傑作と目されるのは、何と言っても絵画としての美しさです。
 例えば、平安時代の絵巻物の登場人物は、皆一様に蟇目鉤鼻(ひきめかぎばな)で描かれており、顔の個性の違いはほとんどわかりません。
 一方、鎌倉時代半ばに造られたと考えられる佐竹本は、それぞれ顔つきが異なります。
 当時流行していた似絵の影響で、絵師は歌仙の個性をより明確に描き出そうとしたのです。

 各歌仙の顔の大きさは5cmほどしかありません。ぜひ単眼鏡を用意していきましょう。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 平兼盛」MOA美術館

 大晦日の慌ただしさをなげく平兼盛のうつむいた表情には、風流に長けた一流の文化人ならではの憂いを見て取れます(展示は11/10まで)。
 目線や唇の動きを交え、音や風に振り向くような一瞬をとらえた描写は、あたかも写真のように、歌に詠まれたシーンを感じさせます。
 佐竹本の絵師は藤原信実(のぶざね)と永らく伝えられてきましたが、最新の研究では否定的です。
 いずれにしろ、鎌倉時代の絵師の超絶技巧が強烈に印象付けられます。

 紙や絵具も超一級品で、贅沢な金泥もふんだんに使われています。
 鑑賞された多くの方は、中世の絵巻物としてはかなり美しいという印象を持つでしょう。
 高級で頑丈な素材に加え、保管状態が永らく良好でした。
 このように絵画作品を成立させるほとんどの要素とコンディションが、超一級なのです。

 現在は佐竹本のほとんどの作品は重要文化財です。
 100年前に「切断」されておらず、全員分が現存していれば、すでに国宝になっていた可能性が高いと思えてなりません。



 京博広報担当「トラりん」、営業お疲れ様です


 「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?

 鎌倉時代半ばに製作されたと考えられている佐竹本は、江戸時代に京都・下鴨神社で見たという記録がある以外、佐竹家が所蔵することになった由縁を含め、伝来はまったく不明です。
 そんな謎めいた伝来に加え、現在の価値観では信じがたい絵巻の「切断」が行われたことが、佐竹本の流転の運命を強く印象付けています。

 絵巻/屏風/襖絵といった複数の画面に描かれた作品を「分割」することは、日本では古来、珍しくありません。
 大正時代に益田鈍脳によって行われた佐竹本の「分割」は、余りに高額なため、ばら売りで買い易くする方法として採用されました。
 佐竹本は刃物で物理的に「切断」したわけではなく、絵巻の継ぎ目をはがしています。厳密には「分割」が正しい日本語です。

 【展覧会 公式ミニ動画】 NHK もっと、佐竹本 三十六歌仙絵。

 1919(大正8)年の切断からちょうど100年後の今年2019年、展覧会図録の解説によると、全37点中3品が行方不明と見られます。
 残る13点が個人所有、17点が私立美術館・寺社所有、国所有が4点です。
 超一級の日本美術の所蔵先としては、個人所有が目立って多く、国所有がかなり少なくなっています。
 私立美術館・寺社所有の多くは、佐竹本を入手した数寄者が設立した美術館です。
 数寄者=茶人の間での佐竹本の人気の高さは、脈々と続いています。

 一方佐竹本の「流転の運命」を如実に物語る数字もあります。
 100年前の切断・分割販売から、まったく所有者が変わっていないのは、わずか2点しかありません。
 野村証券の創業者・野村徳七が引き当て、現在は京都・野村美術館に収まる「紀友則」と、住友家当主・春翠が購入し、現在は京都・泉屋博古館に収まる「源信明」です。
 自分を本当に大切にしてくれる主人と出会い、一級の美術品が安住の地を得るのはとても困難なのです。





 「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)

 佐竹本三十六歌仙絵は、平成知新館の2Fに集中して展示されています。
 作品の配置にはかなり余裕があります。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

 大伴家持、在原業平、紀貫之、小野小町といったビッグネームの歌人が続々登場します。
 「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」、雅な言葉の響きに記憶がありませんか?
 そう、古今和歌集の在原業平の名歌です。佐竹本にも登場します。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」出光美術館

 中世の歌人にとって、万葉集の時代の「柿本人麿」は、歌聖と呼ぶに等しい伝説的な存在です。
 古くから歌会に掛ける歌人の肖像画として珍重されたため、佐竹本以外にも多数が出展されています。佐竹本では、仙人のように悟りを開いたかのような表情で描かれています(展示は10/29-11-10)。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 源信明」泉屋博古館

 源信明(みなもとのさねあきら)は、月を詠んでいるにもかかわらず、どこか浮かない表情で下を向いています。恋心が通じない信明の表情の描写が絶妙です(通期展示)。


 


 一人一人表情が異なるのが、やはり見事です。
 佐竹本の他の歌仙、他の歌仙絵、歌の名筆、江戸時代の歌仙絵と見応えはまだまだあります。
 100年前の「切断」で使われたくじ引き道具といった、珍品もあります。

 後期展示の作品を交え、後日後編として続きをレポートします。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 35年前に初めて絵巻の消息をたどったNHKの伝説のドキュメンタリー番組を書籍化


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 利用について、基本情報

 <京都市東山区>
 京都国立博物館
 特別展
 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:京都国立博物館、日本経済新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、京都新聞
 会場:平成知新館
 会期:2019年10月12日(土)~ 11月24日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

 ※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
  詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
 京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
 JR「京都」駅から徒歩20分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
 京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
 ※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
 ※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
 ※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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