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京都に“国宝展”が再来_京博「寄託の名宝」展 9/16まで

2019年08月16日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で「京博寄託の名宝」というあまり聞きなれない名前の展覧会がおこなわれています。寄託(きたく)とは、所有者が美術品を博物館に預かってもらう制度のことです。京博は特に寄託品が多い国立博物館であり、この展覧会はさながら”国宝展”と呼んでもよいほどの豪華ラインナップが登場しています。

  • 日本で最も有名な国宝「風神雷神図屏風」「伝源頼朝像」も寄託品、本展にも堂々のご登場
  • 京博が預かる寄託品から国宝36点/重文59点が出展、2年前2017年の国宝展を彷彿とさせる
  • これだけの質と量の展覧会だが特別展にあらず、常設展料金で鑑賞できる


京都で間もなく開催される博物館の国際組織ICOM(アイコム)の世界大会を記念した特別企画です。京博の”出血大サービス”展覧会です




京都国立博物館は1889(明治22)年に開館した国立博物館です。廃仏毀釈や明治維新の混乱で保存状態が危機に瀕していた文化財を収容するために、奈良国立博物館と同時期に開設されました。

1872(明治5)年に開設された東京国立博物館は、明治新政府の中央博物館として、国家予算で文化財を購入したり、全国から寄贈を受けることで、国立博物館が所有者となる「収蔵品」を増やしてきました。一方京都/奈良の国立博物館は、保管がままならない寺社から文化財を預かることで「寄託品」を増やしてきました。こうした開設時の性格の違いが現在の各国立博物館が保管する収蔵品/寄託品のバランスにも明確に現れています。

国立博物館を統括する(独行)国立文化財機構の2017年の年報で公表された各国立博物館の収蔵品/寄託品の内訳をご紹介します。

  • 東博 全120,569点保管:収蔵品97%/寄託品3%、国宝:収蔵品89点/寄託品55点
  • 京博 全14,212点保管:収蔵品56%/寄託品44%、国宝:収蔵品29点/寄託品86点
  • 奈良博 全3,855点保管:収蔵品49%/寄託品51%、国宝:収蔵品13点/寄託品53点
  • 九博 全1,812点保管:収蔵品49%/寄託品51%、国宝:収蔵品3点/寄託品2点


この数字の傾向を”まとめる”と以下になります。

  • 東博は、保管点数そのものが群を抜いて多く、収蔵品がほとんどを占める
  • 京博/奈良博は、寄託品の割合が非常に高い
  • 京博は、寄託品の国宝点数が目立って多い


今回の展覧会は「寄託品の国宝点数が目立って多い」京博の特徴を見事に活かしています。安価な常設展料金で鑑賞できるのは、京博自館の保管品だけで構成できる展覧会だからです。



京博・明治古都館

京博の寄託品の所有者は、やはり1200年の古都だけあって寺社が圧倒的に多く、その寺社の所在地は京都以外の関西全域や地方にも広がっています。

寺社は明治の廃仏毀釈の混乱で多くの文化財を手放していますが、それでも圧巻の名品が数多く今に伝えられています。寺社は公家や商人のように東京に拠点を移さなかったためですが、逆説的に考えると廃仏毀釈で存続さえ危ぶまれた仏教寺院は、新首都に拠点を移す余力などまったくなかったでしょう。

今となっては京都や奈良の寺社は世界的な観光コンテンツになっています。歴史上の出来事はまさに表裏一体であることを強く感じさせます。



京博のこの噴水が猛暑をなぐさめてくれる

この展覧会は会期が約1か月と短いですが、日本美術ではよくある”展示替え”がありません。1か月というのは光/温度/湿度の影響で長期展示に耐えられえない日本美術の最長展示期間の一つの目安です。世界中から博物館関係者が集まるICOM京都大会が9/1-7に行われるのに合わせた、絶妙の日程です。

展示は通常の常設展示と同じ、文化財のジャンル別に構成されています。3Fの陶磁器から始まります。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 野々村仁清「銹絵水仙文茶碗」
【京都国立博物館 公式サイトの画像】 「青磁貼花牡丹唐草文瓢形瓶」

見覚えのある名品が多数並んでいます。その中でも江戸時代はじめに陶工として初めて名前を残すようになった野々村仁清(ののむらにんせい)の作品は、やはり別格です。

本拠地の京都に伝えられた数少ない名品「銹絵水仙文茶碗」が、水仙が描かれた雅な趣をしっかりと今に伝えています。仁清を見出した当代随一の茶人・金森宗和の菩提寺・天寧寺に伝えられており、京の公家たちに絶大な人気を誇った「姫宗和」と呼ばれる茶道の風流が凝縮されたような重要文化財です。

「青磁貼花牡丹唐草文瓢形瓶」は、曼殊院に伝えられる南宋から元時代頃の瓢箪型の瓶です。青磁の上質な色合いが際立っており、茶会で花生として披露された際に客人を魅了していた様子が目に浮かんできます。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 「伝源頼朝像」
【京都国立博物館 公式サイトの画像】 「伝平重盛像」

2Fに下りた肖像画の展示室では、日本のみならず世界的な肖像画の名品として知られる2つの肖像画、神護寺に伝わる国宝が展示されています。日本人にとっては「源頼朝」として名高い肖像は近年の研究では「誰かわからない」とされていますが、正三角形の美しい幾何学的な構図、精緻な写実的な表現、気品の高さはやはり格別です。誰かわからなくとも、観る者を確実に魅了します。

「伝平重盛像」はパリで2度展示されたこともあり、世界的にはこちらの方が有名です。「伝源頼朝像」に比べ、権力者としての表情の描写が理想化されていません。誰かはわかりませんが、権力者としての苦悩までも感じさせる表現を目の当たりにすると、世界的に著名な逸品であることが納得できます。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 「釈迦如来像(赤釈迦)」

神護寺に伝わる「釈迦如来像(赤釈迦)」は、日本の仏画の中でも「孔雀明王像」東博蔵と並ぶ最高傑作の一つと呼べる逸品です。截金(きりがね)が散りばめられた彩色は、1000年の時を重ねた平安時代の作品としては驚きの美しさを保っています。暗闇の密教儀式の中で蝋燭の灯りだけに照らし出されたこの像は、まさに後光が差しているように感じられるでしょう。

【展覧会 公式サイトの画像】 狩野正信「竹石白鶴図屏風」
【京都国立博物館 公式サイトの画像】 狩野元信「四季花鳥図」

室町時代の障壁画の名品もきちんと登場しています。大徳寺真珠庵に伝わる狩野派の祖・正信の「竹石白鶴図屏風」は、室町将軍が長らく愛した中国の唐絵の表現にやまと絵的な趣を、センターに配した一羽の鶴に見事に演じさせている重要文化財です。唐絵とやまと絵を融合させた狩野派の原点を感じさせるとともに、屏風や襖絵のような大画面で室内空間を飾る時代の幕開けをも告げています。

大徳寺大仙院に伝わる正信の子・元信の「四季花鳥図」は、唐絵とやまと絵の融合をさらに前面に押し出し、狩野派隆盛の礎を築いた元信の代表作です。松の木肌/鳥の羽毛/花びら、主役となるモチーフ描写の生命感の表現は見事で、絵画表現が中世から脱却したことを思わせる歴史的名品の一つです。現在重要文化財ですが“国宝昇格が近いのでは”と個人的に感じています。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 俵屋宗達「風神雷神図屏風」

「伝源頼朝像」と並んで日本で最も有名な国宝の一つ、俵屋宗達「風神雷神図屏風」は建仁寺所蔵です。今回の展覧会でも主役を務めるにふさわしい、あっぱれのオーラを輝かせています。風神と雷神だけが屏風の左右の隅っこに描かれているシンプルな構図が、何よりも雲の上で振る舞う二神の雄大な動きを際立てせています。とくと向き合ってみてください、雷や風の音のリズム感まで聞こえてきます。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 顔輝「蝦蟇鉄拐図」
【京都国立博物館 公式サイトの画像】 「秋景・冬景山水図」

中国絵画も見覚えのある名品が目白押しです。百万遍知恩寺に伝わる重要文化財・顔輝「蝦蟇鉄拐図」は、“きもかわいい”とも表現できるほど仙人をリアルかつ怪奇的に描いた元時代の傑作です。科学の概念がなかった時代に、超人的な能力を持つとされた仙人のイメージを見事に表現していると感じられます。

「秋景・冬景山水図」は南禅寺金地院に伝わる国宝で、北宋の徽宗皇帝の筆という説もあります。室町時代の唐物の最高評価である東山御物の一つです。大自然に佇む文人が小さく描かれているにも関わらず、絵の全体の拡張を際立って高めています。まさに中国大陸の奥深さを表現した名品です。



電柱がなければ素晴らしい青空なのに

寄託品や寄贈品は近年増加傾向にあり、以下の要因が想定されています。

  • TV番組「なんでも鑑定団」の影響で、多くの旧家や寺社が蔵に眠っていた昔の品に目を向けるになった
  • 日本画の高精細複製技術の進歩で複製品が常設展示されるようになり、寺社から障壁画の原本が寄託されるようになった


寄託や寄贈が増えると

  • 歴史や文化の研究が促進
  • 優れた美術品の公開機会の拡大
  • 安全な保管

など、博物館や鑑賞者にとって多くのメリットが生まれます。寄託の場合は、所有者が保管リスクから解放されるメリットが大きく、しかも無料で預かってもらえます。

寄託/寄贈が増えるのは望ましいことですが、受け入れ側である博物館の保管・展示スペース、文化財の価値を見極め研究する学芸員、のダブル“不足”という問題があり、特に国立博物館では深刻です。世界の主要国に比べ文化財予算が少ないことが大きく影響しています。

世界中で日本“グルメ”の人気はすでに不動のものとなっていますが、日本文化のイメージを牽引する次のエースは“美術”でしょう。4つの国立博物館はその“顔”にあたります。

  • 企画展だけでなく常設展も鑑賞する
  • 外国の友人を案内する機会があったら常設展に連れて行く

4つの国立博物館とも高いレベルで常設展を楽しめます。“企画展以外はつまらない”という“思い込み”には、4つの国立博物館は該当しません。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ハシモトが語る、京都になぜこんな名品があるのか?

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<京都市東山区>
京都国立博物館
ICOM京都大会開催記念 特別企画
京博寄託の名宝 ─美を守り、美を伝える─
【美術館による展覧会公式サイト】

会場:平成知新館
会期:2019年8月14日(水)~9月16日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30、9/7は~16:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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