日本画と言えば「山種」、今回は「玉堂」
山種美術館で、没後60年を記念した「川合玉堂」展が始まった。山種美術館は、山種証券(現:SMBCフレンド証券)を創業した山崎種二の個人コレクションを母体に設立された美術館で、日本画のコレクションと展覧会の企画力にはいつも感心させられる。山崎種二は玉堂との親交が深かったこともあり、玉堂作品を70点ほど所有している。玉堂を主題にした展覧会は、山種美術館としては2013年以来となる。
展示作品は、山種所蔵品を中心に玉堂美術館や東京国立博物館、東京国立近代美術館が所蔵する玉堂作品も集められており、玉堂ファンにはたまらない代表作が一堂に会する展覧会となっている。
川合玉堂と言えばやはり、豊かな自然をモチーフにした作品がまずは思い浮かぶ。この展覧会でも若き頃1895(明治28)年の秀作「鵜飼」(山種美術館蔵)が観る者をまず出迎えてくれる。玉堂は愛知県一宮市の木曽川近くの出身で、故郷の風景である「鵜飼」を頻繁にモチーフにしている。この「鵜飼」は岩山の下で鵜飼にいそしむ人々を描いており、山水画のような雄大な構図が観る者を引き付ける。
円熟期の1919(大正8)年の「紅白梅」(玉堂美術館蔵)は、琳派の表現を彼なりに深化させたものだろう。玉堂作品としては珍しいように思うが背景は何も描かれておらず、金箔に紅白二本の梅の木が自らの美しさをさりげなく主張するように淡々と描かれている。木の幹・枝と花しか描かれていないシンプルさが作品の存在感を高めているものの、とても上質で整った表現だ。
1942(昭和17)年「松上双鶴」(山種美術館蔵)は、館の2018年カレンダーの表紙にも採用されている。二羽の鶴がとても美しい絵で、慶事の際に掲げるとよく合う。この鶴、実は太い松の枝に乗っており、現実にはありえない光景だが、そんな違和感を全く感じさせない。鶴と松というとても基本的な「めでたい」モチーフを、玉堂らしいとても上品な表現と構図でまとめあげている。
1944(昭和19)年、戦火を避けて奥多摩・御岳に疎開した翌年の作品「早乙女」(山種美術館蔵)は、田植えをする娘たちを描いている。奥多摩の谷あいに作られた棚田であろうか、狭い面積に田が区切られているが、田の水や土を感じさせるものは何も描いていない。ただ一生懸命働く娘と早苗が描かれているだけである。戦争末期のとても厳しい時代に、米を作るという日本人の営みの原点のような風景に玉堂は何かの希望を感じたのだろうか、時代背景を踏まえると実に奥深い。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
山種所蔵のとても美しい日本画が2018年カレンダーに、表紙は「松上双鶴」、3,4月も玉堂
山種美術館「川合玉堂」展
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2017/kawaigyokudo.html
主催:山種美術館、日本経済新聞社
会期:2017年10月28日(土)~12月24日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。