獅星に会いたい★

仕事帰りの電車でのこと・・・。

ひとみ犬はいつも帰りの電車は、１本見送ってでも座って帰る。
で、今日も「どの席座ろうかなぁ・・・」と思いながら電車に乗り込んだ。
すると、その両の中ほどに小さなベイビーを抱っこ紐で抱っこしてる
男の人を発見した。
「男の人がベイビーを一人で抱っこしてお出かけなんて珍しいものよのぉ～」
そして次の瞬間には、
「あのベイビーの横に新聞広げてふんぞり返ったようなオッサンが座らんようにしたらな！」
と思い、他に席はたくさん空いてたのに
なんの迷いもなく彼らの横に座っちゃいました。
これって母性本能？！

シートに座ったひとみ犬は、今朝街頭でもらったフリーペーパーを
眺めていました。横からのカワイイ視線を感じつつ・・・。
横の親子は知らない人だし、ベイビーが気になっても
あんまりジロジロみると「こいつ変なヤツかも？」と思われるかなぁ・・・
と思って、必死に「私はあなた達には興味ありませんよ★」
ってな感じで装ってみた。

けど、やっぱりその視線に耐え切れずベイビーに目をやると、
そのクリクリのお目目をパチクリさせて、なんとも表現できないほどの
カワイイすぎる笑顔で、「抱っこして～っ」と言わんばかりに
両手を伸ばしてきた
またそのベイビー、マジでメチャ可愛いのに驚き
本当にオムツのＣＭとか、雑誌に出てきそうな可愛いベイビーでした

すると、抱っこしていた男の人（←パパ）が
「おねぇちゃんのこと、好きなん？」と言った。
するとベイビーは、ケタケタと笑い、パパの胸に顔をうずめた。
そしてすぐまたひとみ犬に手を伸ばし、ひとみ犬の腕を握った。
パパが「お母さんだと思ってるのかな？」なんて言うから
「そんな～、お母さんのお顔と違うよねぇ～」とベイビーに話しかけてみた。
あんまり可愛いベイビーだったから、きっとママはとっても
美人なママなんだろうなぁ、と思い、謙そんして出た言葉だった。

するとパパはさらりと言った。
「こいつ、お母さんがいないんで・・・。僕一人で育ててるんです」と。
ひとみ犬は、
「そうなんですかぁ。」と返すのが精一杯だった。
なんて言えばいいのかわからなかったから。

そんな話をパパとひとみ犬がしているのに
ベイビーは、やっぱりひとみ犬に手を伸ばしてくる。
ひとみ犬、次に出た言葉は
「なんてお名前なんですか？」
パパは「シセイです。獅子座の獅という字に星と書いて獅星（しせい）です」
と教えてくれた。
美しい名前だと思った。この子にピッタリだと思った。

そして、甲子園までの短い時間だったけど
そのパパと、色々話した。
電車で知らない人と話すのはこれが初めて
獅星は生まれてまだ８ヶ月なのに、もうハイハイが出来ること。
獅星をお風呂に入れる時の話。
パパと獅星の毎日。パパは仕事に行く前に獅星を託児所に預けて
それから仕事に行く。普段は車で通勤しているらしいけど
最近車が故障したらしくて、修理に出していて
その間だけ電車で通勤してるんだってぇ。
途中、獅星の目はうつらうつら閉じて、おやすみモードに・・・

そんな色々な話を聞いて自然に出た「大変ですねぇ」という
ひとみ犬の言葉に、パパは
「そうですね、大変ですけど、これは僕が選んだ道ですから。
　この子を目に入れても痛くないんですよ。」
と、笑みを浮かべながら答えてくれた。
その強さと優しさに、ひとみ犬は自分の中に弱さを感じた。
何が？と言われるとわからないけど、感覚的に胸を突く感情をおぼえた。
これが親なのかぁ・・・、と尊敬の念すら感じた。

そしてお別れの時。
パパは、「獅星、おねぇちゃんに、また会えたらいいね」
と言って、眠る獅星の手を握り、その手をこちらに振ってくれた。

車が修理から返ってくるまでの１ヶ月、
もしかすると、また会えるかもね。
今度会った時も、きっとひとみ犬は獅星とパパの隣に座りたいなぁ