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泉屋博古館・京都「付属品と楽しむ茶道具」展 ~寛永のみやこ人の熱中ぶりが伝わってくる

2018年03月12日 | 美術館・展覧会


回廊の先に展示室があります

京都・鹿ケ谷の泉屋博古館で「付属品と楽しむ茶道具」展が始まりました。茶碗や釜など茶道具そのものだけでなく、箱書き・極め・袋など茶道具の価値を伝えたり、茶道具と合わせて鑑賞した「付属品」にもスポットをあてていることがこの展覧会の面白いところです。

後水尾天皇の「二条城行幸図屏風」と合わせ、江戸時代初期の茶の湯ワールドがとてもよくわかる展覧会です。

【公式サイトの画像】 二条城行幸図屏風


展示順の冒頭で、この館の“名物”である「二条城行幸図屏風」が出迎えてくれます。前期展示はレプリカですが、後期展示は原本が展示されます。最新技術を駆使した屏風のレプリカは、写真撮影したものをインクジェット出力し、表装の仕上げは職人が行っています。言われない限りレプリカとは気づかないレベルの出来栄えです。

一点数千万円のコストがかかりますが、長期展示に耐えない日本絵画の展示頻度を大きく高めることができる素晴らしい技術です。ぜひ応援したいものです。

この屏風のモチーフとなった後水尾天皇の行幸が行われたのは、1626(寛永3)年でした。後水尾天皇と秀忠の娘・和子夫妻を招く行幸を、徳川幕府の威信をかけて行ったものです。二条城の現在の姿は、この行幸のために改装されたものです。豊臣の世は終わったものの政治経済は安定し、京都は日本文化の中心となって繁栄を謳歌していました。

武家・公家・大寺院・富裕な町衆といった上流階級は、茶の湯を通じた交際を一層盛んにし、権威のある茶道具の需要が爆発的に増えた時代でもありました。しかし秀吉時代以前の東山御物を含む最高クラスは持ち主が手放すはずはなく、流通しません。この需給ギャップに応えたのが、作事家としても著名な小堀遠州こと小堀政一(こぼりまさかず)です。

千利休、古田織部、織田有楽斎と続く茶の湯界のリーダーは、寛永時代には小堀遠州がその地位を築いていました。遠州は自ら目を付けた名品に和歌や古典文学に因んだ名前、すなわち「銘」を付けて箱書きを行い、新たな“名物”として世に送り出します。そのため遠州の箱書きはとてもたくさん残されています。

【公式サイトの画像】 唐物文琳茶入 銘「若草」


唐物文琳茶入・銘「若草」は、遠州とも親交があり、家康~家光の三代に渡って将軍のブレーンとなった金地院崇伝(こんちいんすうでん)の旧蔵品です。江戸時代初期の茶道具の流行がどんなものであったか今に伝える銘品です。

本体の茶入れは赤い盆にのせられたとても小さな壺です。何重にも箱に入れられ、最後はスーツケースのような大きな箱に収まっています。箱書きが増える、茶入れを包む仕覆(しふく)が増える、その茶道具の鑑定書である「極め書き」が加わる、などの要因でどんどん箱の数が増えていった結果です。

大切なものは「包む」という日本文化の特徴を強く実感させる展示です。西洋文化では存在しない価値観で、箱書きを大切にすること自体がとても不思議がられます。西洋文化にはそのモノが積み重ねてきた縁起(経緯)により、モノの良し悪しを権威付けしようという価値観はありません。なぜそんなに日本と異なるのだろうと考えると、文化というものの奥行きの深さに改めて感服してしまいます。

【公式サイトの画像】 千宗旦「日々是好日」


三千家の祖・千宗旦による一行書「日々是好日」は、独特の筆跡がとてもオーラを発しています。千宗旦は権力者への仕官もせず、とてもストイックな茶の湯修行に打ち込んだことから「乞食宗旦」と呼ばれていました。ほぼ同世代で時代の寵児となった小堀遠州とは対照的です。筆跡に優雅さや豪放さは感じません。しかし僧が書いた書のように、字に魂を感じます。

後陽成天皇による一行書「雪月花」ほか、多くの書も展示されています。それぞれの筆者の生き様を感じることができます。茶会を盛り上げるために数寄者が蒐集に熱中した品々を見ていると、とてもマニアックにも感じます。しかし一品一品には確かな美しさがあります。そんな美しさを堪能できる展覧会です。


こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



茶道具管理のバイブル


泉屋博古館(京都)本館
「付属品とたのしむ茶道具 ~千宗旦から松平不昧まで、江戸時代の茶人の書とともに」
https://www.sen-oku.or.jp/kyoto/program/

主催:泉屋博古館
会期:2018年3月3日(土)~5月6日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、3/25までの前期と3/27以降の後期で一部入れ替えがあります。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。


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