本が読みたい!

子育ての合間に少しずつ読んでいる本の感想や、
3人の子ども達に読み聞かせる絵本の紹介など、本にまつわるお話です。

吉田松陰

2007-06-09 | 
この本は”歴史人物シリーズ”の幕末維新の群像第11巻です。評伝形式で書かれています。

以前、司馬遼太郎の「世に棲む日々」で読んだ松陰しか知らなかったので,小説ではなく 本物に近い松陰を読みたいと思っていました。評伝形式なんてうってつけで、飛びついて読んでみました。

大方の話は 「世に棲む日々」と重なり、おもしろさ的にも 小説にはかなわないけど
やはり、こちらのほうが取り上げて紹介している文も多いし、証言も多数あり より松陰に近づけた気がします。

松陰がこんなに有名なのは 松下村塾の門下生の活躍が大きいです。塾生名簿は存在しなかったので,正確な数字はわかってませんが、およそ300人位だろうと言われていて、そのうち、熱心に通っていたのは三十数人。10代が3分の2を占めていました。

主要な門下生のうち明治まで生き残り活躍した塾生は、伊藤博文、山形有朋、品川弥二朗といった人々で、その他のほとんど久坂玄瑞、高杉晋作、吉田稔麿などが 討幕運動途中で亡くなっています。

松下村塾は 1年ほどしかやっていなかったのに、その後の日本へこれだけ影響ある人物を量産送り出した松陰とは・・・・最後の最後まで教師であったということ。松陰の生まれてきた役割は 何か為すことではなく、為す人物を育てる事であったようです。

松陰と接した人々が異口同音に言うのは 言葉が丁寧で人あたりが優しい,と書かれていました。年長者にも年少者にも誠実に対応したらしい。日常、低い声で丁寧にしゃべりまるで、婦人のようだった、などの話も。「勉強なされられい」というのが口癖だったそう。

そんな温和な松陰が激しい情念を発する時は講義のときでした。門下生の天野御民の回顧を抜き出してみます。
「先生門人に書を授くるにあたり、忠臣孝子、身を殺し節に殉ずる等の事に至る時は、満眼涙を含み、声をふるわし、甚だしきは点々書にしたたるに至る。 これを以て門人もおのずから感動して流テイするに至る。 また逆臣君を苦しますが如きに至れば、まなじり裂け、声大にして、怒髪逆立するものの如し、弟子またおのずからこれを悪<にく>むの情を発す」

いかに松陰が激しいものを内に持っていたのか、想像できます。

門下生達だけでなく長州藩主にも松陰は いくつもの上書を提出しています。長州はいかに動くべきか、国家として取るべき方策は、などなど。

ただ、時期が早すぎたんですよね。この頃の長州はまだ中央の動きを傍観する「観望論」でした。時代に合っていなかった松陰。

下田踏海事件(密航失敗事件)も捕らえられ罪に問われたけど,その15年後には岩倉使節団が正式に横浜を出発している。アメリカを訪問し,ヨーロッパを回るというコースも目的も松陰と同じでした。15年早すぎた・・・

密航成功させてあげたかったな,と思います。外国を見た松陰がどんなに変わって帰って来るのか。
でも、松陰無しの倒幕なんて考えられませんよね。

有名な「親思う心にまさる親心けふぼ音ずれ何ときくらん」は 松陰の作で、家族仲がものすごく良かったそう。それも最後に書き添えます。



「吉田松陰」 歴史人物シリーズ 幕末維新の群像第11巻
古川薫
PHP研究所