12月27日の夕方、鈴木タケルは、華厳寮の203号室に姿を現していた。
「あれ、パパ・・・こんな時間にパパが寮に戻ってくるなんて・・・最近じゃ、珍しいんじゃないか?」
と、比較的早く帰宅していたガオが、タケルの姿を見て、驚いている。
「ほんと・・・パパはこのところ、午前様が基本じゃなかったっけ?僕らが寝た後に帰ってくるパターン・・・」
と、イズミも驚いている。
「まあ、そうなんだけど・・・ちょっと理由を上司に話して・・・明日、休みをもらったんだ・・・今日も少し早く返してくれてね・・・」
と、タケルは少し疲れた様子で、そう話す。
「明日、なにか、あるの?」
と、イズミが聞く。
「明日、アイリの両親のところへ、会いにいくことになったんだ・・・。とにかく、結婚への環境をそろそろ整えないといけないからさ・・・」
と、タケルは話す。
「お、結婚への秒読み状態に入ったってわけか・・・アイリさん、よろこんでいるだろ?」
と、ガオが反応。
「へー・・・もう、ラストスパートに入ったのか・・・パパは手堅いからなー・・・でも、今年はイブも仕事だったんだよね?」
と、イズミが反応する。
「ああ・・・11月にちょっと休みがとれたくらいで、それから、ほとんど休みを貰えなかったから・・・まあ、今日は少しおまえらと飲んでゆっくり休もうと思ってさ・・・」
と、部屋着に早速着替えるタケル。
「そういうことなら、飲もう飲もう・・・3人で一緒に飲めるのも、あと何回あるか・・・わからんからな」
と、ガオがすぐに乗る。
「そうだな・・・パパは結婚で早く出ていきそうだし・・・ガオも4月には、この寮を、出るつもりらしいし・・・」
と、イズミ。
「え、そうなの、ガオ・・・」
と、タケル。
「ああ・・・どうせ4月で、寮の構成も変わるっていうから・・・アパートでも借りて一人暮らししようかと思って・・・俺も、パパみたいに、忙しくなる予定なんだ」
と、ガオ。
「一人暮らしなら、仕事で遅くなっても、気を使わずに済むし・・・ルームメイトに、気も使わせなくて済むだろ」
と、ガオはガオなりに考えたよう。
「ま、その話も含めて、久しぶりに飲もう」
と、ガオはイズミとタケルと酒の肴の調達に・・・。
「乾杯」「かんぱーい」「かんぱーい」
と、久しぶりの3人の酒宴は、いつものように始まるのだった。
「で、さー。アイリさんの実家って、どこにあるんだ?」
と、イカくんを食いながらガオが聞く。
「都内だよ。世田谷の方だってさ。大井町線の上野毛って駅が最寄りだって。自由が丘とか、あっちの方らしい」
と、タケルはホットドックを食べながら、缶ビールを飲む。
「へー、でも、近くてよかったじゃん・・・関西とか、九州みたいな遠方じゃなくて」
と、イズミも素直に感想を述べる。
「うん、それはね・・・しかし、おとうさんは弁護士さんなんだ、そうだ・・・まあ、とにかく、当たって砕けろだな。明日は」
と、タケルはもう腹をくくっている。
「へえー・・・まあ、アイリさんを見ていると、生まれのよさを感じる、利発さを感じさせるからな・・・そうか、おとうさんは弁護士か・・・」
と、人の中身を見抜く天才のガオも納得している。
「うん、そうだね・・・ファッションのセンスもいいし・・・大人のシックさがあるひとだよな、アイリさんは・・・」
と、イズミはイズミなりに感想を述べている。
「で、パパは、明日はどこまでいくつもりなんだ?もう一気に「お嬢さんを僕にください!」ってところまで、考えてるの?」
と、ガオは一番大事な所を正面から聞く。
「いや、まずは、地ならしからだな。相手と接触してみて、自分がどう見られるか・・・その場をいい雰囲気に出来るか・・・それを見極める。俺はそれ、得意だし」
と、タケルは笑う。
「確かに・・・パパは場の雰囲気を盛り上げるのは、得意中の得意だからねー」
と、イズミは納得気味。
「そうだな・・・まあ、パパは基本素直でいい子だからな・・・そりゃあ、普通の大人だったら、パパのそういういい面を評価するし、楽しく感じるだろう」
と、ガオはそう反応。
「それにパパは、今は朝トレのおかげで、少年系だからねー・・・体型もシュッとしたし、顔だって少年系・・・アイリさんの両親・・・特におかあさんにヒットするんじゃない?」
と、イズミはそう言う。
「りっちゃんに感謝しなきゃな・・・リッちゃんのおかげで、朝トレするようになったんだから・・・10キロくらい落ちたからな・・・体重」
と、割れた腹筋を皆に見せるタケル。
「そういうりっちゃんは、太鼓腹が余計ひどくなってた・・・この間、ちょっとの間、鎌倉に復帰してたけど、また、長期出張中」
と、イズミが、りっちゃん情報をくれる。
「まあ、でも、いつかガオが言ってたけど、体重が落ちてみると、自転車っていうスポーツも案外自分に合っているような気がするよ」
と、タケルは言う。
「「自分に合うスポーツくらい、探しておけ」って、あの時、ガオ言ったよな」
と、タケルは言う。
「ああ・・・あれは、パパがエイコちゃんと最後に別れた時の飲み会で、言ったんじゃなかったかな?」
と、ガオは記憶を思い出しながら、言う。
「俺が「スポーツは嫌いだ」って、言ったら、「テニスが出来なかったのは、体重が重すぎただけ」って、ガオはあの時言ってた・・・」
と、タケルは言う。
「体重が落ちてみたら、俺、自転車ってスポーツが性に合っているような気がしたよ・・・ま、朝トレには、そして、この湘南でスポーツするなら、自転車かなって、ね」
と、タケルは言う。
「まあ、サーファーの俺から言わせると、ひとつのスポーツを愛することが出来たら・・・他のスポーツも愛せるようになる・・・これは本当さ」
と、ガオが言う。
「柔道を愛せたから、サーフィンも愛せるって、そういうこと?」
と、イズミ。
「そうだ。柔道とサーフィンなんて、水と油、白と黒みたいに正反対に思えるだろうけど、どっこいスポーツという面では、根っこは同じでさ」
と、ガオ。
「目標があって、それに合わせて身体を鍛え、いつしか、掲げた目標を乗り越えていく・・・それがスポーツだ。スポーツの精神だからな」
と、ガオ。
「自分を成長させることの出来る行為、それがスポーツだからな・・・そういう意味じゃ、スポーツの精神を知ったパパは、これから、強くなれるよ」
と、缶ビールを飲んで、真っ赤になるガオ。
「自転車が俺にとって、そういう存在になるのかな・・・」
と、タケルは真っ赤になりながら、考えている。
「いずれにしろ、スポーツの力が、これからのパパを変えていくよ」
と、ガオは明るい笑顔で話すのだった。
ガオは飲み会の途中で気持ちよく寝てしまった。
「ガオ、酒に弱くなったな・・・年齢のせいか?そんなにガオ年取ってないだろ」
と、僕が言うと、
「ガオ、今大変なんだよ・・・研究所でも、最近、いい研究成果が出せてないみたいだし・・・藍ちゃんとも、最近は、うまくいってないみたいだ」
と、イズミ。
「そうだったのか・・・ガオはいつも、すべてがうまくいっているように思えてたけどな・・・」
と、タケルが言うと、
「まあ、研究成果の方は、まだ、見込みがあるらしいけど・・・「時間の問題だ」と笑っていたから・・・でも、藍ちゃんの方は、ちょっとまずいみたいだ」
と、イズミ。
「どんな風にまずいわけ?」
と、タケルが聞くと、
「まあ、簡単に言うと、藍ちゃんが平凡な女性だっていうことだろうな。ガオの豪快さに付いてこれないみたいなんだよ。やさしいガオはそれでも合わせてやってるみたいだけど」
と、イズミ。
「恋愛ってのは、どちらかが、気を使い始めたら・・・終わりの始まりだからな・・・」
と、イズミ。
「ふうん、そういうもんかな・・・」
と、タケル。
「アイリと俺の間ではさ、俺がまだまだ、ガキだってことは、お互い理解している事項なんだ。だから、俺は早急に大人にならなくちゃならない」
と、タケルは話す。
「でも、大人になるなんてことは、そう簡単にいかないじゃん。だから、アイリは待ってくれている状態だし・・・それは気を使っていることじゃないのかな?」
と、タケルはイズミにぶつけてみる。
「厳密に言うと、両者はまったく違うね」
と、イズミ。
「ガオのところは、ガオは口にはしないけど、今のままの藍ちゃんだと、いずれ、別れることになることをガオが理解しているってところだ。そこが大きく違う」
と、イズミ。
「ガオは、それがわかっているから、口にしないし、気を使って、藍ちゃんに合わせてやっている。だけど、ガオは実はそれが本心では、不満なんだよ」
と、イズミ。
「つまり、ガオは別れたくないから、気を使っているんだけど、藍ちゃんは、それにすら、気がついていない・・・いずれガオの不満が爆発したところで、二人は別れるだろうな」
と、イズミ。
「パパとアイリさんのケースでは、お互いが問題点の意識を共有している。ここが全く違うだろ。だから、パパは努力するし、その努力をアイリさんはありがたく感じる」
と、イズミ。
「つまり、関係性が進化するし、強化されるのが、パパとアイリさんのケースなわけだ。だから、うまく行く」
と、イズミ、
「一方で、ガオと藍ちゃんのケースでは、ガオに不満が溜まるばかりなんだよ。カップルが、ドンドン壊れていく方向性だ・・・この違いは決定的だよ」
と、イズミ。
「だから、ガオと藍ちゃんのケースでは、藍ちゃんがガオの不満に気づき、自分を直すことが出来たら・・・でも、無理だ、それは」
と、イズミは匙を投げる。
「そもそもガオが納得して結婚まで行くおんなは、ガオと同等かそれ以上に豪快なおんなだけ・・・ガオは豪快に生きようとしているんだから、それをサポート出来るおんなでないとね」
と、イズミは辛辣に男と女の関係を見ている。
「あるいは、ガオを子供として扱える大人の女、そうして、徹底的にガオに尽くすおんなか、そのどちらかのパターンのみ、ガオは結婚に向かう・・・その話はガオにしたんだけどな」
と、イズミは言う。
「ふ・・・ガオにだって、プライドというモノがあるんだろう・・・イズミの言うとおりばかり、動くのも、しゃくってこともあるんだろ」
と、タケルが言うと、
「プライドなんて、くだらない・・・要はおんなと楽しい時間を過ごせばいいってことなのに・・・」
と、イズミは言いながら、マグカップで、白ワインを飲む。
「で、イズミはどうなんだ?今、彼女関係は?」
と、タケルは聞く。
「前のおんなとは、別れた・・・子供が欲しいとか、結婚したいとか、言い出したから、関係性は切った・・・俺はまだ、そういうものは求めていないから」
と、イズミは少し赤くなりながら、言う。
「イズミは、子供嫌いだったな・・・で、その後、どうなんだよ。おんなと別れて・・・」
と、タケルが聞くと、
「この間、合コンがあってさ・・・コンパニオンをやってたって言う、おんなと出来た・・・」
と、しれっと言うイズミ。
「あれ?前のおんなも、コンパニオンやってたんじゃなかったっけ?」
と、タケルが言うと、
「ああ。俺は、そういうクオリティの高い女じゃないと、つきあえないの」
と、しれっと言うイズミ。
「ふ・・・なんだか、皆いろいろ、なんだな・・・」
と、ため息をつきながら、言うタケル。
「まあ、この203号室で、最初の結婚者になるのは、パパ確定だからさ・・・明日もうまくやりなよ・・・パパなら、うまくやれるよ」
と、イズミは常になく、やさしく言う。
「ああ、ありがとう・・・腹をくくって、がんばってみるよ」
と、タケル。
「ガオもさ・・・きっと嬉しかったんだと、思うよ。パパと会えなくて、ガオ最近、寂しそうだったもん」
と、イズミ。
「だから、今日は、気持ちよく酔っ払って、寝ちゃったんだと思う。きっと今はいい夢を見てる。最近、あまりいいこと、無かったみたいだから、ガオ」
と、イズミ。
「ふ、俺も今日、ここに早く帰ってこれて、よかったと思うよ」
と、タケル。
「男は、友情だな」
と、タケル。
「ああ、友情だ」
と、イズミ。
ガオは、気持ちよさそうに、眠っていた。
(つづく)
→前回へ
→物語の初回へ
「あれ、パパ・・・こんな時間にパパが寮に戻ってくるなんて・・・最近じゃ、珍しいんじゃないか?」
と、比較的早く帰宅していたガオが、タケルの姿を見て、驚いている。
「ほんと・・・パパはこのところ、午前様が基本じゃなかったっけ?僕らが寝た後に帰ってくるパターン・・・」
と、イズミも驚いている。
「まあ、そうなんだけど・・・ちょっと理由を上司に話して・・・明日、休みをもらったんだ・・・今日も少し早く返してくれてね・・・」
と、タケルは少し疲れた様子で、そう話す。
「明日、なにか、あるの?」
と、イズミが聞く。
「明日、アイリの両親のところへ、会いにいくことになったんだ・・・。とにかく、結婚への環境をそろそろ整えないといけないからさ・・・」
と、タケルは話す。
「お、結婚への秒読み状態に入ったってわけか・・・アイリさん、よろこんでいるだろ?」
と、ガオが反応。
「へー・・・もう、ラストスパートに入ったのか・・・パパは手堅いからなー・・・でも、今年はイブも仕事だったんだよね?」
と、イズミが反応する。
「ああ・・・11月にちょっと休みがとれたくらいで、それから、ほとんど休みを貰えなかったから・・・まあ、今日は少しおまえらと飲んでゆっくり休もうと思ってさ・・・」
と、部屋着に早速着替えるタケル。
「そういうことなら、飲もう飲もう・・・3人で一緒に飲めるのも、あと何回あるか・・・わからんからな」
と、ガオがすぐに乗る。
「そうだな・・・パパは結婚で早く出ていきそうだし・・・ガオも4月には、この寮を、出るつもりらしいし・・・」
と、イズミ。
「え、そうなの、ガオ・・・」
と、タケル。
「ああ・・・どうせ4月で、寮の構成も変わるっていうから・・・アパートでも借りて一人暮らししようかと思って・・・俺も、パパみたいに、忙しくなる予定なんだ」
と、ガオ。
「一人暮らしなら、仕事で遅くなっても、気を使わずに済むし・・・ルームメイトに、気も使わせなくて済むだろ」
と、ガオはガオなりに考えたよう。
「ま、その話も含めて、久しぶりに飲もう」
と、ガオはイズミとタケルと酒の肴の調達に・・・。
「乾杯」「かんぱーい」「かんぱーい」
と、久しぶりの3人の酒宴は、いつものように始まるのだった。
「で、さー。アイリさんの実家って、どこにあるんだ?」
と、イカくんを食いながらガオが聞く。
「都内だよ。世田谷の方だってさ。大井町線の上野毛って駅が最寄りだって。自由が丘とか、あっちの方らしい」
と、タケルはホットドックを食べながら、缶ビールを飲む。
「へー、でも、近くてよかったじゃん・・・関西とか、九州みたいな遠方じゃなくて」
と、イズミも素直に感想を述べる。
「うん、それはね・・・しかし、おとうさんは弁護士さんなんだ、そうだ・・・まあ、とにかく、当たって砕けろだな。明日は」
と、タケルはもう腹をくくっている。
「へえー・・・まあ、アイリさんを見ていると、生まれのよさを感じる、利発さを感じさせるからな・・・そうか、おとうさんは弁護士か・・・」
と、人の中身を見抜く天才のガオも納得している。
「うん、そうだね・・・ファッションのセンスもいいし・・・大人のシックさがあるひとだよな、アイリさんは・・・」
と、イズミはイズミなりに感想を述べている。
「で、パパは、明日はどこまでいくつもりなんだ?もう一気に「お嬢さんを僕にください!」ってところまで、考えてるの?」
と、ガオは一番大事な所を正面から聞く。
「いや、まずは、地ならしからだな。相手と接触してみて、自分がどう見られるか・・・その場をいい雰囲気に出来るか・・・それを見極める。俺はそれ、得意だし」
と、タケルは笑う。
「確かに・・・パパは場の雰囲気を盛り上げるのは、得意中の得意だからねー」
と、イズミは納得気味。
「そうだな・・・まあ、パパは基本素直でいい子だからな・・・そりゃあ、普通の大人だったら、パパのそういういい面を評価するし、楽しく感じるだろう」
と、ガオはそう反応。
「それにパパは、今は朝トレのおかげで、少年系だからねー・・・体型もシュッとしたし、顔だって少年系・・・アイリさんの両親・・・特におかあさんにヒットするんじゃない?」
と、イズミはそう言う。
「りっちゃんに感謝しなきゃな・・・リッちゃんのおかげで、朝トレするようになったんだから・・・10キロくらい落ちたからな・・・体重」
と、割れた腹筋を皆に見せるタケル。
「そういうりっちゃんは、太鼓腹が余計ひどくなってた・・・この間、ちょっとの間、鎌倉に復帰してたけど、また、長期出張中」
と、イズミが、りっちゃん情報をくれる。
「まあ、でも、いつかガオが言ってたけど、体重が落ちてみると、自転車っていうスポーツも案外自分に合っているような気がするよ」
と、タケルは言う。
「「自分に合うスポーツくらい、探しておけ」って、あの時、ガオ言ったよな」
と、タケルは言う。
「ああ・・・あれは、パパがエイコちゃんと最後に別れた時の飲み会で、言ったんじゃなかったかな?」
と、ガオは記憶を思い出しながら、言う。
「俺が「スポーツは嫌いだ」って、言ったら、「テニスが出来なかったのは、体重が重すぎただけ」って、ガオはあの時言ってた・・・」
と、タケルは言う。
「体重が落ちてみたら、俺、自転車ってスポーツが性に合っているような気がしたよ・・・ま、朝トレには、そして、この湘南でスポーツするなら、自転車かなって、ね」
と、タケルは言う。
「まあ、サーファーの俺から言わせると、ひとつのスポーツを愛することが出来たら・・・他のスポーツも愛せるようになる・・・これは本当さ」
と、ガオが言う。
「柔道を愛せたから、サーフィンも愛せるって、そういうこと?」
と、イズミ。
「そうだ。柔道とサーフィンなんて、水と油、白と黒みたいに正反対に思えるだろうけど、どっこいスポーツという面では、根っこは同じでさ」
と、ガオ。
「目標があって、それに合わせて身体を鍛え、いつしか、掲げた目標を乗り越えていく・・・それがスポーツだ。スポーツの精神だからな」
と、ガオ。
「自分を成長させることの出来る行為、それがスポーツだからな・・・そういう意味じゃ、スポーツの精神を知ったパパは、これから、強くなれるよ」
と、缶ビールを飲んで、真っ赤になるガオ。
「自転車が俺にとって、そういう存在になるのかな・・・」
と、タケルは真っ赤になりながら、考えている。
「いずれにしろ、スポーツの力が、これからのパパを変えていくよ」
と、ガオは明るい笑顔で話すのだった。
ガオは飲み会の途中で気持ちよく寝てしまった。
「ガオ、酒に弱くなったな・・・年齢のせいか?そんなにガオ年取ってないだろ」
と、僕が言うと、
「ガオ、今大変なんだよ・・・研究所でも、最近、いい研究成果が出せてないみたいだし・・・藍ちゃんとも、最近は、うまくいってないみたいだ」
と、イズミ。
「そうだったのか・・・ガオはいつも、すべてがうまくいっているように思えてたけどな・・・」
と、タケルが言うと、
「まあ、研究成果の方は、まだ、見込みがあるらしいけど・・・「時間の問題だ」と笑っていたから・・・でも、藍ちゃんの方は、ちょっとまずいみたいだ」
と、イズミ。
「どんな風にまずいわけ?」
と、タケルが聞くと、
「まあ、簡単に言うと、藍ちゃんが平凡な女性だっていうことだろうな。ガオの豪快さに付いてこれないみたいなんだよ。やさしいガオはそれでも合わせてやってるみたいだけど」
と、イズミ。
「恋愛ってのは、どちらかが、気を使い始めたら・・・終わりの始まりだからな・・・」
と、イズミ。
「ふうん、そういうもんかな・・・」
と、タケル。
「アイリと俺の間ではさ、俺がまだまだ、ガキだってことは、お互い理解している事項なんだ。だから、俺は早急に大人にならなくちゃならない」
と、タケルは話す。
「でも、大人になるなんてことは、そう簡単にいかないじゃん。だから、アイリは待ってくれている状態だし・・・それは気を使っていることじゃないのかな?」
と、タケルはイズミにぶつけてみる。
「厳密に言うと、両者はまったく違うね」
と、イズミ。
「ガオのところは、ガオは口にはしないけど、今のままの藍ちゃんだと、いずれ、別れることになることをガオが理解しているってところだ。そこが大きく違う」
と、イズミ。
「ガオは、それがわかっているから、口にしないし、気を使って、藍ちゃんに合わせてやっている。だけど、ガオは実はそれが本心では、不満なんだよ」
と、イズミ。
「つまり、ガオは別れたくないから、気を使っているんだけど、藍ちゃんは、それにすら、気がついていない・・・いずれガオの不満が爆発したところで、二人は別れるだろうな」
と、イズミ。
「パパとアイリさんのケースでは、お互いが問題点の意識を共有している。ここが全く違うだろ。だから、パパは努力するし、その努力をアイリさんはありがたく感じる」
と、イズミ。
「つまり、関係性が進化するし、強化されるのが、パパとアイリさんのケースなわけだ。だから、うまく行く」
と、イズミ、
「一方で、ガオと藍ちゃんのケースでは、ガオに不満が溜まるばかりなんだよ。カップルが、ドンドン壊れていく方向性だ・・・この違いは決定的だよ」
と、イズミ。
「だから、ガオと藍ちゃんのケースでは、藍ちゃんがガオの不満に気づき、自分を直すことが出来たら・・・でも、無理だ、それは」
と、イズミは匙を投げる。
「そもそもガオが納得して結婚まで行くおんなは、ガオと同等かそれ以上に豪快なおんなだけ・・・ガオは豪快に生きようとしているんだから、それをサポート出来るおんなでないとね」
と、イズミは辛辣に男と女の関係を見ている。
「あるいは、ガオを子供として扱える大人の女、そうして、徹底的にガオに尽くすおんなか、そのどちらかのパターンのみ、ガオは結婚に向かう・・・その話はガオにしたんだけどな」
と、イズミは言う。
「ふ・・・ガオにだって、プライドというモノがあるんだろう・・・イズミの言うとおりばかり、動くのも、しゃくってこともあるんだろ」
と、タケルが言うと、
「プライドなんて、くだらない・・・要はおんなと楽しい時間を過ごせばいいってことなのに・・・」
と、イズミは言いながら、マグカップで、白ワインを飲む。
「で、イズミはどうなんだ?今、彼女関係は?」
と、タケルは聞く。
「前のおんなとは、別れた・・・子供が欲しいとか、結婚したいとか、言い出したから、関係性は切った・・・俺はまだ、そういうものは求めていないから」
と、イズミは少し赤くなりながら、言う。
「イズミは、子供嫌いだったな・・・で、その後、どうなんだよ。おんなと別れて・・・」
と、タケルが聞くと、
「この間、合コンがあってさ・・・コンパニオンをやってたって言う、おんなと出来た・・・」
と、しれっと言うイズミ。
「あれ?前のおんなも、コンパニオンやってたんじゃなかったっけ?」
と、タケルが言うと、
「ああ。俺は、そういうクオリティの高い女じゃないと、つきあえないの」
と、しれっと言うイズミ。
「ふ・・・なんだか、皆いろいろ、なんだな・・・」
と、ため息をつきながら、言うタケル。
「まあ、この203号室で、最初の結婚者になるのは、パパ確定だからさ・・・明日もうまくやりなよ・・・パパなら、うまくやれるよ」
と、イズミは常になく、やさしく言う。
「ああ、ありがとう・・・腹をくくって、がんばってみるよ」
と、タケル。
「ガオもさ・・・きっと嬉しかったんだと、思うよ。パパと会えなくて、ガオ最近、寂しそうだったもん」
と、イズミ。
「だから、今日は、気持ちよく酔っ払って、寝ちゃったんだと思う。きっと今はいい夢を見てる。最近、あまりいいこと、無かったみたいだから、ガオ」
と、イズミ。
「ふ、俺も今日、ここに早く帰ってこれて、よかったと思うよ」
と、タケル。
「男は、友情だな」
と、タケル。
「ああ、友情だ」
と、イズミ。
ガオは、気持ちよさそうに、眠っていた。
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