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上野・東博「デュシャン」展 12/9まで ~摩訶不思議な魅力のとりこに

2018年10月22日 | 美術館・展覧会

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)という20世紀の芸術家の名前は、ピカソに比べると知らない人が多いでしょう。綺麗に言えば「形式にとらわれない」、ぶっちゃけて言えば「摩訶不思議」な20世紀のモダンアートの扉を開いた巨匠がデュシャンなのです。

そのデュシャンの作品が大挙して、アメリカのフィラデルフィア美術館から東京国立博物館に来てくれています。デュシャン作品を国内でまとまって鑑賞できる機会はそうそうありません。展示の最後には、日本美術の傑作も鑑賞することができます。デュシャンの「摩訶不思議」ワールドをぜひお楽しみください。



デュシャンは活動の大半をアメリカで行い、帰化もしましたが、1887年生まれのフランス人です。彼の制作は1904年にパリに出てからですが、当初は絵画作品を制作していました。

展覧会の第1章では印象派・象徴主義・フォービズムなど当時の画風の影響を受けた作品で構成されています。彼に絵画のイメージはあまりないので、斬新に鑑賞できます。この時代の最高傑作「階段を降りる裸体 No. 2」も来てくれています。

【公式サイトの画像】 「階段を降りる裸体 No. 2」

当初フランスで保守派からタイトルに対してクレームが付き、彼がこの後絵画を一切制作しなくなったきっかけと言われています。しかし1913年のニューヨークの展覧会では、賛否両論あったものの大きな話題を集め、デュシャンの名をアメリカで一躍有名にしました。裸体というよりもロボットが階段を下りるように見える、キュビズム表現の傑作です。

第2章は、既製品を利用したオブジェ作品である「レディ・メイド」を制作し始めた1910年代です。デュシャンのイメージが最も強い作品です。最初のレディ・メイド作品である「自転車の車輪」(展示はレプリカ)は、既製品を芸術作品に見せた記念碑的な作品です。現代では普通の手法になっていますが、当時鑑賞した人はどのように感じたのか、とても興味を持ちました。

【公式サイトの画像】「自転車の車輪」

彼の代表作、通称「大ガラス」はフィラデルフィア美術館にある原本の写真と東大所蔵のレプリカが展示されています。多くの人にとって一見意味不明の典型的な作品です。とてもシンプルな禅宗庭園のように、意味を自分で考えさせる目的で作ったのかと、思ってしまいました。最低10分間を目標に、意味や印象を言葉にしてみると面白い発想がきっと浮かんでくるかもしれません。

【公式サイトの画像】 フィラデルフィア美術館「The Large Glass」

オブジェ作品は、レプリカや写真による展示が少なくありません。「輸送の振動に耐えられないほど繊細」「分解できずトラックに載せられない」「紛失」といった理由です。彼の代表作として名高い便器のオブジェ「泉」も、オリジナルは紛失しています。

第3章は1920年代から第二次大戦のころまで、デュシャンの活動がさらに自由奔放になった時代の展示です。1921年から彼はチェスに没頭し始めます。創作活動は架空の女性「ローズ・セラヴィ」に扮し、ささやかに行う程度になります。

彼が女装してローズに扮したポートレート写真が印象的です。撮影はデュシャンがリード役となった最新の芸術運動ニューヨーク・ダダで、もう一人の盟主となった写真家マン・レイです。

第4章は、デュシャンが晩年を過ごした戦後の時代です。彼の死後に発表され世間を驚かせた、通称「遺作」の原本の設置映像が流されています。「遺作」は彼が20年以上一切口外せずに制作を続けていたもので、彼の遺言でフィラデルフィア美術館に設置されました。

フィラデルフィア美術館は現在世界随一のデュシャン作品を所蔵しています。コレクションの核は長年彼のパトロンでもあったアレンズバーグ夫妻からの寄贈品です。その後も他のコレクターからの寄贈も受け続け、まさにデュシャンとは赤い糸で結ばれているような美術館です。


フィラデルフィア美術館

私は訪れたことがあります。展示スペースはニューヨークのメトロポリタン美術館並みの巨大さで、古代からモダンまで名作が本当によく揃っています。アメリカの地方都市の美術館はどこも巨大で、本当に名品を多く持っています。出張・旅行の際にはぜひ訪れてみてください。



第2部として日本美術とデュシャンほか西洋アートの価値観を対比し、日本美術の新しい楽しみ方を提案する展示が行われています。写楽の「岩井半四郎」や本阿弥光悦の国宝の蒔絵など、出展作自体はとても見応えがありますが、価値観対比の提案には少々無理を感じます。ただし日本と世界の価値観を対比すること自体は素晴らしい試みです。新たな提案を期待したいものです。

デュシャン展会場の反対側では、快慶・定慶の美仏とお会いできる「大報恩寺」展が同時開催されています。セット入場券もありますよ。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



摩訶不思議を具体化する


東京国立博物館
東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画 特別展
マルセル・デュシャンと日本美術
【美術館による展覧会公式サイト】
【美術館による展覧会特集サイト】

主催:東京国立博物館、フィラデルフィア美術館
会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場:平成館 2F特別展示室 第1室・第2室(大報恩寺展の向かい側)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)

※第2部「ヂュシャンの向こうに日本が見える」に出展される日本美術は、10/2~10/28、10/30~11/18、11/20~12/9の3期に分けてほとんどの展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、第1部「ヂュシャン 人と作品」に展示されるフィラデルフィア美術館所蔵品のみ、2018年2月から韓国・ソウル・国立現代美術館、2019年4月からオーストラリア・シドニー・ニューサウスウェールズ州立美術館、に巡回します。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影とWeb上への公開が可能です。ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒は禁止です。

フィラデルフィア美術館
【公式サイト】http://www.philamuseum.org/ (英語)



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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