阿部房次郎(あべふさじろう)の名は決して知名度は高くないと思いますが、実業家として大正から昭和初期にかけて収集した中国書画のコレクションの充実ぶりが国内外で知られています。重要文化財4点を含む、唐から清代まで中国書画の名品が揃っています。
房次郎の死後に一括してコレクションの寄贈を受けた大阪・天王寺の大阪市立美術館で、この阿部コレクションの主要作品を公開する展覧会が始まっています。房次郎が存命中に寄贈していた東京国立博物館の所蔵作品も出品され、とても内容の充実した展覧会になっています。
中国書画の歩みをこれほどの規模で俯瞰できる展覧会はめったにありません。
近くにはあべのハルカス
阿部房次郎は明治維新の年に彦根に生まれ、滋賀県を中心に数々の業種の企業経営に携わった人物です。現在の東洋紡の社長も務め、戦前の経済界の重鎮として知られていました。
阿部コレクションが質量ともに充実することになったのは、清朝末期の北京の収蔵家・完顔景賢(かんがんけいけん)の所蔵品をまとまって入手できたことでした。世界的にもほとんど残っていない宋代以前の名品が多いことから、阿部コレクションの名を世界的に知らしめることになったのです。
実業家が美術品を収集するのは古今東西同じですが、日本は明治維新と太平洋戦争の二度の混乱で多くが散逸してしまっています。また公共の美術館に寄贈する文化が希薄で、欧米の美術館のように質量ともに圧倒的な巨大美術館が育っていません。
この点で阿部は、日本のコレクターとしては稀有な人物です。存命中から収集品は公開することを良しとしていたこともあり、死後に遺族から大阪市立美術館に一括寄贈されることになったのです。大阪市立美術館は、国内でも寄贈品によるコレクション形成が目立つ美術館です。東博・京博も寄贈品は少なくありませんが、税制上のメリットや美術館での保管スペースなど、まだまだ課題が多いのが現状です。
【公式サイト 主な出展品の画像】 「阿部房次郎と中国書画」主な展示(ページ中ほど)
展示は2Fで行われています。希少価値があるだけに唐・宋代の作品にやはり目が行きます。重要文化財の伝:王維筆「伏生授経図」はコレクション最古級の唐~宋代に製作された絵画です。時間の積み重ねを感じさせる書にいそしむ人物の描写は、日本の平安時代の絵巻物のような風格も備えています。
「五星二十八宿神形図」は6c南朝の画家・張僧繇の筆とささやかれていますが定かではありません。天女が鳳凰に乗って空を舞う様子は、西域のエキゾチックで優雅な描写の影響を思わせます。正倉院宝物のような存在感があります。
続く金代の重要文化財・宮素然筆「明妃出塞図」は、中国四大美人の一人・王昭君の悲劇を描いた作品で、北方騎馬民族らしい猛々しい描写で表現されています。墨の線だけでほとんどを表現する白描が美しい名品です。
これら三点は完顔景賢の旧蔵品です。
元代の龔開筆「駿骨図」は、ひどくやせ細った馬の姿とやたらに多い収蔵印の数が目を引きます。不思議な人を引きつけるオーラがあり、稀有な運命をたどってきた作品と感じます。
清の乾隆帝の宮廷画家・金廷標筆「春元瑞兆図」は、仙人が山中で岩を見上げる姿が気品良く描かれています。仙人の衣の緑と山の木々の緑の対比がとても上手です。華嵒筆「秋声賦意図」は与謝蕪村の文人画を思わせるような、洒脱でほのぼのとしたタッチが個性的です。
全部で80点の出展作品を見て回るとかなり濃厚です。時代に応じた画風の変化もとてもよくわかります。1F展示室では、「ルーヴル美術館展 肖像芸術」も同時開催されています。ルーヴル展のチケットで阿部房次郎展も鑑賞できますので、あわせてどうぞ。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
日本書画の手本となった中国書画の魅力とは?
大阪市立美術館
特集展示 生誕150周年記念 阿部房次郎と中国書画
【美術館による展覧会公式サイト】
会期:2018年10月16日(火)~2018年11月25日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30
※11/4までの前期展示、11/6以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
◆おすすめ交通機関◆
JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
各駅から天王寺公園内を通って徒歩5~10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。有料の天王寺公園地下駐車場が利用できます。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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