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戦後の前衛芸術はすごい_山村コレクション展 兵庫県美 9/29まで

2019年08月09日 | 美術館・展覧会

兵庫県立美術館で「山村コレクション」展が始まっています。戦後の日本のモダンアートのコレクションとしては日本有数で、「前衛」や「具体」をキーワードに蒐集された”新しい芸術”をたっぷりと楽しむことができます。

  • 実業家・山村徳太郎が戦後に蒐集し、兵庫県立美術館に一括寄贈したコレクションを一挙紹介
  • 山村コレクション展は20年ぶりで過去最大規模、戦後モダンアートを俯瞰できる蒐集は素晴らしい
  • 山村の蒐集の経緯や作品に魅了された理由をきちんと紹介、物語のように展示は展開していく
  • 1950~80年代の”新しい芸術”からは、まさに昭和ニッポンのエネルギーが感じられる


昭和を知っている方も知らない方も、最新の現代アート作品は昭和アートの延長線上にあることを肌で感じることができます。素晴らしいコレクションです。




山村徳太郎(やまむらとくたろう)(1926-1986)は、兵庫県西宮市でガラス瓶製造の山村硝子(現:日本山村硝子)を経営していた実業家です。1955(昭和30)年に社長に就任した頃から国内外のモダンアート作品の蒐集を始めます。途中で戦後の日本人アーティストの作品に対象を絞った後、1986(昭和61)年の死の直前までコレクションは続けられていました。

当初蒐集していたミロ/エルンスト/デュビュッフェ/レジェ/ポロックら海外の大家の作品は、1966(昭和41)年に国立西洋美術館に寄贈されています。

【国立西洋美術館 公式サイトの画像】 ジョアン・ミロ「絵画」
【国立西洋美術館 公式サイトの画像】 フェルナン・レジェ「赤い鶏と青い空」
【国立西洋美術館 公式サイトの画像】 ジャクソン・ポロック「ナンバー8, 1951 黒い流れ」

これら作品は西洋美術館の常設展示の常連になっています。西洋美術館のモダンアートの主要作品として、記憶にとどめている方も少なくないでしょう。




展覧会場入り口では、山村の写真と共に「出会いこそ人生」という彼の収集哲学のキャッチコピーが目を引きます。評価の定まっていない最新のモダンアート作品は、オールドマスターのようにオークションに出てくるのを待つ、というわけにはいきません。膨大な作品の海の中の小魚との出会いを大切にした、山村の人生観をも物語る名言です。


展覧会PR動画



展示室内の光景

兵庫県立美術館の企画展示室は、立体でサイズの大きい作品の展示が充分に想定されており、今回のようなモダンアートの展覧会では天井の高さが特に爽快に感じられます。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 津高和一「母子像」1951年
【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 津高和一「雷神」1958年

展示はおおむね作品の蒐集順に構成されています。I章は「社長業の傍らで-さまざまな出会い 1950~1970年代」、津高和一(つだかわいち)の作品から展示が始まります。全9点が出展されており、「母子像」→「雷神」のように抽象表現に磨きがかかっていく時系列的な変化がよくわかります。”すごく抽象”を感じさせるジュンク堂のブックカバーのデザインは津高和一です。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 須田剋太「縄文記号」1965年

須田剋太(すだこくた)は司馬遼太郎「街道をゆく」の挿絵画家として知られ、力強いタッチの抽象画が特徴的です。ジェラルミン粉末まで用いて表現した油彩画「縄文記号」は、そんな須田の個性がとてもよく伝わってきます。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 斎藤義重「ペンチ」1967年

斎藤義重(さいとうよししげ)の「ペンチ」は青い怪獣のようにも見えます。今回の展覧会のテーマ「前衛」を代表する作品として、展覧会チラシ表紙に採用されています。板にラッカーを塗って描いており、究極に平面的な表現と色彩の明確さが際立っています。

斎藤は海外でも評価の高い前衛画家で、この作品が発表された1967には画家としての地位は確立されていました。山村はデビュー当初から斎藤の作品を購入していますが、「ペンチ」はかなり高額になっていたことでしょう。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 元永定正「ポンポンポン」1972年

元永定正(もとながさだまさ)は主に絵本作家として活躍しましたが、絵本であっても”前衛”的な表現に個性を見出せます。「ポンポンポン」にはどこか子供が興味を持ちそうな不思議さと温かさが備わった名品です。



美術館廊下は、山村コレクション年表

日本の戦後の前衛芸術の大きな節目となった大阪万博が終わった後、戦後の関西で前衛芸術をけん引してきた具体美術協会が1972(昭和47)年に解散します。オイルショックなど高度経済成長が曲がり角を迎える中、モダンアートにも次を模索する動きがみられるようになります。

山村のコレクションも新たな時代を模索し始めます。II章は「転機 1970年代末~1980年代初頭」です。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 高松次郎「影(#394)」1974-75年

作品のコンセプト(概念)やアイデアを伝えることを重視するコンセプチャル・アートの分野で、日本に大きな影響を与えた高松次郎(たかまつじろう)は、日本の戦後芸術の”転機”を例えるにふさわしいアーティストです。

「影(#394)」は描いている対象は具体的ですが、なぜその絵を描いたのを観る者に考えさせる強いオーラを発しています。「この絵は何を示しています?」と絵がささやいているのです。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 篠原有司男「女の祭」1966年

篠原有司男(しのはらうしお)は、ボクシングのグローブに絵の具を付け壁に殴りつけて描くパフォーマンスで一世風靡したアーティストです。「女の祭」は抽象から具象に振り子が戻された様な作品です。

モチーフが人物であることがわかり、浮世絵のように登場人物がポーズを決めるが如く描いていますが、顔が全く描かれていません。蛍光塗料で描かれた色彩はド派手で、悪趣味と評される篠原の個性が出ていますが、民族や世代の枠を超えて親しまれるような温かさも持っています。名品です。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 吉原治良「作品」1966年

吉原治良(よしわらはるよし)は吉原製油(現:J-オイルミルズ)の御曹司に生まれ、社長業と並行して抽象画家として名を馳せるようになった異色の人物です。具体美術協会創設のリーダー役ともなり、嶋本昭三/白髪一雄/村上三郎/元永定正ら、この展覧会にも多くが出展されているアーティストたちが吉原の下に集まりました。

今では「グタイ」は戦後の様々な現代アートの先駆者として位置づけられるようになり、海外でも「グタイ」の名はよく知られています。

円形をモチーフにした作品で知られ、出展されている赤地に青い丸をアクリルで描いた「作品」はその典型です。新しい表現を模索し続けてきた戦後の前衛に対し、究極にシンプルな円形のモチーフは「絵画表現とは何か」を常に見つめ直させるようなオーラがあります。前衛画家にとっては禅問答のテーマのように見えたのではないでしょうか。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 浮田要三「作品」1958年

「グタイ」が評価を得ていた欧州で山村は、具体美術協会に参加した画家たちの作品の評価の高さに驚きます。「転機」の時代において、一昔前の表現の素晴らしさにあらためて魅力を感じたのです。浮田要三(うきたようぞう)の「作品」もそんな一つで、いかにもアンフォルメルを思わせる激しい表現が目を引きます。



MUSEUM ROAD

円熟味を増した山村の蒐集活動は、失われた作品の再制作やアーティストへのインタビューを通じて、その時代の芸術活動を記録に残そうとする方向にも発展していきます。III章「更新は続く-中断の間際まで 1983~1985年」では、晩年の山村の芸術支援活動が紹介されています。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 中辻悦子「内外」1983年

中辻悦子(なかつじえつこ)はグラフィックデザイナーで、夫は元永定正です。夫の作品のように優しさがあふれた表現に心が温まります。

【兵庫県立美術館 公式サイトの画像】 吉村益信「豚・pig lib;」1971年

展覧会のアイドルが展覧会の大トリを務めます。吉村益信(よしむらますのぶ)の「豚・pig lib;」です。吉村は日本の過激な前衛芸術集団「ネオ・ダダ」を篠原有司男らと共に結成したアーティストで、のような強烈なモチーフ表現で知られています。

「豚・pig lib;」は、豚のはく製を輪切りにして表現していますが、グロテスクさを全く感じさせません。人間の食生活を支える豚の尊厳を表現したような敬意すら感じさせます。名品です。

「山村コレクション」展はモダンアートの展覧会です。歴史や文化の知識がなくとも十分に自分とアーティストの両方の感性を楽しむことができます。三宮のすぐ隣にあります。ぜひお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



戦後の日本の現代アートの知識を整理しませんか?

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<神戸市中央区>
兵庫県立美術館
ICOM京都大会開催記念 特別展
集めた!日本の前衛-山村德太郎の眼 山村コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:兵庫県立美術館、神戸新聞社
会場:3F 企画展示室、ギャラリー
会期:2019年8月3日(土)~9月29日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒と動画撮影は禁止です。

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「岩屋」駅下車、徒歩8分
JR神戸線「灘」駅下車、南口から徒歩12分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR大阪駅(阪神梅田駅)→阪神電車→岩屋駅

【公式サイトのアクセス案内】

※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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