クリスマスイブ6日前の日曜日の午前9時。ガオは少し緊張しながら、リサの家に電話をかけていた。
るるるるる、ガチャ!となって、
「あ、僕、金曜日の夜に会った、ガオ・・・」
と言いかけて、留守電のメッセージが流れているのに気付き、ガオが、何をメッセージに残そうか考え始めた時だった。
「ガオくん?わたし、リサよ」
と、少しくぐもったようなリサの声が聞こえてきた。
「あ、リサさん、居たんですね。家に・・・留守かと思いました」
と、ガオが言うと、
「うん、昨日仕事が遅くなって・・・ちょっと深夜帰りになったものだから・・・熟睡してたの。でも、ガオくんの声で起きれるなんて、朝からしあわせだわ」
と、リサは淀みなく話す。
「いやあ、そんな・・・」
と、少し照れるガオ・・・。
「ところで、リサさんって、リョウコちゃんの同僚なんですよね?国家公務員とか、聞きましたけど・・・」
と、素直な疑問をリサにぶつけるガオ。
「そうだけど・・・一応身分は秘密にしておかなければ、いけないの。だから、聞かないで。リョウコも仕事の内容は言ってないでしょ?」
と、リサはやさしくガオに言う。
「ええ、そういえば・・・まあ、そういうことなら、僕はこれ以上詮索しませんよ」
と、やわらかく言うガオ。
「ありがとう。そうしてくれると、うれしいわ・・・それより、ガオくん、今、わたし、どんな格好だと思う?どんな格好でベッドで寝ているか、わかる?」
と、リサは、ガオに質問している。
「え?ああ・・・パジャマってことは、ないですよね?」
と、少しおずおずと聞くガオ。
「まさか・・・全裸よ。今、全裸で、ベットに横になりながら、話しているのよ」
と、リサは妖しく言う。
「そ、そうなんですか・・・」
と、ガオは、少しつばを飲み込む感じ。
「ガオくん、今、わたしの全裸、想像したでしょう・・・」
と、リサはいたずらっぽく話す。
「い、いえ、そんな・・・」
と、照れるガオ。
「いいのよ、素直に思ったことを口にしても・・・悪いことじゃ、ないんだから」
と、リサは、妖艶に言う。
「いや、それは、ええ・・・」
と、ガオは少し混乱している。
「それより、ガオくんの声って、暖かくって、とっても、魅力的なのね・・・」
と、リサは、話す。
「え?いやあ・・・身体が大きいせいかもしれないですけど、少しひとより、低音みたいで」
と、ガオは、体制を整え直し、素直に話している。
「ガオくんのその素敵な美声で・・・わたしのこと、好きって、言ってみて」
と、リサは甘えるような口調で言う。
「え?いやあ・・・その・・・」
と、ガオはさすがに戸惑いを隠せない
「アミさんは、「大人の恋」は、決して恋を言葉にしないとか、言ってたよな・・・」
と、裏で考えるガオ。
「ねえ、言って・・・それとも、わたしのこと、嫌い?」
と、リサはガオに甘える。
「い、いや、好きですよ・・・それは・・・」
と、こちらも恋を言葉にしてしまうガオ。
「じゃあ、言って・・・好きだって」
と、リサ。
「・・・」
と、ガオは恥ずかしくもあり、少し抵抗があって、言葉に出来ない。
「言って」
と、リサが迫る。
「あの・・・僕はリサさんが好きです・・・大好きです」
と、ダムが決壊し、一気に陥落するガオ。
「わたしも、あなたのことが、好き・・・初めて見た時から、あなたを気に入ったの・・・」
と、リサは、妖しい目をしながら、話している。
「ガオくん」
と、リサが言うと、
「はい?」
と、緊張しているガオ。
「あなた、さっきは、否定したけど、わたしの全裸なシーン、昨日から、何回想像した?」
と、リサはさらに妖しく攻めていく。
「え、いや・・・それは、だから・・・」
と、ガオはさらに緊張し、脳は硬直していく。
「言って、何回、想像した?」
と、リサは、さらに妖しく攻めていく。
「それは、あのー」
と、ガオも困惑している。
「言って」
と、リサは、さらに攻めこんでいく。
「えーと、10回は、その・・・はい」
と、ガオは、完全に、大人の女性に翻弄されている。
「ふーん、ガオくん、わたしのこと、抱きたいんだ?」
と、リサは、核心へ攻め込んでいく。
「いや、その・・・それは、ええと」
と、ガオは、さらに硬直し、何を言っていいのか、わからなくなる。
「抱きたいんでしょ?」
と、リサはさらに攻め込む。
「・・・」
と、ガオは言葉にしないのが、せめてもの抵抗。
「ふふ・・・冗談よ。ガオくんは、かわいいから、つい、いじめてみたくなっちゃったの」
と、リサは明るい口調で話す。
「は、はあ・・・そうでしたか・・・」
と、ガオはそう返すので精一杯。
「ふふ・・・ガオくんの声を聞きながら、いじってたら、濡れてきちゃった」
と、リサは妖しい口調で、また言う。
「え?そうなんですか?」
と、言いながら、息を飲んでいるガオ。
「わたしたち、関係したことになるわね・・・」
と、リサは、妖しく言う。
「いや、僕は、そんなつもりは・・・ええと」
と、ガオは困惑し、翻弄される。
「ふふ・・・冗談よ、ガオくん・・・大人の女性の冗談」
と、リサは、明るく笑いながら、話す。
「でも・・・今ので、ガオくんのも、ビンビンになったんじゃなくて?」
と、リサは妖しく聞く。
「・・・」
と、ガオは息を飲みながら、自ら確認するガオ。
リサの言う通りだった。
「リサさんの言うとおりです・・・」
と、ガオが報告すると、
「ガオくんのことだから、さぞや逞しいでしょうね」
と、少し明るく話すリサ。
「は、はあ・・・」
と、ガオは翻弄されまくりで、息も絶えだえ。
「ありがとう。ガオくん、楽しかったわ。わたし、今日も仕事なの。帰りも遅いから、もし何かあったら、留守電にいれておいてね」
と、リサはさっきとは別人のように、明るくテキパキと話すと、
「好きよ、ガオくん。またね」
と、電話を切るリサ。
「は。それでは、また・・・」
と、切れた電話に向かって、しゃべるガオだった。
ガオは、切れた電話を見ながら、少しの間、困惑していた。
困惑しながらも、胸はドキドキするし、モノはビンビンだし・・・完全に大人の女性に翻弄されたガオだった。
「リサさんは、別格だ。大人のおんなの手練手管という奴か、あれ・・・」
と、言葉にする。
「アミさんの言っていた、平和な「大人の恋」とは、全然違う・・・リサさんは、言葉だけで、俺を欲情させることが出来る・・・コワイ女性だ・・・」
と、ガオは、人生で初めて会った種類の女性に戸惑いを隠せなかった。
「これは・・・アミさんに洗いざらいぶちまけて、これから、どうするか考えなければいけないな・・・」
と、ガオは決断していた。
しかし・・・。
「まだ、ドキドキしている・・・こんなドキドキ初めてだ・・・彼女と本当の恋をしたら、もっと、ドキドキ出来るかもしれない・・・」
と、一方でそんなことも考え始めていたガオだった。
危険な恋が、始まろうとしていた。
同じ頃、イズミは、中王大学理学部数学科4年の田中美緒(22)の部屋に電話をかけていた。
るるるるる、ガチャ、っと音がして、
「はい、田中です」
と、明るい美緒の声がした。
「もしもし、僕、昨日会った、数学科OBの沢村イズミです」
と、イズミはしれっと名乗っている。
「ああ、昨日お会いした先輩ですか・・・おはようございます」
と、美緒は、なんとなく警戒。
「おはよう・・・昨日飲み会で、河西くんと話していたら、君の話題になってさ・・・河西くんも君に告白した口なんだって?」
と、イズミは、昨日獲得した情報を最大限活用して、美緒に話をさせようとしている。
「ああ・・・河西くん、そんな話を沢村さんにしたんですか・・・実際、そうですけど・・・」
と、なんとなく口が重い、美緒だった。
「まあ、いいや、単刀直入に言おう。君は間違っている。人間の行為として、間違ったことを、し続けてるってことを、君にいいたくてね。それで電話したんだ」
と、イズミは、スバッっと言い切った。
「はあ?」
と、美緒は突然上から目線で否定されて、さすがにムカっとしたらしい。
「人の話を受け入れず、男性の尊厳を踏みにじり続けていいなんて法律は、どこにもないってことさ。君の同級生たちは、河西も含めてかわいそうだ」
と、イズミが言うと、
「・・・」
と、そこは本当の話だけに、何も返せない美緒だった。
「君もわかっていると思うが、彼らが不幸なのは、すべて、君が悪いせいだ。君が一番悪い。それくらいは、わかっているだろ!」
と、挑発するイズミ。
「だからさ・・・」
と、イズミがその先を続けようとした矢先、
「あのー、わたし、もう、出なきゃいけないんです。すいません、ごめんなさい!」
と、美緒は、少しキレ気味に、早口で、そう被せながら言うと、電話は、がちゃりと切られてしまった。
「ほう・・・」
と、イズミは、苦笑すると、受話器を電話機に戻す。
「思った以上に頑な、だな」
と、イズミは、少し笑顔になる。
「逆に言えば、落としガイがあるって、ことだ」
と、イズミはニヤリとしながら、言う。
「今年のクリスマス・ターゲットは、彼女だな」
と、イズミは言う。
「俺も、本当の恋がしたいんだ。人生を真面目に考えている、真面目な女性と・・・本当の恋を・・・」
と、イズミは、真面目な表情をしながら、いつしか言葉にしていた。
「俺を本当に大事に思ってくれる、真面目な女性と、本当の恋を・・・」
イズミは、次の手を考えていた。
クリスマスイブ6日前の日曜日の午前10時。ブランチを済ませたリョウコ(26)は、夜からの勤務ということもあって、なんとなく手持ち無沙汰だった。
「クリスマス前最後の日曜日なのに・・・何の予定もないのは、ミサさんに言われたように、恋に横着してるってことなのかしら・・・」
と、モノトーンな家具で統一されたスタイリッシュな空間に身を置くリョウコはつぶやいていた。
好きな男性がいないわけではない。むしろ・・・。
「こういう時は、やっぱり、アイリさんの声を聞こう・・・」
と、リョウコは、携帯電話で、アイリのマンションに電話をかけていた。
「あ、もしもし、アイリさんですか?」
と、リョウコは、嬉しそうにアイリに電話をかける。
「あ、リョウコちゃん・・・ちょうどよかった。これから、私のマンションに来ない?」
と、飛んで火に入る夏の虫的なリョウコだった。
「それは、いいですよ・・・わたし、今日は夜9時からの夜勤なので、それまで暇だったんで・・・」
と、リョウコも、誘われて普通にうれしがる。
「今日ね、ちょっと私のマンションに、ある少年が来るのよ・・・で、やっぱり一対一だと、相手も緊張すると思って・・・」
と、アイリは嬉しそうに、京王高校2年生の滝田祐(17)が、イブの告白の練習にくる話をリョウコに告げていた。
「まあ、タケルの頼みだから、仕方ないんだけど、出来たら、リョウコちゃんにも、手伝ってほしくて」
と、アイリが言うと、
「タケルさんの頼みなんですか!だったら、わたしも当然手伝います。タケルさんに喜んで欲しいし」
と、リョウコの態度が一気に変わる。
アイリは、もちろん、それを見越して、タケルの名を出したのだった。
「そうお。じゃあ、待ってるわ。お昼作っておくから」
と、アイリはご機嫌で電話を切った。
「タケルさんの頼みなら・・・」
と、リョウコも、ルンルンでクローゼットを開けると、おしゃれをし始めた。
「まあ、タケルさんに会えるわけじゃないけど・・・会うつもりで・・・」
と、リョウコは、少女のようなこころで、おしゃれを開始していた。
「お昼作っておくって、アイリさん言ってたっけ・・・さっきブランチ食べたばっかりだけど・・・まあ、いっか」
と、いつしか素直に、笑顔になっているリョウコだった。
クリスマスイブ6日前の日曜日の午前11時頃。黒のカシミヤのロングコート姿で、ガオは、京浜東北線の石川町の駅の南改札の前に立っていた。
天気は少し曇っていたが、雨が降る様子はなかった。
アミとの約束の時間・・・お互い顔を知らないので、イマイチ不安だったが、ガオは人待ち顔で待っていた。
「菅野美穂を童顔にした感じって、言ってたっけ・・・わかるようで、イマイチわからんなー」
と、少し困惑顔のガオだった。
と、その時だった、
「ガーオくん!」
と、目の前に現れたのは、赤いダッフルコートを来た、確かに菅野美穂を童顔にした感じの、目がくりくりした少女のような女性だった。
「アミさん、ですか?」
と、ガオが驚きながら、言うと、
「やっぱり、ドンピシャ!、正解だったわー」
と、機嫌良さそうに、ころころ笑う、アミだった。
「か、かわいい・・・」
と、不覚にも思ってしまったガオだった。
「じゃあ、まず、手を組むところから、はじめようか」
と、笑顔のアミが手を出してくる。ガオはぎこちなく手を組みながら、それでも、アミをリードしながら、歩いて行く。
「ねえ、ガオくんは、元町は詳しいの?」
と、アミは楽しそうに聞いてくる。
「いやあ、詳しいってほどでもないんですけど・・・」
と、ガオは言いながら、
「一度、鈴木の奴に、一緒にロケハンしてもらったことがあるんですよ。当時つきあっていた彼女とのデートの為に」
と、ガオは言う。
「ふーん、タケルくん、そういうところ、やさしいし、サービス満点だからね」
と、アミは全開の笑顔で言う。
「そういえば、ガオくんって、タケルくんと相部屋だったんだって?アイリに聞いたわ」
と、アミは言う。
「え、えー。そうでしたねー。鈴木は、アイリさんと付き合いだしてから、ほんとに、大人になった感じで・・・」
と、ガオ。
「うん。わたしも、そう思う・・・アイリが一番先に私たちをタケルくんに紹介してくれたのよ」
と、ニコニコ顔のアミ。
「タケルくん、アイリの彼氏じゃなかったら、わたしがとっくの昔に略奪してたわ。もう」
と、言うアミは、どうやら本気のよう。
「アミさん、鈴木のこと、そんなに・・・」
と、ガオは、少しショック。
「え?ああ・・・でも、アイリの彼氏だもん。私は他を探すの」
と、少し寂しそうにするアミ。
その様子を見たガオは、胸がズキズキ傷んで・・・。
「今日は楽しいデートにしましょうか」
と、ガオは、やわらかい笑顔になって、アミに話しかける。
「そうね。イブ前、最後の日曜日だもん。そうしなくっちゃね」
と、元気な笑顔になるアミだった。
二人の間には、ぎこちなくも、やわらかな雰囲気が流れ始めるのだった。
(つづく)
→物語の主要登場人物
→前回へ
→物語の初回へ
るるるるる、ガチャ!となって、
「あ、僕、金曜日の夜に会った、ガオ・・・」
と言いかけて、留守電のメッセージが流れているのに気付き、ガオが、何をメッセージに残そうか考え始めた時だった。
「ガオくん?わたし、リサよ」
と、少しくぐもったようなリサの声が聞こえてきた。
「あ、リサさん、居たんですね。家に・・・留守かと思いました」
と、ガオが言うと、
「うん、昨日仕事が遅くなって・・・ちょっと深夜帰りになったものだから・・・熟睡してたの。でも、ガオくんの声で起きれるなんて、朝からしあわせだわ」
と、リサは淀みなく話す。
「いやあ、そんな・・・」
と、少し照れるガオ・・・。
「ところで、リサさんって、リョウコちゃんの同僚なんですよね?国家公務員とか、聞きましたけど・・・」
と、素直な疑問をリサにぶつけるガオ。
「そうだけど・・・一応身分は秘密にしておかなければ、いけないの。だから、聞かないで。リョウコも仕事の内容は言ってないでしょ?」
と、リサはやさしくガオに言う。
「ええ、そういえば・・・まあ、そういうことなら、僕はこれ以上詮索しませんよ」
と、やわらかく言うガオ。
「ありがとう。そうしてくれると、うれしいわ・・・それより、ガオくん、今、わたし、どんな格好だと思う?どんな格好でベッドで寝ているか、わかる?」
と、リサは、ガオに質問している。
「え?ああ・・・パジャマってことは、ないですよね?」
と、少しおずおずと聞くガオ。
「まさか・・・全裸よ。今、全裸で、ベットに横になりながら、話しているのよ」
と、リサは妖しく言う。
「そ、そうなんですか・・・」
と、ガオは、少しつばを飲み込む感じ。
「ガオくん、今、わたしの全裸、想像したでしょう・・・」
と、リサはいたずらっぽく話す。
「い、いえ、そんな・・・」
と、照れるガオ。
「いいのよ、素直に思ったことを口にしても・・・悪いことじゃ、ないんだから」
と、リサは、妖艶に言う。
「いや、それは、ええ・・・」
と、ガオは少し混乱している。
「それより、ガオくんの声って、暖かくって、とっても、魅力的なのね・・・」
と、リサは、話す。
「え?いやあ・・・身体が大きいせいかもしれないですけど、少しひとより、低音みたいで」
と、ガオは、体制を整え直し、素直に話している。
「ガオくんのその素敵な美声で・・・わたしのこと、好きって、言ってみて」
と、リサは甘えるような口調で言う。
「え?いやあ・・・その・・・」
と、ガオはさすがに戸惑いを隠せない
「アミさんは、「大人の恋」は、決して恋を言葉にしないとか、言ってたよな・・・」
と、裏で考えるガオ。
「ねえ、言って・・・それとも、わたしのこと、嫌い?」
と、リサはガオに甘える。
「い、いや、好きですよ・・・それは・・・」
と、こちらも恋を言葉にしてしまうガオ。
「じゃあ、言って・・・好きだって」
と、リサ。
「・・・」
と、ガオは恥ずかしくもあり、少し抵抗があって、言葉に出来ない。
「言って」
と、リサが迫る。
「あの・・・僕はリサさんが好きです・・・大好きです」
と、ダムが決壊し、一気に陥落するガオ。
「わたしも、あなたのことが、好き・・・初めて見た時から、あなたを気に入ったの・・・」
と、リサは、妖しい目をしながら、話している。
「ガオくん」
と、リサが言うと、
「はい?」
と、緊張しているガオ。
「あなた、さっきは、否定したけど、わたしの全裸なシーン、昨日から、何回想像した?」
と、リサはさらに妖しく攻めていく。
「え、いや・・・それは、だから・・・」
と、ガオはさらに緊張し、脳は硬直していく。
「言って、何回、想像した?」
と、リサは、さらに妖しく攻めていく。
「それは、あのー」
と、ガオも困惑している。
「言って」
と、リサは、さらに攻めこんでいく。
「えーと、10回は、その・・・はい」
と、ガオは、完全に、大人の女性に翻弄されている。
「ふーん、ガオくん、わたしのこと、抱きたいんだ?」
と、リサは、核心へ攻め込んでいく。
「いや、その・・・それは、ええと」
と、ガオは、さらに硬直し、何を言っていいのか、わからなくなる。
「抱きたいんでしょ?」
と、リサはさらに攻め込む。
「・・・」
と、ガオは言葉にしないのが、せめてもの抵抗。
「ふふ・・・冗談よ。ガオくんは、かわいいから、つい、いじめてみたくなっちゃったの」
と、リサは明るい口調で話す。
「は、はあ・・・そうでしたか・・・」
と、ガオはそう返すので精一杯。
「ふふ・・・ガオくんの声を聞きながら、いじってたら、濡れてきちゃった」
と、リサは妖しい口調で、また言う。
「え?そうなんですか?」
と、言いながら、息を飲んでいるガオ。
「わたしたち、関係したことになるわね・・・」
と、リサは、妖しく言う。
「いや、僕は、そんなつもりは・・・ええと」
と、ガオは困惑し、翻弄される。
「ふふ・・・冗談よ、ガオくん・・・大人の女性の冗談」
と、リサは、明るく笑いながら、話す。
「でも・・・今ので、ガオくんのも、ビンビンになったんじゃなくて?」
と、リサは妖しく聞く。
「・・・」
と、ガオは息を飲みながら、自ら確認するガオ。
リサの言う通りだった。
「リサさんの言うとおりです・・・」
と、ガオが報告すると、
「ガオくんのことだから、さぞや逞しいでしょうね」
と、少し明るく話すリサ。
「は、はあ・・・」
と、ガオは翻弄されまくりで、息も絶えだえ。
「ありがとう。ガオくん、楽しかったわ。わたし、今日も仕事なの。帰りも遅いから、もし何かあったら、留守電にいれておいてね」
と、リサはさっきとは別人のように、明るくテキパキと話すと、
「好きよ、ガオくん。またね」
と、電話を切るリサ。
「は。それでは、また・・・」
と、切れた電話に向かって、しゃべるガオだった。
ガオは、切れた電話を見ながら、少しの間、困惑していた。
困惑しながらも、胸はドキドキするし、モノはビンビンだし・・・完全に大人の女性に翻弄されたガオだった。
「リサさんは、別格だ。大人のおんなの手練手管という奴か、あれ・・・」
と、言葉にする。
「アミさんの言っていた、平和な「大人の恋」とは、全然違う・・・リサさんは、言葉だけで、俺を欲情させることが出来る・・・コワイ女性だ・・・」
と、ガオは、人生で初めて会った種類の女性に戸惑いを隠せなかった。
「これは・・・アミさんに洗いざらいぶちまけて、これから、どうするか考えなければいけないな・・・」
と、ガオは決断していた。
しかし・・・。
「まだ、ドキドキしている・・・こんなドキドキ初めてだ・・・彼女と本当の恋をしたら、もっと、ドキドキ出来るかもしれない・・・」
と、一方でそんなことも考え始めていたガオだった。
危険な恋が、始まろうとしていた。
同じ頃、イズミは、中王大学理学部数学科4年の田中美緒(22)の部屋に電話をかけていた。
るるるるる、ガチャ、っと音がして、
「はい、田中です」
と、明るい美緒の声がした。
「もしもし、僕、昨日会った、数学科OBの沢村イズミです」
と、イズミはしれっと名乗っている。
「ああ、昨日お会いした先輩ですか・・・おはようございます」
と、美緒は、なんとなく警戒。
「おはよう・・・昨日飲み会で、河西くんと話していたら、君の話題になってさ・・・河西くんも君に告白した口なんだって?」
と、イズミは、昨日獲得した情報を最大限活用して、美緒に話をさせようとしている。
「ああ・・・河西くん、そんな話を沢村さんにしたんですか・・・実際、そうですけど・・・」
と、なんとなく口が重い、美緒だった。
「まあ、いいや、単刀直入に言おう。君は間違っている。人間の行為として、間違ったことを、し続けてるってことを、君にいいたくてね。それで電話したんだ」
と、イズミは、スバッっと言い切った。
「はあ?」
と、美緒は突然上から目線で否定されて、さすがにムカっとしたらしい。
「人の話を受け入れず、男性の尊厳を踏みにじり続けていいなんて法律は、どこにもないってことさ。君の同級生たちは、河西も含めてかわいそうだ」
と、イズミが言うと、
「・・・」
と、そこは本当の話だけに、何も返せない美緒だった。
「君もわかっていると思うが、彼らが不幸なのは、すべて、君が悪いせいだ。君が一番悪い。それくらいは、わかっているだろ!」
と、挑発するイズミ。
「だからさ・・・」
と、イズミがその先を続けようとした矢先、
「あのー、わたし、もう、出なきゃいけないんです。すいません、ごめんなさい!」
と、美緒は、少しキレ気味に、早口で、そう被せながら言うと、電話は、がちゃりと切られてしまった。
「ほう・・・」
と、イズミは、苦笑すると、受話器を電話機に戻す。
「思った以上に頑な、だな」
と、イズミは、少し笑顔になる。
「逆に言えば、落としガイがあるって、ことだ」
と、イズミはニヤリとしながら、言う。
「今年のクリスマス・ターゲットは、彼女だな」
と、イズミは言う。
「俺も、本当の恋がしたいんだ。人生を真面目に考えている、真面目な女性と・・・本当の恋を・・・」
と、イズミは、真面目な表情をしながら、いつしか言葉にしていた。
「俺を本当に大事に思ってくれる、真面目な女性と、本当の恋を・・・」
イズミは、次の手を考えていた。
クリスマスイブ6日前の日曜日の午前10時。ブランチを済ませたリョウコ(26)は、夜からの勤務ということもあって、なんとなく手持ち無沙汰だった。
「クリスマス前最後の日曜日なのに・・・何の予定もないのは、ミサさんに言われたように、恋に横着してるってことなのかしら・・・」
と、モノトーンな家具で統一されたスタイリッシュな空間に身を置くリョウコはつぶやいていた。
好きな男性がいないわけではない。むしろ・・・。
「こういう時は、やっぱり、アイリさんの声を聞こう・・・」
と、リョウコは、携帯電話で、アイリのマンションに電話をかけていた。
「あ、もしもし、アイリさんですか?」
と、リョウコは、嬉しそうにアイリに電話をかける。
「あ、リョウコちゃん・・・ちょうどよかった。これから、私のマンションに来ない?」
と、飛んで火に入る夏の虫的なリョウコだった。
「それは、いいですよ・・・わたし、今日は夜9時からの夜勤なので、それまで暇だったんで・・・」
と、リョウコも、誘われて普通にうれしがる。
「今日ね、ちょっと私のマンションに、ある少年が来るのよ・・・で、やっぱり一対一だと、相手も緊張すると思って・・・」
と、アイリは嬉しそうに、京王高校2年生の滝田祐(17)が、イブの告白の練習にくる話をリョウコに告げていた。
「まあ、タケルの頼みだから、仕方ないんだけど、出来たら、リョウコちゃんにも、手伝ってほしくて」
と、アイリが言うと、
「タケルさんの頼みなんですか!だったら、わたしも当然手伝います。タケルさんに喜んで欲しいし」
と、リョウコの態度が一気に変わる。
アイリは、もちろん、それを見越して、タケルの名を出したのだった。
「そうお。じゃあ、待ってるわ。お昼作っておくから」
と、アイリはご機嫌で電話を切った。
「タケルさんの頼みなら・・・」
と、リョウコも、ルンルンでクローゼットを開けると、おしゃれをし始めた。
「まあ、タケルさんに会えるわけじゃないけど・・・会うつもりで・・・」
と、リョウコは、少女のようなこころで、おしゃれを開始していた。
「お昼作っておくって、アイリさん言ってたっけ・・・さっきブランチ食べたばっかりだけど・・・まあ、いっか」
と、いつしか素直に、笑顔になっているリョウコだった。
クリスマスイブ6日前の日曜日の午前11時頃。黒のカシミヤのロングコート姿で、ガオは、京浜東北線の石川町の駅の南改札の前に立っていた。
天気は少し曇っていたが、雨が降る様子はなかった。
アミとの約束の時間・・・お互い顔を知らないので、イマイチ不安だったが、ガオは人待ち顔で待っていた。
「菅野美穂を童顔にした感じって、言ってたっけ・・・わかるようで、イマイチわからんなー」
と、少し困惑顔のガオだった。
と、その時だった、
「ガーオくん!」
と、目の前に現れたのは、赤いダッフルコートを来た、確かに菅野美穂を童顔にした感じの、目がくりくりした少女のような女性だった。
「アミさん、ですか?」
と、ガオが驚きながら、言うと、
「やっぱり、ドンピシャ!、正解だったわー」
と、機嫌良さそうに、ころころ笑う、アミだった。
「か、かわいい・・・」
と、不覚にも思ってしまったガオだった。
「じゃあ、まず、手を組むところから、はじめようか」
と、笑顔のアミが手を出してくる。ガオはぎこちなく手を組みながら、それでも、アミをリードしながら、歩いて行く。
「ねえ、ガオくんは、元町は詳しいの?」
と、アミは楽しそうに聞いてくる。
「いやあ、詳しいってほどでもないんですけど・・・」
と、ガオは言いながら、
「一度、鈴木の奴に、一緒にロケハンしてもらったことがあるんですよ。当時つきあっていた彼女とのデートの為に」
と、ガオは言う。
「ふーん、タケルくん、そういうところ、やさしいし、サービス満点だからね」
と、アミは全開の笑顔で言う。
「そういえば、ガオくんって、タケルくんと相部屋だったんだって?アイリに聞いたわ」
と、アミは言う。
「え、えー。そうでしたねー。鈴木は、アイリさんと付き合いだしてから、ほんとに、大人になった感じで・・・」
と、ガオ。
「うん。わたしも、そう思う・・・アイリが一番先に私たちをタケルくんに紹介してくれたのよ」
と、ニコニコ顔のアミ。
「タケルくん、アイリの彼氏じゃなかったら、わたしがとっくの昔に略奪してたわ。もう」
と、言うアミは、どうやら本気のよう。
「アミさん、鈴木のこと、そんなに・・・」
と、ガオは、少しショック。
「え?ああ・・・でも、アイリの彼氏だもん。私は他を探すの」
と、少し寂しそうにするアミ。
その様子を見たガオは、胸がズキズキ傷んで・・・。
「今日は楽しいデートにしましょうか」
と、ガオは、やわらかい笑顔になって、アミに話しかける。
「そうね。イブ前、最後の日曜日だもん。そうしなくっちゃね」
と、元気な笑顔になるアミだった。
二人の間には、ぎこちなくも、やわらかな雰囲気が流れ始めるのだった。
(つづく)
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→前回へ
→物語の初回へ