クリスマスイブ7日前の土曜日の夕方午後4時頃。
ガオのミニは、鎌倉山にあった。
鎌倉山のローストビーフは少し値が張るが、それだけ美味しい逸品だった。
ガオはそれを買い求め・・・帰りに北鎌倉の高級スーパーに立ち寄ると、イタリアの青カビ・チーズやら、バケットや、エクストラヴァージンオリーブオイルやらを、
買い求め・・・晩酌の支度をすべて済ませて、自分のアパートに戻った。
バケットを切り、ローストビーフやチーズやらを載せ、オリーブオイルで味付けすると、至福の時間がやってきた。
途中で買い求めた赤ワインを煽ると、気分は陶然となり、快感が身体を駆け抜ける。
しかし、頭の中にある、リサのイメージだけは、変わらなかった。
「酔ってくれば、少しは忘れることが出来るだろう」
ガオはそう信じ、ローストビーフを頬張り、チーズを頬張り、野菜サラダを頬張った。それを赤ワインでどれだけ流しこんでも、
いや、酔えば酔うほど、身体は彼女を求めた・・・。
頭の中は、彼女の映像で一杯になっていった。
「いかん・・・俺は病気だ。彼女には、旦那がいるんだ・・・それなのに、なんだ、この思いは・・・」
ガオは混乱した。
「こんな時、あいつにこの思いを話したら、何て言うだろう?・・・パパなら、わかってくれるだろうか・・・」
と、ガオは思った。
ガオは、すぐに携帯を取り出し、懐かしい華厳寮203号室に電話した。
でも、誰も出なかった。
「まあ、土曜日のこの時間じゃあ、二人共部屋にいないわな。当然だわな」
と、少し酔っているガオは、当然のことを思い出した。
「しかし、このままでは・・・」
ガオはさらに混乱しながら、それでも、なんとか、しようとしていた。
クリスマスイブ7日前の土曜日の午後5時。イズミは、先輩や後輩、現役生と一緒に、野島ゼミにいた。
皆、少し酒を控え、夜からの飲み会に備えていた。
夜の飲みは、野島ゼミ御用達の、ちゃんこ居酒屋「力皇」で決まりだった。
皆と楽しく話していたイズミは、「力皇」に移動と決まった直後、
田中美緒(22)に、
「君も飲み会いくよねー?」
と、さも当然のこと、という顔をして誘った。
しかし、
「ごめんなさい。今日はわたし、どうしても外せない用事があって・・・」
と、やわらかい笑顔を残しながら、彼女はゼミから立ち去った。
イズミは、その後姿を見ながら、心にポッカリと穴が空いていくのを感じていた。
クリスマスイブ7日前の土曜日の午後6時。アイリの部屋には、マキとアミがいつもの如くお酒を買って、デパ地下グルメを買って、来ていた。
「結局、こうなるのよねー、わたしたちー」
と、マキが白ワインを飲みながら、いつものように、話す。
「居心地が良すぎるのかなー。ここが」
と、アミも、白ワインを飲みながら、焼き鳥などを食べている。
「このつくね串絶品!」
と、マキも美味しそうに叫ぶ。
「だけどさー、アイリは、タケルくんがいるから、いいじゃない・・・問題は私たちよ・・・」
と、アミ。
「ねえ、この1年、誰かと寝た?わたし、たった一人よ・・・ちょっと人生的に、やばいかも・・・」
と、マキ。
「わたしは、3人・・・まあ、顔はイケメンだったけど、あっちの方がねー・・・」
と、辛辣な表情をするアミ。
「アミは、そっちに求めすぎなんじゃないの?」
と、マキ。
「そうかなあ・・・せめて、10分くらいは、楽しませて貰わないと、つまんなくない?」
と、アミ。
「やっと前戯が終わって、これからが本番、楽しもうって思ったら、一瞬で終わっちゃうんだもん・・・不満たらたら」
と、アミ。
「自分で上になって、コントロールしたら?そしたら、案外長く持続するかもよ」
と、マキ。
「それ、一番ダメ・・・本気出すと、それこそ、瞬殺・・・わたしが、激しすぎるのかなー」
と、アミ。
「アミは、可愛い顔して、そのくせ、激しいのを求めるから、男どもはびっくりしちゃうんじゃない?虫も殺せないような童顔だもん、アミは」
と、マキ。
「ね、なんで黙ってるの?アイリ」
と、アミ。
「ううん・・・わたしもタケルに求めすぎだったかなーって、思っちゃって・・・それで、少し自分のこと、考えてたの・・・」
と、アイリ。
「そうか・・・でも、相性って一生のことだし。でも、タケルくんは、不満じゃないんでしょう?アイリ的には」
と、アミ。
「まあね。がんばってくれるし、大きいし・・・身体の相性はバッチリだと思う」
と、アイリ。
「ふうーん・・・ま、よかったじゃない・・・それより、わたしとマキの方が問題よねー」
と、白ワインを飲むアミ。
「寂しさが、募るのよ・・・12月は特に寒いし・・・心が凍えるの・・・誰か暖めてくれないと、ほんとに凍えてしまう・・・」
と、マキは寂しそうに話すのだった。
白ワインを飲みながら・・・アミもアイリも、同じように寂しさを感じているのだった。
同じ頃・・・ワインをいくら飲んでも酔えないガオは、
「うーむ・・・とにかく、この混乱を鎮めるために・・・奥の手だ。アイリさんのところに、電話をかけさせて貰おう・・・緊急事態だ」
と、タケルがアイリのマンションにいるものと当たりをつけて、ガオは、アイリのマンションに、電話をかけることにした。
「えーと、電話番号は・・・これでよし・・・まだ、エッチする時間帯ではないからな。まあ、なんとか、いいだろう・・・」
と、ガオがアイリの家に電話すると・・・。
「はい。もしもし、東堂ですが・・・」
と、アイリが出てくる。
「あのー、アイリさんですか?僕、鈴木の同部屋だった、ガオです。お久しぶりです・・・あのー、鈴木がそっちに行ってたら、ちょっと話がしたいことがありましてー・・・」
「ちょっと緊急事態というか、鈴木の意見がどうしても今必要で・・・そのー、すぐに・・・なんですけど・・・」
と、ガオは一方的にまくしたててしまう。
「あら、ガオさん久しぶり・・・でも、ごめんなさい。鈴木は今ここにはいないのよ・・・鈴木はアメリカに出張中で、1月末まで帰らないの・・・」
と、申し訳なさそうに言うアイリ。
「え、そうなんですか?1月末まで、帰らない・・・え・・・俺どうすりゃあいいんだ・・・」
と、つい本音を漏らしてしまうガオ。
と、アイリは、電話の向こうのガオが、取り乱している雰囲気を、敏感に感じ取り、
「あのー、ガオくん、大丈夫?もし、悩み事があるなら・・・今、この部屋に大人の女性が私も含めて3人いるから・・・もしなんだったら、話してみない?」
と、アイリは提案する。
「え、アイリさんを含めて大人の女性が3人ですか・・・」
と、ガオは一瞬冷静になり考えてみる。
「むしろ、この問題は、リサさんと同じ、大人の女性に聞くべき話だ・・・これは願ったり叶ったりだ。行動してみるもんだ」
と、ガオは判断すると、
「すいません。僕の悩みごとは、大人の女性相手の話なので・・・もし、そうして貰えるなら、とても嬉しいんですか・・・」
と、ガオは頼み込む。
「いいわ・・・ガオくん、ちょっと待っててね」
と、アイリは、すぐに、状況をテキパキとアミとマキに伝え・・・アミとマキの了承を得ると、電話機の音声を外部に聞こえるようにした。
「えーと、じゃあ、私たちの方から、自己紹介するわね。わたし東堂アイリは、29歳、そして・・・」
と、アイリが言うと、
「えーと、私はアイリの同僚で、同じく29歳のマキです」「わたしも同じく同僚で、28歳のアミです。ガオくん、よろしくね」
と、二人の自己紹介が終わる。
「えーと、鈴木タケルと同じ部屋だった、田島ガオです。28歳で、会社入って2年目です・・・」
と、ガオも自己紹介を終える。
「それで、早速なんですが・・・実は昨日、とあるバーで30歳の女性に出会ったんです。突然に・・・」
と、ガオは説明し始める。
「まあ、知り合いの同僚という話だったんですが・・・既婚の女性なんです。一応仮名を使いますが、ミサさんって言うんですけど・・・その女性が電話番号を教えてくれて」
と、ガオは説明する。
「そのー・・・大人の女性の方なら、分かってもらえるかと思うんですけど・・・こう、お互い出会った瞬間に、「あ、このひとだ!」って思う瞬間ってありませんか?」
と、ガオは言う。
「そのー、運命のひと、というか・・・会った瞬間に恋に落ちる・・・そういう経験したことありませんか?」
と、ガオは言う。
「あるわ!」
と、真っ先にアミが反応する。
「ガオくんの言う、その体験、わたしもある・・・私の場合も、相手は、既婚者で・・・もちろん「大人の恋」しか、出来なかったわ・・・」
と、アミは残念そうに話す。
「大人の恋・・・ですか?」
と、ガオは反応する。
「そう。私はそう呼んでいるけど・・・相手が既婚者だったから、私に出来ることは限られていた・・・それでも、楽しめることはあるの・・・」
と、アミが話す。
「秋田在住の作家の白鳥道生さんの話よ・・・アイリもマキも知ってるでしょ!」
と、アミはアイリとマキに話している。
「あー、あの渋いイケメンの・・・あれ、2年くらい前の話だっけ?」
と、マキ。
「確か、40代中盤の男性だったわよね・・・奥さんに、女のお子さんが確か2人・・・」
と、アイリは、記憶力の精密なところを見せる。
「その白鳥さんとは、どんな感じだったんですか?」
と、ガオが聞いてくる。
「道生さんと会った瞬間、それこそ、私は恋に落ちた・・・でも、彼に家族がいるのは、知っていたの。私、担当者だったから・・・情報のやりとりは、していたし・・・」
と、アミは静かに話す。
「彼も私に会った瞬間、私に恋に落ちてた・・・お互いが人生に必要だと言うことも、私は理解していたの・・・でも・・・だからこそ、彼の家族を苦しめては、いけないと・・」
と、アミは言う。
「彼は月に一二度、東京に出てくるだけだったから、わたしは彼の目を見ている時だけが、しあわせだった。お互い、「大人の恋」をしていることは、わかっていたから」
と、アミ。
「彼も、そんな私を受け入れてくれたわ・・・ただ見つめ合うだけの恋。決して、言葉にしちゃいけない恋。だから、たまにランチに誘ってくれると嬉しくてね」
と、アミ。
「そういうやさしさのある彼だった。道生さん・・・今は担当もはずれたし、彼も別の出版社を使うようになったから、会うことはないけど・・・」
と、アミ。
「何か、あったんですか、二人の間に」
と、ガオ。
「「アミちゃんのしあわせの為に、僕は身を引くよ。いつまでも、こういう状態を続けるのは、アミちゃんの人生の為によくない」って彼が言ってくれたの・・・」
と、アミ。
「わたし、彼のやさしさに泣いたわ・・・でも、ほんとに楽しかったの。目を合わせるだけで、お互いを理解出来た・・・わたしは、その時、それだけでしあわせだったの」
と、アミ。
「たまに、私が作っていったお弁当を・・・社の屋上で一緒になって食べて・・・おしゃべりして、楽しく笑って・・・それだけで十分なしあわせを感じていたわ。あの頃」
と、アミ。
「「大人の恋」は、そういうもの・・・目と目を合わせる、あの瞬間が一番なの。それが最高の瞬間。完全なるプラトニックラブね。だって相手の家庭を壊したくないでしょ」
と、アミ。
「はい・・・そこがよくわからなかったんですよ・・・でも、その話聞いて、よくわかりました・・・ただ・・・目と目を合わせるだけで満足出来るもんなんですか?」
と、ガオが素直に聞いている。
「そうね・・・というか、それくらいで満足しないと・・・お互い傷つけあってしまうから・・・それが大人のお約束なの・・・」
と、アミが真面目に答えている。
「で・・・ガオくんの方は、どういう話なの・・・その、ミサさんだっけ?30歳の女性は、どんな感じのひとなの?」
と、アイリがガオに聞いている。
「身長は170センチくらいあったかな・・・細身で、スポーツウーマンって感じで・・・それでいて知的で話がとても合う女性でした」
と、ガオは真面目に話している。
「二人きりで長い時間話し込んで・・・まったく飽きることがなくて・・・僕はこの女性に出会うために生まれてきたんだって、そう思えるようになって・・・」
と、ガオ。
「彼女も僕に恋に落ちたんだと思います。電話番号も教えてくれて・・・いつでもかけていいからって、言われて・・・それ以来、彼女の映像が頭から離れなくて」
と、ガオは真面目に説明する。
「ねえ、ガオくんって、一応聞くけど、女性経験は、あるの?」
と、マキ。
「え?ああ・・・まあ、3人ほど・・・」
と、ガオは素直に話している。
「なるほど・・・初恋でドキマギしちゃったわけでなく・・・ある程度恋愛経験もあるから・・・だからこそ、大事な出会いだということがわかるから、ドキドキしてるのね」
と、アイリが言う。
「はい・・・そういう状況だと思います。だから、これから、どうしたらいいのか、全然わからなくって・・・それで鈴木に聞いてみようかと思って・・・」
と、ガオは言う。
「ガオくんは、これから、どうしたらいいですか?「大人の恋」経験者の、アミさん」
と、アイリが振る。
「そうね・・・そのミサって女性が、どこまでガオくんに求めてくるかね・・・もしかしたら、ガオくんに乗り換える気満々かもしれないし・・・」
と、アミは言う。
「だとしたら・・・ガオくんどうする?」
と、アイリ。
「そのー、僕の直感なんですけど、ものすごく危険な香りがするんですよね・・・この恋に手をだしたら、火傷するぞ的な・・・」
と、ガオ。
「魔性のおんなかもしれないってこと?」
と、アミ。
「ええ・・・」
と、言葉を濁すガオ。
「でも、考えてばかりいたって、始まらないわ・・・」
と、マキ。
「それもそうね・・・」
と、アミ。
「こんな時、タケルだったら・・・どうするかしら・・・」
と、アイリ。
「タケルくんだったら、きっと、いい案をさらりと提案してくれて・・・例のニヤリとした顔をしてくれるんじゃない?」
と、マキ。
「そうね。私たちが、すっきりするような、名案をさらりと出してきて、ごく当然って感じで、ニヤリとしてるわね!」
と、アミ。
「うん。それが、タケルっていう男だもの・・・あのニヤリとした表情・・・また、見たいわ」
と、アイリ。
「ほんと」「ほんとねー」
と、マキとアミも頷いていた。
電話口の向こうで、ガオは、
「鈴木って・・・どんだけ、この3人の大人の女性に買われているんだ?」
と、思っていた。
大人の女3人と、まだまだ未熟な男ひとりの会話は、当分終わらないのでした。
(つづく)
→物語の主要登場人物
→前回へ
→物語の初回へ
ガオのミニは、鎌倉山にあった。
鎌倉山のローストビーフは少し値が張るが、それだけ美味しい逸品だった。
ガオはそれを買い求め・・・帰りに北鎌倉の高級スーパーに立ち寄ると、イタリアの青カビ・チーズやら、バケットや、エクストラヴァージンオリーブオイルやらを、
買い求め・・・晩酌の支度をすべて済ませて、自分のアパートに戻った。
バケットを切り、ローストビーフやチーズやらを載せ、オリーブオイルで味付けすると、至福の時間がやってきた。
途中で買い求めた赤ワインを煽ると、気分は陶然となり、快感が身体を駆け抜ける。
しかし、頭の中にある、リサのイメージだけは、変わらなかった。
「酔ってくれば、少しは忘れることが出来るだろう」
ガオはそう信じ、ローストビーフを頬張り、チーズを頬張り、野菜サラダを頬張った。それを赤ワインでどれだけ流しこんでも、
いや、酔えば酔うほど、身体は彼女を求めた・・・。
頭の中は、彼女の映像で一杯になっていった。
「いかん・・・俺は病気だ。彼女には、旦那がいるんだ・・・それなのに、なんだ、この思いは・・・」
ガオは混乱した。
「こんな時、あいつにこの思いを話したら、何て言うだろう?・・・パパなら、わかってくれるだろうか・・・」
と、ガオは思った。
ガオは、すぐに携帯を取り出し、懐かしい華厳寮203号室に電話した。
でも、誰も出なかった。
「まあ、土曜日のこの時間じゃあ、二人共部屋にいないわな。当然だわな」
と、少し酔っているガオは、当然のことを思い出した。
「しかし、このままでは・・・」
ガオはさらに混乱しながら、それでも、なんとか、しようとしていた。
クリスマスイブ7日前の土曜日の午後5時。イズミは、先輩や後輩、現役生と一緒に、野島ゼミにいた。
皆、少し酒を控え、夜からの飲み会に備えていた。
夜の飲みは、野島ゼミ御用達の、ちゃんこ居酒屋「力皇」で決まりだった。
皆と楽しく話していたイズミは、「力皇」に移動と決まった直後、
田中美緒(22)に、
「君も飲み会いくよねー?」
と、さも当然のこと、という顔をして誘った。
しかし、
「ごめんなさい。今日はわたし、どうしても外せない用事があって・・・」
と、やわらかい笑顔を残しながら、彼女はゼミから立ち去った。
イズミは、その後姿を見ながら、心にポッカリと穴が空いていくのを感じていた。
クリスマスイブ7日前の土曜日の午後6時。アイリの部屋には、マキとアミがいつもの如くお酒を買って、デパ地下グルメを買って、来ていた。
「結局、こうなるのよねー、わたしたちー」
と、マキが白ワインを飲みながら、いつものように、話す。
「居心地が良すぎるのかなー。ここが」
と、アミも、白ワインを飲みながら、焼き鳥などを食べている。
「このつくね串絶品!」
と、マキも美味しそうに叫ぶ。
「だけどさー、アイリは、タケルくんがいるから、いいじゃない・・・問題は私たちよ・・・」
と、アミ。
「ねえ、この1年、誰かと寝た?わたし、たった一人よ・・・ちょっと人生的に、やばいかも・・・」
と、マキ。
「わたしは、3人・・・まあ、顔はイケメンだったけど、あっちの方がねー・・・」
と、辛辣な表情をするアミ。
「アミは、そっちに求めすぎなんじゃないの?」
と、マキ。
「そうかなあ・・・せめて、10分くらいは、楽しませて貰わないと、つまんなくない?」
と、アミ。
「やっと前戯が終わって、これからが本番、楽しもうって思ったら、一瞬で終わっちゃうんだもん・・・不満たらたら」
と、アミ。
「自分で上になって、コントロールしたら?そしたら、案外長く持続するかもよ」
と、マキ。
「それ、一番ダメ・・・本気出すと、それこそ、瞬殺・・・わたしが、激しすぎるのかなー」
と、アミ。
「アミは、可愛い顔して、そのくせ、激しいのを求めるから、男どもはびっくりしちゃうんじゃない?虫も殺せないような童顔だもん、アミは」
と、マキ。
「ね、なんで黙ってるの?アイリ」
と、アミ。
「ううん・・・わたしもタケルに求めすぎだったかなーって、思っちゃって・・・それで、少し自分のこと、考えてたの・・・」
と、アイリ。
「そうか・・・でも、相性って一生のことだし。でも、タケルくんは、不満じゃないんでしょう?アイリ的には」
と、アミ。
「まあね。がんばってくれるし、大きいし・・・身体の相性はバッチリだと思う」
と、アイリ。
「ふうーん・・・ま、よかったじゃない・・・それより、わたしとマキの方が問題よねー」
と、白ワインを飲むアミ。
「寂しさが、募るのよ・・・12月は特に寒いし・・・心が凍えるの・・・誰か暖めてくれないと、ほんとに凍えてしまう・・・」
と、マキは寂しそうに話すのだった。
白ワインを飲みながら・・・アミもアイリも、同じように寂しさを感じているのだった。
同じ頃・・・ワインをいくら飲んでも酔えないガオは、
「うーむ・・・とにかく、この混乱を鎮めるために・・・奥の手だ。アイリさんのところに、電話をかけさせて貰おう・・・緊急事態だ」
と、タケルがアイリのマンションにいるものと当たりをつけて、ガオは、アイリのマンションに、電話をかけることにした。
「えーと、電話番号は・・・これでよし・・・まだ、エッチする時間帯ではないからな。まあ、なんとか、いいだろう・・・」
と、ガオがアイリの家に電話すると・・・。
「はい。もしもし、東堂ですが・・・」
と、アイリが出てくる。
「あのー、アイリさんですか?僕、鈴木の同部屋だった、ガオです。お久しぶりです・・・あのー、鈴木がそっちに行ってたら、ちょっと話がしたいことがありましてー・・・」
「ちょっと緊急事態というか、鈴木の意見がどうしても今必要で・・・そのー、すぐに・・・なんですけど・・・」
と、ガオは一方的にまくしたててしまう。
「あら、ガオさん久しぶり・・・でも、ごめんなさい。鈴木は今ここにはいないのよ・・・鈴木はアメリカに出張中で、1月末まで帰らないの・・・」
と、申し訳なさそうに言うアイリ。
「え、そうなんですか?1月末まで、帰らない・・・え・・・俺どうすりゃあいいんだ・・・」
と、つい本音を漏らしてしまうガオ。
と、アイリは、電話の向こうのガオが、取り乱している雰囲気を、敏感に感じ取り、
「あのー、ガオくん、大丈夫?もし、悩み事があるなら・・・今、この部屋に大人の女性が私も含めて3人いるから・・・もしなんだったら、話してみない?」
と、アイリは提案する。
「え、アイリさんを含めて大人の女性が3人ですか・・・」
と、ガオは一瞬冷静になり考えてみる。
「むしろ、この問題は、リサさんと同じ、大人の女性に聞くべき話だ・・・これは願ったり叶ったりだ。行動してみるもんだ」
と、ガオは判断すると、
「すいません。僕の悩みごとは、大人の女性相手の話なので・・・もし、そうして貰えるなら、とても嬉しいんですか・・・」
と、ガオは頼み込む。
「いいわ・・・ガオくん、ちょっと待っててね」
と、アイリは、すぐに、状況をテキパキとアミとマキに伝え・・・アミとマキの了承を得ると、電話機の音声を外部に聞こえるようにした。
「えーと、じゃあ、私たちの方から、自己紹介するわね。わたし東堂アイリは、29歳、そして・・・」
と、アイリが言うと、
「えーと、私はアイリの同僚で、同じく29歳のマキです」「わたしも同じく同僚で、28歳のアミです。ガオくん、よろしくね」
と、二人の自己紹介が終わる。
「えーと、鈴木タケルと同じ部屋だった、田島ガオです。28歳で、会社入って2年目です・・・」
と、ガオも自己紹介を終える。
「それで、早速なんですが・・・実は昨日、とあるバーで30歳の女性に出会ったんです。突然に・・・」
と、ガオは説明し始める。
「まあ、知り合いの同僚という話だったんですが・・・既婚の女性なんです。一応仮名を使いますが、ミサさんって言うんですけど・・・その女性が電話番号を教えてくれて」
と、ガオは説明する。
「そのー・・・大人の女性の方なら、分かってもらえるかと思うんですけど・・・こう、お互い出会った瞬間に、「あ、このひとだ!」って思う瞬間ってありませんか?」
と、ガオは言う。
「そのー、運命のひと、というか・・・会った瞬間に恋に落ちる・・・そういう経験したことありませんか?」
と、ガオは言う。
「あるわ!」
と、真っ先にアミが反応する。
「ガオくんの言う、その体験、わたしもある・・・私の場合も、相手は、既婚者で・・・もちろん「大人の恋」しか、出来なかったわ・・・」
と、アミは残念そうに話す。
「大人の恋・・・ですか?」
と、ガオは反応する。
「そう。私はそう呼んでいるけど・・・相手が既婚者だったから、私に出来ることは限られていた・・・それでも、楽しめることはあるの・・・」
と、アミが話す。
「秋田在住の作家の白鳥道生さんの話よ・・・アイリもマキも知ってるでしょ!」
と、アミはアイリとマキに話している。
「あー、あの渋いイケメンの・・・あれ、2年くらい前の話だっけ?」
と、マキ。
「確か、40代中盤の男性だったわよね・・・奥さんに、女のお子さんが確か2人・・・」
と、アイリは、記憶力の精密なところを見せる。
「その白鳥さんとは、どんな感じだったんですか?」
と、ガオが聞いてくる。
「道生さんと会った瞬間、それこそ、私は恋に落ちた・・・でも、彼に家族がいるのは、知っていたの。私、担当者だったから・・・情報のやりとりは、していたし・・・」
と、アミは静かに話す。
「彼も私に会った瞬間、私に恋に落ちてた・・・お互いが人生に必要だと言うことも、私は理解していたの・・・でも・・・だからこそ、彼の家族を苦しめては、いけないと・・」
と、アミは言う。
「彼は月に一二度、東京に出てくるだけだったから、わたしは彼の目を見ている時だけが、しあわせだった。お互い、「大人の恋」をしていることは、わかっていたから」
と、アミ。
「彼も、そんな私を受け入れてくれたわ・・・ただ見つめ合うだけの恋。決して、言葉にしちゃいけない恋。だから、たまにランチに誘ってくれると嬉しくてね」
と、アミ。
「そういうやさしさのある彼だった。道生さん・・・今は担当もはずれたし、彼も別の出版社を使うようになったから、会うことはないけど・・・」
と、アミ。
「何か、あったんですか、二人の間に」
と、ガオ。
「「アミちゃんのしあわせの為に、僕は身を引くよ。いつまでも、こういう状態を続けるのは、アミちゃんの人生の為によくない」って彼が言ってくれたの・・・」
と、アミ。
「わたし、彼のやさしさに泣いたわ・・・でも、ほんとに楽しかったの。目を合わせるだけで、お互いを理解出来た・・・わたしは、その時、それだけでしあわせだったの」
と、アミ。
「たまに、私が作っていったお弁当を・・・社の屋上で一緒になって食べて・・・おしゃべりして、楽しく笑って・・・それだけで十分なしあわせを感じていたわ。あの頃」
と、アミ。
「「大人の恋」は、そういうもの・・・目と目を合わせる、あの瞬間が一番なの。それが最高の瞬間。完全なるプラトニックラブね。だって相手の家庭を壊したくないでしょ」
と、アミ。
「はい・・・そこがよくわからなかったんですよ・・・でも、その話聞いて、よくわかりました・・・ただ・・・目と目を合わせるだけで満足出来るもんなんですか?」
と、ガオが素直に聞いている。
「そうね・・・というか、それくらいで満足しないと・・・お互い傷つけあってしまうから・・・それが大人のお約束なの・・・」
と、アミが真面目に答えている。
「で・・・ガオくんの方は、どういう話なの・・・その、ミサさんだっけ?30歳の女性は、どんな感じのひとなの?」
と、アイリがガオに聞いている。
「身長は170センチくらいあったかな・・・細身で、スポーツウーマンって感じで・・・それでいて知的で話がとても合う女性でした」
と、ガオは真面目に話している。
「二人きりで長い時間話し込んで・・・まったく飽きることがなくて・・・僕はこの女性に出会うために生まれてきたんだって、そう思えるようになって・・・」
と、ガオ。
「彼女も僕に恋に落ちたんだと思います。電話番号も教えてくれて・・・いつでもかけていいからって、言われて・・・それ以来、彼女の映像が頭から離れなくて」
と、ガオは真面目に説明する。
「ねえ、ガオくんって、一応聞くけど、女性経験は、あるの?」
と、マキ。
「え?ああ・・・まあ、3人ほど・・・」
と、ガオは素直に話している。
「なるほど・・・初恋でドキマギしちゃったわけでなく・・・ある程度恋愛経験もあるから・・・だからこそ、大事な出会いだということがわかるから、ドキドキしてるのね」
と、アイリが言う。
「はい・・・そういう状況だと思います。だから、これから、どうしたらいいのか、全然わからなくって・・・それで鈴木に聞いてみようかと思って・・・」
と、ガオは言う。
「ガオくんは、これから、どうしたらいいですか?「大人の恋」経験者の、アミさん」
と、アイリが振る。
「そうね・・・そのミサって女性が、どこまでガオくんに求めてくるかね・・・もしかしたら、ガオくんに乗り換える気満々かもしれないし・・・」
と、アミは言う。
「だとしたら・・・ガオくんどうする?」
と、アイリ。
「そのー、僕の直感なんですけど、ものすごく危険な香りがするんですよね・・・この恋に手をだしたら、火傷するぞ的な・・・」
と、ガオ。
「魔性のおんなかもしれないってこと?」
と、アミ。
「ええ・・・」
と、言葉を濁すガオ。
「でも、考えてばかりいたって、始まらないわ・・・」
と、マキ。
「それもそうね・・・」
と、アミ。
「こんな時、タケルだったら・・・どうするかしら・・・」
と、アイリ。
「タケルくんだったら、きっと、いい案をさらりと提案してくれて・・・例のニヤリとした顔をしてくれるんじゃない?」
と、マキ。
「そうね。私たちが、すっきりするような、名案をさらりと出してきて、ごく当然って感じで、ニヤリとしてるわね!」
と、アミ。
「うん。それが、タケルっていう男だもの・・・あのニヤリとした表情・・・また、見たいわ」
と、アイリ。
「ほんと」「ほんとねー」
と、マキとアミも頷いていた。
電話口の向こうで、ガオは、
「鈴木って・・・どんだけ、この3人の大人の女性に買われているんだ?」
と、思っていた。
大人の女3人と、まだまだ未熟な男ひとりの会話は、当分終わらないのでした。
(つづく)
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