世界遺産建築にドガの踊り子はよく合う
世界で最も有名な日本人画家である葛飾北斎による西洋絵画への影響を主眼に構成する「北斎とジャポニスム」展が、国立西洋美術館で始まっている。150年前の「クール・ジャパン」がどのようなものであったかを、とても考えさせられる。
「ジャポニスム」とは、遠近法や立体感といった写実的表現を用いずにモチーフや構図の魅力を伝える浮世絵の斬新な表現に驚いた欧米人が、急激に日本文化に関心を持った19世紀後半のブームのことを指す。幕末に開国した日本にやってきた欧米人が本国に伝えたことがきっかけになって起こったもので、欧米で開催された万国博覧会に旧幕府・藩や明治政府が出品した寺社建築・庭園・工芸品もブームに拍車をかけた。
モネやゴッホといった印象派やポスト印象派の画家たちが、浮世絵を真似たように見える作品を多く残していることは、日本でもよく知られている。この展覧会はそんな「ほとんど模写した」「構図・表現をパクった・参考にした」ことを対比して確認できるよう、北斎の作品と欧米画家の作品を並べて展示していることが最大の特徴だ。
並べて展示された作品にはそれぞれ類似性が解説されている。しかしその解説が納得できるかは鑑賞者の好みだ。「確かに似ているけど、本当に参考にしたと言えるかはわからないのでは?」と感じるのはごもっとも。本当に参考にしたかは、それを立証する客観的な文書の記録は通常ありえないため、誰にもわからない。作者本人も参考にしたかは分からない場合があると言っても過言ではない。
芸術とは、過去に作られた作品よりもさらに魅力的な作品を作ろうとする芸術家たちの信念の蓄積の結集だ。本物と欺くよう仕向けない限り、より多くの人から評価された作品は一歩進んだ芸術とみなされる。「パクった・参考にした」ことよりも、できた作品が真に魅力的かどうかが本質的に大切なことだ。
ゴーガンの「三匹の子犬のいる静物」は、下半分に果物を、上半分に水を飲む子犬を描いた作品で、上下がそれぞれ主題になっている。静物と動物がツインで主題になっている構図は斬新で、静物と子犬が同じ表面にある(いる)ように描かれている。静物はテーブルの上、子犬はテーブルの下にいることが通常で、西洋絵画の立体感(写実性)を無視して描かれている。立体感を気にしないのはとても日本的な描き方であることは然り。
ピサロの「モンフーコーの冬の池、雪の効果」は、センターにまっすぐ伸びる樹を配しているが、後景に主題となる池と牛を描いている。樹を主題の引き立て役としてあえて前面に配置するのは日本の伝統的な表現手法だ。現代の風景写真でも「赤く染まった紅葉の葉の奥に主題となる五重塔が見える」構図を美しいと感じることはよくある。
19世紀後半に新しい表現に挑戦した西洋の画家たちの思いを感じることのできる展覧会だ。北斎の作品もさることながら、対比される西洋画家の作品にとても見応えがある。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
西洋美術史の第一人者が西洋と日本の文化交流を論じた名著
国立西洋美術館「北斎とジャポニスム―HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2017hokusai.html
主催:国立西洋美術館、読売新聞社、日本テレビ放送網、BS日テレ
会期:2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。