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京都 泉屋博古館「花と鳥の四季」展_江戸花鳥画の写実表現はスゴイ

2019年11月11日 | 美術館・展覧会

京都・泉屋博古館で、住友コレクション自慢の江戸時代の花鳥画を披露する企画展「花と鳥の四季」が行われています。
狩野派・土佐派・琳派・文人画・円山四条派・若冲、江戸時代のオールスターによる花鳥画を俯瞰できる展示構成が素晴らしい展覧会です。





目次

  • カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力とは?
  • 江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?
  • 花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い






カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力は?

絵に詳しくなかった頃、ハナトリガと読んでしまい、「お前は花鳥風月を知らないのか?」と、とても恥ずかしい思いをした記憶があります。
「カチョウガ」、確かにとても「風流」を感じさせる発音です。
絵画としてもやはり、生きものが持つ美しさを最大限に引き出した「風流」な表現が最大の魅力でしょう。

花鳥画は、大自然を雄大に描く山水画と共に、中国絵画の伝統的なモチーフです。
花鳥画が最も盛んになったのは宋代で、宮廷画家による写実的で緻密な画風「院体画」の主要モチーフとして今に伝わる名品が多く制作されました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「秋野牧牛図」泉屋博古館

本展には出展されていませんが、泉屋博古館の至宝である国宝「秋野牧牛図は、宋代の超一級品です。
大自然の中で生きる牛をモチーフに雄大に描いており、花鳥画とも山水画とも解釈できます。

日本では室町将軍が「唐物(からもの)」として珍重したこともあり、宋~元代の中国の花鳥画が盛んに輸入されました。
以来、伝統的なやまと絵と融合させた画風が狩野派で確立され、花鳥画は日本絵画においても主要なモチーフとして、すっかり定着していきます。

なお花鳥画には、植物や鳥だけでなく、動物・魚・昆虫といった生きもの全体を含めます。





江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?

江戸時代になると、生活を楽しむ余裕が町衆にまで広がり、生活空間や茶会を彩るツールとして、屏風・掛軸の形式で花鳥画のニーズがとても高まります。
動植物のモチーフは、季節感があって誰でも親しみやすいからです。
武家の間でも同じ頃、狩野派にマンネリが目立つようになっており、新しい画風が求められていました。

そんな花鳥画ニーズが高まるタイミングの1731(享保16)年、招かれて長崎にやって来たのが清朝の宮廷画家・沈南蘋です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →沈南蘋「雪中遊兎図」に注目!

沈南蘋による「雪中遊兎図」はかなり古風な趣があります。
沈南蘋は、清代に中国で主流だった文人画ではなく、宋~元代の院体画のような画風を得意としていました。

写実的で緻密な画風は、室町時代の唐物趣味を思い出させるように、瞬く間に人気に火が付きます。
沈南蘋自身の作品のほか、南蘋派と呼ばれた弟子たちの作品は、狩野派の次を担う絵師たちに大いに刺激を与えました。
その代表例が、伊藤若冲と円山応挙です。

特に応挙は、それまでの日本絵画には見られなかった、徹底的な写生を重視した描き方を確立します。
以降の日本画の主流として、円山・四条派が隆盛は続けることになります。

【美の五色】 円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

京都国立近代美術館で本展とほぼ同時並行で行われている「円山応挙から近代京都画壇へ」展でも、沈南蘋の影響が強い名品が多数展示されています。
泉屋博古館から徒歩15分ほどの距離です。
鹿ケ谷から岡崎にかけて、秋空の下で楽しむ京都の散策はいかがでしょうか?



泉屋博古館にほど近い紅葉の名所・永観堂


花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い

今回の展覧会では、花鳥画の中でも写実表現が見事な作品が特に目立っています。

【所蔵者公式サイトの画像】 彭城百川「梅図屏風」泉屋博古館

彭城百川(さかきひゃくせん)は、柳沢淇園らとともに日本文人画の祖の一人で、与謝蕪村より20歳ほど年上の絵師です。
「梅図屏風」では、画面いっぱいの巨大な幹と枝を、きわめて緻密に表現しています。

「梅」は中国では「高潔の士」の寓意です。
文人画らしいモチーフをダイナミックに表現した名品と言えます。
その後池大雅など、文人画でも緻密な表現を得意とした絵師たちが、育っていくことになります。

【所蔵者公式サイトの画像】 伊藤若冲「海棠目白図」泉屋博古館

「海棠目白図(かいどうめじろず)」は、若冲作品の中でも愛くるしい表現が際立つ作品です。
描写は明らかに中国の花鳥画の影響を受けており、若冲が得意とした鶏の緻密な表現にもつながっていることがうかがえます。

淡い花びらが美しい中国のリンゴの仲間・海棠は、「美女」の寓意です。
その美女に花を添えるように、愛くるしいメジロが身を寄せ合うように枝にとまっています。
「目白押し」の語源となった様子は、若冲の手にかかると完璧な写実画に変身するのです。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応瑞「牡丹孔雀図」に注目!

何という美しい孔雀の羽のグラデーションでしょうか。
応挙の長男・応瑞(おうずい)にも、写生を重視する血が受け継がれていることがわかります。
孔雀に隠れるように地面から高すぎない位置に描かれた可憐な花びら、孔雀の胸のふくらみがわかる立体感ある表現、写真がなかった江戸時代には極上の写実画だったことは間違いありません。

この展覧会を見ると、同じ江戸時代でも時代が下るほどに、絵師たちは写実の腕を高めていることがわかります。
浮世絵でも同じですが、平和な時代にあって、絵師たちはたっぷりと先人の作品を見て学ぶ機会に恵まれていました。
そんな江戸絵画の潮流まで見えてくる素晴らしい展示構成を、泉屋博古館は自館コレクションだけで、できるのです。
館の実力を「否応なく思い知らされる」展覧会です。





泉屋博古館は来年2020年で開館60周年、館内では大々的な展覧会が予告されていました。
秋の「名品展」は住友コレクションの名品オールスターになるようです。
大注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



江戸の花鳥画はなぜ洗練されているのか?


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利用について、基本情報

<京都市左京区>
泉屋博古館
秋季企画展
花と鳥の四季
住友コレクションの花鳥画
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:泉屋博古館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月26日(土)~12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「宮ノ前町」バス停下車徒歩1分、「東天王町」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「蹴上」駅1番出口からから徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~40分
京都駅烏丸口D1バスのりば→市バス100系統→宮ノ前町

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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