1月下旬の日曜日の午前10時。シンイチは、吉祥寺北口にある貸しスタジオ「エルベ」で、昨日作りたての新しい歌「君」を、
バンドのリーダーでもあり、午前中は時間のあった、キーボード担当の佐藤シンサクに聞かせていた。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
シンイチは、歌い終わると、気持ち良さそうに息を吐いた。
「どうだろう?久しぶりに、一気に歌を書けた。そんな歌は俺、ひさしぶりだったから」
と、シンイチは笑顔で、シンサクに言っている。
「うん・・・なんだか、久しぶりにシンイチの歌らしい歌になってるよ・・・この感覚だよ、ずっと俺たちが追ってきたのは・・・」
と、シンサクも嬉しそうに話している。
「久しぶりに自然と歌を書きたくなってさ・・・突き動かされるように、昨日、1時間もかからずに書いたんだ、この歌」
と、シンイチは笑顔で話している。
「俺の中に溜まっていたものが、ないまぜになって澱のようになっていたんだ。今までの俺は・・・」
と、シンイチは言う。
「でも・・・何かが解き放ってくれた・・・それがきっかけになって、すべてが歌に昇華出来たような気がする」
と、シンイチは言う。
その言葉にシンサクも嬉しそうな笑顔になる。
と、そこへ、少し遅れて、音楽プロデューサー、北川ミチコが入ってくる。
「ミチコさん、自信作、出来ましたよ。昨日の夜、出来上がったばかりの出来立てホヤホヤですけど・・・」
と言うと、笑顔でギターを演奏しながら、歌を歌い出すシンイチ・・・。
「君を見つけた、あの日の君に逢いに、僕は秘密の魔法を使いたくて、それでも君はなかなか笑顔をくれなくて・・・」
シンイチは歌う。
ミチコは、シンイチを見つめながら、五感を研ぎ澄ましながら聞いている。
「僕のこころは、いつでも飛べる、君のあの笑顔さえ、目の前にあれば、だから僕は君に会いたいんだ、会って何かを言うために・・・」
ミチコは音のシャワーを浴びながら、一心にシンイチを見つめている。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
シンイチは歌い切ると、やわらかな笑顔で、ミチコを見つめる。
「あの時と、同じ・・・」
ミチコの目に涙が溢れる。
「シンイチ・・・ついにやったわね・・・」
と、ミチコは目に涙をいっぱいに溜めながらシンイチに言う。
「おかえりなさい、シンイチ!」
とミチコは言うと、思い切りシンイチをハグするミチコだった。
シンイチも、思い切りミチコをハグするのだった。
1月下旬の日曜日、午前12時頃。シンイチとミチコとシンイチは、まだ開いていないシンサクの店に来ていた。
「まずは、復活祝いということで、今日は昼から飲んじゃお、乾杯」
と、シンサクがシャンパンの入ったグラスを掲げる。
そのグラスに、ミチコも、そして、シンイチもグラズをぶつける。
「乾杯!」「乾杯!」
と、二人ともいい表情でシャンパンを飲み干す。
「美味しいわ」「美味い!」
と、三人共いい表情だ。
「しかし・・・きっかけは、何だったの、この曲の書けた・・・」
と、ミチコは当然のように、原因を探る。
「気になってる女の子がいるんだ。毎日店に来てくれていたのに・・・突然来なくなった女の子・・・昨日聞いたら会社にも来てないんだって、その子・・・」
と、シンイチは素直に言う。
「その子に恋に落ちたか?シンイチ!」
と、シンサクがすかさずツッコむ。
「わからない・・・でも、今までマイやミキのことでいっぱいだった俺の心の中が変わったのは確かだ・・・それまで俺を苦しみ続けてきた悪夢が消えたことも確かなんだ」
と、シンサクは説明する。
「マイちゃんやミキちゃんの記憶に苦しめられてきたシンイチの心が・・・その子を思う気持ちに占領されたから・・・溶け出したってことなのかしら」
と、ミチコは言う。
「あなたの書いた、この曲、見て・・・」
と、ミチコは歌詞を指し示す。
「君を見つけた、あの日の君に逢いに、僕は秘密の魔法を使いたくて、それでも君はなかなか笑顔をくれなくて・・・」
「・・・これって、あなたが今恋している子のことを思って書いてるでしょ・・・なかなか笑顔をくれないって・・・それって今の状況を言ってる?」
と、ミチコはシンイチに質問している。
「確かに・・・確かに、そうですね。今の僕の状況そのままだ」
と、シンイチは言う。
「僕のこころは、いつでも飛べる、君のあの笑顔さえ、目の前にあれば、だから僕は君に会いたいんだ、会って何かを言うために・・・」
「・・・これも、その子に言ってる。素直なラブソングよね」
と、ミチコは分析している。
「はあ・・・僕のこころの素直な言葉なのか・・・これ」
と、シンイチ。
「で、問題は、この歌詞なの」
と、ミチコ。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
「・・・これ、今恋している子向けだけじゃないの。あなたは、ミキさんにも、マイさんにも向けて、この言葉を出している・・・」
と、ミチコ。
「つまり、あなたに今恋している子が出来たから、ミキさんの思い出にも、マイさんの思い出に対しても、フラットに向き合うことが出来たって、言ってるのよ。あなたは」
と、ミチコは歌詞の内容をすべて読み解いてしまった。
シンイチはそのミチコの言葉を冷静に聞いている。
「つまり、あなたは、その恋する子のおかげで、すべてが浄化出来たってことなのよ。生まれ変わることが出来たってことなのよ」
と、ミチコは言い切った。
シンイチは、そのミチコの言葉を噛み締めた。
「さあ、あなたが次にすることは、何なの?わかるでしょ、男だったら!」
と、ミチコは言う。
「それは、彼女に会いに行くことだけど・・・まだ、僕の気持ちは中途半端だし、勢いだけで行く訳には行かないし・・・」
と、シンイチは慎重姿勢。
「まったくもう・・・それだから、あなたは・・・」
と、ミチコは少し幻滅気味。
「だいたい彼女の連絡先すら、聞いてませんから・・・」
と、シンイチは言い訳気味。
「それって、マミって子のことだよな。シンイチが言ってるのは・・・」
と、シンサクがミチコとシンイチに切り出す。
「そう。マミって子よね?」
と、ミチコがシンイチに重ねて確認する。
「はあ、まあ、そうだけど・・・」
と、シンイチも渋々認める。
「俺、その彼女の親友の携帯番号わかるぜ」
と、シンサクが切り出す。
「その彼女、この街の「イケメン捜索隊」のひとりでさ。何かあった時の為に、携帯番号を聞いておいたんだ」
と、シンサクは説明する。
「だから、今から電話して・・・あ、もしもし、ミサトちゃん?俺、「朱鷺色ワーカーズ」のキーボードのシンサクだけど、わかる?」
と、シンサクは早速ミウに電話している。
「でさー。シンイチがマミちゃんに会いたがってるんだけど、どうかなあ?」
と、シンサクは単刀直入にミウに聞いている。
「え、マミちゃん田舎に帰った?うん、うん、それで?」
と、シンサクは驚きながら聞いている。ミチコもシンイチも聞き耳を立てている。
「お父さんが倒れて、実家の店の手伝いに・・・で、どれくらい?・・・それほど大したことない・・・うんうん・・・それでも2週間程ね・・・うん」
と、シンサクは真面目に聞いている。
「わかった。シンイチに伝えておくから。うん、ありがとうね、ミウちゃん。じゃねー」
と、シンサクは携帯を切っている。
「だ、そうだ・・・シンイチさんに実家には来ないでくれって伝言があったそうだよ。マミちゃんから・・・恥ずかしいからって」
と、シンサクはしっかり伝言している。
「そういうことなの・・・だったら、あなたは「君」という楽曲を完璧にする義務があるわね。そのマミって彼女が吉祥寺に帰ってきたら、その楽曲を贈ればいいわ」
と、ミチコが言う。
「バレンタインの夜の、吉祥寺音楽祭のステージの上から、あなたは、そのマミって子に向かって、その楽曲を贈るのよ。それがあなたに与えられた使命だわ」
と、ミチコが言う。
「どう?出来るわね?」
と、ミチコが言う。
「出来ます!」
と、言ったシンイチは、いい笑顔をするのだった。
同じ頃、嶋田アミとマミは、秋田は角館にある、実家である温泉旅館「清儀楼」で働いていた。
「とにかくお父さんが倒れた、ママを助けてくれって、新造叔父さんから電話が入った時は、驚いたわよ。すぐにマミにも連絡して、二人で急いで戻ってきたんだから・・・」
と、嶋田アミは、「清儀楼」で副支配人をしている嶋田新造叔父にぼやいていた。
「いやあ、兄貴にそう電話してくれって頼まれちゃってさ・・・仕方なく・・・罪作りな兄だよ、まったく・・・」
と、新造叔父は、ぶつぶつ言っている。
「でも、パパが倒れたのが働き過ぎなだけで、心臓や脳の病気でなかったんだから・・・よかったと思うわ、わたし・・・」
と、マミは言っている。
「だいたい、脳の問題だったら・・・自分が倒れたのをいいきっかけに、娘たちを呼び戻すような悪巧みは考えている暇はないわよねー」
と、アミは苦笑しながら話している。
「ま、パパらしいけどね・・・」
と、アミは苦笑している。
「まあ、でも、君たちのママは、ほんとに青い顔していたんだから・・・目の前で兄貴が倒れた時は・・・」
と、新造叔父が話している。
「その話聞いたから・・・会社には、2週間は戻れないって言ってきちゃったのよ・・・まあ、休暇はいつも消化出来なくて捨ててたから、まあ、いいけれど・・・」
と、アミ。
「わたしも・・・大事な時なのに・・・」
と、マミ。
「あ、そういえば・・・マミ、ちょっと二人で風呂掃除行こう・・・」
と、マミを強引に連れて行くアミだった。
「掃除中」
と看板を出した、一部屋の家族風呂を掃除しながら、アミはマミに話を聞いた。
「で、どうなのマミ。あなた、今年のバレンタイン、ちゃんとしたターゲットがいるそうじゃない。タケルくんから聞いたわ」
と、アミは興味津々でマミに話を聞く。
「道明寺シンイチさんっていう33歳の花屋さんなの、そのひと・・・」
と、マミは簡単にシンイチの経歴を話し・・・自分がその男性に夢中になっている事実を話した。
「でも・・・シンイチさんは、いろいろな過去に引きずられて・・・今をうまく生きられないみたいなの・・・」
と、マミは、タケルに教わったシンイチの過去を思い出しながら、話している。
「高校時代に初めてつきあったマイって人が受験の時に交通事故死して・・・結婚した奥さんも交通事故で死んじゃって・・・恋が怖いって言ってるの、シンイチさん・・・」
と、マミはアミに真面目に話している。
「恋が怖いなんて・・・男のひとがそんなに自信を無くすなんて余程のことだと思うから・・・わたし、そんなシンイチさんを守りたい。やさしく守ってあげたいの」
と、マミはアミに言う。
「マミ・・・あなた・・・あなた、変わったわ・・・」
と、アミはマミのその言葉に驚いている。
「ううん、変わったのは、変わったんだけど・・・女性として、成長したわ、あなた・・・」
と、アミは自分の思いを言葉にしている。
「それに、あなた・・・ほっそりしてきて・・・大人の女性体型になってきている・・・あなたダイエットしてたのね?」
と、アミは真面目にマミの外見を見ている。
「腹八分目で、朝はジョギング、昼間は、出来るだけたくさん、ウォーキングしてたの。タケルさんに指導されて」
と、マミは説明する。
「男性は、100%女性の外見に恋するからってタケルさんに言われたわ。甘いこと一切考えずに外見を細身のスラリとした大人の女性体型にしろって厳しく言われたの」
と、マミは言う。
「おかげで・・・わたし、大人の女性として、自分に自信が出てきたの・・・だから、シンイチさんも、守りたい・・・そういう気持ちになってるの」
と、マミは言う。
「そうだったの・・・さすがタケルくんだわ。わたしの見る目に間違いはなかったわ・・・」
と、アミが言う。
「そっか。ちょうどいいじゃない・・・このまま、2週間、あなたは、大人の女性体型になるトレーニングを積みなさい。徹底的にやるのよ」
と、アミが言う。
「そして・・・2週間後のバレンタインデー・・・そのシンイチって男に魅せつけてやるのよ。大人になったマミを。そして、チョコを渡しなさい」
と、アミが言う。
「絶対に、成功させてみせる・・・今日からタケルくんの代わりに、わたしが、マミをしごくから・・・」
と、アミが言う。
「その代わり、わたしも、そのトレーニング全てにつきあうから。わたしも、さらに大人のおんな度をあげるの。マミと一緒に」
と、アミは言う。
「もちろん、わたしのターゲットは、タケルくんだけどね」
と、アミが笑うと、
「やっぱり・・・お姉ちゃんらしい」
と、マミも笑った。
(つづく)
→前回へ
→物語の初回へ
→「ラブ・クリスマス!」初回へ
バンドのリーダーでもあり、午前中は時間のあった、キーボード担当の佐藤シンサクに聞かせていた。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
シンイチは、歌い終わると、気持ち良さそうに息を吐いた。
「どうだろう?久しぶりに、一気に歌を書けた。そんな歌は俺、ひさしぶりだったから」
と、シンイチは笑顔で、シンサクに言っている。
「うん・・・なんだか、久しぶりにシンイチの歌らしい歌になってるよ・・・この感覚だよ、ずっと俺たちが追ってきたのは・・・」
と、シンサクも嬉しそうに話している。
「久しぶりに自然と歌を書きたくなってさ・・・突き動かされるように、昨日、1時間もかからずに書いたんだ、この歌」
と、シンイチは笑顔で話している。
「俺の中に溜まっていたものが、ないまぜになって澱のようになっていたんだ。今までの俺は・・・」
と、シンイチは言う。
「でも・・・何かが解き放ってくれた・・・それがきっかけになって、すべてが歌に昇華出来たような気がする」
と、シンイチは言う。
その言葉にシンサクも嬉しそうな笑顔になる。
と、そこへ、少し遅れて、音楽プロデューサー、北川ミチコが入ってくる。
「ミチコさん、自信作、出来ましたよ。昨日の夜、出来上がったばかりの出来立てホヤホヤですけど・・・」
と言うと、笑顔でギターを演奏しながら、歌を歌い出すシンイチ・・・。
「君を見つけた、あの日の君に逢いに、僕は秘密の魔法を使いたくて、それでも君はなかなか笑顔をくれなくて・・・」
シンイチは歌う。
ミチコは、シンイチを見つめながら、五感を研ぎ澄ましながら聞いている。
「僕のこころは、いつでも飛べる、君のあの笑顔さえ、目の前にあれば、だから僕は君に会いたいんだ、会って何かを言うために・・・」
ミチコは音のシャワーを浴びながら、一心にシンイチを見つめている。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
シンイチは歌い切ると、やわらかな笑顔で、ミチコを見つめる。
「あの時と、同じ・・・」
ミチコの目に涙が溢れる。
「シンイチ・・・ついにやったわね・・・」
と、ミチコは目に涙をいっぱいに溜めながらシンイチに言う。
「おかえりなさい、シンイチ!」
とミチコは言うと、思い切りシンイチをハグするミチコだった。
シンイチも、思い切りミチコをハグするのだった。
1月下旬の日曜日、午前12時頃。シンイチとミチコとシンイチは、まだ開いていないシンサクの店に来ていた。
「まずは、復活祝いということで、今日は昼から飲んじゃお、乾杯」
と、シンサクがシャンパンの入ったグラスを掲げる。
そのグラスに、ミチコも、そして、シンイチもグラズをぶつける。
「乾杯!」「乾杯!」
と、二人ともいい表情でシャンパンを飲み干す。
「美味しいわ」「美味い!」
と、三人共いい表情だ。
「しかし・・・きっかけは、何だったの、この曲の書けた・・・」
と、ミチコは当然のように、原因を探る。
「気になってる女の子がいるんだ。毎日店に来てくれていたのに・・・突然来なくなった女の子・・・昨日聞いたら会社にも来てないんだって、その子・・・」
と、シンイチは素直に言う。
「その子に恋に落ちたか?シンイチ!」
と、シンサクがすかさずツッコむ。
「わからない・・・でも、今までマイやミキのことでいっぱいだった俺の心の中が変わったのは確かだ・・・それまで俺を苦しみ続けてきた悪夢が消えたことも確かなんだ」
と、シンサクは説明する。
「マイちゃんやミキちゃんの記憶に苦しめられてきたシンイチの心が・・・その子を思う気持ちに占領されたから・・・溶け出したってことなのかしら」
と、ミチコは言う。
「あなたの書いた、この曲、見て・・・」
と、ミチコは歌詞を指し示す。
「君を見つけた、あの日の君に逢いに、僕は秘密の魔法を使いたくて、それでも君はなかなか笑顔をくれなくて・・・」
「・・・これって、あなたが今恋している子のことを思って書いてるでしょ・・・なかなか笑顔をくれないって・・・それって今の状況を言ってる?」
と、ミチコはシンイチに質問している。
「確かに・・・確かに、そうですね。今の僕の状況そのままだ」
と、シンイチは言う。
「僕のこころは、いつでも飛べる、君のあの笑顔さえ、目の前にあれば、だから僕は君に会いたいんだ、会って何かを言うために・・・」
「・・・これも、その子に言ってる。素直なラブソングよね」
と、ミチコは分析している。
「はあ・・・僕のこころの素直な言葉なのか・・・これ」
と、シンイチ。
「で、問題は、この歌詞なの」
と、ミチコ。
「僕のこころは、いつでも飛べる、あの日の君の真心さえ、思い出せれば、だから、僕は君を抱きしめたいんだ、あなたのすべてが欲しいから・・・」
「・・・これ、今恋している子向けだけじゃないの。あなたは、ミキさんにも、マイさんにも向けて、この言葉を出している・・・」
と、ミチコ。
「つまり、あなたに今恋している子が出来たから、ミキさんの思い出にも、マイさんの思い出に対しても、フラットに向き合うことが出来たって、言ってるのよ。あなたは」
と、ミチコは歌詞の内容をすべて読み解いてしまった。
シンイチはそのミチコの言葉を冷静に聞いている。
「つまり、あなたは、その恋する子のおかげで、すべてが浄化出来たってことなのよ。生まれ変わることが出来たってことなのよ」
と、ミチコは言い切った。
シンイチは、そのミチコの言葉を噛み締めた。
「さあ、あなたが次にすることは、何なの?わかるでしょ、男だったら!」
と、ミチコは言う。
「それは、彼女に会いに行くことだけど・・・まだ、僕の気持ちは中途半端だし、勢いだけで行く訳には行かないし・・・」
と、シンイチは慎重姿勢。
「まったくもう・・・それだから、あなたは・・・」
と、ミチコは少し幻滅気味。
「だいたい彼女の連絡先すら、聞いてませんから・・・」
と、シンイチは言い訳気味。
「それって、マミって子のことだよな。シンイチが言ってるのは・・・」
と、シンサクがミチコとシンイチに切り出す。
「そう。マミって子よね?」
と、ミチコがシンイチに重ねて確認する。
「はあ、まあ、そうだけど・・・」
と、シンイチも渋々認める。
「俺、その彼女の親友の携帯番号わかるぜ」
と、シンサクが切り出す。
「その彼女、この街の「イケメン捜索隊」のひとりでさ。何かあった時の為に、携帯番号を聞いておいたんだ」
と、シンサクは説明する。
「だから、今から電話して・・・あ、もしもし、ミサトちゃん?俺、「朱鷺色ワーカーズ」のキーボードのシンサクだけど、わかる?」
と、シンサクは早速ミウに電話している。
「でさー。シンイチがマミちゃんに会いたがってるんだけど、どうかなあ?」
と、シンサクは単刀直入にミウに聞いている。
「え、マミちゃん田舎に帰った?うん、うん、それで?」
と、シンサクは驚きながら聞いている。ミチコもシンイチも聞き耳を立てている。
「お父さんが倒れて、実家の店の手伝いに・・・で、どれくらい?・・・それほど大したことない・・・うんうん・・・それでも2週間程ね・・・うん」
と、シンサクは真面目に聞いている。
「わかった。シンイチに伝えておくから。うん、ありがとうね、ミウちゃん。じゃねー」
と、シンサクは携帯を切っている。
「だ、そうだ・・・シンイチさんに実家には来ないでくれって伝言があったそうだよ。マミちゃんから・・・恥ずかしいからって」
と、シンサクはしっかり伝言している。
「そういうことなの・・・だったら、あなたは「君」という楽曲を完璧にする義務があるわね。そのマミって彼女が吉祥寺に帰ってきたら、その楽曲を贈ればいいわ」
と、ミチコが言う。
「バレンタインの夜の、吉祥寺音楽祭のステージの上から、あなたは、そのマミって子に向かって、その楽曲を贈るのよ。それがあなたに与えられた使命だわ」
と、ミチコが言う。
「どう?出来るわね?」
と、ミチコが言う。
「出来ます!」
と、言ったシンイチは、いい笑顔をするのだった。
同じ頃、嶋田アミとマミは、秋田は角館にある、実家である温泉旅館「清儀楼」で働いていた。
「とにかくお父さんが倒れた、ママを助けてくれって、新造叔父さんから電話が入った時は、驚いたわよ。すぐにマミにも連絡して、二人で急いで戻ってきたんだから・・・」
と、嶋田アミは、「清儀楼」で副支配人をしている嶋田新造叔父にぼやいていた。
「いやあ、兄貴にそう電話してくれって頼まれちゃってさ・・・仕方なく・・・罪作りな兄だよ、まったく・・・」
と、新造叔父は、ぶつぶつ言っている。
「でも、パパが倒れたのが働き過ぎなだけで、心臓や脳の病気でなかったんだから・・・よかったと思うわ、わたし・・・」
と、マミは言っている。
「だいたい、脳の問題だったら・・・自分が倒れたのをいいきっかけに、娘たちを呼び戻すような悪巧みは考えている暇はないわよねー」
と、アミは苦笑しながら話している。
「ま、パパらしいけどね・・・」
と、アミは苦笑している。
「まあ、でも、君たちのママは、ほんとに青い顔していたんだから・・・目の前で兄貴が倒れた時は・・・」
と、新造叔父が話している。
「その話聞いたから・・・会社には、2週間は戻れないって言ってきちゃったのよ・・・まあ、休暇はいつも消化出来なくて捨ててたから、まあ、いいけれど・・・」
と、アミ。
「わたしも・・・大事な時なのに・・・」
と、マミ。
「あ、そういえば・・・マミ、ちょっと二人で風呂掃除行こう・・・」
と、マミを強引に連れて行くアミだった。
「掃除中」
と看板を出した、一部屋の家族風呂を掃除しながら、アミはマミに話を聞いた。
「で、どうなのマミ。あなた、今年のバレンタイン、ちゃんとしたターゲットがいるそうじゃない。タケルくんから聞いたわ」
と、アミは興味津々でマミに話を聞く。
「道明寺シンイチさんっていう33歳の花屋さんなの、そのひと・・・」
と、マミは簡単にシンイチの経歴を話し・・・自分がその男性に夢中になっている事実を話した。
「でも・・・シンイチさんは、いろいろな過去に引きずられて・・・今をうまく生きられないみたいなの・・・」
と、マミは、タケルに教わったシンイチの過去を思い出しながら、話している。
「高校時代に初めてつきあったマイって人が受験の時に交通事故死して・・・結婚した奥さんも交通事故で死んじゃって・・・恋が怖いって言ってるの、シンイチさん・・・」
と、マミはアミに真面目に話している。
「恋が怖いなんて・・・男のひとがそんなに自信を無くすなんて余程のことだと思うから・・・わたし、そんなシンイチさんを守りたい。やさしく守ってあげたいの」
と、マミはアミに言う。
「マミ・・・あなた・・・あなた、変わったわ・・・」
と、アミはマミのその言葉に驚いている。
「ううん、変わったのは、変わったんだけど・・・女性として、成長したわ、あなた・・・」
と、アミは自分の思いを言葉にしている。
「それに、あなた・・・ほっそりしてきて・・・大人の女性体型になってきている・・・あなたダイエットしてたのね?」
と、アミは真面目にマミの外見を見ている。
「腹八分目で、朝はジョギング、昼間は、出来るだけたくさん、ウォーキングしてたの。タケルさんに指導されて」
と、マミは説明する。
「男性は、100%女性の外見に恋するからってタケルさんに言われたわ。甘いこと一切考えずに外見を細身のスラリとした大人の女性体型にしろって厳しく言われたの」
と、マミは言う。
「おかげで・・・わたし、大人の女性として、自分に自信が出てきたの・・・だから、シンイチさんも、守りたい・・・そういう気持ちになってるの」
と、マミは言う。
「そうだったの・・・さすがタケルくんだわ。わたしの見る目に間違いはなかったわ・・・」
と、アミが言う。
「そっか。ちょうどいいじゃない・・・このまま、2週間、あなたは、大人の女性体型になるトレーニングを積みなさい。徹底的にやるのよ」
と、アミが言う。
「そして・・・2週間後のバレンタインデー・・・そのシンイチって男に魅せつけてやるのよ。大人になったマミを。そして、チョコを渡しなさい」
と、アミが言う。
「絶対に、成功させてみせる・・・今日からタケルくんの代わりに、わたしが、マミをしごくから・・・」
と、アミが言う。
「その代わり、わたしも、そのトレーニング全てにつきあうから。わたしも、さらに大人のおんな度をあげるの。マミと一緒に」
と、アミは言う。
「もちろん、わたしのターゲットは、タケルくんだけどね」
と、アミが笑うと、
「やっぱり・・・お姉ちゃんらしい」
と、マミも笑った。
(つづく)
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