戦前を代表する美術館建築
大阪市立美術館で特別展「江戸の戯画」が始まりました。
「戯画」は風刺画・漫画と正確に区別することは難しいですが、笑いを誘うような親しみのある絵を指します。平安時代の鳥獣戯画をまず思い浮かべますが、江戸時代にもとてもたくさん描かれています。かの北斎漫画も江戸時代を代表する戯画の一つと言えます。
この展覧会は、江戸時代の戯画の原点ともいえる「鳥羽絵(とばえ)」にスポットをあてます。江戸の戯画の花を咲かせた葛飾北斎、歌川国芳、河鍋暁斎の一連の戯画作品からはユーモアの表現を追い求めた絵師たちの熱量を充分に感じることができます。中でも国芳の戯画の傑作「金魚づくし」は必見です。
鳥羽絵は18世紀末の大坂で流行しました。中心となったのは耳鳥斎(にちょうさい)という絵師で、少ない筆で細長い手足の人物を滑稽に描くのが特徴です。「地獄図巻」では、鰻屋が地獄で鬼に串刺しされて焼かれている表現など、とてもユーモアにあふれています。
鳥羽絵の語源は、江戸時代に鳥獣戯画の作者と考えられていた(現代では否定的)鳥羽僧正にちなんだものと考えられています。耳鳥斎も熱烈な鳥羽僧正の信奉者でした。
【公式サイトの画像】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています。
耳鳥斎は江戸における浮世絵の最隆盛期からは少し早い人物です。江戸では美人画の喜多川歌麿(きたがわうたまろ)や鳥居清長(とりいきよなが)とほぼ活躍時期が重なります。
この頃の江戸では五七五七七で社会風刺や滑稽をよむ狂歌が大流行しており、狂歌本の挿絵として動物などを擬人化した戯画が描かれていました。東西で戯画が隆盛を始めていたことになりますが、江戸はあくまで狂歌の添物に過ぎませんでした。
「北斎漫画」は、鳥羽絵のように絵そのものが楽しめる作品です。笑いを取るのではなく絵の手本・図柄集として製作されたものですが、北斎も鳥羽絵を見て刺激を受けた可能性は低くないと思われます。北斎漫画の人物や動物の流れるようなポーズは、一目で何をしているかわかるようとてもわかりやすく描かれています。
江戸の戯画は歌川国芳が大成したといっても過言ではありません。奇抜なモチーフで知られる国芳は、動物では猫をよく描いています。
しかし今回の展覧会の目玉は「金魚」です。擬人化された金魚が船頭になって船を進めている「いかだのり」は、大川(隅田川)の風景を描いた普通の浮世絵のようです。まったく違和感がありません。金魚のひれや尾を人間の手足に見立てた描写はそれだけ洗練されています。
大坂で芽生えた鳥羽絵は、江戸でとても洗練されていったことがよくわかります。大坂は武士がほとんどおらず、お上を風刺する絵は人気になりにくい環境にあります。そのため鳥羽絵は純粋にユーモアを追求した戯画だったと思われます。
一方、江戸は幕府のおひざ元で何かにつけてお上から“規制”されたこともあり、狂歌絵のような風刺画の人気が出やすい環境にあります。また江戸は参勤交代や商売で江戸から地方に戻る際の手土産ニーズもありました。
こうして戯画の市場規模が大きかった江戸で、多くの絵師によって新しい戯画の表現が次々と生み出されていきます。
江戸戯画のラストを飾るのは河鍋暁斎(かわなべきょうさい)です。反骨精神の強かった彼は、動物を擬人化して日常の事件を大画面でよく描いています。彼の緻密な描写は、戯画を戯画と思わせないほど洗練されています。
戯画は明治になると「ポンチ絵」と呼ばれた新聞や雑誌の挿絵として、戯画はさらに人気が出ます。来日した外国人画家も風刺画を多く描き、戯画の表現はますます多様になっていきます。
現代の漫画は、このような鳥羽絵や戯画へのあくなき挑戦を経て形成された文化だということがよくわかります。時代の空気をシンプルかつユーモラスに表現しようとした絵師たちの情熱をとても感じる展覧会です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
江戸時代の動物画の多様性にはまさに驚愕
大阪市立美術館
特別展「江戸の戯画-鳥羽絵から北斎・国芳・暁斎まで」
http://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/edonogiga
主催:大阪市立美術館、毎日新聞社、MBS
会期:2018年4月17日(火)~6月10日(日)
原則休館日:月曜日
※5/13までの前期展示、5/15以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
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